妄想の中のテロリストはいつも学校を襲っている

エルトリア

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第三章 It's "SHOW" time

第33話

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 ムラマサブレードと、SHOWの拳が激突する。

 もし仮にSHOWの体が生身ならばすり抜けてしまってダメージを与えられないはずだが、こうして鍔迫り合いができているということは、SHOWもブライトを使用した戦闘形態に入っているということになる。
 その時にようやく友人が敵であると認識できた陽太は「ごめん」と奏音を左肩に抱えると、五歩後退した。

 流石に、近すぎる。
 そう思っての判断だった。
 しかし、それを読んでいたかのようにSHOWは間合いを詰めてくる。

 仕方なく奏音を抱えながらムラマサブレードを振るが、やはり人を一人抱えて戦うとなるとバランスが崩れてしまって思うように動くことができず、徐々に押されてしまう。

「この……!」

 この状況を逆手にとって、ゼノスは一歩前に踏み込んだ。
 チャージする形になり、一瞬SHOWの動きが止まる。
 その隙を見逃さず、ゼノスはムラマサブレードを横に振り抜いた。

 斬れた、と思うも一瞬、ガシャン、と金属の音が響き、ムラマサブレードが防がれてしまった。

「残念」

 そう笑うSHOWの眼前には、鎖のような何かが出現していた。
 その鎖がムラマサブレードをせき止めている。
 ブライトで出来た武器なら両断することができるはずだが、こうして防がれるということは、何かしらの細工がしてあるということ。

 何が、と思考するも一瞬、刀身に鎖を絡めてくる。
 引き抜こうとしてもギチッと耳障りな音とともにロックされてしまった。

「鬱陶しいんだよ……!」

 このまま武器を奪おうとしているのだろう。
 ただ、ロックされたということは新しい力の入る場所ができたということ。
 ゼノスは一層腕に力を込めて体を近づけ、その反動でキックをSHOWの胴体に入れた。

「グッ――」

 フルパワーではないとはいえ、戦闘用に身体能力が向上している。
 少なからずダメージは入ったのだろう、体が後ろへ吹き飛んだ。

「大丈夫?」
「う、うん」

 肯定こそしているものの、その表情は若干青ざめている。
 無理もない。
 彼女が今体感しているのは、生身で体験できる速度を遥かに超えている。
 例えるならば、レールのないジェットコースターに乗せられているようなものだ。

 ――そろそろ痺れを切らすか?

 ムラマサブレードに巻き付く鎖を外しながらSHOWを観察していると、何やらデバイスを手に持って通話をしているようだ。

「来るな……!」

 わざわざ戦闘中に通話をする必要はない。
 つまり、それは〝巨大化〟の手配――ゼノスも「グランゼノス、起動」と口の中で呟いた。
 すると、機械的な声が脳内に響く。

『グランゼノス起動の要請を確認。本部の承認がされていますので、これよりブライトの直接転送及びグランゼノスの設計データを送信。構築まで二十秒』

 ――二十秒か……!

 ほんの少しの時間だが、命のやり取りをしているこの瞬間では一秒でも惜しい。
 ゼノスは視界をSHOWに据えたまま身構えていると「あれ……!」という奏音の声と共に異変が起き始めていることに気が付いた。

 魔百合がそうだったように、形を変えていく。
 ごぽごぽと、何か泡ができては弾けていくような音を伴って、その体は徐々に大きくなっていった。

 瞬く間に、SHOWは巨人に変貌する。
 その悪意とは真逆の純白に包まれたその姿は、神にも似た印象を抱かせた。

「……想像よりもでかいじゃんか」

 目算だが、それは20メートルを越えているように感じられた。
 魔百合の情報を越えていたことに驚きつつ、ゼノスは「もう少しの辛抱だから」と奏音を再び抱える。
 今度は振動を極力与えないよう、両手で抱えた。お姫様抱っこの形になったが、そんなロマンチックな状況ではない。

『まさか、ここで姿を晒すことになるなんてね』

 巨人から、SHOWの声が響いてくる。
 体がスピーカーになっているのか、山の先まで響きそうな声だ。

「随分とでっかくなったな」
『大きくなったのは体だけじゃないよ。……この姿になった以上、手加減はできない。大人しく、彼女を渡してくれないかな』
「嫌だね!」
『そうか……わかった。君はここで、終わりだ』

 その一言を皮切りに、巨大化したSHOWは大きく右手を振りかぶった。
 ブゥン、という音と共に、その右手に巨大な剣が生成される。先ほどの鎖と同じような技術なのだろう。

 流石に、あの大きさの攻撃を現状では防ぐことはできない。
 逃げようにも、あれほど大きな存在から多少動いたって誤差にしかならない。
 ならば、選択肢は一つ。

『諦めたか!』

 逃げないゼノスを見てそう叫んだSHOWは、その右腕を振り下ろした。

「――んなわけないだろ!」

 ゼノスが叫ぶ。
 その瞬間、脳内に『ゼロ』と機械的な声が響き、『グランゼノス、展開します』と声が続いた。

 一瞬、目が眩むほどの強大な光が周囲を包み込む。
 それでも剣は振り下ろされていたが、ガキン、と屈強な金属音がその進行を止めた。

『なっ……』

 眩い光が収まると、その中から現れたのは、漆黒の巨人だった。
 太陽の光を浴びて輝く装甲、人間がそのまま操ることを想定して設計されたため、違和感なく動けるように、五本指や関節の位置などは人間のそれとほぼ変わらない。
 目まで人間を模しているため双眼だ。
 ただ、色だけは流石に変更しているようで、ルビーのような赤い色を振りまいている。



「ギリギリだな」

 そう呟くと、ゼノスは「使用者・ゼノス。グランゼノス、ハッチオープン」と呟いた。
 すると、その指示に応答して胸のあたりがパカリと開く。

「えっ、乗るの⁉」
「外にいるよりは安全だから。我慢して」

 そう言ってお姫様抱っこで抱えたまま、ゼノスはコックピットに乗り込んだ。

「……ずいぶんと気が利いてるこって」

 コックピットには、二つのシートが用意されていた。
 恐らく、今までの状況を把握していたラクスが気を回してくれたのだろう。
 そのうちの一つ、操縦桿のないサブの方と思われるシートに奏音を座らせると、ゼノスはメインシートに腰を掛けた。

「ふぅ……」

 こうしてグランゼノスに乗り込むのは、訓練以来。
 実戦では初めてとなる。流石に緊張をしているようで、両脇にある操縦桿を握る両手には汗が滲んでいた。

『網膜投影を開始します』

 機械的な声が今度はコックピット内で木霊する。
 その声に呼応して、ゼノスの両目を右から左に赤いレーザーが走った。
 すると間もなく、コックピット内が映っていた視界が18メートルの高さからのものに変わった。

「さ、始めよう。最後の戦いだ!」

 そう言ってから、ゼノスはグランゼノスの右腕を空中に掲げた。
 すると、グランゼノスの手のひらから淡い光――グランシウムが放出され、その光は瞬く間に刀の形を成す。
 ムラマサブレードをベースにしたグランゼノス専用の武器、カイザームラマサブレードだ。

 それを握り、眼前のSHOWに視線を合わせた。
 刀を構えているその様は侍と呼ぶべきだろうが、その大きさと相対している自分の、グランゼノスの姿を見れば、SF、ファンタジー……そういう表現が近い戦いだ。

 まさか、友人とこんな戦いをするなんて――呪われているとでも言われそうな運命を恨みながら、グランゼノスは直進した。

 グランストーンと言う地球外のエネルギーで生成されているため、本来は重力の影響を受けるべき機体は羽が生えた生き物のように軽い。
 対して、SHOWはただ巨大化しただけで、もともとこの世界の物質。
 重力に引っ張られているのだろう、SHOWが一歩踏み出すごとに、ずしんという音と地面が抉られている。

 そんな二体の巨人が、真っ向から衝突した。
 すると、互いの身体から生まれた衝撃波が周囲を襲う。
 ぶわりと木々が捲れ、砂煙が舞い上がる。
 そんな状態で、二体は硬直した。
 鍔迫り合いを見せる二対の刀だけが、火花を散らしていた。

 力は、全く互角。
 握る操縦桿が一切動く気配を見せず、危機を感じたゼノスは振り払い、反動を利用して左腕の殴打に切り替えるが、これもまた防がれることになる。

「全部お見通しってことか……!」

 このままでは埒が明かない。
 ゼノスはチラリと周囲を見渡し、一般人がいないことを確認してから「グランシウム生成・胸部展開」と叫んだ。
 すると、内部で熱が上がってくるのを確認しながら、アラートで胸部が開いたことも認識すると「カイザーバースト!」と叫び、トリガーを引いた。

 開かれた胸部から、これまでの戦闘では比にならないほどの大出力なエネルギーが噴出する。
 噴火のように溢れ出したそれは、散弾さながらにSHOWへ襲い掛かった。



『なっ――!』

 異変に気付いたSHOWは、咄嗟に後方へ退く。
 その隙を、ゼノスは見逃さなかった。

「今だ!」

 ゼノスはすかさずフットペダルを踏み込みつつ、カイザームラマサブレードを腰に出現した鞘に納めた。

 グランシウムから発生したエネルギーは、まだ残っている。
 そのエネルギーを更に活用すべく、二回目のエネルギー増幅を行った。
 胸部を閉めると同時に、エネルギーが集まったことを確認すると、そのエネルギーを、カイザームラマサブレードを収める鞘へと移行させる。

「これで――終わりだ!」

 ゼノスとして戦うときの必殺技、カイザースラッシュ。
 それを模した、グランゼノスの必殺技。

「――カイザーエンドスラッシュ!」

 鞘から、カイザームラマサブレードを引き抜く。
 すると、その軌跡上に光がほとばしった。

 蓄積したグランシウムを光線として放射する、大技。
 カイザーエンドスラッシュ。

 グランシウムのエネルギーで構成された光線は、真っ直ぐ、SHOWへ向かう。

 一瞬の出来事、刹那の判断。
 それを擁される場面。

 一つの選択肢が命取りとなる。
 SHOWは、その適切な判断をすることができず、胴体を真っ二つに分かつこととなった。
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