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最終章 ”ヒーロー”
第41話
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「……まあ、流石にまだニュースになってないか」
紡織の限りを尽くしたかと思えば、ニュースを確認し出し、その次には落胆して……まるで何かを待っているようで、なぜ、と疑問に思っていると、男は「いつごろニュースになるだろうなぁ」と立ち上がった。
ニュースになることを、報道されることを望んでいる……いったいなぜ、と考えを張り巡らせていると、「キミ、なにしてるの?」というこれまでとは違う冷たい声に体を震わせた。
何もしてないです、と反論しようとして顔を上げると、まゆりが「は?」と男を睨みつけていた。
手には、スマホが握られている。
「キミ、まさか、警察を、呼ぼうとしたのかな?」
「……違う。別に、手持無沙汰だっただけ」
「怪しい、な」
琴線に触れたかもしれない。
もしこれで攻撃してくるようなあ事があれば、まゆりを守らないと――なにか使えるようなものがないかと部室をチロリと見渡したその瞬間「ま、いいや。暇つぶしをしよう」と男が言って遮られた。
「……暇つぶし?」
何を、と口からあふれ出そうになった疑問は、男が続けた言葉によって遮られた。
「キミ、服脱いで」
「はぁ⁉ 服⁉」
「そうそう。ホラ、夏の、部室で、裸で、男女でなんて、いいシチュエーションじゃないか。ヤろうよ、わたしと」
「そんなことするわけ――」
まゆりが、更に抵抗しようとする。
これ以上抵抗すれば、もういよいよ犯人がキレてしまうかもしれない。
そうすれば、真っ先にあの包丁で襲われる。
武器を持たない自分たちは成す術がない。
しかし、まゆりは……自分のことを想ってくれていた。
同時に、男のことなんか嫌い、と普段から愚痴を零しており、性格から考えても大人しく従うとは思えない。
裸を晒すくらいなら、刺される方を選ぶような友人だ。
――……ダメ!
この状況で、丸く収めるのは、この方法しかない。
「……私じゃ、ダメですか?」
自分が、まゆりの身代わりになること。
こうすれば、意識を自分に向けることができるし。
まゆりの思いも守ることができる。
「奏音⁉ それは――」と困惑するまゆりを遮って、奏音は「いいの! まゆりは黙ってて!」と、首元のスカーフに手をかけた。
「ほ、ほ……いいね、積極的、なのも、嫌いじゃない、よ」
舐め回すような視線が気持ち悪い。
ただ、命が助かるのなら……まゆりが無事にいられるのなら、それで充分。
陽太なら、こうして自分を犠牲にしただろう。
そう、だから、大丈夫――。
自分に言い聞かせながら、奏音は服を脱ぎ始めた。
上から順番に、脱いでいく。
なんで、想ってもいない人に――でも、命のためには――葛藤をしながら、奏音はスカートも脱ぎ捨てて、下着だけの姿となった。
「いいね、いいね、さ、早く、それも、取って」
なんで――涙が滲む中、奏音は下着に手をかけた。
ホックを外し、二つの乳房が顕わになる。
ついで、パンツも脱ぎ捨てた。
「……綺麗だ。凄く、綺麗だね、キミ」
目から、涙があふれてきた。
どうしてこんなことに――感情が制御できず、もう無理、とその場に膝から崩れ落ちた奏音。
男は容赦なく、ずんずんと近づいてくる。
このまま、犯されてしまうのだろうか――奏音は、神様と運命を呪った。
いったいなぜ、こんなことを……。
男の手が、近づいてくる。
肩に触れようか、という瞬間。
「やめろぉぉぉおお!」
ガラリ、と扉が開かれた。
廊下から差し込む光と共に、影が飛んでくる。
その影は鋭い速さで直進し、男の腕に当たった。
それが蹴りだ、と認識した時、カラン、という音が鳴り、ナイフが地面に落ちたことをようやく知り、奏音は顔を上げた。
――目の前にいたのは、陽太だった。
「ヨウくん……!」
「ゴメン、遅くなった」
光の中からやってきてくれたヒーローに、とうとう奏音はこらえきれず、涙をこぼしてしまった。
紡織の限りを尽くしたかと思えば、ニュースを確認し出し、その次には落胆して……まるで何かを待っているようで、なぜ、と疑問に思っていると、男は「いつごろニュースになるだろうなぁ」と立ち上がった。
ニュースになることを、報道されることを望んでいる……いったいなぜ、と考えを張り巡らせていると、「キミ、なにしてるの?」というこれまでとは違う冷たい声に体を震わせた。
何もしてないです、と反論しようとして顔を上げると、まゆりが「は?」と男を睨みつけていた。
手には、スマホが握られている。
「キミ、まさか、警察を、呼ぼうとしたのかな?」
「……違う。別に、手持無沙汰だっただけ」
「怪しい、な」
琴線に触れたかもしれない。
もしこれで攻撃してくるようなあ事があれば、まゆりを守らないと――なにか使えるようなものがないかと部室をチロリと見渡したその瞬間「ま、いいや。暇つぶしをしよう」と男が言って遮られた。
「……暇つぶし?」
何を、と口からあふれ出そうになった疑問は、男が続けた言葉によって遮られた。
「キミ、服脱いで」
「はぁ⁉ 服⁉」
「そうそう。ホラ、夏の、部室で、裸で、男女でなんて、いいシチュエーションじゃないか。ヤろうよ、わたしと」
「そんなことするわけ――」
まゆりが、更に抵抗しようとする。
これ以上抵抗すれば、もういよいよ犯人がキレてしまうかもしれない。
そうすれば、真っ先にあの包丁で襲われる。
武器を持たない自分たちは成す術がない。
しかし、まゆりは……自分のことを想ってくれていた。
同時に、男のことなんか嫌い、と普段から愚痴を零しており、性格から考えても大人しく従うとは思えない。
裸を晒すくらいなら、刺される方を選ぶような友人だ。
――……ダメ!
この状況で、丸く収めるのは、この方法しかない。
「……私じゃ、ダメですか?」
自分が、まゆりの身代わりになること。
こうすれば、意識を自分に向けることができるし。
まゆりの思いも守ることができる。
「奏音⁉ それは――」と困惑するまゆりを遮って、奏音は「いいの! まゆりは黙ってて!」と、首元のスカーフに手をかけた。
「ほ、ほ……いいね、積極的、なのも、嫌いじゃない、よ」
舐め回すような視線が気持ち悪い。
ただ、命が助かるのなら……まゆりが無事にいられるのなら、それで充分。
陽太なら、こうして自分を犠牲にしただろう。
そう、だから、大丈夫――。
自分に言い聞かせながら、奏音は服を脱ぎ始めた。
上から順番に、脱いでいく。
なんで、想ってもいない人に――でも、命のためには――葛藤をしながら、奏音はスカートも脱ぎ捨てて、下着だけの姿となった。
「いいね、いいね、さ、早く、それも、取って」
なんで――涙が滲む中、奏音は下着に手をかけた。
ホックを外し、二つの乳房が顕わになる。
ついで、パンツも脱ぎ捨てた。
「……綺麗だ。凄く、綺麗だね、キミ」
目から、涙があふれてきた。
どうしてこんなことに――感情が制御できず、もう無理、とその場に膝から崩れ落ちた奏音。
男は容赦なく、ずんずんと近づいてくる。
このまま、犯されてしまうのだろうか――奏音は、神様と運命を呪った。
いったいなぜ、こんなことを……。
男の手が、近づいてくる。
肩に触れようか、という瞬間。
「やめろぉぉぉおお!」
ガラリ、と扉が開かれた。
廊下から差し込む光と共に、影が飛んでくる。
その影は鋭い速さで直進し、男の腕に当たった。
それが蹴りだ、と認識した時、カラン、という音が鳴り、ナイフが地面に落ちたことをようやく知り、奏音は顔を上げた。
――目の前にいたのは、陽太だった。
「ヨウくん……!」
「ゴメン、遅くなった」
光の中からやってきてくれたヒーローに、とうとう奏音はこらえきれず、涙をこぼしてしまった。
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