妄想の中のテロリストはいつも学校を襲っている

エルトリア

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第三章 It's "SHOW" time

第32話

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 友人四人とキャンプに来たのにも関わらず、一人だけになってしまった奏音は「遅いな……」とだけ呟いた。
 ほんの数十分前まで仲が良かった学生だったはずなのに、一番の友人と思っていた魔百合まゆりは襲い掛かってくるし、陽太と翔はいつの間にか姿を消してしまっている。

「一体何が起きてるの……?」

 不意に口から洩れたのは、得体のしれない恐怖に晒されているストレスからのものだった。
 ただの、何の変哲もない日々がどれだけ平和だったかを痛感する毎日だ。
 奏音はその場に座り込み、膝を抱えて顔を埋めた。

 元の平和な毎日に戻りたい、ただ笑顔でいればよかっただけの時間に戻りたい――そんな感情に苛まれ、思わず「もう、いや……」と言葉を漏らす。

「どうしたの?」

 その言葉を聞いてしまったのか、電話があるといって席を外していた翔が心配そうな表情で声をかけてきた。
 彼はただの一般人で、異変が起きていることは知らない。
 普通に休みの日にキャンプに来ただけの一般人だ。
 それなら、まだこの世界が平穏であると思い込んでいた方が幸せだろう。
 精一杯平静を装って「あ……なんでもないよ」と笑みを作り上げた。

「いやいや、顔色悪いよ?」
「ううん、大丈夫大丈夫」
「大丈夫じゃないでしょ。顔青いよ。何があったの?」
「別に、大丈夫だよ。個人的なことだったから」

 今日の翔は妙に突っかかってきて来る。
 いつもならすぐにそっか、などと言って退いてくれるのに――なんてことを思いながら顔を上げると、目の前に翔が立ちはだかっていた。

「もう一回聞く。さっき、戻ってくる前に、何が、あったの」

 明らかに、いつもと様子が違う。
 奏音は立ち上がり、一歩、二歩と後ずさりをする。

 どこか、何かがおかしい。
 それこそ、さきほどの魔百合に覚えたような違和感がある。

 逃げないと――直観に従ってその場を走り去ろうと、振り返って走り去ろうとしたが、それを遮るように誰かがそこに立っていた。

「おっと」

 聞き覚えのある、ただ聞くだけで安心を感じさせてくれる声――顔を上げると、その声の持ち主である陽太がにっこりと、優しい笑顔で迎えてくれていた。

「ヨウくん……!」

 翔と同様に、陽太も一般人。
 一緒に逃げなければいけない、と思わなければならないはずなのに、なぜか〝助かった〟と思っている自分に疑問を抱いていると「大丈夫」と言って陽太は奏音を引き寄せた。

「ごめん、一人にさせちゃって」
「え? いや……」

 なぜ謝られているのか理解できない内に、陽太は自分と翔の間に立ちふさがって「よう」と翔を睨みつける。

「遅かったじゃないか」
「悪かったな」
「一つ聞きたいんだが、アイツはどうした? 連絡が無いんだけど」
「無事だよ。彼女は今後、人として生きていく」
「そうか、それはそれは残念だ」
「残念?」
「そう。アイツは使えたからね。監視役としても、戦闘要員としても」
「随分と仲間をぞんざいな扱いするんだな」
「そういうドライな部分も必要なんだよ、上に立つと苦労するもんだ」
「はっ……とんだブラック上司だ」

 仲間、アイツ――不穏な単語で会話をする二人。
 予感に過ぎなかった可能性がどんどん現実味を帯びてくる。

「……お遊びはここまでだ。彼女を渡してもらう」と語る翔は、同級生とは思えない、狩人のような鋭く、冷たい目だった。
 数十年生きてきて初めて向けられる明確な殺意に、背筋がぞわりと震え、汗がぶわりと滲みだす。

 言葉も発せないまま硬直してしまった。
 逃げなくちゃ、でも足が――まるで蛇に睨まれた蛙のようになってしまった自分を「大丈夫」と陽太が包み込んでくれる。

 同い年のはずなのに、妙に大きく感じる彼の腕。
 そのたくましい腕の隙間から微かに見えた景色に、見慣れた剣があった。
 鈍く赤い、日本刀のような剣――二度も敵から守ってくれた、ゼノスと名乗るヒーローが使っていた剣だ。

「ヨウくん……?」

 先ほどまで同級生だった、友人だったはずの彼は、黒い服に身を包んでいた。
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