アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~

エルトリア

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第二章 誠忠のホムンクルス

第85話 武装錬成魔法

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「よし。アルフェ嬢ちゃんの許可も得られたことじゃ、武装錬成アームドを伝授しよう」

 武装錬成というのは、土魔法の一種だ。鉄鉱石を生み出し、瞬時に加工するという戦闘用の魔法で、刃物や盾、鎧などを錬成する。武器としての強度はそこまで高くないため、武器を携帯できない時や、手持ちの武具を失った際に代替とされるものだ。ただ、構造が複雑なものほど錬成に時間がかかるため、実際に錬成されるのはごく簡素なものだ。

 それぐらいなら、魔法の知識もあることだし、ホムには容易いだろう。だが、タオ・ランがどのように実戦で使うのかには興味が湧いた。

「まずは見ておれ……」

 タオ・ランはそう言うと、ホムから離れて、庭の一角にあるカイタバ煉瓦の壁に向かった。武芸家の鍛錬に使われているものらしく、無数の殴打跡のようなものが残っている。

「鋼の身体よ、武威を示せ。武装錬成アームド

 タオ・ランの詠唱が朗々と響く。ここまでは普通の魔法と何ら変わらない。だが、タオ・ランはそこから全く淀みなく、流れるように次々と手足に合う武具を錬成し、煉瓦を打ち抜いた。

「まあ、こんなものかのぅ」

 そう言って涼しく笑うタオ・ランが、僕たちに向き直る。無数の穴がぽっかりと空いた煉瓦と、タオ・ランの手足を包む武具を見比べ、思わず感嘆の溜息を吐いた。

 瞬時に錬成されたはずの武具にはカナド風の装飾が施されており、全てのイメージが、タオ・ランの中で完璧に練られていることがわかる。武芸のみならず、魔法にも優れた技能を有しているタオ・ランの実力を目の当たりにし、父があんなにも嬉しそうに目を輝かせていたのが何故なのかを理解できたような気がした。

「さて、さすがにこれはすぐには出来まいな」

 武装錬成の知識自体は有している。ホムがそれを使えるのかどうかは、やってみなければ僕もわからない。

「出来るかい、ホム?」
「……やってみます」

 僕の問いかけは、「やれ」という命令だ。ホムは頷き、タオ・ランと同じく煉瓦の壁に向かうと、詠唱を口にした。

「……鋼の身体よ、武威を示せ。武装錬成アームド

 だが、ホムが錬成出来たのは、ただの大きな鉄鉱石の塊だった。ホムはそれを外旋脚で蹴り、煉瓦を粉々に打ち砕いた。

「……こうでしょうか……?」

 淡々と問いかけてくるホムは、自分の錬成の失敗にはどうも気がついていないようだ。

「もっとこう……かわいいのがいいんじゃないかな? ――武装錬成アームド

 アルフェが助け船を出し、武装錬成の魔法を行使する。ほとんど無詠唱に近いアルフェの詠唱に、僕も続いた。

「ほうほう。アルフェ嬢ちゃんは、やはり素晴らしい想像力じゃな」

 アルフェが作り出したのは、花の模様がたくさんついた籠手ナックルだ。一瞬でそれを想像し、錬成してしまうアルフェの想像力には未だに驚かされるな。

「しかし、リーフ嬢ちゃん……。この化石のような籠手はどういう……?」

 ああ、老師に指摘されたように、僕のはどうにも古めかしいな。古さで言えば博物館級だ。籠手なんて、グラスの頃にアトリエを訪ねて来た騎士のものを少し見たぐらいだったから、そのせいかもしれない。

 けれど、僕がこうして錬成できるというのに、ホムが錬成したのは単なる鉄鉱石の塊だった。……ということは、やはり人間二人分の人生の記憶と知識は、多すぎたのかもしれない。必要な知識の引き出しをすぐに引き出せるよう、ホムに教えないとならないな。

「いいかい、ホム。この鉄鉱石は、製鉄される前の状態だ。工程はわかっているな?」
「はい、マスター。溶鉱炉にくべてドロドロに溶かします」
「では、その溶けたドロドロの鉄をこの形になるように思い浮かべてみろ」

 今錬成したばかりの自分の籠手を示して、ホムに命じる。お手本というなら、アルフェのを見せたいところだが、同じ知識を持っているのだからこっちの方が都合がいいのだ。

「かしこまりました、マスター」

 ホムが頷き、もう一度詠唱を行う。今度は魔法がしっかりと発動し、僕と全く同じ籠手がホムの手に装着された。

「さすが、リーフ。教えるのが上手」
「お見事じゃな、リーフ嬢ちゃん」

 アルフェとタオ・ランからの称賛を受け、僕もちゃんと役に立てていることを実感する。やはりサポート役に回ったのは正解だったようだ。ホムは人間のように時間を重ねて生きてきてはいない。相応の身体と知識を詰め込まれただけで、圧倒的に経験が足りないのだ。

 だが、きっかけを与えれば、ホムもちゃんと知識を引き出すことができる。そしてこの指導は、多分僕にしか出来ない。

「ほっほっほ。しかし、こんな短時間で武装錬成まで進むとは、ホム嬢ちゃんにはいよいよ教えることがなくなりそうじゃ」
「お言葉ですが、老師。まだ実戦に耐え得る状態とは言い難いです。武装錬成アームドの魔法で作る武具は、そこまで丈夫ではないですから」

 いつまた女神や神人カムトが現れるとも限らない。無限に回復するアウロー・ラビットのような化け物を目の当たりにしていただけに、今の状態ではまだまだ足りないことは身に染みてわかっている。そしてその術をタオ・ランが持っていることもわかっていた。

「戦闘中に破壊されても、老師のようにこの魔法を無詠唱で発動し、瞬時に再錬成できるよう、魔法構築イメージの練習をしなければ」
「ほうほう。……やはり見抜いておったのじゃな」

 タオ・ランが武装錬成の技の見本を見せた時、わざわざ詠唱して見せたのはその後の無詠唱をカムフラージュするためだ。

「リーフ嬢ちゃんの観察眼には、驚かされてばかりじゃ」

 僕が頷くと、タオ・ランは長く白い髭を揺らして、さも楽しげに笑った。快活なその笑みはしかし、どのような人生を歩めばその目が備わるものか、と問いかけられているような気がしてならなかった。もちろん僕の気のせいなのだけれど。

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