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第一章 コードネーム”ゼノス”
第5話
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「さて、どうしたもんか」
ベッドに寝転び、陽太は呟いた。
学校から帰ってきて制服そのまま寝転ぶのは若干汚いということはわかっている。
いつもならばすぐに部屋着に着替えてから倒れ込むようにしているのだが、その微かな気力さえ沸いてこない。
それほど、今日のやりとりが精神的にキツかったことの証左だ。
そこまで思い入れがあるわけではないが、空想研究会の居心地は好きだった。
緩く、各々が好きに持ち寄った議題で盛り上がる。
それがラノベなときもあれば、映画の中のワンシーンが現実でも実現可能かどうかなどをひたすら議論し合っただけのこともあった。
あまり考えたことのない空想を肴に真剣な会話をするのはこれまでの記憶になく、人生の中でも新鮮な経験として残っている。
これから大変にはなるが、あのとき抵抗して良かったな、と思いながら陽太はスマホを取り出してカレンダーを開いた。
今日は六月二十八日。梅雨がそろそろ明けようかというころだ。
いつもならば、期末試験のことを考えながらゲームをしてなんとなく毎日を過ごし、ギリギリ赤点にならないくらいの結果で凌いで、予定のない夏休みを迎えるだけのはずだった。
そんな自分が、部の存続に奔走することになるとは――つい昨日までは想像できなかった自分自身に驚きながらも、久方ぶりに肌がひりつくような高揚感があることに気づいた陽太は「はっ……今日はとことん僕らしくないな」と呟きながら笑みを浮かべた。
この高揚感は、いつぶりだろう――記憶を巡っていると、小学生のころ、奏音や翔と遊んでいた瞬間に辿り着つく。
学校終わり、三人で毎日放課後を堪能していた。
近くの野山に無断で入ったり、近所の図書館で本を読みあさってみたり、隣町まで自転車を走らせたり――毎日が面白くて、新しい発見で溢れていた。
三人と遊ばないときでも、風がどこから吹いてくるのか一日中考えてみたり、どうやって雨が降るのかわからないからひたすらに空を眺めたり、どうして漫画の世界のような魔法が現実ではないのかと主人公と同じポーズを取ってみたり。
気がつけば夜なんてことはザラだった。
そんな心の底から沸き上がってくるわくわくは、陽太にとっての原動力でもあった。
常に知りたい、解決したいと言う気持ちの元、意欲的に毎日を過ごしていたが、中学校に上がると同時に無くなってしまった。
きっかけは、親の仕事の都合で転校したこと。
仲の良かった二人と疎遠になってしまった中で、転校先では馴染むことが出来ず、友人らしい友人はほぼ皆無で、引っ込み思案になってしまう。
わくわくがあったころは、こんな状況でもなんとか好転させようと四苦八苦していたかも知れないが、そのころの陽太は〝しょうがない〟と流すようになってしまっていた。
世の中、自分の力だけではどうしようもないことがある。
だから〝しょうがない〟と思うことで納得させ、切り替えることが大人になるということなのかもしれないことを自分に言い聞かせていた。
友達が出来ないのは、転校して慣れない環境に身を置いたから。
だからしょうがない。
ただこなすだけの毎日になったのは、新しい環境になじめなかった自分が悪いから。
だからしょうがない。
高校に入ってからの二年弱、ずっと孤立気味だったのは、孤独に慣れてしまったから。
だからしょうがない――。
こうやって全て〝しょうがない〟で済ませ、流れに身を任せて、大人になっていく――それが人生というものなのだと、心の中で踏ん切りを付けてしまっていた。
確かに、この考え方をするようになってから気持ちは楽にはなった。
ただ、よく考えてみれば、この〝しょうがない〟は妥協だ。
諦めて、ここが最低ラインだという線引きをして、そこをクリアしようとするようになってしまい、高いところを目指さないようになってしまう。
だから、勉強では最低限である赤点を回避しただけで上等だと考えたり、理不尽なことがあっても反発するような問題児まがいのこともしていない。
いわゆる、模範的とも言える普通人間。
一人の学生としてはそれでいいのだろう。
迷惑をかけることはないし、反発することもないし、恐らくこのまま大人になっても歯車のように社会における部品の一部となって組み込まれるのだろう。
それも、悪くは無い。ある程度幸せはあると思う。
ただ、そんな人生を送ったとき、待っているのは〝無難〟だ。
無難に働き、無難に歳を取り、無難な最後を迎える――そんな毎日、そんな一生だ。
そこに、子供のころ感じたわくわくはない。
だから、今回の決断は、輝いていた毎日を取り戻すための、言わば挑戦だ。
あの頃のきらきらと輝いていたわくわくを取り戻し、無難ではなかった人生をもう一度送る。
「そう思えたきっかけが、あの二人ってのは皮肉なもんだな」
特段スピリチュアル的なものを信じているわけではないが、この時ばかりは運命を感じずにはいられなかった。
ただ、愚痴を言っても何も始まらない。
とりあえずの行動予定と計画を練らなければ、と陽太はベッドから置き、机に向かうと、ノートを開いた。
ベッドに寝転び、陽太は呟いた。
学校から帰ってきて制服そのまま寝転ぶのは若干汚いということはわかっている。
いつもならばすぐに部屋着に着替えてから倒れ込むようにしているのだが、その微かな気力さえ沸いてこない。
それほど、今日のやりとりが精神的にキツかったことの証左だ。
そこまで思い入れがあるわけではないが、空想研究会の居心地は好きだった。
緩く、各々が好きに持ち寄った議題で盛り上がる。
それがラノベなときもあれば、映画の中のワンシーンが現実でも実現可能かどうかなどをひたすら議論し合っただけのこともあった。
あまり考えたことのない空想を肴に真剣な会話をするのはこれまでの記憶になく、人生の中でも新鮮な経験として残っている。
これから大変にはなるが、あのとき抵抗して良かったな、と思いながら陽太はスマホを取り出してカレンダーを開いた。
今日は六月二十八日。梅雨がそろそろ明けようかというころだ。
いつもならば、期末試験のことを考えながらゲームをしてなんとなく毎日を過ごし、ギリギリ赤点にならないくらいの結果で凌いで、予定のない夏休みを迎えるだけのはずだった。
そんな自分が、部の存続に奔走することになるとは――つい昨日までは想像できなかった自分自身に驚きながらも、久方ぶりに肌がひりつくような高揚感があることに気づいた陽太は「はっ……今日はとことん僕らしくないな」と呟きながら笑みを浮かべた。
この高揚感は、いつぶりだろう――記憶を巡っていると、小学生のころ、奏音や翔と遊んでいた瞬間に辿り着つく。
学校終わり、三人で毎日放課後を堪能していた。
近くの野山に無断で入ったり、近所の図書館で本を読みあさってみたり、隣町まで自転車を走らせたり――毎日が面白くて、新しい発見で溢れていた。
三人と遊ばないときでも、風がどこから吹いてくるのか一日中考えてみたり、どうやって雨が降るのかわからないからひたすらに空を眺めたり、どうして漫画の世界のような魔法が現実ではないのかと主人公と同じポーズを取ってみたり。
気がつけば夜なんてことはザラだった。
そんな心の底から沸き上がってくるわくわくは、陽太にとっての原動力でもあった。
常に知りたい、解決したいと言う気持ちの元、意欲的に毎日を過ごしていたが、中学校に上がると同時に無くなってしまった。
きっかけは、親の仕事の都合で転校したこと。
仲の良かった二人と疎遠になってしまった中で、転校先では馴染むことが出来ず、友人らしい友人はほぼ皆無で、引っ込み思案になってしまう。
わくわくがあったころは、こんな状況でもなんとか好転させようと四苦八苦していたかも知れないが、そのころの陽太は〝しょうがない〟と流すようになってしまっていた。
世の中、自分の力だけではどうしようもないことがある。
だから〝しょうがない〟と思うことで納得させ、切り替えることが大人になるということなのかもしれないことを自分に言い聞かせていた。
友達が出来ないのは、転校して慣れない環境に身を置いたから。
だからしょうがない。
ただこなすだけの毎日になったのは、新しい環境になじめなかった自分が悪いから。
だからしょうがない。
高校に入ってからの二年弱、ずっと孤立気味だったのは、孤独に慣れてしまったから。
だからしょうがない――。
こうやって全て〝しょうがない〟で済ませ、流れに身を任せて、大人になっていく――それが人生というものなのだと、心の中で踏ん切りを付けてしまっていた。
確かに、この考え方をするようになってから気持ちは楽にはなった。
ただ、よく考えてみれば、この〝しょうがない〟は妥協だ。
諦めて、ここが最低ラインだという線引きをして、そこをクリアしようとするようになってしまい、高いところを目指さないようになってしまう。
だから、勉強では最低限である赤点を回避しただけで上等だと考えたり、理不尽なことがあっても反発するような問題児まがいのこともしていない。
いわゆる、模範的とも言える普通人間。
一人の学生としてはそれでいいのだろう。
迷惑をかけることはないし、反発することもないし、恐らくこのまま大人になっても歯車のように社会における部品の一部となって組み込まれるのだろう。
それも、悪くは無い。ある程度幸せはあると思う。
ただ、そんな人生を送ったとき、待っているのは〝無難〟だ。
無難に働き、無難に歳を取り、無難な最後を迎える――そんな毎日、そんな一生だ。
そこに、子供のころ感じたわくわくはない。
だから、今回の決断は、輝いていた毎日を取り戻すための、言わば挑戦だ。
あの頃のきらきらと輝いていたわくわくを取り戻し、無難ではなかった人生をもう一度送る。
「そう思えたきっかけが、あの二人ってのは皮肉なもんだな」
特段スピリチュアル的なものを信じているわけではないが、この時ばかりは運命を感じずにはいられなかった。
ただ、愚痴を言っても何も始まらない。
とりあえずの行動予定と計画を練らなければ、と陽太はベッドから置き、机に向かうと、ノートを開いた。
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