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第三章 It's "SHOW" time
第26話
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「なっ……⁉」
それは、新しい入部届だった。
入部先は、空想研究会。
人数がいれば取りあえずは大丈夫と言う安易な考えから、帰宅部を〝名前だけかして〟などといった下賤な誘いで取り繕っただけなのかと思っていたが、その名前をみて、目を丸くした。
三人目の部員の名は、園崎まゆり。
以前より、桜井翔が思いを寄せていた女性の名前だった。
この学園一、美しく、気品に溢れ、聡明である、非の打ちどころのない彼女が、どうして――大切な生徒会の仲間に続き、最愛の女性まで奪っていく、憎き宿敵――いつまで俺の上にいるんだ、と翔は天井を見上げるばかりだった。
「かいちょー、大丈夫っスか?」
生徒会会計を務める小倉が気の抜けた声で心配をしてくれるが、今の精神状態ではそののほほんとした声ですら鬱陶しい。
「ちょっと黙っててくれ」と突き放すと、今度は机に突っ伏した。
「……どう見ても大丈夫じゃないじゃないっスか」
うるさい、と心の中で文句を言って翔は目を閉じた。
空想研究会は、部として必要な人数が揃ったため、部員不足という理由で廃部まで持っていくのは事実上不可能。
となると、別の観点から考える必要がある。
現状、筆頭なのは活動内容を突くこと。
調べによるとロクな活動はしていなかったが、奏音がプール掃除をはじめとした雑用を引き受けている。
廃部了承書を完成させるために必要な、教員たちが同意を防ぐための策だろう。
ここが崩れない限りは進めることはできず、外部から廃部をすることはできない。
極めて合理的で効率的な策だ。
これは廃部までの仕組みを細かく知っていないと思いつかない方法だ。
恐らく、奏音による考えのはず。
やられたと歯を噛み締めても、もはや後の祭り。
こうなってしまった以上、難癖を付けて無理矢理廃部に持っていけばイメージも悪くなるし、生徒会が私用で動く組織というイメージが付いてしまう。
自分の代だけならそれでもいいのだろうが、今後自分の下の代まで〝形だけの組織〟になる可能性がある。そんなリスクを負うことはできない。
要するに、力を持っているからこそ動きにくいというのが現状だった。
――ま、指を咥えたままなつもりはないけどね。
しかし、そんな状況でも、翔に退くという選択肢は存在していなかった。
元々、幼いころから陽太は目の上のたんこぶだった。
その名前に〝陽〟とあるように、正に太陽な存在。常に話題の中心には彼がいて、彼を中心に回っていた。
対して自分は、太陽の光によって生まれる影のような人間。
かけっこをしてはいつも二位、勉強でも二位、身長でも二位。
野球をすれば自分がヒットを打っても陽太はホームランで、サッカーをすれば点を決めたところでハットトリックをされてひっくり返される。
そうして、ずっと一位には陽太がいて頂に立つことができず、ひたすら太陽の後を着いていくことしかできなかった。
負け続きの人生。
二位でもいいじゃん、なんて思えたら楽だったのだろうが、どんな勝負事でも負けは悔しいもので、それなりの努力をしても陽太はなんでも卒なくこなしてしまうため、同じ土俵で戦うようなことはしてくれない。
そんな幼少期を過ごしたからこそ、陽太のように、太陽のようになりたい、と死に物狂いで努力を重ねた結果として、今があることは理解しているし、感謝もどこかにある。
けれど、幼稚園から小学校までの九年間負け続けたという過去が変わることはない。
その事実は、生徒会会長という立場になっても拭い去ることはできなかった。
だから、今後の人生でもずっと、心のどこかに陽太という、太陽のような強敵に負け続けたという忌まわしい記憶が残り続ける――そう悲観した矢先の再会は、正に僥倖だった。
ここで、明確に陽太の上に立つことができれば、この呪いから解き放たれることができる。
これは、これは本来の自分を取り戻すための戦いだ。
――今の太陽は俺だ。太陽は二つもいらない。
自分を取り戻すには、完璧に陽太を打ち負かす必要がある。
力任せではなく、誰もが納得する理由で、だれもが納得のいく流れであれば、なおいい。
思い出に耽りながらも一つの結論に達し、翔は目を見開くと「これだな」と呟いた。
「これ? なんスか突然」
「空想研究会を廃部にする方法を思いついたんだよ」
「あー……例の幽霊部か。熱心っスねぇ……で、どんな方法っスか? 確か、先生を篭絡しようって動いてるんスよね? 人数も揃ってたら難しくないっスか?」
「先生側から崩すことが難しいなら、生徒側から崩せばいいんだ。民意を手に入れるんだよ」
そう言い残すと、翔は計画を心に握りしめて生徒会室を後にした。
それは、新しい入部届だった。
入部先は、空想研究会。
人数がいれば取りあえずは大丈夫と言う安易な考えから、帰宅部を〝名前だけかして〟などといった下賤な誘いで取り繕っただけなのかと思っていたが、その名前をみて、目を丸くした。
三人目の部員の名は、園崎まゆり。
以前より、桜井翔が思いを寄せていた女性の名前だった。
この学園一、美しく、気品に溢れ、聡明である、非の打ちどころのない彼女が、どうして――大切な生徒会の仲間に続き、最愛の女性まで奪っていく、憎き宿敵――いつまで俺の上にいるんだ、と翔は天井を見上げるばかりだった。
「かいちょー、大丈夫っスか?」
生徒会会計を務める小倉が気の抜けた声で心配をしてくれるが、今の精神状態ではそののほほんとした声ですら鬱陶しい。
「ちょっと黙っててくれ」と突き放すと、今度は机に突っ伏した。
「……どう見ても大丈夫じゃないじゃないっスか」
うるさい、と心の中で文句を言って翔は目を閉じた。
空想研究会は、部として必要な人数が揃ったため、部員不足という理由で廃部まで持っていくのは事実上不可能。
となると、別の観点から考える必要がある。
現状、筆頭なのは活動内容を突くこと。
調べによるとロクな活動はしていなかったが、奏音がプール掃除をはじめとした雑用を引き受けている。
廃部了承書を完成させるために必要な、教員たちが同意を防ぐための策だろう。
ここが崩れない限りは進めることはできず、外部から廃部をすることはできない。
極めて合理的で効率的な策だ。
これは廃部までの仕組みを細かく知っていないと思いつかない方法だ。
恐らく、奏音による考えのはず。
やられたと歯を噛み締めても、もはや後の祭り。
こうなってしまった以上、難癖を付けて無理矢理廃部に持っていけばイメージも悪くなるし、生徒会が私用で動く組織というイメージが付いてしまう。
自分の代だけならそれでもいいのだろうが、今後自分の下の代まで〝形だけの組織〟になる可能性がある。そんなリスクを負うことはできない。
要するに、力を持っているからこそ動きにくいというのが現状だった。
――ま、指を咥えたままなつもりはないけどね。
しかし、そんな状況でも、翔に退くという選択肢は存在していなかった。
元々、幼いころから陽太は目の上のたんこぶだった。
その名前に〝陽〟とあるように、正に太陽な存在。常に話題の中心には彼がいて、彼を中心に回っていた。
対して自分は、太陽の光によって生まれる影のような人間。
かけっこをしてはいつも二位、勉強でも二位、身長でも二位。
野球をすれば自分がヒットを打っても陽太はホームランで、サッカーをすれば点を決めたところでハットトリックをされてひっくり返される。
そうして、ずっと一位には陽太がいて頂に立つことができず、ひたすら太陽の後を着いていくことしかできなかった。
負け続きの人生。
二位でもいいじゃん、なんて思えたら楽だったのだろうが、どんな勝負事でも負けは悔しいもので、それなりの努力をしても陽太はなんでも卒なくこなしてしまうため、同じ土俵で戦うようなことはしてくれない。
そんな幼少期を過ごしたからこそ、陽太のように、太陽のようになりたい、と死に物狂いで努力を重ねた結果として、今があることは理解しているし、感謝もどこかにある。
けれど、幼稚園から小学校までの九年間負け続けたという過去が変わることはない。
その事実は、生徒会会長という立場になっても拭い去ることはできなかった。
だから、今後の人生でもずっと、心のどこかに陽太という、太陽のような強敵に負け続けたという忌まわしい記憶が残り続ける――そう悲観した矢先の再会は、正に僥倖だった。
ここで、明確に陽太の上に立つことができれば、この呪いから解き放たれることができる。
これは、これは本来の自分を取り戻すための戦いだ。
――今の太陽は俺だ。太陽は二つもいらない。
自分を取り戻すには、完璧に陽太を打ち負かす必要がある。
力任せではなく、誰もが納得する理由で、だれもが納得のいく流れであれば、なおいい。
思い出に耽りながらも一つの結論に達し、翔は目を見開くと「これだな」と呟いた。
「これ? なんスか突然」
「空想研究会を廃部にする方法を思いついたんだよ」
「あー……例の幽霊部か。熱心っスねぇ……で、どんな方法っスか? 確か、先生を篭絡しようって動いてるんスよね? 人数も揃ってたら難しくないっスか?」
「先生側から崩すことが難しいなら、生徒側から崩せばいいんだ。民意を手に入れるんだよ」
そう言い残すと、翔は計画を心に握りしめて生徒会室を後にした。
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