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第二章 誠忠のホムンクルス

第66話 新たな趣味

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 錬金術を駆使して作った初めてのフライパンは、結論から言うと大成功だった。

 野菜を炒めれば、余分な水分を飛ばしてくれるのでしゃきしゃきした歯ごたえを残しながらも、しっかり内部まで火が通るし、肉を焼けば表面はこんがりと、中はしっとりとジューシーに仕上がる。ある程度予測していたとおりの性能だったが、その性能が調理に活かされると、食材の素材の味まで鮮やかに引き出されるとは思わなかった。

 母もアルフェも、僕の作ったフライパンを喜び、毎日料理を楽しんでくれている。母に関しては、わざわざお願いしなければ、僕が使う番が回ってこないほど、夢中になってくれている。

 グラスの頃は自分の探究心が全てだったけれど、こうして誰かを喜ばせることができるなら、僕自身も自分の錬金術にさらなる喜びを感じられるから不思議だ。

 念のためアルフェ経由でジュディさんからも使用感を聞き出したところ、蓋があった方が料理の幅が広がるというので、追加で作ることにした。こちらはガラスと火の魔石を合わせたものをベースに選び、フライパンの高熱にも耐えられるように強度を上げた。

「んー! リーフのアスパラの燻製肉巻き、最高に美味しい」

 昼休み。すっかり定番になったお弁当を交換したアルフェが、一口食べるごとに大袈裟なくらいの感想を全身で表現してくれる。美味しいものを食べたときに、足をバタバタさせる嬉しい時の昔の癖が出るのが、なんとも愛らしい気がするのは僕だけの秘密だ。

「これ、どうやって作ったの?」
「……どうって、アスパラを一口大に切って、燻製の薄切り肉で巻いて蒸し焼きにしただけだよ?」
「あっ! 蒸し焼き! そっか!」

 僕の答えにアルフェがぱちぱちと目を瞬く。

「ワタシも、人参で燻製の肉巻きを作ったんだけど、なんだかかたくて……」
「これはこれで、歯ごたえがあっていいと思うよ。……ああでも、もう少し細切りにしておくとひとつひとつに火が入るんじゃないかな」

 交換したお弁当に入っていた人参の燻製肉巻きを食べながら応えると、アルフェがもじもじと身体を動かし始めた。

「……その大きさがいいから……」
「ん?」

 意図がわからなかったが、食べ応えや噛み応えを重視したいということなのだろうか。そう考えながら二つ目をフォークに刺したところで、断面がハート型になっていることに気がついた。

「ああ、なるほど。模様をつけたいってことなんだね。それなら蒸し焼きにすればいい」

 僕の意見にアルフェの身体が自然と前のめりになっている。集中して聞いているってことは、アルフェもかなり料理が好きになっているようだ。

「お水は入れる?」
「いや、水分がすぐに蒸発するから蓋をするだけでいいよ。最初にしっかり余熱した後は、弱火でじっくり根気よく焼けばこのアスパラと同じように火が入るからね」
「わかった! 明日やってみる!」

 じゃあ、明日も……もしかしたら当分はこのおかずが続くのかな? 別に同じものを食べても飽きないけれど、僕の方は何を入れようか。アルフェの真似をして、この人参の燻製肉巻きを入れたら喜ぶかな? そうすると、ハートになるようにした方がいいから、人参を無駄なく使うために、キャロットラペを作ろう。この前はレシピ通りに作って酸味がきついと感じたから、蜂蜜を入れて酢の酸味をマイルドにするのがいいな。

 最初は母の手伝いのつもりで始めた料理が、フライパンを作った影響や、お弁当交換の影響を受けて、すっかり僕の趣味になりつつある。両親にもアルフェにも喜んでもらえるし、間接的に錬金術の知識もちゃんと使えているのが僕にとっても嬉しい。次は鍋を自作するのもいいかもしれない。

「……ごちそうさまでした」

 考えごとをしているうちに、アルフェが先にお弁当を食べ終えた。中学校に入ってまた少し背が伸びたアルフェは、食欲も旺盛になりつつある。僕は相変わらずの小食だから平気だったけれど、アルフェのお弁当はもう少し多い方が良いのかもしれないな。

「リーフはゆっくり食べてね」
「……暇じゃないの?」
「ワタシの作ったお弁当、美味しそうに食べてくれるリーフが見られるから幸せだよ」

 アルフェがそう言ってにこにこと笑った。その笑顔に、窓から差し込んだ光が当たり、角膜接触レンズコンタクトの奥にあるアルフェの浄眼を透かした。

 季節は巡り、暑かったこの夏も終わりに近づいている。

「……そろそろ中庭に戻っても気持ち良さそうだよね」
「だけど、冬は冬で寒そうだよ」

 夏になってすぐに、僕とアルフェは昼食の定位置にしていた中庭の噴水そばのベンチを諦め、僕たちは空調設備の整った教室で昼食を摂るようになっている。

「冬は平気だよ。だって、リーフとくっついていれば寒くないもん。今でも二人きりなんだから、ここでいいんじゃないかな?」

 多くの生徒が食堂での食事を好んでいることもあり、教室は僕とアルフェの二人きりだ。

「……それもそっか。二人きりだもんね」

 僕が二人きりだと言ったのがよほど嬉しかったようで、アルフェが反芻するように繰り返した。教室が想像以上に空いていて快適だったので、僕としては移動の手間が省けることもあってこのまま昼食の定位置にしたいところだ。

 念のため、アルフェがまたこの話題を出したときに二人きりであるということを強調しておこう。あとは、他にお弁当を持って来る生徒が増えないことを祈るだけだ。

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