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第三章 暴風のコロッセオ

第178話 アイザックとロメオの協力

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「……おおっ! 早速レーヴェがお迎えしてくれているでござる!」
「別にお前を迎えてる訳じゃないだろ。駐機姿勢取ってるし」

 格納庫に到着し、興奮するアイザックに苦笑を浮かべながら、ロメオが冷静に突っ込みを入れている。格納庫の内部に入ると、所狭しと機兵や従機が並んでいるのが見て取れた。

 手前に並んでいるのは、第六世代機兵のレーヴェだ。片膝を抱えて座るような駐機姿勢を取り、整然と並べられている光景は圧巻だ。

「さすがは帝国軍の現行主力機レーヴェ。迫力が違うね」

 駐機姿勢で並ぶ姿を見るだけでも、操手の腕がかなり良いことが窺える。

「昨年、大学部の生徒が出ている武狭宴舞ゼルステラの試合を見たでござるが、中々どうしてプロリーグさながらの戦いぶりだったでござるよ。やはり名門の軍大学ともなると、プロ選手にも見劣りしない実力を持っているでござるな」

 アイザックとロメオが感心しながら格納庫の中を進んでいく。

 そういえば、大学部も大闘技場コロッセオで試合をしているんだったな。実際の競技の空気感を掴むためにも一度見に行った方がいいかもしれない。あとで日程を調べておこう。

「はぁ……。このレーヴェを使えるとは、たまらぬ~!」
「落ち着け、アイザック。そっちは大学部の備品だよ。管理札がついてるだろ」

 興奮のあまり叫びだしたアイザックの膝をロメオが叩く。アイザックは狐耳を折り、大仰に頭を抱えてまた叫んだ。

「拙者としたことが~、ぬか喜びでござる~!」
「そうそう。高等部の備品はこちらですよ」

 プロフェッサーがそう言いながら、僕たちを格納庫の奥へと誘導する。

 奥に進むと、先日の授業で使われたレギオンの他、アイリス=フラーゴという機体が三機ずつ並んでいるのが見えた。

 アイリス=フラーゴは、つば広の帽子を被ったような頭部が特徴的な機体だ。手足は細く、左腕には腕と一体化するように小盾バックラーが装着されている。背中の噴射推進装置バーニアから伸びる4本の飾り布にも機体の特徴が大きく窺える。

 手足が細いことからもわかるように、アイリス=フラーゴは軽機兵にカテゴライズされる機体だ。

「フラーゴもレギオン同様に200年前に起きた帝国と聖王国の戦争、第三次聖帝戦争当時に使われていた機体でござるな。拙者の注目ポイントは、なんといってもその加速性能でござる!」 
「背中と腰に二基ずつ、合計四基も搭載された大型の噴射推進装置バーニアがそれを可能にしているんだよね」
「のみならず、装甲を極限まで薄くして軽量化していることも、見逃せないでござる! フラーゴの瞬間加速力は、なんとレギオンの三倍とも言われているでござる」

 頼まれてもいないのにアイザックとロメオが色々と解説してくれる。僕は歴史的には教科書で習う範囲のことと、前世で見聞きしていること以外には疎いので、彼らの解説は新鮮だ。

 二人の話の要点を整理すると、つまりアイリス=フラーゴは機動性と突進力に優れた機体ということになるようだな。一見するとホムと相性が良さそうに見えるが、フラーゴの手足は軽量化しすぎている印象だ。手足が細すぎて、打撃に耐えられるとは到底思えない。ホムが自分の身体の感覚で動かせば、敵を倒す前に自壊してしまいそうだ。そう考えると、とてもじゃないが、ホムの格闘戦に対応できるとは思えない。

「……ホム殿とは少々相性が悪そうでござるな」
「フラーゴはその俊敏さを活かして、細剣レイピアみたいな突き攻撃に優れた武器を持つ事で真価を発揮するタイプなんだよね」

 ロメオの説明を聞きながら改めて機体を見ると、腰に細剣レイピアを装備しているのが窺えた。なんだか、ヴァナベルと相性が良さそうな機体だな。

 ひとまずホムの専用機には、懸念はあるもののレギオンを素体に使うのがいいだろう。

「プロフェッサー、ひとまずレギオンを一機――」
「おっと、大事なことを言い忘れていました」

 レギオンを確保しようとしたところで、プロフェッサーが額を叩いて宙を仰いだ。

「リーフが使える機体は、こっちです。完動品は私的利用することが出来ないので、提供出来るのはいわゆるジャンクということになりますね」

 そう言ってプロフェッサーが案内したのは、格納庫の端にあるジャンクが格納されている一画だった。

 破損したレギオンのパーツがそれなりに整理されて積まれている。古い物なのか錆び付いてはいるが、下の方にいくつか状態の良い物も見えるな。

 その他に、レーヴェの修理用なのか各関節パーツや魔力収縮筋の束がこれも一応整理されて置かれていた。恐らく、大学部のリーグで破損した機体から使えるものを取り除いて備蓄されているのだろう。

 予想外だったのは、ここには格納されていない従機用のパーツがあったことだ。多分、カナルフォード学園内で稼働していた従機のパーツが、持ち込まれているのだろう。これなら、万が一アーケシウスが損傷しても修理に使えそうだな。

 ジャンクとはいえ、使えるものばかりが整理されて置かれているので、機兵についてもかなり期待出来そうだ。そう思いながら崩れるように駐機されている機兵の方を見ると、あまり見たくない機体が目に入った。

「ガイスト・アーマーでござるな、これは――」
「この機体は使わない。説明は不要だよ」

 ホムンクルスの闇取引を行う組織が使っていたこの機体は、どうにも嫌な気分になるな。ホムだってこれには乗りたくないだろう。

 その隣には、レギオンが何体か置かれていて、素体に使えそうなレギオンはこの中から選べそうだ。問題は、アルフェの機体だが――。

 格納庫の中を歩きながら、巨大な機兵を見上げてひとつひとつ確かめていく。その中で僕は、これまで見てきた機体とは一風変わった機体を見つけた。

 帽子を被った道化師のような出で立ちに、背中には悪魔の羽がある。手には大鎌を持っていてなんとも不気味な印象の機兵だ。

「……この機体は?」
「これはレムレス・スクリーマーでござるな。レムレスの通称で呼ばれる帝国軍でも採用されている第六世代の魔装兵でござる」
「第六世代の機兵で、魔装兵のカテゴリー! ジャンクとはいえ、こんなところにあるなんて!」

 魔装兵とは魔法を行使することに特化させた機兵のことで、通常の機兵と異なり、非常に高いエーテル出力を持っており幅広い魔法を使用することが出来る。見た目の不気味さはカスタマイズしながらカバーするとしても、機能としては求めていたものに当てはまりそうだ。

「アルフェ用の素体に良さそうだな」
「それは、少々疑問でござるな」

 僕の呟きにアイザックが疑問を呈する。

「どうしてだい?」
「レムレスは魔装兵としての性能は悪くないでござる。必要十分な魔法戦闘力を持っているのでござるが、如何せん欲張りすぎているでござる」
「……機能が多すぎるということなのかな?」

 それならば、減らせば良いだけのことだとは思うのだが、もう少し詳しく聞いてみよう。

「簡単に言うとね。魔装兵は、一般的には魔法能力に特化させているから白兵戦能力や装甲に難をもつ機体が多いんだ。だけど、この機体はそれらの問題をクリアして万能な魔装兵にしようとしているんだよね」
「さすがはロメオ殿、的確な説明でござる。より具体的に言うなれば、背中に生えている羽のようなものは可変装甲になっていて、羽で自身を包むことで機体を護ることが出来るでござる。そして、メイン武装である大鎌は、これ自体がエーテルを増幅する杖の役割と鎌状の刃で白兵戦を行うことができる一挙両得の武器になっているのござるよ」

 なるほど、それはアイザックが『欲張りすぎている』と表現した気持ちもわかるな。ざっと聞いただけで、かなりの機能を搭載しているこの機体は、このままでは機兵の操縦に慣れていないアルフェでは到底使いこなせない。

「この機体を乗りこなすのは、並大抵の操縦技術じゃ無理なんだ。ゴチャゴチャ機能を付け過ぎたせいで操縦が複雑化して、熟練の操手でも乗りこなすのが難しいからね」
「……なるほどね」

 こういう時、機兵に詳しいアイザックとロメオの意見は助かるな。

「一応、帝国軍が機体適性を持つ生徒を見つけ出そうとしたんですが、まあ、操縦が複雑ってことは……ね? わかりますよね?」
「操縦を誤って壊した、と」

 プロフェッサーの思わせぶりな言葉を耳に、改めて機体を見上げる。どうやら悪魔の羽を思わせる羽が片方折れているようで、中途半端にぶら下がっていた。

「つまり、これを修理することもカスタマイズすることも可能なわけですよね、プロフェッサー」
「そういうことです。相変わらず、君は理解が早い」

 問題を抱えている機体ではあるが第六世代機兵なら機兵評価査定に大きくプラスとなる。欠陥部分を解消すれば、アルフェが乗る機体にすることが出来るだろう。

「それなら、ホムとアルフェの使う機兵の素体には、レギオンとレムレスを使うことにします」
「ちょ、ちょっと待ってよ、リーフ! 君なら修理は出来るだろうけど、レムレスはとにかく操縦が難しいんだよ」
「そうでござるよ。拙者ならレギオンを――」
「レムレスがいいんだ。アルフェが乗るなら、魔装兵の性質が絶対に必要だからね」

 僕の中ではもう決まったことだ。それが出来るだけの技術も知識も持ち合わせている。

「し、しかし、時間が――」
「もちろん、アルフェが難なく操縦できるように、カスタマイズするよ。手間はかかるけど、解体して組み直すところから始めないとね」
「リ、リーフ殿、正気でござるかーーーー!!!!?」
「嘘だろ!!!?」

 アイザックとロメオが悲鳴を上げる隣で、プロフェッサーが噴き出した。

「ふふふ。これはとても面白いことになってきましたね。私も手伝うとしましょう」
「えっ!?」

 プロフェッサーの思いがけない発言に、僕たち三人の声が揃った。

「スクラップ同然だったという骨董品のアーケシウスをここまで蘇らせたその技術、間近で見られる機会なんて滅多にないとは思いませんか?」

 まあ、僕だったらプロフェッサーと同じことを考えるだろうな。

「せ、拙者も手伝うでござる!」
「僕もやりたい!」

 やれやれ、一人でやるつもりだったけれど、思わぬ協力者が現れてしまったな。みんなそれだけ機兵や魔導器への興味が強いということなんだろう。

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