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第二章 誠忠のホムンクルス
第72話 錬成準備
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冬休み前日、セント・サライアス中学校からの貸与品を受け取るため、父に車を出してもらった。
「凄いな、リーフ。これだけの貸与を受けられるなんて、帝国の研究者でもなかなかないぞ」
リオネル先生とアナイス先生から、僕の普段の様子を聞いた父は、興奮冷めやらぬ様子でしきりに感動している。軍の仕事で忙しく、僕の学校での評価を実際に見聞きすることが珍しいので、仕方ないといえばそうなのだが、あまりに褒められすぎてくすぐったい。
「褒めすぎですよ、父上。僕が凄いということではなく、この学校の理念や信条が素晴らしいのです。こんな素晴らしい学校に通わせてくれている父上と母上に感謝しなければ」
「……本当に素晴らしい子を育てることが出来て、幸せだ……」
僕の言葉に感じ入った様子で、父が涙ぐんでいる。父の心からの反応を見ながら、僕が彼らの子供としてやってきたことに間違いはなかったのだと、改めて感じることができたが、それと同時に後ろめたさも感じた。
僕の転生先が両親の元でなかったのなら、もっと『普通』の子育てが出来たのだろうと思うと、胸が痛む。せめて害が及ぶことのないように、一層慎重に過ごしていかなければ。ホムンクルスはそのための第一歩だ。
父の車で運んできた貸与品である試験管と酸素吸入魔導器、僕の身体がすっぽりと収まるほどの大きさの円柱状の缶に入ったアムニオス流体が到着すると、僕のアトリエはかなり手狭になった。
作業にはアーケシウスを使うことを決めていたので、父の手を借りずにあらかじめ計画していた場所に設置していく。
ホムンクルス育成用の試験管に酸素吸入魔導器を接続し、動力として用意した小型のエーテルタンクに繋ぐと、それらしい一画が出来上がった。
休む間もなく、試験管に缶からアムニオス流体を注ぐ。これにはリオネル先生が用意してくれた専用のホースが付属しており、ほとんど自動で試験管を満たしてくれた。
「さて、と……」
アムニオス流体で満たされた試験管にアーケシウスを近づけ、上部の円形の蓋を開く。ここから遺伝子情報に当たる物質を入れるわけだが、今回は血液を使うことにした。
グラスの頃の自分は役に立たなくなった部分の肉片を使ったのだが、この身体は僕だけのものではない。ホムンクルスを作る上で多少効率は悪くとも、肉体に与える損傷は最小限に留めるに限るだろうと判断した。
ナイフで手首を切り、流れ出た血を小窓から試験管の中に落とす。僕の血が混じったアムニオス流体の色が変わっていくのを確認していると、手首から伝う血が止まったことに気づいた。
「……なるほどな……」
手首につけたナイフの切り傷がもう塞がっている。
「まるで、あの時のアウロー・ラビットだ」
どれだけ攻撃を食らわせても瞬く間に修復してしまうのは、あの女神と変わらない。改めて自分の身体に起きている異常を再認識して苦笑した。
「……まあ、これで作業が多少は捗るか……」
呟きながらもう一度手首を切り、追加の血液をアムニオス流体の中に注ぐ。新しい切り傷もすぐに塞がってくれたおかげで、僕は血の跡を拭き取ってすぐに次の作業に取りかかることができた。そういう意味では便利ではあるが、異常は異常だな。
「凄いな、リーフ。これだけの貸与を受けられるなんて、帝国の研究者でもなかなかないぞ」
リオネル先生とアナイス先生から、僕の普段の様子を聞いた父は、興奮冷めやらぬ様子でしきりに感動している。軍の仕事で忙しく、僕の学校での評価を実際に見聞きすることが珍しいので、仕方ないといえばそうなのだが、あまりに褒められすぎてくすぐったい。
「褒めすぎですよ、父上。僕が凄いということではなく、この学校の理念や信条が素晴らしいのです。こんな素晴らしい学校に通わせてくれている父上と母上に感謝しなければ」
「……本当に素晴らしい子を育てることが出来て、幸せだ……」
僕の言葉に感じ入った様子で、父が涙ぐんでいる。父の心からの反応を見ながら、僕が彼らの子供としてやってきたことに間違いはなかったのだと、改めて感じることができたが、それと同時に後ろめたさも感じた。
僕の転生先が両親の元でなかったのなら、もっと『普通』の子育てが出来たのだろうと思うと、胸が痛む。せめて害が及ぶことのないように、一層慎重に過ごしていかなければ。ホムンクルスはそのための第一歩だ。
父の車で運んできた貸与品である試験管と酸素吸入魔導器、僕の身体がすっぽりと収まるほどの大きさの円柱状の缶に入ったアムニオス流体が到着すると、僕のアトリエはかなり手狭になった。
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休む間もなく、試験管に缶からアムニオス流体を注ぐ。これにはリオネル先生が用意してくれた専用のホースが付属しており、ほとんど自動で試験管を満たしてくれた。
「さて、と……」
アムニオス流体で満たされた試験管にアーケシウスを近づけ、上部の円形の蓋を開く。ここから遺伝子情報に当たる物質を入れるわけだが、今回は血液を使うことにした。
グラスの頃の自分は役に立たなくなった部分の肉片を使ったのだが、この身体は僕だけのものではない。ホムンクルスを作る上で多少効率は悪くとも、肉体に与える損傷は最小限に留めるに限るだろうと判断した。
ナイフで手首を切り、流れ出た血を小窓から試験管の中に落とす。僕の血が混じったアムニオス流体の色が変わっていくのを確認していると、手首から伝う血が止まったことに気づいた。
「……なるほどな……」
手首につけたナイフの切り傷がもう塞がっている。
「まるで、あの時のアウロー・ラビットだ」
どれだけ攻撃を食らわせても瞬く間に修復してしまうのは、あの女神と変わらない。改めて自分の身体に起きている異常を再認識して苦笑した。
「……まあ、これで作業が多少は捗るか……」
呟きながらもう一度手首を切り、追加の血液をアムニオス流体の中に注ぐ。新しい切り傷もすぐに塞がってくれたおかげで、僕は血の跡を拭き取ってすぐに次の作業に取りかかることができた。そういう意味では便利ではあるが、異常は異常だな。
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