アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~

エルトリア

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第三章 暴風のコロッセオ

第202話 メルアの仕事

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 メルアが急に悲鳴を上げたので何事かと思えば、どうやらプロフェッサーは機兵評価査定日時の催促に来たようだ。

「困りますよ、メルア。先週、今週中には連絡を……と話していたではありませんか」
「ホントごめん……。っていうか、うちのとイグニスのはもう万全だしそっちをやってもらってる間に、エステアのをぱぱぱーって見るのはダメ……?」

 ああ、そういえば、エキシビションマッチにエステアは自分の機体で出ていたな。あの様子ではほぼ損傷はないだろうし、すぐに整備といってもそれほど時間はかからなさそうだ。かといって、僕が手伝うのはどうかと思うので黙っておく。

「私は残念ながら用事で見られませんでしたが、念のためしっかりと見ておくべきだと思いますよ。とはいえ、時間短縮のため、平行して機兵評価査定を行うのはやぶさかではありません」
「さっすが、プロフェッサー! わかってる~」

 プロフェッサーの態度が軟化したのを受け、メルアが手を叩いて笑顔を見せる。

「ええ。もし仮に私があなただとして、機兵のメンテナンスとこのブラッドグレイルの追試実験を天秤にかけたら、結果は言うまでもないですからね」

 完成したブラッドグレイルを興味深げに覗き込みながら、プロフェッサーが唇の端を持ち上げる。

「でしょー! うちのししょーマジヤバいから! あのぜーんぜん簡易じゃない複雑怪奇な簡易術式をさ、改変して新字にしちゃってるんだよ~!」
「……なるほど、その手がありましたか……。しかし、あれを読み解き、さらに改良を加えるとは……」
「詳しくはレポートで報告しますね」

 メルアとプロフェッサーに好奇心の塊のような目で見つめられて、僕は苦笑を浮かべるしかなかった。まあ、もうブラッドグレイルは二つも錬成しているわけだし、今更僕の錬金術の技術と知識を誤魔化すのは諦めているけれど。

「ところでさ、イグニスの機兵は、専用の整備士がついていて、うちもぜーんぜん触らせてもらえないんだけど、適性値を爆上げする機兵なんて、どういうカラクリなのかめっちゃ気になるんだよねぇ~。プロフェッサーって、そういうのも査定出来たりする?」
「いえ、さすがにその機構があるとしても何らの不正ではありませんし、今期の測定でも測定器の不具合は報告されていないので、出た数値を評定する他ないですね」

 昨年は65程度しかなかった機兵適性値が、武侠宴舞ゼルステラ・カナルフォード杯への出場を可能にするほど上がっているというのは、機兵性能の向上だけでは説明がつかない。だが、プロフェッサーはメルアの疑いをそれとなく追求できないと断言している。

 ここもなんらかの力が働いていると見るべきか、あるいは言葉のまま受け取るべきかは迷うところだな。

 この学校が貴族の階級を重んじてきたとはいえ、イグニスが入学してからの貴族と平民の取扱い――亜人差別をはじめとし、彼の亜人への発言はかなり異質だ。

 その違和感はエステアも吐露するところであり、彼女はそれを改めるために生徒会長としての働きに賭けているところがある。

 武侠宴舞ゼルステラでの戦いはどういうものになるのだろうな。順当に行けば、昨年の優勝チームのエステアとメルアのいる生徒会チームが優勝候補で間違いないだろう。エステアに至っては、先日のエキシビションマッチで示されたように、この学園都市全体で見ても比類なき強さを持つ、絶対的エースだ。

「……さて、メルアへの用事がまとまったところで、リーフ、調子はいかがですか?」

 プロフェッサーが聞いてくるのは、自身が興味を惹かれていたブラッドグレイルの追試実験のことではなく、僕の自由課題である『武侠宴舞ゼルステラにおける機兵の効果的な運用と開発』のことだ。

 アルフェ機のレムレスへのエーテル遮断ローブ装備の目処も立ったことだし、いよいよホム機のアルタードの噴射式推進装置バーニアの設計を急がなければならなくなった。

「先ほど、アイザックとロメオにも言いましたが、二機とも素晴らしい出来栄えですね。あれを学生自ら作ったというのですから凄いことです」
「それはうちのししょーだからね! うちも見るのがめっちゃ楽しみ~!」

 手放しで褒めてくれるプロフェッサーに、メルアが自慢げに胸を張る。

「あれでまだ完成ではなく、一部足りない機構があるんです。実はその設計のことで今悩んでいて……」
「ああ、あれですね。それなら、力になれるかもしれません。今、時間があれば私の研究室へ来ませんか?」

 言い終わらないうちに、見当がついたらしくプロフェッサーが頷いた。

「ありがとうございます、行きます」

 僕が頷くと、メルアは片付けを全部引き受けるからと笑顔で送り出してくれた。

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