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37 エドガーの贈り物
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祝福の夜が、優しく更けて朝に近づいて行く。
大いに飲み、大いに食べ、大いに騒いだ夜が過ぎ、東の空が明るくなり始めていた。
マグロナルドを貸し切った祝賀会は、日の出を前に解散となり、エドガーは進んでリーリエを送り届けると申し出た。
「楽しそうだな」
「うん。すっごく楽しかった」
完成したマグロナルド外壁のアスカの絵を振り返りながら、リーリエは大きく頷く。言葉では言い表せないほど楽しかった気持ちは、絵の中にふんだんにちりばめている。それを読み取っていたエドガーは、微笑んでリーリエの頭をくしゃりと撫でた。
「ありがとう、エドガー。こんな立派なお祝いをしてくれて」
「前祝いみたいなもんだぜ」
エドガーは苦笑を浮かべて懐を探り、一本の造花を取り出してリーリエの前に差し出した。
赤い薔薇を模した造花には、絵の具を落としたような立体的な造形物がついた首飾りが絡められている。
「……これは?」
「誕生日祝い。明日で二十歳だろ?」
エドガーはそう言いながら後頭部を乱雑に掻いた。日の光が昇り、少し赤くなった頬を照らしている。
「覚えてたの?」
「俺が忘れるとでも思ったか?」
驚きを隠せないリーリエの頭を、エドガーがくしゃくしゃと撫でる。ひとしきり髪を乱した後、エドガーは造花から首飾りを解いてリーリエの首にそっとかけた。
「素敵……」
「十三年分の祝いのつもりだ。受け取ってくれ」
「ありがとう、エドガー」
色とりどりの絵の具の雫のような造形物に指先を触れ、そのひんやりとした感触を確かめる。素材がなんであるのかはわからなかったが、どの色も移りゆく空の色を思わせる美しいものばかりだった。
「言っとくが、この世に二つとない俺がデザインしたやつだからな」
「これ、エドガーがデザインしたの!?」
「そんなに大声で驚くな。俺もやろうと思えば多少は出来るの」
エドガーの発言に二度驚き、リーリエは首飾りをそっと浮かせて間近で見る。エドガーは謙遜した様子だったが、唯一無二のそのデザインは、リーリエのためにだけ作られた特別なものであることが、はっきりと見て取れた。
「……お前みたいな天才とは違うけどな」
「私、天才なんかじゃないわ。ただ絵を描くことが好きなだけだけ」
絵を描くことが大好きだった。絵を描いて、自分の心にあるもの、浮かんでいるビジョンを表現してそれを共有することが大好きだった。
それなのに……
まだ苦く残るあの記憶に、自然と歪んだ唇を噛む。
「それに、エドガーがいなかったら、きっと立ち上がれなかった」
「俺がいなくても、立てたさ。遅いか早いかってだけで」
「そんなこと……」
アルフレッドの謝罪で幾分か和らいだものの、受けた傷はそう簡単に癒えないだろう。それでも、美術展で最高の絵を描くことが出来たのは、間違いなくエドガーのお陰だ。それをどうすれば彼に伝えられるのか、リーリエは迷って言葉を切った。
「……けど、お前の役に立てたった言うんなら、こんなに嬉しいことはないぜ」
リーリエの思考を読んだように、エドガーが柔らかに微笑む。その笑顔は、陽の光を浴びて眩しく、少しだけ目に染みた。
「あなたを信じて、本当に良かった」
「これからも信じてもらえるように、努力しないとな」
「うん」
その気持ちだけでも嬉しかったが、エドガーの笑顔を目の前にするとその厚意に甘えたくなってしまう。彼の少し不器用な、けれど常に本音で接してくれる態度は、リーリエにとって特別なものになりつつあった。
「本当にありがとう、エドガー。また――」
別れ際にエドガーがリーリエを引き寄せ、唇を重ねる。
ほんの僅か、掠めるように触れただけの口付けは、それなのにカクテルのような甘い味がした。
大いに飲み、大いに食べ、大いに騒いだ夜が過ぎ、東の空が明るくなり始めていた。
マグロナルドを貸し切った祝賀会は、日の出を前に解散となり、エドガーは進んでリーリエを送り届けると申し出た。
「楽しそうだな」
「うん。すっごく楽しかった」
完成したマグロナルド外壁のアスカの絵を振り返りながら、リーリエは大きく頷く。言葉では言い表せないほど楽しかった気持ちは、絵の中にふんだんにちりばめている。それを読み取っていたエドガーは、微笑んでリーリエの頭をくしゃりと撫でた。
「ありがとう、エドガー。こんな立派なお祝いをしてくれて」
「前祝いみたいなもんだぜ」
エドガーは苦笑を浮かべて懐を探り、一本の造花を取り出してリーリエの前に差し出した。
赤い薔薇を模した造花には、絵の具を落としたような立体的な造形物がついた首飾りが絡められている。
「……これは?」
「誕生日祝い。明日で二十歳だろ?」
エドガーはそう言いながら後頭部を乱雑に掻いた。日の光が昇り、少し赤くなった頬を照らしている。
「覚えてたの?」
「俺が忘れるとでも思ったか?」
驚きを隠せないリーリエの頭を、エドガーがくしゃくしゃと撫でる。ひとしきり髪を乱した後、エドガーは造花から首飾りを解いてリーリエの首にそっとかけた。
「素敵……」
「十三年分の祝いのつもりだ。受け取ってくれ」
「ありがとう、エドガー」
色とりどりの絵の具の雫のような造形物に指先を触れ、そのひんやりとした感触を確かめる。素材がなんであるのかはわからなかったが、どの色も移りゆく空の色を思わせる美しいものばかりだった。
「言っとくが、この世に二つとない俺がデザインしたやつだからな」
「これ、エドガーがデザインしたの!?」
「そんなに大声で驚くな。俺もやろうと思えば多少は出来るの」
エドガーの発言に二度驚き、リーリエは首飾りをそっと浮かせて間近で見る。エドガーは謙遜した様子だったが、唯一無二のそのデザインは、リーリエのためにだけ作られた特別なものであることが、はっきりと見て取れた。
「……お前みたいな天才とは違うけどな」
「私、天才なんかじゃないわ。ただ絵を描くことが好きなだけだけ」
絵を描くことが大好きだった。絵を描いて、自分の心にあるもの、浮かんでいるビジョンを表現してそれを共有することが大好きだった。
それなのに……
まだ苦く残るあの記憶に、自然と歪んだ唇を噛む。
「それに、エドガーがいなかったら、きっと立ち上がれなかった」
「俺がいなくても、立てたさ。遅いか早いかってだけで」
「そんなこと……」
アルフレッドの謝罪で幾分か和らいだものの、受けた傷はそう簡単に癒えないだろう。それでも、美術展で最高の絵を描くことが出来たのは、間違いなくエドガーのお陰だ。それをどうすれば彼に伝えられるのか、リーリエは迷って言葉を切った。
「……けど、お前の役に立てたった言うんなら、こんなに嬉しいことはないぜ」
リーリエの思考を読んだように、エドガーが柔らかに微笑む。その笑顔は、陽の光を浴びて眩しく、少しだけ目に染みた。
「あなたを信じて、本当に良かった」
「これからも信じてもらえるように、努力しないとな」
「うん」
その気持ちだけでも嬉しかったが、エドガーの笑顔を目の前にするとその厚意に甘えたくなってしまう。彼の少し不器用な、けれど常に本音で接してくれる態度は、リーリエにとって特別なものになりつつあった。
「本当にありがとう、エドガー。また――」
別れ際にエドガーがリーリエを引き寄せ、唇を重ねる。
ほんの僅か、掠めるように触れただけの口付けは、それなのにカクテルのような甘い味がした。
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