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第二章 怪人”魔百合”
第21話
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「……〝全部水に流せ計画〟?」
「ほら、こういう問題ってさ、根本から解決しないと、結局その場凌ぎになっちゃうでしょ? 写真の加工までして陥れようとするくらい恨んでるんだから、尚更さ」
「それは……確かにそうだけど」
良い淀むところを見るに、心当たりがある――と言うより、むしろこの問題は誰もが一度は経験してきた事象だ。
ケンカをしている最中、先生や親をはじめとした関係のない第三者からの介入があり、無理矢理に仲直りをさせられるが、結局疎遠になり離れてしまうような、小学生の時からある、そんなありふれた経験。
ただ毎日を過ごすだけならばそれもいいだろう。
しかし、奏音とまゆりは親友とも呼べる間柄にある。そんな二人が、こうして心を通わせず突き放すようなことがあれば、いずれ心が離れてしまう。
そうなってしまうのは、陽太としても本意ではない。
自分という存在が絡んでいるのならば尚更。
「でも、根本から解決なんて……いったいどうやって? まゆりの……信念というか、頑固なところあるし、説得なんて私以外じゃ……」
「うん。そこは僕も接して感じた。最終的に奏音ちゃんに説得してもらうことになると思う」
「え? じゃあ今すぐにでも電話した方がいいんじゃない?」
「ううん。その前に、やるべきことがあると思うんだ」
そう言うと、陽太は原稿用紙二枚目に丸を一つ書き、その中心に〝園崎まゆり〟と書くと、その大きな円に一部か重なるようにして丸を三つ書き足し、高牧・新田・鈴木とそれぞれ円の中心に文字を書き足した。
「これが今の園崎まゆりを取り巻く勢力図」
「勢力図?」
「そう。園崎の主張が、この大きな円。一つじゃそこまで大きくはないけど、こうして複数の円が同じ主張をすると、声はより大きくなっちゃう。だから、まずは〝ココ〟を崩す」と言い、陽太はアルファベットを中心に書いた三つの円をトントンとシャーペンの頭で突いて「まずは外堀からってね。
〝証拠として出した写真はコラ画像で、全部が遊びだった、嘘でしたー〟って証言してもらうんだ」と続ける。
「味方を増やすってこと?」
「簡単に言っちゃうとそうだね。そうすれば、万引きを行ったと主張するのは園崎一人だけ。そうなれば、もう他の生徒が追随することはないし、標的が僕のまま立て続けにこういう話題が上がっても、信じる人はいなくって園崎の発言力は低下する。またいつもの……いじめをやってるって」
「っ……」
いじめ、と言う言葉に奏音は口を噤む。
オブラートに包むべきかとも思ったが、こればっかりは他にたとえようがない。
ごめんね、と心の中で謝罪してから、話を続ける。
「多分、園崎はそれでも諦めないと思う。手段が無い、でも意見を通したい……そして最後には、奏音ちゃんのところに来て直談判してくると思う。奏音ちゃんには、その時に説得してもらいたいんだ」
園崎まゆりは、間違ったことをしている。
それを正すのは、親友である自分の役目――陽太はそういうメッセージを込めて、最後に「これは、双葉奏音にしかできないし、やらなくちゃいけないことだと、僕は思う」と続けた。
たった数回接しただけで、自分は園崎まゆりが双葉奏音に対して特別な感情を持っていることに気づけた。
なら、長年一緒にいた彼女が、気づけないはずはない。
だからこそ、応えてあげなくちゃならない――そう思っての言葉だが、この思いが伝わっているか不安になり、陽太は奏音の顔を覗き込んだ。
いささか苦しい表情をしていたが「……うん」と絞り出した声、そしてその時の覚悟を決めた表情から、きちんと伝わっていたことがわかり、陽太は胸を撫で下ろした。
「……理屈はわかったけど、崩すっていったって……どうやってやるの?」
「園崎の取り巻きたちってさ、進級して仲良くなったのは最近なんだ。協力するのは、クラスの中で発言力のある園崎の後ろにいたら楽だから、ってのは傍から見てるだけでもわかる。だから、奏音ちゃんと園崎みたいに、深い仲じゃない。つまり、園崎とアイツらは結構ドライな関係なんだ。だから、理があれば揺らぐと思うんだ」
「理?」
「うん。実はさ、部室に来る前……ホームルームの時に、園崎がいないところで愚痴を話しているのを聞いたんだ。〝彼氏が欲しー〟って」
「彼氏って……それとこれと何の関係が――」
「ホラ、僕たちにはちょうど、仕事があるでしょ? 青春映画とかでよく見るヤツ」
えっ、と戸惑うも一瞬、すぐにその答えに辿り着き、奏音は「もしかして」と顔を上げる。
「そのもしかしてだよ」と、答え合わせをするかのように、陽太は原稿用紙を全てどかした。
そこから顔を出したのは、生徒会から奏音が譲り受けた〝夏休みに使用を再開するプールの清掃〟と書かれた紙だった。
陽太の考えた作戦は、つまるところ、合コンのセッティングだ。
まゆりの周囲にいた取り巻きは、揃いも揃って可愛く、正に高校生のギャルと言った感じだった。
メイクもバッチリ決めていたし、制服の着こなしにもこだわりを感じられる。
裏を返せば常に自信があるように見せかけているということ。
あとは機会を待つだけ、という状況のはず。
そして、計画では、彼女たちが求めているだろう機会を提供する。
その代わりに、味方になってもらうことを参加の条件とする計画だ。
「で、でもそれだとさ……相手が必要になるでしょ? そんな都合のいい人なんて……」
「いるんだよ、実は」
「え?」
自信ありげに答えると、陽太は小学生の頃に抱いたワクワクを携えながら、一つ、奏音に相談を持ち掛ける。
「ね、奏音ちゃん。一つ相談なんだけどさ……」
いたずらな表情に、嫌な予感がしたのか、奏音はひきつった表情で「な、なに?」と身構える。
「……囮にしてもいいかな?」
そう言うと、陽太は作戦のすべてを奏音に伝えた。
「……わかった」
最初は拒否したが、それしかないと納得してくれたようで渋々了承する。
よし、と居直ると、陽太は舌なめずりをしてから呟いた。
「それじゃ、計画開始だ」
「ほら、こういう問題ってさ、根本から解決しないと、結局その場凌ぎになっちゃうでしょ? 写真の加工までして陥れようとするくらい恨んでるんだから、尚更さ」
「それは……確かにそうだけど」
良い淀むところを見るに、心当たりがある――と言うより、むしろこの問題は誰もが一度は経験してきた事象だ。
ケンカをしている最中、先生や親をはじめとした関係のない第三者からの介入があり、無理矢理に仲直りをさせられるが、結局疎遠になり離れてしまうような、小学生の時からある、そんなありふれた経験。
ただ毎日を過ごすだけならばそれもいいだろう。
しかし、奏音とまゆりは親友とも呼べる間柄にある。そんな二人が、こうして心を通わせず突き放すようなことがあれば、いずれ心が離れてしまう。
そうなってしまうのは、陽太としても本意ではない。
自分という存在が絡んでいるのならば尚更。
「でも、根本から解決なんて……いったいどうやって? まゆりの……信念というか、頑固なところあるし、説得なんて私以外じゃ……」
「うん。そこは僕も接して感じた。最終的に奏音ちゃんに説得してもらうことになると思う」
「え? じゃあ今すぐにでも電話した方がいいんじゃない?」
「ううん。その前に、やるべきことがあると思うんだ」
そう言うと、陽太は原稿用紙二枚目に丸を一つ書き、その中心に〝園崎まゆり〟と書くと、その大きな円に一部か重なるようにして丸を三つ書き足し、高牧・新田・鈴木とそれぞれ円の中心に文字を書き足した。
「これが今の園崎まゆりを取り巻く勢力図」
「勢力図?」
「そう。園崎の主張が、この大きな円。一つじゃそこまで大きくはないけど、こうして複数の円が同じ主張をすると、声はより大きくなっちゃう。だから、まずは〝ココ〟を崩す」と言い、陽太はアルファベットを中心に書いた三つの円をトントンとシャーペンの頭で突いて「まずは外堀からってね。
〝証拠として出した写真はコラ画像で、全部が遊びだった、嘘でしたー〟って証言してもらうんだ」と続ける。
「味方を増やすってこと?」
「簡単に言っちゃうとそうだね。そうすれば、万引きを行ったと主張するのは園崎一人だけ。そうなれば、もう他の生徒が追随することはないし、標的が僕のまま立て続けにこういう話題が上がっても、信じる人はいなくって園崎の発言力は低下する。またいつもの……いじめをやってるって」
「っ……」
いじめ、と言う言葉に奏音は口を噤む。
オブラートに包むべきかとも思ったが、こればっかりは他にたとえようがない。
ごめんね、と心の中で謝罪してから、話を続ける。
「多分、園崎はそれでも諦めないと思う。手段が無い、でも意見を通したい……そして最後には、奏音ちゃんのところに来て直談判してくると思う。奏音ちゃんには、その時に説得してもらいたいんだ」
園崎まゆりは、間違ったことをしている。
それを正すのは、親友である自分の役目――陽太はそういうメッセージを込めて、最後に「これは、双葉奏音にしかできないし、やらなくちゃいけないことだと、僕は思う」と続けた。
たった数回接しただけで、自分は園崎まゆりが双葉奏音に対して特別な感情を持っていることに気づけた。
なら、長年一緒にいた彼女が、気づけないはずはない。
だからこそ、応えてあげなくちゃならない――そう思っての言葉だが、この思いが伝わっているか不安になり、陽太は奏音の顔を覗き込んだ。
いささか苦しい表情をしていたが「……うん」と絞り出した声、そしてその時の覚悟を決めた表情から、きちんと伝わっていたことがわかり、陽太は胸を撫で下ろした。
「……理屈はわかったけど、崩すっていったって……どうやってやるの?」
「園崎の取り巻きたちってさ、進級して仲良くなったのは最近なんだ。協力するのは、クラスの中で発言力のある園崎の後ろにいたら楽だから、ってのは傍から見てるだけでもわかる。だから、奏音ちゃんと園崎みたいに、深い仲じゃない。つまり、園崎とアイツらは結構ドライな関係なんだ。だから、理があれば揺らぐと思うんだ」
「理?」
「うん。実はさ、部室に来る前……ホームルームの時に、園崎がいないところで愚痴を話しているのを聞いたんだ。〝彼氏が欲しー〟って」
「彼氏って……それとこれと何の関係が――」
「ホラ、僕たちにはちょうど、仕事があるでしょ? 青春映画とかでよく見るヤツ」
えっ、と戸惑うも一瞬、すぐにその答えに辿り着き、奏音は「もしかして」と顔を上げる。
「そのもしかしてだよ」と、答え合わせをするかのように、陽太は原稿用紙を全てどかした。
そこから顔を出したのは、生徒会から奏音が譲り受けた〝夏休みに使用を再開するプールの清掃〟と書かれた紙だった。
陽太の考えた作戦は、つまるところ、合コンのセッティングだ。
まゆりの周囲にいた取り巻きは、揃いも揃って可愛く、正に高校生のギャルと言った感じだった。
メイクもバッチリ決めていたし、制服の着こなしにもこだわりを感じられる。
裏を返せば常に自信があるように見せかけているということ。
あとは機会を待つだけ、という状況のはず。
そして、計画では、彼女たちが求めているだろう機会を提供する。
その代わりに、味方になってもらうことを参加の条件とする計画だ。
「で、でもそれだとさ……相手が必要になるでしょ? そんな都合のいい人なんて……」
「いるんだよ、実は」
「え?」
自信ありげに答えると、陽太は小学生の頃に抱いたワクワクを携えながら、一つ、奏音に相談を持ち掛ける。
「ね、奏音ちゃん。一つ相談なんだけどさ……」
いたずらな表情に、嫌な予感がしたのか、奏音はひきつった表情で「な、なに?」と身構える。
「……囮にしてもいいかな?」
そう言うと、陽太は作戦のすべてを奏音に伝えた。
「……わかった」
最初は拒否したが、それしかないと納得してくれたようで渋々了承する。
よし、と居直ると、陽太は舌なめずりをしてから呟いた。
「それじゃ、計画開始だ」
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