11 / 29
すかうと?
11
しおりを挟む
「…出来ましたよ、大丈夫です?」
「腹痛い」
「気持ちと台詞間違えてません?それ」
フンっと鼻を慣らして言うと呆れたようにルーノが言うが、腹痛いは間違えてはおらぬ。
どうやら無事に術式というのは終わったらしい。
ルーノが言うには、『これは元からある此処の結界に異世界の魔法というものを掛け合わせ、荒らされたりしない様にこれから維持していくもの』と説明された。
展開、という言葉の後一瞬強い光が上がると腹を襲った痛みは軽減し、今は余韻のように痺れの様な痛みが遺るが動けぬ程ではない…けれど、怠い。
力を遣い過ぎた時のように身体が重く、足を投げ出して座り込むと、ぶっきらぼうな返事をしたわしの隣に金髪はわざわざ腰を落としてくる。
じっと向けられる視線を感じて頭上の耳が思わずぴくぴくと動いた。
「あ~…ッやっぱ我慢できない!あぁ…もう!やっぱりきゅーてぃー!可愛いですねえ!」
「な…ッ!?」
「動物の姿のままかと思えば、やっぱり人型にもなれたんですねー!」
ぶわぁああと足先まで一気に全身の毛が逆立つ。
金髪は何か我慢でも弾けたかのような声を上げて突然横から抱き竦めてきたのだ。
予想外な展開に硬直したわしに構わず「しかもちっちゃい男の子!」と兎に角、無遠慮に撫でてくる。
「ええい煩いっ!離さんかっ!阿呆!」
「えー?嫌ですよう…そもそも、術式展開するのは私の仕事じゃなかったんですから!このくらいのご褒美はいいじゃないですかー」
「ご、ごほうび…?」
【あにまるせらぴい】なのだと言って金髪はぎゅうぎゅう、とそんな音が出そうな程にわしを締め上、抵抗をすると駄々を捏ねるような声を上げた。
再び離す様に怒鳴ったが、奴は意に介さず、あろうことにわしの身体を持ち上げると組んだ足の上に乗せてきた。
不本意だが大人の大きさであるこいつに対し、童の大きさであるわしは後ろ向きにすっぽりと金髪の胸に収まってしまう。
ーーーぺろり。
「血、固まってきましたね」
「っひ…!」
ぬるりとした感触が露となっていた首裏の皮膚を這い、喉から引き攣る音が漏れた。
ぞくぞくと肌が粟立ち、硬直してしまう。
あにまるてらぴいというやつを、ルーノが満足し終え離れるまでの我慢だと腹を括り力を抜いたのが悪かった。
「ふふ、可愛いですね」
「っぎゃ!」
更に調子に乗り始めたやつは何を思ったのか、先程傷つけた左腕を取ると傷口を舐めたのだ。
しかもこいつは癒す様に舐めるのではなく、皮膚に空いた小さな穴を見つけると、舌先でグリグリと塞がり始めていた傷口をこじ開けるかの様に押しあて、折角塞ぎ掛かっていた傷口を開き滲み出てくる血を吸い出すように吸い付いてくる。
「い゛…っ、クソ…ッ離せ…!」
「ン……、ほら治りましたよ」
ちゅうちゅう、とまるで赤子が乳を吸うかのような音に耳を伏せ、全身までもが粟立つ感覚に堪らず身を捻り逃げると拘束は思ったよりも早くに解けた。
警戒の色を出し牙を噛み締め喉を使い、威嚇の音を出すとヒト型のせいか、「フーッフーッ」と何故か
気の抜けそうな音が洩れるが気にしない。
ルーノとは距離を取り、冷たい夜着を抱き締めた。
主よ、何故この様に変な輩を置いていったのだ!舐められた所がべとべとしておる……
気持ち悪いと腕を見ると、何故か先程の歯形は綺麗に無くなっていた。
垂れて乾いた血はまだ残ってはいるが、傷口があった箇所は跡形も無くなくなっている。
まじまじと見つめて居れば隣から「キレイになったでしょ?」と言って、いつの間に立っていたのかルーノが覗き込んできた。
慌てて一歩下がり警戒するわしにルーノは何もしないとアピールするように両手を挙げた。
「もうナニもしないですよ。それよりも服、着たらどうですか?もっと触って欲しければ別ですけど…」
「着る!」
「それでは着替えが終わったら契約のお話に入りましょうか」
主のものではあるが手元にはこれしか無い。
夜着を手早く身に付けると、ルーノは「私はスカウトしに来たんですからね」とすっかり頭から抜け落ちてしまっていた話を切り出した。
金髪もとい、ルーノ・ラグナスは異世界という場所にある【ヴァルガスティン帝国】という国で、他世界の神たちに自国へ来ないかと誘いを掛けるのが仕事の一つらしい。
それが【スカウト】らしいのだが、それは所構わず聞いて回っているわけでもないらしく、色々と条件や規約などがあり、今回はそれをクリアしたという事でやって来たのだという。
ただ聞いた中でその条件の1つ、ヴァルガスティンという国は女神が司る国らしくその女神が気に入る相手でなければいけないってのが妙に引っ掛かりはするが、特に争い事もなく平和だと聞けばこの地とも変わりないと思う。
「まぁ、今回は結構特例で貴方の主である沙羅様がうちの女神様に打診してきたのが一番大きいんですけどね」
「…主は眠りながら一体何をしておったんじゃ…」
「信仰心ってのは大事ですから…まぁ、それよりも大事なモノの為らしいですけど」
眠ったまま異世界の女神と交信…主のやることにもう頭がついていかぬ…
頭を抱えたくなる事態に蹲るわしの頭上からは暢気な笑い声を上げたルーノが紙の束を差し出してくる。
「で、これが契約書なんですけど、とりあえず契約する云々の前に国へ渡るだけでも公的な書類が沢山あるんですよねえ…」
差し出された紙の束に思わず詰まる。
けれどこれをどうにかせねば主に言われた異世界とやらには行けぬのだからやるしかない。
ヴァルガスティンへ行くためには仕事が必要で、ヴァルガスティンには寺みたく神殿と呼ばれるものがあり、わしはそこに呼ばれているらしい。
この地を管理するのはわしの仕事の一つだからと、どうやらこの山に帰って来ることは出来るらしい。
ルーノが言うには、ヴァルガスティンに行くのは移住という形ではなく、まずは見てみろという事らしい。
視察…まるでニンゲンのような制度じゃな
呆気に取られるわしをよそ目に、書き終えた書類のサインを確認すると筒状にして書類を懐に仕舞ったルーノがにっこりと笑みを浮かべる。
「…よし、これで大丈夫です。ここ一帯を維持する結界も出来ましたし、行きましょうか」
ーーーー我が国、ヴァルガスティンへ。
「腹痛い」
「気持ちと台詞間違えてません?それ」
フンっと鼻を慣らして言うと呆れたようにルーノが言うが、腹痛いは間違えてはおらぬ。
どうやら無事に術式というのは終わったらしい。
ルーノが言うには、『これは元からある此処の結界に異世界の魔法というものを掛け合わせ、荒らされたりしない様にこれから維持していくもの』と説明された。
展開、という言葉の後一瞬強い光が上がると腹を襲った痛みは軽減し、今は余韻のように痺れの様な痛みが遺るが動けぬ程ではない…けれど、怠い。
力を遣い過ぎた時のように身体が重く、足を投げ出して座り込むと、ぶっきらぼうな返事をしたわしの隣に金髪はわざわざ腰を落としてくる。
じっと向けられる視線を感じて頭上の耳が思わずぴくぴくと動いた。
「あ~…ッやっぱ我慢できない!あぁ…もう!やっぱりきゅーてぃー!可愛いですねえ!」
「な…ッ!?」
「動物の姿のままかと思えば、やっぱり人型にもなれたんですねー!」
ぶわぁああと足先まで一気に全身の毛が逆立つ。
金髪は何か我慢でも弾けたかのような声を上げて突然横から抱き竦めてきたのだ。
予想外な展開に硬直したわしに構わず「しかもちっちゃい男の子!」と兎に角、無遠慮に撫でてくる。
「ええい煩いっ!離さんかっ!阿呆!」
「えー?嫌ですよう…そもそも、術式展開するのは私の仕事じゃなかったんですから!このくらいのご褒美はいいじゃないですかー」
「ご、ごほうび…?」
【あにまるせらぴい】なのだと言って金髪はぎゅうぎゅう、とそんな音が出そうな程にわしを締め上、抵抗をすると駄々を捏ねるような声を上げた。
再び離す様に怒鳴ったが、奴は意に介さず、あろうことにわしの身体を持ち上げると組んだ足の上に乗せてきた。
不本意だが大人の大きさであるこいつに対し、童の大きさであるわしは後ろ向きにすっぽりと金髪の胸に収まってしまう。
ーーーぺろり。
「血、固まってきましたね」
「っひ…!」
ぬるりとした感触が露となっていた首裏の皮膚を這い、喉から引き攣る音が漏れた。
ぞくぞくと肌が粟立ち、硬直してしまう。
あにまるてらぴいというやつを、ルーノが満足し終え離れるまでの我慢だと腹を括り力を抜いたのが悪かった。
「ふふ、可愛いですね」
「っぎゃ!」
更に調子に乗り始めたやつは何を思ったのか、先程傷つけた左腕を取ると傷口を舐めたのだ。
しかもこいつは癒す様に舐めるのではなく、皮膚に空いた小さな穴を見つけると、舌先でグリグリと塞がり始めていた傷口をこじ開けるかの様に押しあて、折角塞ぎ掛かっていた傷口を開き滲み出てくる血を吸い出すように吸い付いてくる。
「い゛…っ、クソ…ッ離せ…!」
「ン……、ほら治りましたよ」
ちゅうちゅう、とまるで赤子が乳を吸うかのような音に耳を伏せ、全身までもが粟立つ感覚に堪らず身を捻り逃げると拘束は思ったよりも早くに解けた。
警戒の色を出し牙を噛み締め喉を使い、威嚇の音を出すとヒト型のせいか、「フーッフーッ」と何故か
気の抜けそうな音が洩れるが気にしない。
ルーノとは距離を取り、冷たい夜着を抱き締めた。
主よ、何故この様に変な輩を置いていったのだ!舐められた所がべとべとしておる……
気持ち悪いと腕を見ると、何故か先程の歯形は綺麗に無くなっていた。
垂れて乾いた血はまだ残ってはいるが、傷口があった箇所は跡形も無くなくなっている。
まじまじと見つめて居れば隣から「キレイになったでしょ?」と言って、いつの間に立っていたのかルーノが覗き込んできた。
慌てて一歩下がり警戒するわしにルーノは何もしないとアピールするように両手を挙げた。
「もうナニもしないですよ。それよりも服、着たらどうですか?もっと触って欲しければ別ですけど…」
「着る!」
「それでは着替えが終わったら契約のお話に入りましょうか」
主のものではあるが手元にはこれしか無い。
夜着を手早く身に付けると、ルーノは「私はスカウトしに来たんですからね」とすっかり頭から抜け落ちてしまっていた話を切り出した。
金髪もとい、ルーノ・ラグナスは異世界という場所にある【ヴァルガスティン帝国】という国で、他世界の神たちに自国へ来ないかと誘いを掛けるのが仕事の一つらしい。
それが【スカウト】らしいのだが、それは所構わず聞いて回っているわけでもないらしく、色々と条件や規約などがあり、今回はそれをクリアしたという事でやって来たのだという。
ただ聞いた中でその条件の1つ、ヴァルガスティンという国は女神が司る国らしくその女神が気に入る相手でなければいけないってのが妙に引っ掛かりはするが、特に争い事もなく平和だと聞けばこの地とも変わりないと思う。
「まぁ、今回は結構特例で貴方の主である沙羅様がうちの女神様に打診してきたのが一番大きいんですけどね」
「…主は眠りながら一体何をしておったんじゃ…」
「信仰心ってのは大事ですから…まぁ、それよりも大事なモノの為らしいですけど」
眠ったまま異世界の女神と交信…主のやることにもう頭がついていかぬ…
頭を抱えたくなる事態に蹲るわしの頭上からは暢気な笑い声を上げたルーノが紙の束を差し出してくる。
「で、これが契約書なんですけど、とりあえず契約する云々の前に国へ渡るだけでも公的な書類が沢山あるんですよねえ…」
差し出された紙の束に思わず詰まる。
けれどこれをどうにかせねば主に言われた異世界とやらには行けぬのだからやるしかない。
ヴァルガスティンへ行くためには仕事が必要で、ヴァルガスティンには寺みたく神殿と呼ばれるものがあり、わしはそこに呼ばれているらしい。
この地を管理するのはわしの仕事の一つだからと、どうやらこの山に帰って来ることは出来るらしい。
ルーノが言うには、ヴァルガスティンに行くのは移住という形ではなく、まずは見てみろという事らしい。
視察…まるでニンゲンのような制度じゃな
呆気に取られるわしをよそ目に、書き終えた書類のサインを確認すると筒状にして書類を懐に仕舞ったルーノがにっこりと笑みを浮かべる。
「…よし、これで大丈夫です。ここ一帯を維持する結界も出来ましたし、行きましょうか」
ーーーー我が国、ヴァルガスティンへ。
0
お気に入りに追加
188
あなたにおすすめの小説
からっぽを満たせ
ゆきうさぎ
BL
両親を失ってから、叔父に引き取られていた柳要は、邪魔者として虐げられていた。
そんな要は大学に入るタイミングを機に叔父の家から出て一人暮らしを始めることで虐げられる日々から逃れることに成功する。
しかし、長く叔父一族から非人間的扱いを受けていたことで感情や感覚が鈍り、ただただ、生きるだけの日々を送る要……。
そんな時、バイト先のオーナーの友人、風間幸久に出会いーー
白銀の城の俺と僕
片海 鏡
BL
絶海の孤島。水の医神エンディリアムを祀る医療神殿ルエンカーナ。島全体が白銀の建物の集合体《神殿》によって形作られ、彼らの高度かつ不可思議な医療技術による治療を願う者達が日々海を渡ってやって来る。白銀の髪と紺色の目を持って生まれた子供は聖徒として神殿に召し上げられる。オメガの青年エンティーは不遇を受けながらも懸命に神殿で働いていた。ある出来事をきっかけに島を統治する皇族のαの青年シャングアと共に日々を過ごし始める。 *独自の設定ありのオメガバースです。恋愛ありきのエンティーとシャングアの成長物語です。下の話(セクハラ的なもの)は話しますが、性行為の様なものは一切ありません。マイペースな更新です。*
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
記憶の欠けたオメガがヤンデレ溺愛王子に堕ちるまで
橘 木葉
BL
ある日事故で一部記憶がかけてしまったミシェル。
婚約者はとても優しいのに体は怖がっているのは何故だろう、、
不思議に思いながらも婚約者の溺愛に溺れていく。
---
記憶喪失を機に愛が重すぎて失敗した関係を作り直そうとする婚約者フェルナンドが奮闘!
次は行き過ぎないぞ!と意気込み、ヤンデレバレを対策。
---
記憶は戻りますが、パッピーエンドです!
⚠︎固定カプです
異世界に来た俺の話
四季織
BL
目が覚めたら、知らない山の中で寝ていた。拾ってくれたのはオルという無口な大男で、オルとお母さんとの生活は異世界というよりサバイバルで原始的な生活だった。
※無口な大男×後ろ向きな平凡
※同性婚の描写があります。R18はぬるめです。
潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話
ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。
悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。
本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ!
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる