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第一章 コードネーム”ゼノス”
第6話
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来る日も来る日も湿気まみれでじめじめとした暑さが続くのはあまりいい気分ではないが、こうして一日の締めくくりとして湯船につかるこの瞬間だけは夏が好きだと思える。
疲労が汚れと共に洗い流されるのを感じながら、奏音は「ふぅ」と息を吐いた。
生徒会副会長になったのはいいものの、慣れない仕事に嫌気がさしてきた今日この頃。
向いていないのかな、なんてことを思い始めた矢先に昔なじみの名前を見つけ、初めて生徒会に入って良かったなと思えた瞬間だった。
「ヨウくん……変わっちゃってたなぁ」
奏音の記憶の中にいた陽太は、正にヒーローだった。
学校の先生に対しても納得いかないことがあれば声を上げていたり、運動や勉強もトップクラス。
加えて、明るく元気という状態がそのまま擬人化したような、その名の通り太陽のような友人だった。
しかし、今日久方ぶりに再開した彼は、あまりにも大人しく、弱々しく、覇気のない、まるで当時とは真逆の――幼いころの翔に近い存在だった。
「四年間でそんな変わるもんなんだなぁ……」
四年前の西暦を考えるとごく最近のように感じるが、〝男子三日会わざれば刮目してみよ〟という慣用句があるほど急に変わることがある。
だから、四年という時間は彼ら二人にとって変わるには充分だったのだろう。
凄いな、と思う反面、自分はどうだろうか、という不安に苛まれた奏音は、水面に映った自らの顔を覗き込んだ。
よく〝昔と変わらないね〟などと言われる童顔が映り込む。
小学生のころに比べると当然体は大きくなりはしたが、長身と言うには小さすぎて、短身というには大きい。
胸も年相応という言葉が相応しいほど平均的で、大人らしさがあるかという議題に上げると、全くの誤差レベルで比較の項目にもならない。
胸をぎゅっと寄せて谷間を作ってみたが、虚しくなりすぐに取りやめた。
改めて客観的に見ると、自分は小学生がそのまま大きくなっただけのように思える。
だから久方ぶりの再会であっても陽太はすぐに自分のことを認知してくれたのだろう。
彼の脳の中にある履歴に自分がのこっていたことが嬉しい反面、何にも変わっていないことがどこか恥ずかしくなり、水面の自分をバシャバシャと崩した。
――やめよ。
考えるだけ無駄だ、と自分の未熟さを嘆く時間に幕を下ろし、別の懸念を探る。
思い浮かんだのは、やはり陽太のことだった。
彼自身のことではなく、彼の所属する部活のこと。
空想研究会。
活動内容は不明で三年生が抜けた今は陽太が一人だけ所属しているという状況。
何か伝統があるわけでも、結果を残しているわけでもない。
今まで存続していたこと自体が不思議なほどだ。
そもそも部活は、所属する生徒が部活を通じて、チームワークや礼儀を学ぶ機会になったり、困難なことにもチャレンジして、やればできるという感覚や自己肯定感を高めることが目的となっている。
裏を返せば、目的が達成出来ないだろう部は存在する意義がないということとだ。
そして、空想研究会は、これら全ての要素が欠如している。
「なにか、できることないかなぁ」
せっかく運命的な再会をした上、今の自分は生徒会という立場にいるため、力になることが出来る。
幼いころ、いじめっ子から助けて貰ったり、代わりに泥を被ってくれたこともあった。
今は変わってしまったのかもしれないが、恩を受けたことには変わりない。
今こそ返すときでしょ――そう決意した奏音の視界に、水面に映った自分の姿が入る。
先程崩したときとはまるで別人のような、大人っぽい自分がそこにあった。
疲労が汚れと共に洗い流されるのを感じながら、奏音は「ふぅ」と息を吐いた。
生徒会副会長になったのはいいものの、慣れない仕事に嫌気がさしてきた今日この頃。
向いていないのかな、なんてことを思い始めた矢先に昔なじみの名前を見つけ、初めて生徒会に入って良かったなと思えた瞬間だった。
「ヨウくん……変わっちゃってたなぁ」
奏音の記憶の中にいた陽太は、正にヒーローだった。
学校の先生に対しても納得いかないことがあれば声を上げていたり、運動や勉強もトップクラス。
加えて、明るく元気という状態がそのまま擬人化したような、その名の通り太陽のような友人だった。
しかし、今日久方ぶりに再開した彼は、あまりにも大人しく、弱々しく、覇気のない、まるで当時とは真逆の――幼いころの翔に近い存在だった。
「四年間でそんな変わるもんなんだなぁ……」
四年前の西暦を考えるとごく最近のように感じるが、〝男子三日会わざれば刮目してみよ〟という慣用句があるほど急に変わることがある。
だから、四年という時間は彼ら二人にとって変わるには充分だったのだろう。
凄いな、と思う反面、自分はどうだろうか、という不安に苛まれた奏音は、水面に映った自らの顔を覗き込んだ。
よく〝昔と変わらないね〟などと言われる童顔が映り込む。
小学生のころに比べると当然体は大きくなりはしたが、長身と言うには小さすぎて、短身というには大きい。
胸も年相応という言葉が相応しいほど平均的で、大人らしさがあるかという議題に上げると、全くの誤差レベルで比較の項目にもならない。
胸をぎゅっと寄せて谷間を作ってみたが、虚しくなりすぐに取りやめた。
改めて客観的に見ると、自分は小学生がそのまま大きくなっただけのように思える。
だから久方ぶりの再会であっても陽太はすぐに自分のことを認知してくれたのだろう。
彼の脳の中にある履歴に自分がのこっていたことが嬉しい反面、何にも変わっていないことがどこか恥ずかしくなり、水面の自分をバシャバシャと崩した。
――やめよ。
考えるだけ無駄だ、と自分の未熟さを嘆く時間に幕を下ろし、別の懸念を探る。
思い浮かんだのは、やはり陽太のことだった。
彼自身のことではなく、彼の所属する部活のこと。
空想研究会。
活動内容は不明で三年生が抜けた今は陽太が一人だけ所属しているという状況。
何か伝統があるわけでも、結果を残しているわけでもない。
今まで存続していたこと自体が不思議なほどだ。
そもそも部活は、所属する生徒が部活を通じて、チームワークや礼儀を学ぶ機会になったり、困難なことにもチャレンジして、やればできるという感覚や自己肯定感を高めることが目的となっている。
裏を返せば、目的が達成出来ないだろう部は存在する意義がないということとだ。
そして、空想研究会は、これら全ての要素が欠如している。
「なにか、できることないかなぁ」
せっかく運命的な再会をした上、今の自分は生徒会という立場にいるため、力になることが出来る。
幼いころ、いじめっ子から助けて貰ったり、代わりに泥を被ってくれたこともあった。
今は変わってしまったのかもしれないが、恩を受けたことには変わりない。
今こそ返すときでしょ――そう決意した奏音の視界に、水面に映った自分の姿が入る。
先程崩したときとはまるで別人のような、大人っぽい自分がそこにあった。
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