62 / 396
第二章 誠忠のホムンクルス
第62話 セント・サライアス中学校
しおりを挟む
セント・サライアス中学校の校門に、龍樹の紅色の花びらが降り注いでいる。校門前には、僕たちの入学を祝う上級生らが集まり、ひとりひとりに龍樹の花を模して作られた花飾りを手渡している。
「お揃いだね、リーフ」
胸元に花飾りをつけたアルフェが、嬉しそうに足を弾ませている。新入生代表の挨拶で緊張しているかと思ったが、小学校の頃とは違い、アルフェは思った以上に堂々としていた。
「……まあ、花飾りをつけているのが新入生ってことなんだから、僕たちみんながお揃いなんじゃないかな?」
「む~~~っ」
そう指摘すると、アルフェは小さく唸るような声を漏らして、その場に立ち止まった。
「……じゃあ、こうする」
植え込みの上に落ちてきた龍樹の花を集め、アルフェが唇の中で詠唱する。
「なにを――」
「はい、できた」
アルフェが手のひらを開くと、そこにはハートの形に編まれた輪のようなものが二本出来上がっていた。
「これで、ワタシとリーフだけのお揃いでしょ?」
「……まったく、アルフェには敵わないな」
思いついたものをすぐに形に出来る想像力と魔法の実力、それを行使出来るだけのエーテルを持ち合わせているのもさすがだ。感心して頷くと、アルフェは得意気に微笑んで僕の腕を絡め取った。
「この調子で、入学式の大役も任せたよ」
「うん。約束だからね」
アルフェが僕の頭に頬を擦り寄せてくる。昔から頬を擦り寄せる癖があったけれど、身長差がここまでくると、そろそろ帽子に摩擦防止の加工を施しておいた方がいいだろうな。
そんなことを考えていると、背後から覚えのある声が聞こえて来た。
「……仲睦まじくて微笑ましいことですね、アルフェ、リーフ」
「アナイス先生! リオネル先生も!」
いち早く気配に反応して振り向いたアルフェが、弾んだ声を出す。
「入学式の式典に参加されるんですか?」
アルフェの問いかけにアナイス先生は深く頷き、穏やかな口調で続けた。
「ええ。この春から、こちらで教鞭を振るうことになりました」
「え……? それって……」
「今日からまたよろしくお願いしますね」
思いがけない報告に驚く僕とアルフェに微笑みかけながら、アナイス先生とリオネル先生が頭を垂れる。僕たちも倣って頭を垂れた。
「優秀なあなたたちの成長を間近で見ることが出来て、とても嬉しいです。……あ……」
そこまで言って、リオネル先生が気まずそうに口を噤む。
「……リーフ」
「はい」
多分、僕のエーテル過剰生成症候群のことだろうな。表情から察しがついたので、僕も神妙な顔をして先生たちと目を合わせた。
「話は聞いております。私たちも出来る限りのサポートをしますので、なにかあれば些細なことでも話してください」
小学校からずっと僕たちの成長を見ているアナイス先生とリオネル先生がいるのなら、中学校生活も心強い。もしかして、僕の話を聞いて急遽決まったという話だとすれば、僕とアルフェはとんでもない期待を受けているのかもしれないけれど。
「……わかりました、ありがとうございます」
全てが推測にしか過ぎないのだから、子供らしく振る舞っておこう。有り難いと思う気持ちには、変わりがないのだから。
「お揃いだね、リーフ」
胸元に花飾りをつけたアルフェが、嬉しそうに足を弾ませている。新入生代表の挨拶で緊張しているかと思ったが、小学校の頃とは違い、アルフェは思った以上に堂々としていた。
「……まあ、花飾りをつけているのが新入生ってことなんだから、僕たちみんながお揃いなんじゃないかな?」
「む~~~っ」
そう指摘すると、アルフェは小さく唸るような声を漏らして、その場に立ち止まった。
「……じゃあ、こうする」
植え込みの上に落ちてきた龍樹の花を集め、アルフェが唇の中で詠唱する。
「なにを――」
「はい、できた」
アルフェが手のひらを開くと、そこにはハートの形に編まれた輪のようなものが二本出来上がっていた。
「これで、ワタシとリーフだけのお揃いでしょ?」
「……まったく、アルフェには敵わないな」
思いついたものをすぐに形に出来る想像力と魔法の実力、それを行使出来るだけのエーテルを持ち合わせているのもさすがだ。感心して頷くと、アルフェは得意気に微笑んで僕の腕を絡め取った。
「この調子で、入学式の大役も任せたよ」
「うん。約束だからね」
アルフェが僕の頭に頬を擦り寄せてくる。昔から頬を擦り寄せる癖があったけれど、身長差がここまでくると、そろそろ帽子に摩擦防止の加工を施しておいた方がいいだろうな。
そんなことを考えていると、背後から覚えのある声が聞こえて来た。
「……仲睦まじくて微笑ましいことですね、アルフェ、リーフ」
「アナイス先生! リオネル先生も!」
いち早く気配に反応して振り向いたアルフェが、弾んだ声を出す。
「入学式の式典に参加されるんですか?」
アルフェの問いかけにアナイス先生は深く頷き、穏やかな口調で続けた。
「ええ。この春から、こちらで教鞭を振るうことになりました」
「え……? それって……」
「今日からまたよろしくお願いしますね」
思いがけない報告に驚く僕とアルフェに微笑みかけながら、アナイス先生とリオネル先生が頭を垂れる。僕たちも倣って頭を垂れた。
「優秀なあなたたちの成長を間近で見ることが出来て、とても嬉しいです。……あ……」
そこまで言って、リオネル先生が気まずそうに口を噤む。
「……リーフ」
「はい」
多分、僕のエーテル過剰生成症候群のことだろうな。表情から察しがついたので、僕も神妙な顔をして先生たちと目を合わせた。
「話は聞いております。私たちも出来る限りのサポートをしますので、なにかあれば些細なことでも話してください」
小学校からずっと僕たちの成長を見ているアナイス先生とリオネル先生がいるのなら、中学校生活も心強い。もしかして、僕の話を聞いて急遽決まったという話だとすれば、僕とアルフェはとんでもない期待を受けているのかもしれないけれど。
「……わかりました、ありがとうございます」
全てが推測にしか過ぎないのだから、子供らしく振る舞っておこう。有り難いと思う気持ちには、変わりがないのだから。
0
お気に入りに追加
797
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
RD令嬢のまかないごはん
雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。
都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。
そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。
相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。
彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。
礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。
「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」
元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。
大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる