妄想の中のテロリストはいつも学校を襲っている

エルトリア

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最終章 ”ヒーロー”

第43話

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「ヨウくん!」

 男との一騎打ちを制した陽太だが、最後の衝突をしたあと、陽太もその場に倒れ込んでしまった。

 自分の服を着ることすらせず、奏音は陽太の元に近づく。
 すると、はだしになった足が、生暖かい何かを感じた――血だ。

 よく見ると、陽太の腹部に、男が持っていた包丁が突き刺さっている。
 かなり深く、柄から先は見えないほど。

「みんな、無事か⁉」

 ようやく援軍の久保井が、次いで教師陣がさすまたをもって現れた。

「きゅ、救急車! 早く!」
「ヨウくん……ヨウくん!」

 何度も、奏音は陽太の名前を呼び掛ける。
 何度も、何度も――。


          ◇◇◇


『お前は、わたしには勝てない』

 グランゼノスは、その機能を停止しようとしていた。

 SHOWとの決戦が終了し、決着の時……かと思っていたのだが、彼は操られていただけ。
 実際の黒幕は、別にいたのだ。

 その黒幕の名は、破壊神マリシャス。
 人々の悪意が固まってできた、負の感情の集合体。

 いくら科学の英知を集合させた機体・グランゼノスでも、そんな実態を持たない敵を相手にすることができずにいた。

 相手に攻撃は通らないのに、自分だけ一方的にダメージを受ける。
 そんな一方的な攻撃が続き、グランゼノスは遂に片膝をついてしまう。

 ゼノスの視界も、エネルギー切れを知らせるアラームと、負傷を知らせるアラームなどなどが入り混じり、血のような警戒色で溢れていた。

 ――もう……ダメなのかもしれない。

 ゼノスが諦めたその時、どこからか声が聞こえた。

「頑張れ!」

 まず聞こえてきたのは、ラクスの声。

「アタシに勝ったんだ、負けるなんて許さないよ!」

 次に聞こえてきたのは、魔百合の声。

「お前が最後の希望だ、ゼノス!」

 その次に聞こえてきたのは、SHOWの声。

 そして、次々に関わってきた人たちの声がゼノスの耳に届く。
 そして最後に――。

「ゼノス……頑張って!」

 奏音の声が、耳に届いた。
 みんなの期待が、想いが、ゼノスに――グランゼノスに集約されていく。

『なっ……もう限界のはずじゃ⁉』
「お前にはわからないだろうな……一つ、教えてやるよ」

 目の前の現象が信じられないと言わんばかりの破壊神マリシャスにそう言い放つと、グランゼノスは、抜刀の構えを取った。

「人間はな! 勇気と! 絆と! 諦めない心があれば、何度だって立ち上がることができるんだよ!」

 グランストーンの共鳴によって発生するグランシウムによって使用できる技、カイザーエンドスラッシュ。

 しかし今、グランゼノスの中にグランストーンはない。
 あるのは、人の意志だけ。
 その意思を、善意という無限のエネルギーにして、ゼノスは、その技を放った。

「カイザーエンド……スラッシュ――!」

 剣先から放たれた衝撃は、真っすぐ破壊神マリシャスを攻撃する。
 彼の持つ悪意で打ち消そうと、黒いエネルギー波を繰り出してきた。
 黒と白の明滅――しかし、徐々に善意の光が悪意の闇を押し返す。

「いっ――けぇぇええ!」



 一気に、善意の光が、破壊神マリシャスを飲み込んだ。

 その悪意に満ちた体を真っ二つに切り裂くと、放たれた光は留まるところを知らず、空中に飛んで行く。

 空の彼方まで飛んで行った善意は、空中ではじけて、世界中へ飛んで行った。

 悪意の闇は消え、善意の光が世界中へ飛んで行く――この光が、世界の悪意を洗い流して、もう二度とテロリストなんて存在を生み出さないようにしてくれるだろう。

 そんな光を眺めてると、徐々にその光は大きくなって――。


          ◇◇◇


「ここは……」

 ゼノスの物語の最後を見届けた陽太は、純白の世界にいた。

 水平線の向こうまで、見渡す限りが白。
 善意の光が広がって言ったイメージなのか、と思っていると「よう」と誰かに話しかけられた。

 振り返ると、そこにいたのは……ゼノスだった。

「……ハッピーエンド、おめでとう」
「そっちだって。カッコよかったぜ?」
「僕なんて、君の足元にも及ばないよ」
「そんなことはない。君だって、学校って言う世界を救ったんだ。その上、大好きな人だって……君はもうヒーローじゃないかな?」
「ヒーロー、か」
「そう。だから、もう妄想ここは必要ないだろう?」
「そうだね。ありがとう、ゼノス――」

 心がどん底にいるときも、大変な時も助けてくれた、もう一人の自分。

 でも、もう彼に頼る必要はない。

 僕は、ヒーローなんだから。

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