アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~

エルトリア

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第三章 暴風のコロッセオ

第145話 ホムの相談

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「マスター、折り入ってご相談があります」

 お風呂上がりにホムの髪を乾かしていると、ホムがいつになく真剣な眼差しを向けてきた。

「なんだい、ホム。来週の選択授業のことかな?」
「……遠からず関係はありますが、そのこと自体ではありません」

 ホムにしては少し歯切れの悪い返答だ。きっとなにか言い出しにくいことなんだろうな。ここはホムが話しやすいように誘導するべきだろう。

「ホムの相談なら喜んで聞くよ。なんでも言ってごらん」
「この週末のことなのですが、わたくしとアルフェ様で部屋を交換したいのです」
「……部屋を……?」

 予想外の申し出に、反応が少し遅れてしまった。

「もしかして、アルフェを心配してくれているのかな?」
「出過ぎた真似かもしれませんが、親元を離れられたアルフェ様には、マスターと過ごす時間が必要かと……」

 ホムはそう応えながら居心地悪そうに俯いている。従者であるホムには、僕から離れるという発言自体がかなり心苦しいことだと容易に想像がついた。それでも、僕とアルフェのことを想って自分の務めの優先順位を下げてくれたのだ。

「良い子だね、ホム」

 ホムを撫でてやると、洗い立ての髪から良い匂いがした。

「……従者であるわたくしがマスターの元を離れるというのは、悪いことではありませんか?」

 甘えるように身体を寄り添わせたホムが、遠慮がちに口を開く。

「僕のためを思ってくれているんだろう?」

 戸惑いながら頷くホムは、僕の顔を見つめながら心配そうに続けた。

「教室でのご様子を拝察するに、マスターもかなり淋しく思われているようでしたので」
「ヴァナベルに見抜かれるぐらいだ。僕はよほど淋しそうな顔をしていたんだろうね」

 自分でもこの変化には少し驚いている。前世にはなかった感情とどう折り合いをつけていいのかは、まだ掴めていない。無視することも出来るが、それは多分今の僕リーフのためにはならないだろうな。

 なぜなら、裏を返せば淋しいと思えるような相手がいること、環境に恵まれているということで、別に悪いことではないのだから。

 それに、アルフェを淋しいままにさせておくのは胸が痛むし、ホムの申し出も嬉しい。だから僕は遠慮なくここはホムに甘えることにした。

「ウルおばさんに相談して、週末アルフェが泊まれるように取り計ろう。ホムのことだから、ファラにはもう話してあるんだろう?」
「はい」

 問いかけにホムは嬉しそうに頷いた。

「いい心がけだよ、ホム。ちゃんと他の人のことも考えてくれて助かる」
「マスターがそのように仰せでしたので」
「そうだね」

 僕の立場が悪くならないようにという配慮があるにせよ、ホムのこの気遣いはとても良いことだと思う。

「いいかい、ホム。この学園では個人だけの問題で済むことはそう多くない。集団生活とはそういうものだし、軍事国家としても、全体の利益を優先することは重んじられるからね」

 この機会にホムには全体の和というものを学んでもらいたいな。僕もまだまだ勉強不足だから、一緒に考えて行くことが出来れば違う専攻にした甲斐もあるというものだ。

「軍事科ではそれを嫌というほど叩き込まれるだろう。幸いファラとヴァナベル、ヌメリンは軍事科だ。上手く連携して乗り越えてほしい」
「もちろんです、マスター」

 ホムもかなり頼もしくなってきたな。生みの親としてホムの成長を間近で感じられるのは、誇らしい限りだ。母上も僕のことをこんなふうに感じてくれていたのかと思うと、家族との記憶が一層鮮やかで優しいものになる。

 やっぱり僕はホムを生み出して良かったんだろうな。当初の目的は違ったものの、こうして家族としてホムを大切にする気持ちは、今後も大事に育てていきたい。前世の僕グラスは不要と決めつけて、求めることすらしなかった想いだ。

「……おいで、ホム」

 少し身体を離したホムを、手を広げてもう一度抱き締める。ホムは、僕のことを包み込むように抱きついてきた。

「……ホムにはこの週末淋しい思いをさせるかもしれないけど、ホムはホムでファラと楽しく過ごしてくれたら嬉しい」
「そのように致します。ファラ様はとても楽しい方ですので」

 ホムの声の抑揚から察するに、ホム自身もファラとの週末が楽しみなようだ。ファラの魔眼のこともあるし、手合わせをしたりするんだろうか。そんな二人が想像出来るくらい、僕もファラのことを信頼しているし友人だと思えていることに気づく。

「仲が良くてなによりだよ」

 アルフェとファラがルームメイトで本当に良かったな。いつになくそわそわするのは、きっと僕自身もアルフェと二人きりの週末を心待ちにしているからに違いない。



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