妄想の中のテロリストはいつも学校を襲っている

エルトリア

文字の大きさ
上 下
30 / 44
第三章 It's "SHOW" time

第30話

しおりを挟む
「はぁ……」

 シェンフゥによる援助はありがたいのだが、一時間ずっと一方的に話を聞くだけと言うのは精神的にくるものがある。
 体を動かしたわけでもないのにへとへとになってしまった陽太は、ベッドにダイブした。

「取りあえず、数は集まったな」

 手に握っていた原稿用紙を眺めながら呟く。
 そこには、殴り書きで数十作の作品名が羅列されていた。

 名探偵ランポのように細かいトリックをいくつか聞いたりしたものもあれば、タイトルだけでどのあたりでその技術が使われていたなどといった情報だけのものもある。
 後日、漫画喫茶で確認しないとならない。

 手間はかかるが、一から調べることに比べたらだいぶ楽だ。
 ただ、理想論だけを語ってるわけにもいかない。
 用意しなければならないものや、予算の問題もある。課題はまだまだ山積みだ。

 そんな現実から目を背けるかのように、陽太は原稿用紙を裏返した。
 裏側にはメモがびっしりだが、本来の用途である表には何も書かれていない。
 まっさらなそこに、陽太はシャーペンを握った。

「確か、魔百合が復活したんだったな……」

 今後の展開を考えながら呟く。
 ゼノスの物語は、いよいよ終盤。
 奇しくも、現実の空想研究会と同じようにクライマックスを迎えようとしている。

「……不思議だな」

 不意に口を突いて出たのは、このゼノスの物語に対する率直な感想だった。

 初めはただ単に暇つぶしだったはずのこの物語だが、ところどころ現実とリンクしている。
 奏音との仲直りもそうだし、まゆりとの対決と入部にしたってこれまで女子生徒とのかかわりがほぼ皆無でシェンフゥと話すことがあるくらいだったということを踏まえると、劇的とも呼べる変化だ。
 それらすべての変化に、この物語が何かしらの関係をしている。

 特に運命や神様なんて存在を信じているわけではないが、ここまでくると不思議な縁を感じざるを得ない。
 そうなると、縋りたくなるのが人としての性。
 期限を設けているわけでもないが、この物語も早めに完成させておいて、翔との戦いに役立てられれば――半分邪な思いを持って、陽太は物語を書きはじめた。

       ◇

 先日の戦いで、魔百合は人間として再度人生を始めるということを条件に仲間となることになった。
 奏音をキャンプ場に戻し、二人だけの状態で話を聞くため再び茂みに入ると、魔百合はつらつらと敵の情報を吐き出し始めた。

 敵の組織名はブリング。
 目的は地球の侵略で、その足掛かりとしてこの日本を選んだらしい。

 確かに日本は生物が生きる上で一番重要な水資源を豊富にもっており、北海道をはじめとした農場も持ち合わせている。
 海で囲まれており敵の侵略を防ぎやすく、物質を転送させる技術、ゲートを使用すれば他国への侵略も問題はない。
 つまり、テロリストブリングからすればこれ以上ない優良物件だ。

「なるほど」
「どう? これでアタシのことを仲間だって認めてくれた?」

 先ほどまで命をかけて戦っていた敵同士だったはずなのに、今はこうして協力をしている。
 こうして人と人を繋ぐ力を持っている奏音の魅力に感嘆しつつ「まあ、敵意が無いってことはわかったよ」とゼノスは腰を下ろした。

「それはよかった。もう戦うなんてこりごりだしね、力も根こそぎ持ってかれちゃったし」
「お前……もう普通の人間ってことでいいんだよな?」
「一応ね。義手の手配だけしてくれると助かる」
「承った……しっかし、人体改造手術か……」
「結構多いよ。アタシらのボスも、見た目はほぼ人間」
「なんでそんなことを?」
「さあ? 元が人間の方だと知性がある分使いやすいんじゃない?」

 聞きたいことはまだまだ尽きない。
 ゼノスは質問を続けようとし、息を目一杯吸い込んだところで〝DANGER〟という警告メッセージが視界に溢れた。
 カイザースラッシュを使用し、エネルギーをほぼ使い果たしてしまったため、スーツの維持が難しくなったという知らせだ。
 ギリギリのところで踏みとどまったことを実感しながらゼノスは「エネルギー切れだ……今から見る姿は他言無用で頼む」と魔百合に断ってから、スーツの変身を解いた。

「……こりゃ驚いた」

 魔百合はその姿を見て目を丸くした。
 先ほどまで一緒にキャンプをしていた知人がそこから出てきたから無理もないか、と自分の中で勝手に結論を出していたゼノスは「まさかそっちも、ウチのボスと同じことしてたなんてね」という魔百合の一言に体をピクリと震わせた。

「同じこと?」
「そう。全く同じ……って、あれ? もしかして気づいてないの?」

「どういう――」と言いかけて、一つの予感がゼノスの脳裏に過ぎった。

 これまで学校をメインに、キャンプ場と自分や奏音を中心としての侵攻がメイン。
 侵略を阻もうとする存在がいるのにもかかわらずわざわざ街中に出てくるのは何かの理由があるとは思っていた。
 当初は皆目見当ついていなかったが、この間の学校で戦った時に奏音が体育館から出てしまっていたこと、今回のキャンプでも敵が出現したこと、魔百合が奏音に執着していたことの三点を踏まえると、双葉奏音という存在が引き金になっているのではないか、と言うのがぼんやりとした予想だった。

 奏音がいるところに出て来て、何かのキーである彼女を攫おうとしている、と考えれば矛盾のない理由にはなる。
 双葉奏音と言う存在を監視するために、魔百合が派遣されていたくらいの重要人物である以上、大筋では合っていたのだろう。
 ただ、彼女の〝同じことをしていた〟と言う発言から、もう一つの可能性が浮上してくる。

 それは、魔百合のように身近なところに潜んでいる可能性があるということ。
 しかも、人間の姿をして。

 その可能性を踏まえた上で、前回の学校と今回のキャンプの二か所で同じ場所にいた人物は、監視される対象である奏音と、ブリングの敵である自分を除くと、もう一人しかいない。

 ブリングの同じ高校の友人として一緒にいた――。

「……翔か?」

 外れててくれ、と願いながらその人間の名前を口にした。
 しかし、魔百合はその名前を聞くと、「ご明察」とにやりと笑みを浮かべる。

「冗談……ではないよな」
「この場に及んで? 流石にないでしょ。アタシもそこまで無謀じゃない」

「けど、監視としてはお前がいたんだろ? 監視が二人もなんて――」と言いかけたところで「あの人の役割は奏音の監視じゃないよ」と言って髪をかき上げてから「ね、どうしていつも学校から侵略してたと思う?」と質問を投げかけた。

「双葉奏音がいるから……?」
「半分当たりで、半分不正解。正確には、〝奏音がいる場所じゃないとゲートが開けない〟だよ」
「ど、どういう意味だよ」
「簡単だよ。アンタたちみたいに、遠距離の転送を可能にする機械は開発できたけど、それに必要なエネルギーを用意することができなかったんだ。それで、依り代に選んだのが双葉奏音」
「なに……?」
「アタシらの調査で、一番エネルギーを体に秘めていたのがあの娘だった。だから、作戦はあの娘を軸にしようって、スタートしたんだ」
「待った。調査って……お前たちは、ブライトを測定することができるのか?」

 アメリカで転送のためやスーツの稼働に必要なエネルギーは、特殊な燃料を燃やした際に生まれる〝ブライト〟というエネルギーを転化しているに過ぎない。言うならば、電気の類と同じだ。

 人間にもこのブライトが眠っている、という研究報告は受けていたが、それを抽出したり転用したりするなんてことは、現状では夢の技術でしかない。

「アタシらはアンタらの言うところのテロリストだからね。どう足掻いても国単位で動いてブライトを集めることはできないから、それをどうにかして用意する術を研究してたんだよ。その成果が、ブライトの測定器だったり、普通の人間にブライトを埋め込んで改造人間にするってことが可能になったの」
「なるほど……」
「本軸に戻すよ。それで、転送装置――ゲートが開発されたのが今年。で、ご存じの通りゲートを使用するためには大量のブライトが必要になるわけだけど、半径三メートル以内のブライトを使用するしか起動方法がなかった」
「半径三メートル?」
「そう。起動は遠隔じゃできないし、ゲートを使用した時、ブライトが全部体から抜かれてしまうと、アタシら改造組は体が壊れちゃう。だから、元からそれなりのブライトを保有していて、責任を取れる人間で、有事の際には戦える人材が必要だった。そこで、SHOWは自ら学校に乗り込んだんだよ。桜井翔に扮してね」

 魔百合の話す内容には一切の矛盾はない。
 すべてが腑に落ちる。
 パズルがすべて埋まった感覚を得るとともに、一つの危機に気づく。

「おい、それじゃ――」

 たった今、奏音はキャンプ場に返したばかり。
 つまり、彼女を利用して日本を攻めようとしているテロ組織の親玉と二人っきり――。
 ゼノスは「まずい!」と叫んでその場を飛び出した。
しおりを挟む
導線バナー

感想 20

あなたにおすすめの小説

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

瞬間、青く燃ゆ

葛城騰成
ライト文芸
 ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。  時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。    どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?  狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。 春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。  やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。 第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作

俺たちの共同学園生活

雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。 2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。 しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。 そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。 蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

息絶える瞬間の詩のように

有沢真尋
青春
 海辺の田舎町で、若手アーティストを招聘した芸術祭が開催されることに。  ある絵を見て以来、うまく「自分の絵」がかけなくなっていた女子高生・香雅里(かがり)は、招聘アーティストの名前に「あの絵のひと」を見つけ、どうしても会いたいと思い詰める。  だけど、現れた日本画家・有島はとてつもなくガラの悪い青年で…… ※喫煙描写があります。苦手な方はご注意ください。 表紙イラスト:あっきコタロウさま (https://note.com/and_dance_waltz/m/mb4b5e1433059)

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...