妄想の中のテロリストはいつも学校を襲っている

エルトリア

文字の大きさ
上 下
34 / 44
第三章 It's "SHOW" time

第34話

しおりを挟む
「〝こうして、ゼノスとブリングの戦いは一度、幕を下ろすこととなる〟……と」

 物語を書き終えた陽太は、ふぅと息を吐いてから時計を見た。
 すっかり時間は夜の十二時。
 空腹にも襲われず、排泄衝動にも駆られなかったことを自分自身驚きながら「これ、役立つのかな?」と呟いた。

 これまでは要所要所で役立ちそうなシーンがあった。
 しかし今回は、最終決戦と言うこともあって戦闘ばかり。
 翔を倒してハッピーエンドを迎えるだけのはずだ。
 しかし、現実でこんな戦いなんてしたら間違いなく警察行きとなる。

 ましてや相手は、これまで生徒会会長として、生徒の代表として振舞っている翔だ。
 言葉のケンカならともかく、取っ組み合いのケンカなんて、まずあり得ないだろう。
 さらに、このエンディングで本当にいいのか、という疑問も出てくる。

 ただ打ちのめして、倒して……それじゃ、本当にただの悪役だ。
 侵略して、敵を殺して、世界を征服する、なんてありきたりな敵ならそれでも問題ないだろうが、彼らは彼らなりの正義がある。
 それなのに、こんな一方的に意見を押し通すだけなんて――とまで考えたところで、今度は一つの違和感に気づいた。

 どうして、何にも見ずに戦闘シーンが書けたのだろうか。
 特に格闘技の経験も武道の経験もない。
 それこそアニメや漫画の戦闘シーンは見たことはあるが、こうして文字にするなんて経験があったわけでもない。
 そんな、お手本のないという状況にもかかわらず、どうして――いくら考えても答えに辿り着くことはできず、自分の心の内から生まれた好奇心に蓋をしてから、陽太はスマホを開いた。

 ぼうっと光る画面に目が慣れると、まゆりからメッセージが来ていることに気づく。
 つい数分前のメッセージだ。

「こんな時間に……?」

 疑問に思いながらそれを開くと、ウェブサイトに飛ばされた。

「これ……」

 開かれたのは、成望学園のホームページ。
 生徒会だより、というタイトルで、学校の行事のことなどが載っている。
 最新の記事では、文化祭のことが掲載されていた。

 投票制で順位をつけること、それに伴うそれぞれの部活の取り組み、意気込み等が書き込まれている。
 その中に一つ、気になることが書き込まれていた。

「この〝誰でも来場可能です〟って……」

 過去、それこそ数十年前までは放課後に校門が開いており、いつでも自由に外部の人間が容易に入り込むことができた。
 これは子供の遊び場や集う場所を確保するという名目だったのだが、それを逆手に取った人間が凶器を持って入り込んでしまい、殺傷事件を起こすという事態が重なってしまったため、現在では学校関係者しか入れないような取り決めとなっている。

 文化祭や体育祭などの祭日も例外ではなく、今回の文化祭も基本的には学校関係者のみ、学校見学を希望していた。
 今年は入学希望者も入場可能と言っていたので緩和されるものだと思っていたが、ここまで広くして大丈夫なのか――思考を巡らせていると、スマホが通話画面に切り替わった。

「ん? 園崎?」

 電話の主は、まゆり。
 なぜこのタイミングで、と思いつつ電話を受け取った。

「もしもし? どうした?」
『あ、ごめん。こんな時間に』
「大丈夫だよ。さっき送ってくれたURLのこと?」
『うん。この記事、会長くんが作ってるらしいんだけど……』
「あ、そうなんだ。今回って入学検討してる人だけじゃなくて、一般の人も入れるんだね」
『そこなんだけどさ、奏音、それ聞いてなかったらしいんだ』
「え?」

 生徒会副会長にも知らされない、ということは翔の独断なのか。
 そこまで会長と言う立場は権限があるものなのかと訝しんでいると『これ、チャンスじゃない?』と別方向の指摘が入り、陽太は背筋を伸ばす。

「チャンス?」
『そっ。ホラ、想像だとさ、学校関係者と入学を検討してる人だったからなかなか宣伝とかは難しいかなと思ってたけど、一般人なら興味さえあれば遠くからでも来てくれるじゃん?』
「宣伝?」
『そうそう。ほら、予算が余ればビラとか配りたいけど、SNSとかなら無料で出来るし、少しでも最初から好印象を持ってる人だったら票入れてくれる確率も高いでしょ?』
「でも、宣伝とかどんなのやればいいんだ?」
『そりゃ、簡単な実験の動画とか、文化祭当日にはちょっとできなさそうな細かい実験とか。やりようはいくらでもあるって。それくらい試せるほどシェンフゥさんから聞いたでしょ?』

 そう言われて、改めて陽太は原稿用紙の裏側を見た。
 まゆりの言うように、数は膨大にある。

「確かに」
『でしょ? じゃ、明日の終業式の後に部室でアカウント作るってことで』
「了解!」

 通話を切ると、陽太は別途に再び顔を埋めた。
 奏音はどちらかと言えば機械に弱い方だし、自分は記事を見ても思いもつかなかった選択肢だ。
 三人寄れば文殊の知恵とは正にその通りで、人数が増えてくれば増えるほど対応策が出てくる――そのことを実感しつつ、陽太は明日の修了式に備えて眠りについた。

しおりを挟む
導線バナー

感想 20

あなたにおすすめの小説

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

瞬間、青く燃ゆ

葛城騰成
ライト文芸
 ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。  時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。    どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?  狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。 春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。  やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。 第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

俺たちの共同学園生活

雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。 2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。 しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。 そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。 蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

息絶える瞬間の詩のように

有沢真尋
青春
 海辺の田舎町で、若手アーティストを招聘した芸術祭が開催されることに。  ある絵を見て以来、うまく「自分の絵」がかけなくなっていた女子高生・香雅里(かがり)は、招聘アーティストの名前に「あの絵のひと」を見つけ、どうしても会いたいと思い詰める。  だけど、現れた日本画家・有島はとてつもなくガラの悪い青年で…… ※喫煙描写があります。苦手な方はご注意ください。 表紙イラスト:あっきコタロウさま (https://note.com/and_dance_waltz/m/mb4b5e1433059)

処理中です...