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第4話 身代わりの代価

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「んっ……」

 フレアが目を開けると、見覚えのない天井が広がっていた。

 石なのか金属なのか、あるいはもっと別のなにかなのか。何でできているのかもわからない真っ白な天井と、同じ材質でできた壁と床。

 窓ひとつなく、息苦しさすら感じる部屋の中には、フレアが寝かされていたベッド以外に調度品らしいものもなにもない。清潔感こそあるものの、それはよく手入れされた清潔感というよりも、生き物の存在を感じられない無機質さだった。

「こ、こは……? なんだか牢屋みたいな……」

 意識の覚醒にあわせて、意識を失う前の記憶が蘇っていく。

「そうだ。私……ネビュラに捕まって――」
「ふふっ。どうやら目が覚めたみたいだねぇ。リリィフレア」
「その声……ネビュラ!」

 声のした方向へとフレアが振り返ると、あったのはスピーカーだった。

「まりな……マリンは無事なんでしょうね」

 フレアの問いかけに、回答はすぐにはなかった。
 スピーカーの奥で何かを囁き合うような声が聞こえてから、ネビュラの声が返ってくる。

「えぇ。もちろん無事よ。今はまだ、ね」
「マリンに手を出したら許さないんだから!」
「ふふっ。それも全部、あなた次第よ。リリィフレア」

 返されたその言葉に、フレアは眉をひそめる。

「どういう意味?」
「あなたが素直でいるうちは、マリンに手を出さないことを誓ってあげる。偉大なる淫堕神ネビリム様に誓って、ね」
「くっ……」
「これからあなたのところに行くけど、変な気を起こさないことね。私を傷つければ、マリンがどうなるか――」
「わかってるわよっ……!」

 フレアが返すと、その直後、部屋の扉が開いてネビュラが入ってくる。
 一瞬、開いた扉に飛び込むべきだとフレアの魔法少女としての経験が訴えてくる。

 だがそれはできない。そうすれば、代わりに責め苦を受けるのはマリンになるのだから。身代わりになる覚悟なら既に出来ているのだ。

 そう逡巡する間に、開いた扉は再び閉まっていた。

(大丈夫……何をされたって、絶対に負けたりしない……)

 不屈の意志を自分に言い聞かせるように頷いて、フレアは近づいてきたネビュラを見上げる。

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「おはよう、フレアちゃん。邪魔をされていたときにはただのムカつく小娘だったけど、こうして改めて見てみるととっても美味しそうね……」
「なっ、なによ、気持ち悪いっ」
「可愛らしい顔立ちにもちもちのお肌、生意気そうなその瞳もとっても魅力的……おっぱいは物足りないけれど」

 上から下へ、そして今度は下から上へ。
 蛇の舌に舐められるようなネビュラの視線に、フレアの背筋を怖気が走った。

「う、うるさいっ! 余計なお世話よ!」
「あら。大事なコトよ? これからあなたはあたしのオモチャになるんだもの」
「っ……私に、エッチなことするつもりなんでしょ」

 相手は仮にも世界を淫欲によって堕落させようとする淫堕神の使徒を名乗る存在だ。

 そんな相手に捕らえられて、自分がどんなことをされるのか想像できないほどフレアは馬鹿ではない。すべて理解している。だからこそ、フレアはマリンの身代わりになったのだ。親友であり、相棒であり、魔法少女としての後輩でもある彼女をそんな目に遭わせることは、フレアにはできない。

「エッチなこと、ね。えぇ、そのとおりよ。エッチなこと、だなんて、中学生の女の子が口にする程度の言葉じゃ想像もできないくらい、とびっきりいやらしくってキモチのイイこと、たっぷり教えてあげるわ」
「くっ……」
「手始めに、そうねぇ。ネビュラ様、私リリィフレアをいやらしく調教してください、とでもおねだりしてもらおうかしらぁ?」

 嗜虐的な笑みを浮かべるネビュラに、フレアは奥歯を噛み締めて屈辱に耐える。

 もちろんそんな言葉、普段ならば口が裂けても言いたくなどない台詞だ。しかしマリンを人質に取られている今、フレアに選択肢はなかった。

 手の平に爪が食い込むほど両の拳を握り締めながら、フレアは口を開く。

「ネビュラ、様……わ、わたし……リリィフレアを……いやらしく、調教して、ください……これで満足?」
「感情が籠もってないのは残念だけど、今はそれで許してあげる。調教が終わる頃には、あなたもエッチなことがだぁい好きな、エッチな女の子になっているわ」
「誰がそんなことっ……!」
「ふふっ。強がっちゃって。でも、そんなトコロも可愛いわよ」

 ネビュラはフレアの耳元に口を寄せ、囁きかける。
 ネビュラの吐息がかかり、ゾクッとした悪寒がフレアの背筋を走る。
 ネビュラは舌なめずりをすると、そのまま唇で首筋をなぞるようにキスをした。

「ひゃっ!?」

 思わず声を上げるフレア。

 ネビュラはそんな反応を楽しむかのように、今度はフレアの胸を揉みしだいた。
 服越しとはいえ、他人に触られたことのない場所への刺激に、嫌悪感と恥ずかしさがこみ上げてくる。
 フレアは唇を強く噛み締めて、なんとかその不快感に耐えていた。

「じゃあ早速はじめるとしましょうか」
「はじめる……ってなにをするつもりよ?」
「そんなの、あなた自身の口で言ったばかりじゃない。あなたの身体を、いやらしく調教してあげるのよ。淫堕神ネビリム様の使徒に相応しい、快楽狂いにね。抵抗したいならしてもイイけど、その場合は――」
「マリンにするって言うんでしょ? わかってるわよ。抵抗なんてしない……好きにしなさい。だからっ……」
「えぇ。わかってるわ。あなたが素直に調教を受けているうちは、マリンには手を出さないであげる。美しい友情ねぇ」

 白々しく笑うネビュラに、フレアはギリギリと奥歯を噛み締める。

「そうだ。イイコト思いついたわぁ」
「っ……どうせ、ロクなことじゃないんでしょう?」
「あら? あたしの愛撫じゃあお気に召さなかったみたいだから、自分で触らせてあげようと思っただけよ。オナニー、してみせなさい?」
「オナっ……!」
「なぁに? その歳でオナニーを知らないわけじゃあないでしょう? 呼び方は何でもいいわよ。なにが良いかしら。自慰? マスターベーション? 自涜? マスかき? それともマンズリ?」

 ネビュラはわざとらしく指折り数えながら、下卑た笑みを浮かべてみせる。
 フレアは顔を真っ赤にして俯いた。

 経験がないと言えば嘘になる。だが、それを人前で晒け出すというのは、年頃の少女にとって耐え難い羞恥だった。

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