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第一章 コードネーム”ゼノス”
第7話
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「あー……ダメだ」
いくら考えてもこれといった解決策が出てこず、解決案をひたすらに書いた紙をぐちゃぐちゃとボールペンで塗りつぶした。
どれもこれも、思いつくのは無茶としか言いようのない案ばかり。自らの柔軟性の無さに呆れながら「やっぱ時期が悪いよなぁ」と呟いた。
今考えていたのは、部活の活動内容。
現在廃部の危機に陥っているのは、部活としての存在意義が無いためだ。
活動内容をきっちりと決め、今後発展していくような部活であれば当然存続をせざるを得なくなる――が、そんな案が都合良くすぐ出てくるわけがない。
この空想研究会は、運動部のような大会はないし、合唱部や演劇部、吹奏楽部などのような発表をする機会もない。
それでも地道に活動をしていれば教育の延長線上にあると言えもするのだろうが、最近ボランティアを始めましたからといって信用されるわけがない。
ましてや、期限は二週間。
悠長なことをしていると、廃部了承届が作成されてしまう。
即効性が無ければいけない。
「って言ってもなー……」
そうなると、目下の目標は、部員を集めること。
対象は一年生と二年生になる。
ざっくり計算すると、全校生徒の三分の二。
全校生徒が大体三〇〇人だから、二〇〇人くらいが対象だ。
数だけで言えば多いが、まだ一年生は入部したてで、部活を辞めるという決断をするタイミングではない。
かといって二年生は、一年半すごし愛着が湧いてくるだろうし、新しい環境に馴染めるか不安で新しいことを挑戦しようはしないはず。
結局、実際に誘えるのは部活に入っていない数十人程度。
部活に入っていないのには何かしらの理由があるだろうし、そもそも面識の無い自分を避けるかも知れない。
その人が部活に入ってくれる確率は――天文学的な数値になりそうな予感がして、陽太は考えるのを止めた。
「……気分転換しよう」
リフレッシュすれば何か妙案が思いつくかも――そんな軽い気持ちで陽太は、原稿用紙を取り出した。
部活で書いたのは、自分をモデルにした主人公、ゼノスが出撃するところ。
何回か戦ったことがある、みたいなことを書いているが、物語では初登場。
学校生活を送っている〝瀬野陽太〟からゼノスになるときは、漆黒の衣を着て周りにバレないように戦うというところまでしか決まっていない。
誰と、何と戦うのか迷っていたが、今日そのモデルが見つかった。
悪の親玉を幼なじみの桜井翔に。
その取り巻きを悪の組織の部下として、ゼノスが平和のために戦う。
王道ストーリーだ。
昔の友達を悪者にするのはどこか気が引けるが、誰が読むわけでも無いし、自分の状況とリンクさせればその分妄想がしやすい。
「……よし、いい感じ」
イメージを投影するべく、陽太はペンを走らせた。
◇
体育館をあとにしたゼノスは、誰もいないことを確認すると「さてと」と呟き、息を一つ吐いてから、そっと腰付近に手を回した。
先程使用した秘密通信を行う機械と同じように、ゼノスが所持しているオーバーテクノロジーの一つ。
しかも、このベルトは秘密通信機のような試作品では無い。
れっきとした完成品だ。
使い方は簡単。
バックルの部分に手を翳し「変身」と呟くだけ。
声を出す理由は、このベルトを所有者以外の人間が使えないようにするため、声紋で主を認識しているからだ。
赤の他人が囁いたって、ただのベルトのまま。しかし、所有者が確かな意思を持って声をかけると――作動する。
今が正にその瞬間だ。
脳に響く『声紋を認識。戦闘服への換装を開始します』という機械的な声と共に黒い霧がベルトから噴出し、瞬く間にゼノスの体を覆い込む。
まるで水の中に潜り込んだような倦怠感が襲う。
纏わり付くような不思議な感覚が襲うが、それも一瞬。
瞬きを三回するころには、すっかりゼノスは漆黒のスーツ――戦闘服に身を包んでいた。
瞬間湯沸かし機ならぬ、瞬間着替え機。
凄い技術であることを再確認しながら軽く体を動かし、支障が無いことを確認すると「登録武器の転送を開始」と呟いて空中に右手を伸ばした。
すると、なんにもない虚空に〝シュン〟という日常では聞かない音を奏でながら、ゼノスの右手に蛍の光のような淡い光が集合し始める。
次第に形を成していき、数秒もしない内に光は〝刀〟となった。
確かな実態を確認してからゼノスはその刀を手に取る。
ずしんと、確かな重さがそこにはあった。
ゼノスが長年使用している、愛刀・ムラマサブレード。
黒い柄に、真っ赤な刀身が特徴の、日本刀を模した相棒だ。
「……よっし」
武器の転送にも問題は無い。
戦う準備は万端。
いよいよ、戦闘開始だ――一つ息を深く吐いてから、ゼノスは黒い球体に向けて駆けだした。
いくら考えてもこれといった解決策が出てこず、解決案をひたすらに書いた紙をぐちゃぐちゃとボールペンで塗りつぶした。
どれもこれも、思いつくのは無茶としか言いようのない案ばかり。自らの柔軟性の無さに呆れながら「やっぱ時期が悪いよなぁ」と呟いた。
今考えていたのは、部活の活動内容。
現在廃部の危機に陥っているのは、部活としての存在意義が無いためだ。
活動内容をきっちりと決め、今後発展していくような部活であれば当然存続をせざるを得なくなる――が、そんな案が都合良くすぐ出てくるわけがない。
この空想研究会は、運動部のような大会はないし、合唱部や演劇部、吹奏楽部などのような発表をする機会もない。
それでも地道に活動をしていれば教育の延長線上にあると言えもするのだろうが、最近ボランティアを始めましたからといって信用されるわけがない。
ましてや、期限は二週間。
悠長なことをしていると、廃部了承届が作成されてしまう。
即効性が無ければいけない。
「って言ってもなー……」
そうなると、目下の目標は、部員を集めること。
対象は一年生と二年生になる。
ざっくり計算すると、全校生徒の三分の二。
全校生徒が大体三〇〇人だから、二〇〇人くらいが対象だ。
数だけで言えば多いが、まだ一年生は入部したてで、部活を辞めるという決断をするタイミングではない。
かといって二年生は、一年半すごし愛着が湧いてくるだろうし、新しい環境に馴染めるか不安で新しいことを挑戦しようはしないはず。
結局、実際に誘えるのは部活に入っていない数十人程度。
部活に入っていないのには何かしらの理由があるだろうし、そもそも面識の無い自分を避けるかも知れない。
その人が部活に入ってくれる確率は――天文学的な数値になりそうな予感がして、陽太は考えるのを止めた。
「……気分転換しよう」
リフレッシュすれば何か妙案が思いつくかも――そんな軽い気持ちで陽太は、原稿用紙を取り出した。
部活で書いたのは、自分をモデルにした主人公、ゼノスが出撃するところ。
何回か戦ったことがある、みたいなことを書いているが、物語では初登場。
学校生活を送っている〝瀬野陽太〟からゼノスになるときは、漆黒の衣を着て周りにバレないように戦うというところまでしか決まっていない。
誰と、何と戦うのか迷っていたが、今日そのモデルが見つかった。
悪の親玉を幼なじみの桜井翔に。
その取り巻きを悪の組織の部下として、ゼノスが平和のために戦う。
王道ストーリーだ。
昔の友達を悪者にするのはどこか気が引けるが、誰が読むわけでも無いし、自分の状況とリンクさせればその分妄想がしやすい。
「……よし、いい感じ」
イメージを投影するべく、陽太はペンを走らせた。
◇
体育館をあとにしたゼノスは、誰もいないことを確認すると「さてと」と呟き、息を一つ吐いてから、そっと腰付近に手を回した。
先程使用した秘密通信を行う機械と同じように、ゼノスが所持しているオーバーテクノロジーの一つ。
しかも、このベルトは秘密通信機のような試作品では無い。
れっきとした完成品だ。
使い方は簡単。
バックルの部分に手を翳し「変身」と呟くだけ。
声を出す理由は、このベルトを所有者以外の人間が使えないようにするため、声紋で主を認識しているからだ。
赤の他人が囁いたって、ただのベルトのまま。しかし、所有者が確かな意思を持って声をかけると――作動する。
今が正にその瞬間だ。
脳に響く『声紋を認識。戦闘服への換装を開始します』という機械的な声と共に黒い霧がベルトから噴出し、瞬く間にゼノスの体を覆い込む。
まるで水の中に潜り込んだような倦怠感が襲う。
纏わり付くような不思議な感覚が襲うが、それも一瞬。
瞬きを三回するころには、すっかりゼノスは漆黒のスーツ――戦闘服に身を包んでいた。
瞬間湯沸かし機ならぬ、瞬間着替え機。
凄い技術であることを再確認しながら軽く体を動かし、支障が無いことを確認すると「登録武器の転送を開始」と呟いて空中に右手を伸ばした。
すると、なんにもない虚空に〝シュン〟という日常では聞かない音を奏でながら、ゼノスの右手に蛍の光のような淡い光が集合し始める。
次第に形を成していき、数秒もしない内に光は〝刀〟となった。
確かな実態を確認してからゼノスはその刀を手に取る。
ずしんと、確かな重さがそこにはあった。
ゼノスが長年使用している、愛刀・ムラマサブレード。
黒い柄に、真っ赤な刀身が特徴の、日本刀を模した相棒だ。
「……よっし」
武器の転送にも問題は無い。
戦う準備は万端。
いよいよ、戦闘開始だ――一つ息を深く吐いてから、ゼノスは黒い球体に向けて駆けだした。
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