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25 ショッピングエリアにて
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シェル湖を中心とするリゾートエリアには、煉瓦造りの小さな家が建ち並んでいる。高台には湖の景観を楽しむルーフバルコニーが備えられたこぢんまりとした別荘が、比較的湖に近い場所には、観光に訪れた人々向けのショッピングエリアが広がっている。
ショッピングエリアに立ち並ぶ店は、芸術都市アーカンシェルならではの芸術性を備えた衣服やアクセサリーを多く取扱い、久しぶりにこの場所を訪れたリーリエは目を輝かせて店の軒先を見て回った。
「そのバングルなんてどうだ?」
敷き布の上に丁寧に並べられたアクセサリーを眺めるリーリエの背後から、エドガーが声を掛ける。
「どうしてわかったの?」
ちょうどそのバングルを見ていたリーリエは、はっとしてエドガーを振り返った。
「お前が好きそうだなと思って見てた。やっぱりそれ、好きなんだな」
エドガーがアクセサリー屋の店主に断り、敷き布の上からバングルを取ってリーリエの手首に嵌める。細かな宝石の欠片を幾つも組み合わせたバングルは、朝露に濡れるような煌めきを宿し、リーリエの透き通るような肌に良く馴染んだ。
「ぴったりだ。……これ、もらえるか?」
「ありがとうございます」
リーリエの返事も聞かずにエドガーは店主に金貨を渡して会計を済ませ、リーリエの手を引いてそっと立ち上がらせた。
「エドガー――」
「俺も気に入った」
戸惑うリーリエに片目を瞑って見せ、エドガーがリーリエの手首のバングルを指先でなぞる。
「俺がつける訳にも行かないが、お前が着けてるのを見るのは単純に楽しい。これは俺のためだ」
「もうっ」
そう言われると断れないのをわかった上で、エドガーは言葉を選んでいる。それがほとんど無意識に発せられるのがリーリエには心地良かった。
「細かいことは気にしないで楽しめよ」
「そうさせてもらってるわ」
厚意に素直に甘えることができるのも、幼なじみという関係性のせいだろう。リーリエはその後もエドガーに連れられてショッピングエリアを存分に楽しんだ。
若い作家による新しいデザインの服やアクセサリーが、柔らかく吹く風に揺れ、眩く輝く太陽の下で煌めいている。
何を買うわけでもなく、ただエドガーと並んで歩き、ひとつひとつの作品であり商品である品物を見ているだけでも、胸が躍り、足取りは軽くなった。
「楽しそうだな」
「ええ。ずっとこんな風に過ごしてみたかったの」
エドガーに指摘され、リーリエは素直に認めた。自分の境遇から許されないと思っていたことが、思いがけないかたちで実現している。そのことが、素直に嬉しく、リーリエは気がつくとエドガーの手を引いて自分の行きたいところへと誘っていた。
ショッピングエリアに立ち並ぶ店は、芸術都市アーカンシェルならではの芸術性を備えた衣服やアクセサリーを多く取扱い、久しぶりにこの場所を訪れたリーリエは目を輝かせて店の軒先を見て回った。
「そのバングルなんてどうだ?」
敷き布の上に丁寧に並べられたアクセサリーを眺めるリーリエの背後から、エドガーが声を掛ける。
「どうしてわかったの?」
ちょうどそのバングルを見ていたリーリエは、はっとしてエドガーを振り返った。
「お前が好きそうだなと思って見てた。やっぱりそれ、好きなんだな」
エドガーがアクセサリー屋の店主に断り、敷き布の上からバングルを取ってリーリエの手首に嵌める。細かな宝石の欠片を幾つも組み合わせたバングルは、朝露に濡れるような煌めきを宿し、リーリエの透き通るような肌に良く馴染んだ。
「ぴったりだ。……これ、もらえるか?」
「ありがとうございます」
リーリエの返事も聞かずにエドガーは店主に金貨を渡して会計を済ませ、リーリエの手を引いてそっと立ち上がらせた。
「エドガー――」
「俺も気に入った」
戸惑うリーリエに片目を瞑って見せ、エドガーがリーリエの手首のバングルを指先でなぞる。
「俺がつける訳にも行かないが、お前が着けてるのを見るのは単純に楽しい。これは俺のためだ」
「もうっ」
そう言われると断れないのをわかった上で、エドガーは言葉を選んでいる。それがほとんど無意識に発せられるのがリーリエには心地良かった。
「細かいことは気にしないで楽しめよ」
「そうさせてもらってるわ」
厚意に素直に甘えることができるのも、幼なじみという関係性のせいだろう。リーリエはその後もエドガーに連れられてショッピングエリアを存分に楽しんだ。
若い作家による新しいデザインの服やアクセサリーが、柔らかく吹く風に揺れ、眩く輝く太陽の下で煌めいている。
何を買うわけでもなく、ただエドガーと並んで歩き、ひとつひとつの作品であり商品である品物を見ているだけでも、胸が躍り、足取りは軽くなった。
「楽しそうだな」
「ええ。ずっとこんな風に過ごしてみたかったの」
エドガーに指摘され、リーリエは素直に認めた。自分の境遇から許されないと思っていたことが、思いがけないかたちで実現している。そのことが、素直に嬉しく、リーリエは気がつくとエドガーの手を引いて自分の行きたいところへと誘っていた。
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