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第二章 怪人”魔百合”
第23話
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放課後、空を見上げると雲一つない青空が広がっていた。
掃除日和、といえば聞こえはいいが、単なる炎天下。
キッツ、と愚痴を零しながら陽太は額の汗を拭った。
予定通りに、事が運ぶか――練りに練った計画が滞りなく施行されるかの不安から、自然と抱えるホースに力が入る。
まだか、まだかとそわそわしながらセッティングしていると、ヒタヒタ、とプールサイドを歩くときになる独特な音が陽太の耳に届いた。
「おいーっす」
「お待たせー」
「アッチーな、しかし」
振り返ると、園崎の取り巻き三人が揃って顔を出した。
三人は、揃いも揃ってパーカーを羽織っている。
汚れてもいい格好で、と伝えた際、水着でもいいかと質問があったから、恐らくパーカーの下は水着……そう考えると、武器を仕込んでいる暗殺者のように思えた。
「あ、来てくれてありがとう」
「お前のためじゃねーよ、私らのため……って、まだ来てねーじゃん」
「もうすぐ来ると思うよ。ほら、二年と三年じゃ授業が終わる時間違うでしょ? 受験もあるしさ」
「あー、そういやそうだ。じゃ、一回帰ってからまた来るってこと?」
「そういうこと」
「……めんどくさくなって来なくなるとか止めてよ?」
「大丈夫。休むとかは連絡来てないから」
訝し気な表情をする三人。
そんな三人の背後に、人影を見た陽太は「あ、ほら、来たよ!」と指を差して視線を誘導してみせた。
すると、条件反射のように素早い動きで三人は振り返る。
三人、陽太も合わせて四人の視線の先には、もう一人の合コン相手――三年生で部活を引退した、久保井率いるサッカー部の先輩たちだ。
久保井はもちろん、他の三人も高身長で、爽やかさで高い好感度を保っている。
学力はわからないが、二の次でいいと思えるほどの〝良物件〟だ。
「わぁあ!」
「お待ちしてましたぁ」
「暑いですねー!」
先ほどまでの機嫌の悪さはどこへやら。
すっかり猫なで声になった彼女たちは、パーカーを脱ぎ腰に巻き付けるとそそくさと近寄っていく。
「モテる男ってのはいいよなぁ」
自分にはない華やかさに心がくじけそうになっていた陽太。
めげてる暇はないぞ、と自らに喝を入れていると「さ、約束は果たしたぜ」と久保井がコッソリ話しかけてきた。
計画、成功。
すべてが思い通りに進んだことが自分自身信じられなかったが、興奮して頭のてっぺんまで熱い血が流れていることが妄想ではないということを教えてくれた。
心の中でガッツポーズをしてから「ありがとうございます」と抑え気味に頭を下げる。
「凄いですね、みんなスポーツマンって感じで」
「推薦がほぼ決まってて、暇だって言ってたやつらだからよ。喜んで来てくれたわ」
「助かります」
合コンの相手は、サッカー部を引退した三年生。
成望高校の男女比率は7:3と極端に女子が少なく、フリーの確率が高い。
一方で、高校生として夏休みに入るまでに青春を謳歌するためのパートナーが欲しいという願望は誰しもが持っている。
そういう推理の元、目をつけたのが、奏音に告白した久保井を中心としたサッカー部だった。
運動部に所属していた三年生は、大半がもう引退しており、比較的時間に余裕がある。
受験や就職など、その次のステップに進む準備が必要な夏休みであることは重々承知しているが、高校生として最後の夏休みともなれば、青春にのめり込みたいと思うのも必定。
しかも、彼らはこれまでサッカーの練習で夏休みを謳歌する暇などなかった。
だから、エサさえあれば食いついてくるという確証はあった。
問題は、どうやって接点を持つか。
関係性などもなく、生徒会などの組織に入っていない二年生が提案したところで警戒されるだけ。
そこで、妄想の世界と同じように、奏音を〝囮〟として使わせてもらった。
先日フラれたばかりの久保井に接触し〝実は、奏音がプールの清掃を任されたけど人手が足りておらず困っている〟と伝え、〝二年の女子が三人参加予定で、男子がいればバランスが良くなる〟から〝誰かそういうのが欲しい友人はいませんか〟と相談をした。
奏音に恩を売れるし、友人にも彼女ができるチャンスがある――久保井からすればこれ以上ない条件。
食いつくのは当然だ。
――来たな。
そして、この計画の最後のピースであるまゆりが、視界の端に現れたことで、陽太の興奮は最高潮となった。
今回の計画で一番不確定要素であり、成功の可能性が低かったのが、まゆりがプールの近くに来る、という条件だ。
三人の様子を不審に思ってくれなければ達成しないし、仕組まれたことを悟られてしまえば計画はオジャン。
あくまで、まゆりが彼女自身の意思で来なければ意味がない。
それを、達成できた――そこでようやく陽太は胸を撫で下ろす。
――あとは、奏音ちゃん次第だ。
心の中でこっそり奏音にバトンを渡し、陽太は深い息を零した。
掃除日和、といえば聞こえはいいが、単なる炎天下。
キッツ、と愚痴を零しながら陽太は額の汗を拭った。
予定通りに、事が運ぶか――練りに練った計画が滞りなく施行されるかの不安から、自然と抱えるホースに力が入る。
まだか、まだかとそわそわしながらセッティングしていると、ヒタヒタ、とプールサイドを歩くときになる独特な音が陽太の耳に届いた。
「おいーっす」
「お待たせー」
「アッチーな、しかし」
振り返ると、園崎の取り巻き三人が揃って顔を出した。
三人は、揃いも揃ってパーカーを羽織っている。
汚れてもいい格好で、と伝えた際、水着でもいいかと質問があったから、恐らくパーカーの下は水着……そう考えると、武器を仕込んでいる暗殺者のように思えた。
「あ、来てくれてありがとう」
「お前のためじゃねーよ、私らのため……って、まだ来てねーじゃん」
「もうすぐ来ると思うよ。ほら、二年と三年じゃ授業が終わる時間違うでしょ? 受験もあるしさ」
「あー、そういやそうだ。じゃ、一回帰ってからまた来るってこと?」
「そういうこと」
「……めんどくさくなって来なくなるとか止めてよ?」
「大丈夫。休むとかは連絡来てないから」
訝し気な表情をする三人。
そんな三人の背後に、人影を見た陽太は「あ、ほら、来たよ!」と指を差して視線を誘導してみせた。
すると、条件反射のように素早い動きで三人は振り返る。
三人、陽太も合わせて四人の視線の先には、もう一人の合コン相手――三年生で部活を引退した、久保井率いるサッカー部の先輩たちだ。
久保井はもちろん、他の三人も高身長で、爽やかさで高い好感度を保っている。
学力はわからないが、二の次でいいと思えるほどの〝良物件〟だ。
「わぁあ!」
「お待ちしてましたぁ」
「暑いですねー!」
先ほどまでの機嫌の悪さはどこへやら。
すっかり猫なで声になった彼女たちは、パーカーを脱ぎ腰に巻き付けるとそそくさと近寄っていく。
「モテる男ってのはいいよなぁ」
自分にはない華やかさに心がくじけそうになっていた陽太。
めげてる暇はないぞ、と自らに喝を入れていると「さ、約束は果たしたぜ」と久保井がコッソリ話しかけてきた。
計画、成功。
すべてが思い通りに進んだことが自分自身信じられなかったが、興奮して頭のてっぺんまで熱い血が流れていることが妄想ではないということを教えてくれた。
心の中でガッツポーズをしてから「ありがとうございます」と抑え気味に頭を下げる。
「凄いですね、みんなスポーツマンって感じで」
「推薦がほぼ決まってて、暇だって言ってたやつらだからよ。喜んで来てくれたわ」
「助かります」
合コンの相手は、サッカー部を引退した三年生。
成望高校の男女比率は7:3と極端に女子が少なく、フリーの確率が高い。
一方で、高校生として夏休みに入るまでに青春を謳歌するためのパートナーが欲しいという願望は誰しもが持っている。
そういう推理の元、目をつけたのが、奏音に告白した久保井を中心としたサッカー部だった。
運動部に所属していた三年生は、大半がもう引退しており、比較的時間に余裕がある。
受験や就職など、その次のステップに進む準備が必要な夏休みであることは重々承知しているが、高校生として最後の夏休みともなれば、青春にのめり込みたいと思うのも必定。
しかも、彼らはこれまでサッカーの練習で夏休みを謳歌する暇などなかった。
だから、エサさえあれば食いついてくるという確証はあった。
問題は、どうやって接点を持つか。
関係性などもなく、生徒会などの組織に入っていない二年生が提案したところで警戒されるだけ。
そこで、妄想の世界と同じように、奏音を〝囮〟として使わせてもらった。
先日フラれたばかりの久保井に接触し〝実は、奏音がプールの清掃を任されたけど人手が足りておらず困っている〟と伝え、〝二年の女子が三人参加予定で、男子がいればバランスが良くなる〟から〝誰かそういうのが欲しい友人はいませんか〟と相談をした。
奏音に恩を売れるし、友人にも彼女ができるチャンスがある――久保井からすればこれ以上ない条件。
食いつくのは当然だ。
――来たな。
そして、この計画の最後のピースであるまゆりが、視界の端に現れたことで、陽太の興奮は最高潮となった。
今回の計画で一番不確定要素であり、成功の可能性が低かったのが、まゆりがプールの近くに来る、という条件だ。
三人の様子を不審に思ってくれなければ達成しないし、仕組まれたことを悟られてしまえば計画はオジャン。
あくまで、まゆりが彼女自身の意思で来なければ意味がない。
それを、達成できた――そこでようやく陽太は胸を撫で下ろす。
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心の中でこっそり奏音にバトンを渡し、陽太は深い息を零した。
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