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第三章 暴風のコロッセオ
第192話 ナイルの激励
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メルアの言う通りバーニングブレイズの大破したレーヴェ三機は、大学部の機兵工房内にが運びこまれていた
腕と首を切断されてしまっているヒース機、機体の損傷が激しいアメリ機はどうにか修復ができるらしく、修理用の固定ハンガーへのクレーン移動が始まっている。
工房内には、修理担当者とナイルの声が先ほどから響いており、機体に近づくまでに多くの情報が漏れ聞こえてきた。
胴体部と腰部の接続部を斬られているナイルの機体は、メーカー修理に出せば修理自体は可能かもしれないとの話だ。
「ナイルの愛着もわかるが、一切の手加減なく勝負に挑んだエステアの攻撃は、ある程度諦めのつく餞だったと思えば……」
「けど、直せないわけじゃないだろ?」
修理不能機としての廃棄を暗に諭されているナイルが、苛立ちを隠せない声を上げている。
「メーカー修理は軍部優先。学生の機体修理は後回しだ。来季のリーグに出るつもりなら、新しいレーヴェの補充申請をした方が早い。あんたの実績なら、この機体を諦めるだけで同等の機体が手に入るだろうさ」
「…………」
修理担当者の言葉に、ナイルはなかなか頷かない。
「落ち着いて愛機をちゃんと見てやりな。一見キレイに胴体を真っ二つにされているように見えるが、風の刃を纏った剣を受けた影響で内部はズタズタだ。特に胴体部と腰部が酷いし、魔力収縮筋は全部張り替えが必要、装甲と骨格、魔導炉ぐらいしか使えねぇなら、新しい機体をカスタマイズし直した方が早いだろ」
別の修理担当者が加わり、二人で説得に当たっているがナイルの表情は暗い。もしジャンクに回されるなら、ナイルの機体を譲り受けることになるんだろうな。けど、どうやって切り出したものか……。
「うちが交渉しよっか?」
思い悩んでいる僕にメルアが気を利かせてくれる。有り難い申し出だが、断った。
「いや、僕が使いたいから自分で行くよ」
今のナイルは、愛機を手放す決断が出来ないでいる。こういう時は、ちゃんと自分の言葉で説明して納得してもらわなければ譲ってもらう意味がない。
「ん? なんだ、お前たち?」
進み出たところで、僕たちに気づいたナイルが顔を上げた。
「……ナイルさん、このレーヴェを僕に譲ってくれませんか?」
なんと切り出せば良いかわからなかったので、用件だけを手短に告げる。
「……今の話、聞こえてただろ? この機体はもう使えないぞ」
機兵として使えないことが理解出来ていても、ジャンクとは言いたくないのだろう。ナイルは愛機を悔しげに見つめながら、唇を噛んだ。
「まだ使えます」
「慰めはいらねぇぜ。……わかってんだよ。我が愛機ながら、もう使いモンになんねぇってことぐらい」
装甲で守られていたので、両腕と脚部の内部骨格は無事なようだ。僕としてはそれがかなり有り難い。
「それで充分です。武侠宴舞・カナルフォード杯に出場するために、その内部骨格がどうしても必要なんです」
「お前が出るのか?」
僕の発言に、ナイルが驚いたように顔を覗き込んできた。まあ、この見た目なので仕方がないだろうな。小人族かなにかと間違われたとしても大した問題ではないので、ここでは適当に流しておこう。
「出場しますが、僕が乗る機体ではないです。ただ、大切なチームメイトのために、この骨格を活かして、新たな機兵を造り出したい」
「新たな機兵、だと……? だったら、レーヴェでも調達するんだな」
ナイルが苛立ったように舌打ちし、そっぽを向いた。こちらの状況を説明するには言葉が足りないのはわかっているが、それに同情してもらう必要もないので、僕の考えを押し通すことにした。
「自分で造らなきゃ意味がない。エステアを越えるためにはね」
「……エステア……?」
エステアの名に、ナイルが顔色を変えて振り返る。
「お前、あの戦いを見ていないのか?」
怒りとも悲しみとも、諦めともつかない複雑な表情で、溜息混じりにナイルが訊ねた。
「もちろん見ていましたよ」
その上で、エステアを越えたいのだと本気で思っているのだ。言葉にするだけ蛇足だと感じたので、挑むようにナイルを見つめ返した。
「……嘘じゃなさそうだな。お前、ちっこいのに度胸があるんだな」
ナイルは僕の目を見てなにかを感じとってくれたのか、急に表情を和らげて頷いた。
「……わかった、お前に俺の愛機を託そう。どんな形であれ、必ず蘇らせてやってくれ」
そう言いながらナイルは愛機に向き直ると、傷だらけの真紅の装甲に手を触れた。
「今までありがとうな……」
よく聞こえなかったけれど、多分彼が呟いたのは愛機への感謝の言葉だ。それだけ大切にされていた機体を譲ってもらえることで、僕もさらに決意を固めることができた。
「言っとくけど、無駄にすんなよ。ちゃんと機兵が出来たかどうかは、試合で確かめてやるからな」
「期待を上回れるように努めますね」
機体を完成させ、必ずエステアに――生徒会チームに勝つ。これが、今の僕が越えなければならない高い高い壁だ。
「ハッ、なんか本当にやってくれそうな感じがするのが面白ぇな。頑張れよ」
僕の覚悟が伝わったのか、ナイルはどこか吹っ切れた様子で激励し、愛機を託してくれた。
腕と首を切断されてしまっているヒース機、機体の損傷が激しいアメリ機はどうにか修復ができるらしく、修理用の固定ハンガーへのクレーン移動が始まっている。
工房内には、修理担当者とナイルの声が先ほどから響いており、機体に近づくまでに多くの情報が漏れ聞こえてきた。
胴体部と腰部の接続部を斬られているナイルの機体は、メーカー修理に出せば修理自体は可能かもしれないとの話だ。
「ナイルの愛着もわかるが、一切の手加減なく勝負に挑んだエステアの攻撃は、ある程度諦めのつく餞だったと思えば……」
「けど、直せないわけじゃないだろ?」
修理不能機としての廃棄を暗に諭されているナイルが、苛立ちを隠せない声を上げている。
「メーカー修理は軍部優先。学生の機体修理は後回しだ。来季のリーグに出るつもりなら、新しいレーヴェの補充申請をした方が早い。あんたの実績なら、この機体を諦めるだけで同等の機体が手に入るだろうさ」
「…………」
修理担当者の言葉に、ナイルはなかなか頷かない。
「落ち着いて愛機をちゃんと見てやりな。一見キレイに胴体を真っ二つにされているように見えるが、風の刃を纏った剣を受けた影響で内部はズタズタだ。特に胴体部と腰部が酷いし、魔力収縮筋は全部張り替えが必要、装甲と骨格、魔導炉ぐらいしか使えねぇなら、新しい機体をカスタマイズし直した方が早いだろ」
別の修理担当者が加わり、二人で説得に当たっているがナイルの表情は暗い。もしジャンクに回されるなら、ナイルの機体を譲り受けることになるんだろうな。けど、どうやって切り出したものか……。
「うちが交渉しよっか?」
思い悩んでいる僕にメルアが気を利かせてくれる。有り難い申し出だが、断った。
「いや、僕が使いたいから自分で行くよ」
今のナイルは、愛機を手放す決断が出来ないでいる。こういう時は、ちゃんと自分の言葉で説明して納得してもらわなければ譲ってもらう意味がない。
「ん? なんだ、お前たち?」
進み出たところで、僕たちに気づいたナイルが顔を上げた。
「……ナイルさん、このレーヴェを僕に譲ってくれませんか?」
なんと切り出せば良いかわからなかったので、用件だけを手短に告げる。
「……今の話、聞こえてただろ? この機体はもう使えないぞ」
機兵として使えないことが理解出来ていても、ジャンクとは言いたくないのだろう。ナイルは愛機を悔しげに見つめながら、唇を噛んだ。
「まだ使えます」
「慰めはいらねぇぜ。……わかってんだよ。我が愛機ながら、もう使いモンになんねぇってことぐらい」
装甲で守られていたので、両腕と脚部の内部骨格は無事なようだ。僕としてはそれがかなり有り難い。
「それで充分です。武侠宴舞・カナルフォード杯に出場するために、その内部骨格がどうしても必要なんです」
「お前が出るのか?」
僕の発言に、ナイルが驚いたように顔を覗き込んできた。まあ、この見た目なので仕方がないだろうな。小人族かなにかと間違われたとしても大した問題ではないので、ここでは適当に流しておこう。
「出場しますが、僕が乗る機体ではないです。ただ、大切なチームメイトのために、この骨格を活かして、新たな機兵を造り出したい」
「新たな機兵、だと……? だったら、レーヴェでも調達するんだな」
ナイルが苛立ったように舌打ちし、そっぽを向いた。こちらの状況を説明するには言葉が足りないのはわかっているが、それに同情してもらう必要もないので、僕の考えを押し通すことにした。
「自分で造らなきゃ意味がない。エステアを越えるためにはね」
「……エステア……?」
エステアの名に、ナイルが顔色を変えて振り返る。
「お前、あの戦いを見ていないのか?」
怒りとも悲しみとも、諦めともつかない複雑な表情で、溜息混じりにナイルが訊ねた。
「もちろん見ていましたよ」
その上で、エステアを越えたいのだと本気で思っているのだ。言葉にするだけ蛇足だと感じたので、挑むようにナイルを見つめ返した。
「……嘘じゃなさそうだな。お前、ちっこいのに度胸があるんだな」
ナイルは僕の目を見てなにかを感じとってくれたのか、急に表情を和らげて頷いた。
「……わかった、お前に俺の愛機を託そう。どんな形であれ、必ず蘇らせてやってくれ」
そう言いながらナイルは愛機に向き直ると、傷だらけの真紅の装甲に手を触れた。
「今までありがとうな……」
よく聞こえなかったけれど、多分彼が呟いたのは愛機への感謝の言葉だ。それだけ大切にされていた機体を譲ってもらえることで、僕もさらに決意を固めることができた。
「言っとくけど、無駄にすんなよ。ちゃんと機兵が出来たかどうかは、試合で確かめてやるからな」
「期待を上回れるように努めますね」
機体を完成させ、必ずエステアに――生徒会チームに勝つ。これが、今の僕が越えなければならない高い高い壁だ。
「ハッ、なんか本当にやってくれそうな感じがするのが面白ぇな。頑張れよ」
僕の覚悟が伝わったのか、ナイルはどこか吹っ切れた様子で激励し、愛機を託してくれた。
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