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しおりを挟む「ん…っ、…ふ…ッ…」
絡んだ指に刺激される度、ちゅくちゅくと粘ついた水の音を立て、そこから押し出される様に堪えきれない声が洩れ出てしまう。
鼻から抜ける甘い声は果たして、本当に自分のものなのか。
今まで他人に余り触れられることは無かったせいもあるのだろうか、どことなく他人の視点で感じていた。
統星の手は千紘よりも大きく、そして体温も高いのか手からだけではなく、包まれる背中から感じる温度も心地が良い。
手淫が齎す快楽にどうしてそこまで巧みなのか、聞きたくなるほど、統星の指は千紘の弱い部分を見つけるとあやす様に擽る。
その動きは決して性急的ではなく、緩やかな高みへ掬い上げるような気持ちよさで千紘は翻弄をされていた。
和真が出て行ってから千紘は見慣れてはいるものの、プライベートでは入ったことの無い部屋の中に通された。
「俺の部屋を使ったらいい」
そう言って統星に寝室へ案内された。
他人の家で、ましてや雇い主の部屋でマスターベーションするなんて、と千紘は慌てて拒否をしたが、和真が取りに来る事どうせ汚しても洗うのは千紘だ、と丸め込まれ断りきれずに統星の部屋へ容器と一緒に押し込められてしまったのだ。
「何かあったら呼んでくれ」
そんな方向性の違う優しさと千紘だけを部屋に残し、統星は扉を閉めて部屋から出て行ってしまった。
藍色の遮光カーテンに閉ざされた部屋は、まだ昼間だというのに隙間から漏れる光だけしか無く薄暗い。
部屋の中央にはベッドボードが壁に沿う形でシングルサイズではないベッドが存在感高く置かれている。
寝る時に髪の毛一本でも落ちていると気になるという統星のため、拾いやすいようにと白で統一された寝具は、ベッドフレームだけが木材そのものの色をしていて余計に目立っていた。
一体、この部屋のどこでオナニーしろ、と?
千紘は部屋に入った一歩目、中央に敷かれたラグにも届かないフローリングの上で扉を背にしたまま立ち尽くしていたものの、視界に入るベッドを使うほど神経は図太く無い。
考慮の末、万が一汚しても直ぐに片付けられる床を選んで座った。
まずは息子を取り出す事からで、キツくはない下穿きからそれは直ぐに顔を出せたが、本人の気持ちを体現するかのように萎縮していた。
元々性欲も余り強くはない千紘だ、擦って出せばいいなんて簡単に言われるかもしれないが、心と性器は繋がっているとは良く言ったもので、この緊張感で勃起しろ、というのがおかしいのだ。
やんわりと性器を握ってみたが、それはふにゃりと手の中で頼りない柔らかさを主張する。
下から握るようにして裏筋を4本の指で刺激してみるが、思うような硬さまでは程遠い。
逆に汚してしまうかも、と保険に噛んだ上着の裾の方が唾液で濡れていた。
「ふ、っ…ぅ……」
どのくらいの時間が経ってしまったんだろうか、一時間と課せられたタイムリミットを思い焦れば焦るほど、それは上手く反応はしてくれない。
どうしよう、そんな言葉で頭の中が埋め尽くされていたせいか、千紘は背後の扉が開いたのを気付くことが出来なかった。
「なんで床に居るんだ」
「!?」
驚きにびくりと千紘の身体が跳ねた、声の主は先程千紘を部屋に一人残した統星だった。
呆れているのか、疲れているのか、どちらともとれない声音を漏らし、統星は床の上で体育座りのように広げて膝を立てた千紘の姿を見下ろしている。
「ベッド使えばいいだろ」
「そこまで図太くはないですよ…!」
咄嗟に内側に膝を寄せたお陰で、大事な所は隠れてはいるが、シている事は元よりバレている。
指摘に思わず言い返すと何故か距離を詰められた。
統星が何を考えているかは分からないが、速やかに退室してくれと願う千紘の思いとは反対に背後へ寄り添って来た。
「手伝ってやる」
「い、いや、いいです…っ」
ぶるぶると頭を振り被り拒否をするも、背中から覆うように床に腰を落とした統星は、千紘の肩口に顎を掛けて問いかけてくる。
伸びてきた腕は強引にも千紘の膝を割り、手は内股を伝って陰茎を握る手に重ねられた。
「まだ全然じゃねぇか…ほら、」
口を開いた事で落ちた裾のお陰で陰茎は見えていないと思うが、感覚から分かったのだろうか。
手を重ねたまま何かが首筋から耳下へ這う、ぬるっとしたそれはきっと統星の舌だろう、吐息が濡れた皮膚にかかると耳朶まで挟まれた。
「ひ…ぃっ」
「…お前、本当に…」
耳元に響いた統星の声は途切れたがきっと「色気がない」とでも言うつもりだったのだろうか。
なんだか前例があるが故に、それは簡単に想像が出来てしまったが、状況的にそんなツッコミを入れられるほどの余裕はない。
いつの間にか膝を割られた足は固定する様に胡座をかいた統星の膝に掛かり、閉じない様に肘で固定をされた。
「統星さん…ッ」
「もうすぐ和真が来るぞ、それとも見られたいのか」
決して見られたい訳など無い、見られてしまってはいるのだが。
非難する声を脅しに制されて、千紘が動けなくなってしまったのをいいことに回された手は無遠慮に下肢を弄り、下ろしきれていなかった下履きを引き下ろした。
ゴム紐を腿に絡めて出来た空間に二つ目の手が入り込む。
邪魔だと言わんばかりに隠していた手を外されて、直接陰茎に触れられると身を固くした。
「まだ柔らかいな」
「……っ」
こんな所でまさかのインポ疑惑なんかされても千紘の自尊心は酷く傷つくのだが、まだ反応のない陰茎は柔らかく縮まったまま、統星の手にやわやわと揉み込まれて息を呑む。
ちらりと上着の裾から覗く手は千紘のものでは無い、千紘の手は外された代わりに傍らにあった容器を掴まされ、それを胸の中に抱えてしまっている。
緊張感と共に統星へこんな事をさせてしまっている背徳感までもが千紘を襲い、亀頭の先や裏筋といった弱いところを撫でられても、それは反応は薄いままでいた。
「千紘、身体の力を抜け」
そうとは言われてもこの状況でどう抜けと言うのか、耳元で話す低音のが擽ったくて千紘は身体を捩らせる。
ふぅ、と吐かれる息すらも髪を撫でて擽ったいしかない。
それを見ていてか、陰茎を握っていない手は腿を滑ると患者衣の中にまで侵入してきた。
「っあ…!擽った…っ」
「千紘、集中しろ」
素肌の上を滑る手は何だか少し冷たくて、薄い腹筋を撫でられるとゾクゾクと何かが這い上がる。
硬くなった身体を解すつもりなのか、身体を弄る手と一緒に首筋から耳にかけて、襟ぐりから覗く肌にいくつも唇が降ってくる。
皮膚を撫でる唇は性感帯を探るように触れられ、仕舞いには先程のように耳朶を食べられた。
「っあ…」
外耳を食む湿る音が片側の鼓膜を嬲り、濡らされるその音が脳に響くと、千紘は自分がその音で淫靡な雰囲気に呑み込まれていくのが分かる。
証拠に千紘の陰茎は握る手に反発するように芯を持ち始めていた。
「はっ…んん…」
「上手」
まるでいい子いい子でもするように裏筋を撫でられて腰が前に出てしまう。
褒められることが恥ずかしいけれども、何処か嬉しい気持ちもあって千紘の心は綯い交ぜだ。
「余計な事は考え無くていい」
「頭の中を空にしろ」
千紘が考えていることが分かるのか、言い聞かせてくる言葉も宥める様に触れられる手によって甘いものへ変わっていく。
洗脳されている訳ではないけれど、低く響く声に身体が素直に従ってしまう。
触れられるところが弛緩し、熱くなってくるのは錯覚だろうか。
溢れるものを掬うように先端の窪みを撫でられると、ぬるぬるとした指に誘われるように更にそれは溢れてきてしまう。
張った亀頭は先走りに濡れて、痛みなく隠す皮が降ろされた。
ちゅくちゅくと耳に届くのは水音で、千紘の陰茎から立つ音だというのは明らかであったが、意識は湯あたりした様にどこか遠い。
「千紘」
「ん…っ、…ふ…ッ…」
呼ばれる声に顔を向けると頬にまで統星の唇が触れる。
それが合図の様に身体を浮かし回されて、横抱きのように体位が変わるとしっかりとした胸板が頬に当たり、そこからフワリと覚えのある匂いが鼻を擽る。
甘いそれをもっと嗅ぎたいと頬を擦り寄せて見せると、顎を掬われて触れるように唇が重なった。
ちゅ、と短い口付けのあと再び名前を呼ばれると今度は触れるだけでは無く、統星の薄い唇から差し出された舌が千紘の唇を潤し、隙間から口内へ差し込まれた。
「んん……っ」
口内に溜まった唾液が掬われて絡まると、下肢から響くような水音が頭の中までよく響く。
柔らかくも弾力のある肉の感触に、気付けば夢中になっていた。
片方の腕で縋るように統星の背中に腕を回してシャツを握る。
少し呼吸のタイミングが分からず苦しいけれど、時折息継ぎのためか少し離れて舌先を合わせるのも気持ちがいい。
気付けば千紘の陰茎は完全に勃起し、その手に動きづらいのかたどたどしくも腰を振り統星の手へ擦りつけていた。
一刻前の羞恥心はもうなりを潜め、手前の快感を追うように徐々に上がる手淫の動きに足先がピンッと伸びていく。
「統星さ、ん…イく…っ!」
腰を突き出すように反らして身体が伸び上がり、限界を訴えると堰を切るように尿道口を指腹で弾かれた。
裏返ったような高い声が上がり、透明の壁に白濁した体液が勢いよく飛ぶ。
迫り上がってくるものが迸る感覚に解放感を感じ、輪を作った指で残滓まで搾られると身体はぶるりと震えた。
「はぁ…っはぁ……」
「頑張ったな」
よしよし、と抱え込むように頭を撫でられるのが子供扱いとしても心地良くて「もっと」と強請る声が上がる。
普段であれば享受するだけのものを『もっと欲しい』と思うのは何故か、それにこの脳内から蕩けるようなこの感覚は何だろうか。
知らない感覚だけれど、この手に触れられることが心地が良くて堪らない。
「んん、もっと」
「千紘…」
唸るように名前を呼ばれると再び唇が重なった。
『欲しい』と言葉にしたら統星から香る匂いが急に濃く変わり、その芳醇な香りにまるで強い酒を煽ったようにくらくらと視界が回ってくる。
吸いつかれる舌に吸い付き返すと、口端からは溢れた唾液が滴り落ちる。
その感覚さえもが気持ちよくて、拭わないのが怠惰であると思っても止まらない。
一体自分はどうしてしまったのだろうか、考えたくても濃厚な口付けに酸素が足りないのか、ふわふわと頭は回らず全身から徐々に力が抜けていく。
遠くなる意識の中「千紘」と呼ばれた気がしたが、その心配そうな声にきちんと返事は出来ただろうか。
統星を生殺しにする形で千紘はそのまま意識を手放した。
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