上 下
192 / 396
第三章 暴風のコロッセオ

第192話 ナイルの激励

しおりを挟む
 メルアの言う通りバーニングブレイズの大破したレーヴェ三機は、大学部の機兵工房内にが運びこまれていた

 腕と首を切断されてしまっているヒース機、機体の損傷が激しいアメリ機はどうにか修復ができるらしく、修理用の固定ハンガーへのクレーン移動が始まっている。

 工房内には、修理担当者とナイルの声が先ほどから響いており、機体に近づくまでに多くの情報が漏れ聞こえてきた。

 胴体部と腰部の接続部を斬られているナイルの機体は、メーカー修理に出せば修理自体は可能かもしれないとの話だ。

「ナイルの愛着もわかるが、一切の手加減なく勝負に挑んだエステアの攻撃は、ある程度諦めのつくはなむけだったと思えば……」
「けど、直せないわけじゃないだろ?」

 修理不能機としての廃棄を暗に諭されているナイルが、苛立ちを隠せない声を上げている。

「メーカー修理は軍部優先。学生の機体修理は後回しだ。来季のリーグに出るつもりなら、新しいレーヴェの補充申請をした方が早い。あんたの実績なら、この機体を諦めるだけで同等の機体が手に入るだろうさ」
「…………」

 修理担当者の言葉に、ナイルはなかなか頷かない。

「落ち着いて愛機をちゃんと見てやりな。一見キレイに胴体を真っ二つにされているように見えるが、風の刃をまとった剣を受けた影響で内部はズタズタだ。特に胴体部と腰部が酷いし、魔力収縮筋は全部張り替えが必要、装甲と骨格、魔導炉ぐらいしか使えねぇなら、新しい機体をカスタマイズし直した方が早いだろ」

 別の修理担当者が加わり、二人で説得に当たっているがナイルの表情は暗い。もしジャンクに回されるなら、ナイルの機体を譲り受けることになるんだろうな。けど、どうやって切り出したものか……。

「うちが交渉しよっか?」

 思い悩んでいる僕にメルアが気を利かせてくれる。有り難い申し出だが、断った。

「いや、僕が使いたいから自分で行くよ」

 今のナイルは、愛機を手放す決断が出来ないでいる。こういう時は、ちゃんと自分の言葉で説明して納得してもらわなければ譲ってもらう意味がない。

「ん? なんだ、お前たち?」

 進み出たところで、僕たちに気づいたナイルが顔を上げた。

「……ナイルさん、このレーヴェを僕に譲ってくれませんか?」

 なんと切り出せば良いかわからなかったので、用件だけを手短に告げる。

「……今の話、聞こえてただろ? この機体はもう使えないぞ」

 機兵として使えないことが理解出来ていても、ジャンクとは言いたくないのだろう。ナイルは愛機を悔しげに見つめながら、唇を噛んだ。

「まだ使えます」
「慰めはいらねぇぜ。……わかってんだよ。我が愛機ながら、もう使いモンになんねぇってことぐらい」

 装甲で守られていたので、両腕と脚部の内部骨格は無事なようだ。僕としてはそれがかなり有り難い。

「それで充分です。武侠宴舞ゼルステラ・カナルフォード杯に出場するために、その内部骨格がどうしても必要なんです」
「お前が出るのか?」

 僕の発言に、ナイルが驚いたように顔を覗き込んできた。まあ、この見た目なので仕方がないだろうな。小人族かなにかと間違われたとしても大した問題ではないので、ここでは適当に流しておこう。

「出場しますが、僕が乗る機体ではないです。ただ、大切なチームメイトのために、この骨格を活かして、新たな機兵を造り出したい」
「新たな機兵、だと……? だったら、レーヴェでも調達するんだな」

 ナイルが苛立ったように舌打ちし、そっぽを向いた。こちらの状況を説明するには言葉が足りないのはわかっているが、それに同情してもらう必要もないので、僕の考えを押し通すことにした。

「自分で造らなきゃ意味がない。エステアを越えるためにはね」
「……エステア……?」

 エステアの名に、ナイルが顔色を変えて振り返る。

「お前、あの戦いを見ていないのか?」

 怒りとも悲しみとも、諦めともつかない複雑な表情で、溜息混じりにナイルが訊ねた。

「もちろん見ていましたよ」

 その上で、エステアを越えたいのだと本気で思っているのだ。言葉にするだけ蛇足だと感じたので、挑むようにナイルを見つめ返した。

「……嘘じゃなさそうだな。お前、ちっこいのに度胸があるんだな」

 ナイルは僕の目を見てなにかを感じとってくれたのか、急に表情を和らげて頷いた。

「……わかった、お前に俺の愛機を託そう。どんな形であれ、必ず蘇らせてやってくれ」

 そう言いながらナイルは愛機に向き直ると、傷だらけの真紅の装甲に手を触れた。

「今までありがとうな……」

 よく聞こえなかったけれど、多分彼が呟いたのは愛機への感謝の言葉だ。それだけ大切にされていた機体を譲ってもらえることで、僕もさらに決意を固めることができた。

「言っとくけど、無駄にすんなよ。ちゃんと機兵が出来たかどうかは、試合で確かめてやるからな」
「期待を上回れるように努めますね」

 機体を完成させ、必ずエステアに――生徒会チームに勝つ。これが、今の僕が越えなければならない高い高い壁だ。

「ハッ、なんか本当にやってくれそうな感じがするのが面白ぇな。頑張れよ」

 僕の覚悟が伝わったのか、ナイルはどこか吹っ切れた様子で激励し、愛機を託してくれた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

異世界転生はうっかり神様のせい⁈

りょく
ファンタジー
引きこもりニート。享年30。 趣味は漫画とゲーム。 なにかと不幸体質。 スイーツ大好き。 なオタク女。 実は予定よりの早死は神様の所為であるようで… そんな訳あり人生を歩んだ人間の先は 異世界⁈ 魔法、魔物、妖精もふもふ何でもありな世界 中々なお家の次女に生まれたようです。 家族に愛され、見守られながら エアリア、異世界人生楽しみます‼︎

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

処理中です...