妄想の中のテロリストはいつも学校を襲っている

エルトリア

文字の大きさ
上 下
39 / 44
最終章 ”ヒーロー”

第39話

しおりを挟む
「あー、懐かしいな。ここだっけ、俺たちが会ったの」

 サッカー部元主将・久保井くぼいがプールを指差しながら笑顔を振りまいてきた。

「そうですよ。ホラ、プール掃除のときに……」

 高牧たかまきは、ほんの数週間前の出来事を思い返して笑みを久保井へ投げ返す。

 あの時、瀬野陽太のセッティングしてくれたプール掃除合コンによって、念願の彼氏をゲットすることができた。
 プロポーションには自信があったが、出会う場所がないと諦めかけていた、いわゆる上玉。
 普通に過ごしていてはなかなかしゃべることすらできなかった格上と、接点を作ってくれた陽太には感謝していた。
 そのお礼として文化祭の準備を手伝った。その接点から、昼ご飯を一緒に食べることになったため、その道中のことだった。

「あぁ、そうだそうだ。なんか昔のことに感じるなぁ」
「ホントに、そうですねー……あれ?」

 プールの側から見える目的地、空想研究会の部室。
 カーテンが開かれており、外から中の様子が丸見えだ。

 部室の中では、三つの影。
 まゆりともう一人、奏音の後姿は同じ制服だからすぐにわかった。

 首を傾げる要因となったのは、三つ目の影。
 二人の奥に、何か〝黒い影〟が見える。
 全身が黒く、校内ではまず見かけない色合い――不思議を感じた高牧は「先輩、コッチ」と久保井を引っ張って物陰に隠れた。

「先輩……アレ……?」

 小声で高牧は部室を指差す。

「ん? 何だあれ。コスプレか?」
「いえ、違います。私、あの空想研究会の準備手伝ったんですけど……あんな衣装無かったんですよ」
「ふーん……じゃあドッキリみたいな?」
「昼休みに、わざわざこんな場所で? ……おかしくないですか?」
「……確かに」

 訝しんだ視線を向けていると、高牧はふと、ある記事を思い出した。

 それは、空想研究会の動画などを公開していた文化祭掲示板で常にトップにあった記事。
 〝記事の訂正〟というタイトルで、文化祭用の記事内で、誤って〝誰でも来場可能〟という旨の記事が出てしまったため、学外の人間が来場する可能性があるというものだった。
 もし部外者らしい人を見かけたら、事情を説明して帰ってもらうようアナウンスもあり、印象に残っている。

 もしかして、その部外者が――高牧の予感は、黒のレインコートの男が包丁を出したことで確信に変わった。

「お、おい……!」
「先輩……ど、どうしよう」
「取りあえず……本校舎に戻って先生に連絡しよう」
「う、うん!」

 二人は踵を返し、本校舎にある職員室へ向かった。
しおりを挟む
導線バナー

感想 20

あなたにおすすめの小説

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

瞬間、青く燃ゆ

葛城騰成
ライト文芸
 ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。  時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。    どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?  狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。 春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。  やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。 第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作

俺たちの共同学園生活

雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。 2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。 しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。 そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。 蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

無敵のイエスマン

春海
青春
主人公の赤崎智也は、イエスマンを貫いて人間関係を完璧に築き上げ、他生徒の誰からも敵視されることなく高校生活を送っていた。敵がいない、敵無し、つまり無敵のイエスマンだ。赤崎は小学生の頃に、いじめられていた初恋の女の子をかばったことで、代わりに自分がいじめられ、二度とあんな目に遭いたくないと思い、無敵のイエスマンという人格を作り上げた。しかし、赤崎は自分がかばった女の子と再会し、彼女は赤崎の人格を変えようとする。そして、赤崎と彼女の勝負が始まる。赤崎が無敵のイエスマンを続けられるか、彼女が無敵のイエスマンである赤崎を変えられるか。これは、無敵のイエスマンの悲哀と恋と救いの物語。

息絶える瞬間の詩のように

有沢真尋
青春
 海辺の田舎町で、若手アーティストを招聘した芸術祭が開催されることに。  ある絵を見て以来、うまく「自分の絵」がかけなくなっていた女子高生・香雅里(かがり)は、招聘アーティストの名前に「あの絵のひと」を見つけ、どうしても会いたいと思い詰める。  だけど、現れた日本画家・有島はとてつもなくガラの悪い青年で…… ※喫煙描写があります。苦手な方はご注意ください。 表紙イラスト:あっきコタロウさま (https://note.com/and_dance_waltz/m/mb4b5e1433059)

処理中です...