8 / 396
第一章 輪廻のアルケミスト
第8話 乳児の身体
しおりを挟む
そう言えば、僕が『リーフ』として生まれてから、どのくらい経ったのだろう?
何度か眠ったが、まだ時間の感覚はよくわからない。今の状況には慣れてきたように思うが、油断するとすぐに眠気に襲われるので、実はもう何日か経っているのかもしれない。
だが――。
どうやら本当に『転生』しているようだ。
これだけの新奇の感覚に溢れた夢というものを僕は知らないし、僕が眠っている間も両親は甲斐甲斐しく僕の世話をしているようだ。
父親はルドラ。生まれたときの会話を聞く限りでは、どうやら軍人らしい。
母親のナタルは、どういう職業なのかはわからない。なにかと僕に構ってくれるところを見ると、今は僕の世話をするのが仕事のようだ。
「これからずっと大事に育てて行かなければならないね」
「娘とはいえ、一人の命を預かっているんですもの。責任重大よ」
いつの間にか寝入ってしまっていたのか、また時間が飛んでいる。夜になっていたはずの窓の外が明るくなっているのがわかった。
欠伸に任せて身体を伸ばしてみようとするが、手足がちぐはぐに動く。反射といわれる反応なのかもしれないが、それにしても身体が思うように動かせないのにはまだ慣れない。それでも、黒石病で失われたグラスの身体よりは、これから動くであろう希望が感じられるのが救いだ。
「リーフ、おはよう。今朝は早起きなのね」
どこからか母の声が聞こえて来た。耳はまあまあ聞こえるが目はまだあまり見えない。良い匂いがするところを見ると、キッチンにいるのだろうと思った。
それにしても、寝るか食べるかしかすることがないのは、さすがに暇だ。せめてこの世界がどういう場所でどういう時代なのかわかれば助かるのだが……。
木で組まれたらしい家の天井を見上げる。丈夫そうな太い木は、恐らく梁だろう。この家は平屋なのだろうか、一階建てなのだろうか。自分の家だというのに、家のことさえわからない。
寝返りどころか、自力で首を動かすのも難しい。頭が重すぎるのか、首が弱すぎるのかわからないが、誰かに抱き上げられていなければ、外界の刺激もかなり限られる。
「あー、あーう」
溜息を吐いたつもりが、赤ん坊のあの舌っ足らずな音が口から漏れた。
「おやおや。退屈させてしまったかな、リーフ」
父が気づいて近づいてくる。逞しい腕に抱き上げられると、視界が高くなり、部屋の様子がぼんやりと見えるようになった。部屋が明るいせいか、目が少し発達してきたせいか、あるいはその両方か。
「あっう」
せっかくなので、父に移動を促してみる。こんな赤ん坊の話を聞いてくれるとは思わなかったが、物は試しだ。
「おお、あっちに行きたいのか、リーフ?」
どうして通じるのかわからないが、父は僕を抱いたまま窓の方へと移動しはじめた。柵つきのベッドから離れたのは、沐浴の時以外では初めてだろう。明るい時間に部屋を見渡せるというこの状況は、僕にとってかなり新鮮だった。
「あう、あっ」
窓の外を大きな人型の影のようなものが過っていく。大きさからして、人間ではなさそうだったが、街中に機兵のような戦闘用のロボットがいるとは思えなかった。
「大変、ゴミの日だったわ。ルドラ、お願い」
「ああ、急がないと」
母が何かに気づいたように声を上げ、反応した父が僕をベッドに戻す。
「今、従機が通っていったと思ったんだよ」
従機……?
あの機兵のようなものは従機だったらしい。グラス=ディメリアが生きた時代――特に人魔大戦の時代では、機兵とともに魔族と戦う巨大な人型の兵機だったが、両親の会話から推測するに、この時代の従機はどうやらゴミを回収する役割を担うもののようだ。
何度か眠ったが、まだ時間の感覚はよくわからない。今の状況には慣れてきたように思うが、油断するとすぐに眠気に襲われるので、実はもう何日か経っているのかもしれない。
だが――。
どうやら本当に『転生』しているようだ。
これだけの新奇の感覚に溢れた夢というものを僕は知らないし、僕が眠っている間も両親は甲斐甲斐しく僕の世話をしているようだ。
父親はルドラ。生まれたときの会話を聞く限りでは、どうやら軍人らしい。
母親のナタルは、どういう職業なのかはわからない。なにかと僕に構ってくれるところを見ると、今は僕の世話をするのが仕事のようだ。
「これからずっと大事に育てて行かなければならないね」
「娘とはいえ、一人の命を預かっているんですもの。責任重大よ」
いつの間にか寝入ってしまっていたのか、また時間が飛んでいる。夜になっていたはずの窓の外が明るくなっているのがわかった。
欠伸に任せて身体を伸ばしてみようとするが、手足がちぐはぐに動く。反射といわれる反応なのかもしれないが、それにしても身体が思うように動かせないのにはまだ慣れない。それでも、黒石病で失われたグラスの身体よりは、これから動くであろう希望が感じられるのが救いだ。
「リーフ、おはよう。今朝は早起きなのね」
どこからか母の声が聞こえて来た。耳はまあまあ聞こえるが目はまだあまり見えない。良い匂いがするところを見ると、キッチンにいるのだろうと思った。
それにしても、寝るか食べるかしかすることがないのは、さすがに暇だ。せめてこの世界がどういう場所でどういう時代なのかわかれば助かるのだが……。
木で組まれたらしい家の天井を見上げる。丈夫そうな太い木は、恐らく梁だろう。この家は平屋なのだろうか、一階建てなのだろうか。自分の家だというのに、家のことさえわからない。
寝返りどころか、自力で首を動かすのも難しい。頭が重すぎるのか、首が弱すぎるのかわからないが、誰かに抱き上げられていなければ、外界の刺激もかなり限られる。
「あー、あーう」
溜息を吐いたつもりが、赤ん坊のあの舌っ足らずな音が口から漏れた。
「おやおや。退屈させてしまったかな、リーフ」
父が気づいて近づいてくる。逞しい腕に抱き上げられると、視界が高くなり、部屋の様子がぼんやりと見えるようになった。部屋が明るいせいか、目が少し発達してきたせいか、あるいはその両方か。
「あっう」
せっかくなので、父に移動を促してみる。こんな赤ん坊の話を聞いてくれるとは思わなかったが、物は試しだ。
「おお、あっちに行きたいのか、リーフ?」
どうして通じるのかわからないが、父は僕を抱いたまま窓の方へと移動しはじめた。柵つきのベッドから離れたのは、沐浴の時以外では初めてだろう。明るい時間に部屋を見渡せるというこの状況は、僕にとってかなり新鮮だった。
「あう、あっ」
窓の外を大きな人型の影のようなものが過っていく。大きさからして、人間ではなさそうだったが、街中に機兵のような戦闘用のロボットがいるとは思えなかった。
「大変、ゴミの日だったわ。ルドラ、お願い」
「ああ、急がないと」
母が何かに気づいたように声を上げ、反応した父が僕をベッドに戻す。
「今、従機が通っていったと思ったんだよ」
従機……?
あの機兵のようなものは従機だったらしい。グラス=ディメリアが生きた時代――特に人魔大戦の時代では、機兵とともに魔族と戦う巨大な人型の兵機だったが、両親の会話から推測するに、この時代の従機はどうやらゴミを回収する役割を担うもののようだ。
1
お気に入りに追加
798
あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。

お菓子の国の勇者たち
ことのは工房
ファンタジー
お菓子の国の勇者たち 魔法の世界には、すべてが甘いお菓子でできている国があった。しかし、ある日お菓子たちが魔法によって動き始め、国中を混乱させる。主人公はお菓子の王国の伝説の勇者として、動き回るお菓子たちを元に戻すため、甘くて楽しい冒険を繰り広げる。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…
雪見だいふく
ファンタジー
私は大学からの帰り道に突然意識を失ってしまったらしい。
目覚めると
「異世界に行って楽しんできて!」と言われ訳も分からないまま強制的に転生させられる。
ちょっと待って下さい。私重度の人見知りですよ?あだ名失神姫だったんですよ??そんな奴には無理です!!
しかし神様は人でなし…もう戻れないそうです…私これからどうなるんでしょう?
頑張って生きていこうと思ったのに…色んなことに巻き込まれるんですが…新手の呪いかなにかですか?
これは3歩進んで4歩下がりたい主人公が騒動に巻き込まれ、時には自ら首を突っ込んでいく3歩進んで2歩下がる物語。
♪♪
注意!最初は主人公に対して憤りを感じられるかもしれませんが、主人公がそうなってしまっている理由も、投稿で明らかになっていきますので、是非ご覧下さいませ。
♪♪
小説初投稿です。
この小説を見つけて下さり、本当にありがとうございます。
至らないところだらけですが、楽しんで頂けると嬉しいです。
完結目指して頑張って参ります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる