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第二章 誠忠のホムンクルス
第59話 家族との時間
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真実とともに本心を伝えたことでアルフェは落ち着いたものの、やはり不安げな表情が気になったので、家に泊まりに来るようにと促してみた。
アルフェは驚きながらも、僕の提案に笑顔で頷き、今度は嬉しくて泣き出した。
そういう経緯で、今僕は母と一緒に台所に立っている。急遽三人分の夕食を用意することになった母は、笑顔でアルフェのことを受け入れてくれた。
「不安な時に、傍に居てほしいと思える人がいるのは、心強いものよ」
どちらかと言えば、僕とアルフェは立場が逆なんだけどな。でも、母が納得しているならと頷いておく。
「あともう一品ほしいところね」
「そうですね。僕が作りましょう」
相槌を打ちながら冷蔵魔導器を覗くと、卵とバターが目に入る。スクランブルエッグなら、僕でも失敗せずに作れそうだ。
「ありがとう、リーフ。でも、無理はしないでね」
「大丈夫です。小学校でも料理の基本は習いましたから」
家での手伝いは、周りとの成長を比較しながらかなり慎重に行ってきたが、もうすぐ中学生だ。それを考えれば、グラスの頃に培った独り暮らしの技術や知識を披露したところで、全く問題はないだろう。
「えへへ。リーフの作ったお料理、ワタシ大好き」
台所に立つ僕の姿を、アルフェが嬉しそうに眺めている。
「そんな大したものが作れるわけじゃないけれどね」
そう言いながら、僕はアルフェの好きな卵料理を作っていく。とき卵に塩胡椒を振り、バターをたっぷり溶かしたフライパンでゆっくりと火を通す。グラスだった僕が一人で食べる分には卵の殻が入ろうが、焦げ付こうが気にならなかったが、アルフェと母が食べるのだと思うと、少し緊張した。
――ああ、これが本当の料理か……。
こうして誰かのために料理をすることで、改めて思う。グラスが作っていたのは、『食べられる』ものだ。料理とは、きっと食べる人を想って作って初めて完成するものなのだろうな。そう思うと、改めて母が愛情を込めて作る料理に興味を持った。
両親のために料理をするのも、悪くないな。まともな料理が作れるようになれば、かなり早い段階で恩返しができるかもしれない。
「いただきまーす!」
手を合わせるなり、アルフェが真っ先にフォークを伸ばしたのは、僕が作ったスクランブエッグだった。アルフェの好みに合わせて、ペースト状のトマトソースに砂糖を足したものをかけてあるが、どうだろうか……。
「アルフェ、美味しい?」
「卵がふわふわで、とっても美味しい! ワタシ、これ大好き!」
僕の問いかけに、アルフェが満面の笑みで答える。もう中学生になるというのに、唇の端にトマトソースをつけたままというあたり、よほど食べるのに夢中になっているみたいだ。
「ソースがついてるよ、アルフェ」
手布を取り、隣に座るアルフェの唇の端を拭う。
「ありがとう、リーフ」
アルフェは恥ずかしそうに微笑むと、僕の手ごと手布を下げて、舌先で唇の端を舐めた。
「このソースもとっても美味しいから、拭っちゃうのは勿体ないな」
「アルフェの好きな味になっていたかい?」
「うん、とっても! やっぱり、リーフがワタシのためにアレンジしてくれたんだね」
やっぱり、ということは、どうやらアルフェは僕の工夫に気づいていたようだ。自分から言い出さなくて良かったと思いながら、僕は表情を崩した。
「そんなに喜んでもらえるとは思わなかったな」
「リーフのこと、大好きなんだもん。大好きなリーフが作ったお料理は、ワタシにはご馳走だよ」
アルフェが恥ずかしげもなく自分の想いを伝えてくる。
「アルフェがそうなら、僕もアルフェの作った料理を食べたら、そんな気持ちになれるのかもしれないな」
つられて本音を零してしまったが、アルフェは困ったような顔をして僅かに顔を曇らせた。
「……なれるかなぁ……?」
肯定の言葉が返ってくるとばかり思っていたので、完全に不意を突かれてしまう。
「……どうしたの、アルフェ?」
「ワタシ、ママみたいにお料理上手じゃないから……」
ああ、なんだそういう理由か。理由がわかった途端に安堵の息が漏れた。
「ふふふ、ジュディさんの腕前なんて誰にでも到達出来るレベルじゃないわ」
落ち込んだ様子のアルフェを励ますように、母が明るい声を出す。思っていたことを母が代弁してくれたので、僕も力強く頷いた。
「僕もそう思う。アルフェの料理も、今度食べさせてほしいな」
「……うん」
アルフェの顔に笑顔が戻ってくる。
「じゃあ、中学に入ったら、お弁当……交換したいな」
ああ、確か中学校では食堂かお弁当を選べるんだったな。しかも、アルフェはおかずじゃなくてお弁当を丸ごと交換したいらしい。まあ、中学生らしい発想な気もするし、僕とアルフェの仲なんだからいいんじゃないだろうか。
「じゃあ、アルフェの好きなもの、いっぱい入れないとね」
笑顔で同意すると、アルフェが笑った。相変わらず、アルフェの表情はころころと変わって本当に感情豊かだ。花が咲くような笑顔というのは、こういう笑顔のことなんだろうな。
「リーフが作ってくれるなら、全部すき」
「好き嫌いがないのは、いいことよね。リーフもなんでも食べてくれて偉いわ」
僕たちの会話を微笑ましく聞いていた母が、和やかに呟く。多分アルフェの言っていることは好き嫌いとはちょっと違うんだけどな。でも、そういうことにしておいてもいいか。
「……お弁当に良さそうな料理を、教えてもらえますか、母上?」
「もちろんよ。リーフが料理に興味を持ってくれて嬉しいわ」
母が嬉しそうに頷いてくれる。母と交流できる良い機会をくれたアルフェに、僕は心から感謝した。
アルフェは驚きながらも、僕の提案に笑顔で頷き、今度は嬉しくて泣き出した。
そういう経緯で、今僕は母と一緒に台所に立っている。急遽三人分の夕食を用意することになった母は、笑顔でアルフェのことを受け入れてくれた。
「不安な時に、傍に居てほしいと思える人がいるのは、心強いものよ」
どちらかと言えば、僕とアルフェは立場が逆なんだけどな。でも、母が納得しているならと頷いておく。
「あともう一品ほしいところね」
「そうですね。僕が作りましょう」
相槌を打ちながら冷蔵魔導器を覗くと、卵とバターが目に入る。スクランブルエッグなら、僕でも失敗せずに作れそうだ。
「ありがとう、リーフ。でも、無理はしないでね」
「大丈夫です。小学校でも料理の基本は習いましたから」
家での手伝いは、周りとの成長を比較しながらかなり慎重に行ってきたが、もうすぐ中学生だ。それを考えれば、グラスの頃に培った独り暮らしの技術や知識を披露したところで、全く問題はないだろう。
「えへへ。リーフの作ったお料理、ワタシ大好き」
台所に立つ僕の姿を、アルフェが嬉しそうに眺めている。
「そんな大したものが作れるわけじゃないけれどね」
そう言いながら、僕はアルフェの好きな卵料理を作っていく。とき卵に塩胡椒を振り、バターをたっぷり溶かしたフライパンでゆっくりと火を通す。グラスだった僕が一人で食べる分には卵の殻が入ろうが、焦げ付こうが気にならなかったが、アルフェと母が食べるのだと思うと、少し緊張した。
――ああ、これが本当の料理か……。
こうして誰かのために料理をすることで、改めて思う。グラスが作っていたのは、『食べられる』ものだ。料理とは、きっと食べる人を想って作って初めて完成するものなのだろうな。そう思うと、改めて母が愛情を込めて作る料理に興味を持った。
両親のために料理をするのも、悪くないな。まともな料理が作れるようになれば、かなり早い段階で恩返しができるかもしれない。
「いただきまーす!」
手を合わせるなり、アルフェが真っ先にフォークを伸ばしたのは、僕が作ったスクランブエッグだった。アルフェの好みに合わせて、ペースト状のトマトソースに砂糖を足したものをかけてあるが、どうだろうか……。
「アルフェ、美味しい?」
「卵がふわふわで、とっても美味しい! ワタシ、これ大好き!」
僕の問いかけに、アルフェが満面の笑みで答える。もう中学生になるというのに、唇の端にトマトソースをつけたままというあたり、よほど食べるのに夢中になっているみたいだ。
「ソースがついてるよ、アルフェ」
手布を取り、隣に座るアルフェの唇の端を拭う。
「ありがとう、リーフ」
アルフェは恥ずかしそうに微笑むと、僕の手ごと手布を下げて、舌先で唇の端を舐めた。
「このソースもとっても美味しいから、拭っちゃうのは勿体ないな」
「アルフェの好きな味になっていたかい?」
「うん、とっても! やっぱり、リーフがワタシのためにアレンジしてくれたんだね」
やっぱり、ということは、どうやらアルフェは僕の工夫に気づいていたようだ。自分から言い出さなくて良かったと思いながら、僕は表情を崩した。
「そんなに喜んでもらえるとは思わなかったな」
「リーフのこと、大好きなんだもん。大好きなリーフが作ったお料理は、ワタシにはご馳走だよ」
アルフェが恥ずかしげもなく自分の想いを伝えてくる。
「アルフェがそうなら、僕もアルフェの作った料理を食べたら、そんな気持ちになれるのかもしれないな」
つられて本音を零してしまったが、アルフェは困ったような顔をして僅かに顔を曇らせた。
「……なれるかなぁ……?」
肯定の言葉が返ってくるとばかり思っていたので、完全に不意を突かれてしまう。
「……どうしたの、アルフェ?」
「ワタシ、ママみたいにお料理上手じゃないから……」
ああ、なんだそういう理由か。理由がわかった途端に安堵の息が漏れた。
「ふふふ、ジュディさんの腕前なんて誰にでも到達出来るレベルじゃないわ」
落ち込んだ様子のアルフェを励ますように、母が明るい声を出す。思っていたことを母が代弁してくれたので、僕も力強く頷いた。
「僕もそう思う。アルフェの料理も、今度食べさせてほしいな」
「……うん」
アルフェの顔に笑顔が戻ってくる。
「じゃあ、中学に入ったら、お弁当……交換したいな」
ああ、確か中学校では食堂かお弁当を選べるんだったな。しかも、アルフェはおかずじゃなくてお弁当を丸ごと交換したいらしい。まあ、中学生らしい発想な気もするし、僕とアルフェの仲なんだからいいんじゃないだろうか。
「じゃあ、アルフェの好きなもの、いっぱい入れないとね」
笑顔で同意すると、アルフェが笑った。相変わらず、アルフェの表情はころころと変わって本当に感情豊かだ。花が咲くような笑顔というのは、こういう笑顔のことなんだろうな。
「リーフが作ってくれるなら、全部すき」
「好き嫌いがないのは、いいことよね。リーフもなんでも食べてくれて偉いわ」
僕たちの会話を微笑ましく聞いていた母が、和やかに呟く。多分アルフェの言っていることは好き嫌いとはちょっと違うんだけどな。でも、そういうことにしておいてもいいか。
「……お弁当に良さそうな料理を、教えてもらえますか、母上?」
「もちろんよ。リーフが料理に興味を持ってくれて嬉しいわ」
母が嬉しそうに頷いてくれる。母と交流できる良い機会をくれたアルフェに、僕は心から感謝した。
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