こぎちゅねさまっ!

かねざね

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すかうと?

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「…出来ましたよ、大丈夫です?」
「腹痛い」
「気持ちと台詞間違えてません?それ」

フンっと鼻を慣らして言うと呆れたようにルーノが言うが、腹痛いは間違えてはおらぬ。

どうやら無事に術式というのは終わったらしい。
ルーノが言うには、『これは元からある此処の結界に異世界の魔法というものを掛け合わせ、荒らされたりしない様にこれから維持していくもの』と説明された。

展開、という言葉の後一瞬強い光が上がると腹を襲った痛みは軽減し、今は余韻のように痺れの様な痛みが遺るが動けぬ程ではない…けれど、怠い。
力を遣い過ぎた時のように身体が重く、足を投げ出して座り込むと、ぶっきらぼうな返事をしたわしの隣に金髪はわざわざ腰を落としてくる。
じっと向けられる視線を感じて頭上の耳が思わずぴくぴくと動いた。



「あ~…ッやっぱ我慢できない!あぁ…もう!やっぱりきゅーてぃー!可愛いですねえ!」
「な…ッ!?」
「動物の姿のままかと思えば、やっぱり人型にもなれたんですねー!」

ぶわぁああと足先まで一気に全身の毛が逆立つ。

金髪は何か我慢でも弾けたかのような声を上げて突然横から抱き竦めてきたのだ。
予想外な展開に硬直したわしに構わず「しかもちっちゃい男の子!」と兎に角、無遠慮に撫でてくる。

「ええい煩いっ!離さんかっ!阿呆!」
「えー?嫌ですよう…そもそも、術式展開するのは私の仕事じゃなかったんですから!このくらいのご褒美はいいじゃないですかー」
「ご、ごほうび…?」

【あにまるせらぴい】なのだと言って金髪はぎゅうぎゅう、とそんな音が出そうな程にわしを締め上、抵抗をすると駄々を捏ねるような声を上げた。

再び離す様に怒鳴ったが、奴は意に介さず、あろうことにわしの身体を持ち上げると組んだ足の上に乗せてきた。

不本意だが大人の大きさであるこいつに対し、童の大きさであるわしは後ろ向きにすっぽりと金髪の胸に収まってしまう。

ーーーぺろり。

「血、固まってきましたね」
「っひ…!」

ぬるりとした感触が露となっていた首裏の皮膚を這い、喉から引き攣る音が漏れた。
ぞくぞくと肌が粟立ち、硬直してしまう。
あにまるてらぴいというやつを、ルーノが満足し終え離れるまでの我慢だと腹を括り力を抜いたのが悪かった。

「ふふ、可愛いですね」
「っぎゃ!」

更に調子に乗り始めたやつは何を思ったのか、先程傷つけた左腕を取ると傷口を舐めたのだ。
しかもこいつは癒す様に舐めるのではなく、皮膚に空いた小さな穴を見つけると、舌先でグリグリと塞がり始めていた傷口をこじ開けるかの様に押しあて、折角塞ぎ掛かっていた傷口を開き滲み出てくる血を吸い出すように吸い付いてくる。

「い゛…っ、クソ…ッ離せ…!」
「ン……、ほら治りましたよ」

ちゅうちゅう、とまるで赤子が乳を吸うかのような音に耳を伏せ、全身までもが粟立つ感覚に堪らず身を捻り逃げると拘束は思ったよりも早くに解けた。

警戒の色を出し牙を噛み締め喉を使い、威嚇の音を出すとヒト型のせいか、「フーッフーッ」と何故か
気の抜けそうな音が洩れるが気にしない。
ルーノとは距離を取り、冷たい夜着を抱き締めた。

主よ、何故この様に変な輩を置いていったのだ!舐められた所がべとべとしておる……
気持ち悪いと腕を見ると、何故か先程の歯形は綺麗に無くなっていた。

垂れて乾いた血はまだ残ってはいるが、傷口があった箇所は跡形も無くなくなっている。
まじまじと見つめて居れば隣から「キレイになったでしょ?」と言って、いつの間に立っていたのかルーノが覗き込んできた。
慌てて一歩下がり警戒するわしにルーノは何もしないとアピールするように両手を挙げた。

「もうナニもしないですよ。それよりも服、着たらどうですか?もっと触って欲しければ別ですけど…」
「着る!」
「それでは着替えが終わったら契約のお話に入りましょうか」

主のものではあるが手元にはこれしか無い。
夜着を手早く身に付けると、ルーノは「私はスカウトしに来たんですからね」とすっかり頭から抜け落ちてしまっていた話を切り出した。



金髪もとい、ルーノ・ラグナスは異世界という場所にある【ヴァルガスティン帝国】という国で、他世界の神たちに自国へ来ないかと誘いを掛けるのが仕事の一つらしい。
それが【スカウト】らしいのだが、それは所構わず聞いて回っているわけでもないらしく、色々と条件や規約などがあり、今回はそれをクリアしたという事でやって来たのだという。

ただ聞いた中でその条件の1つ、ヴァルガスティンという国は女神が司る国らしくその女神が気に入る相手でなければいけないってのが妙に引っ掛かりはするが、特に争い事もなく平和だと聞けばこの地とも変わりないと思う。

「まぁ、今回は結構特例で貴方の主である沙羅様がうちの女神様に打診してきたのが一番大きいんですけどね」
「…主は眠りながら一体何をしておったんじゃ…」
「信仰心ってのは大事ですから…まぁ、それよりも大事なモノの為らしいですけど」

眠ったまま異世界の女神と交信…主のやることにもう頭がついていかぬ…
頭を抱えたくなる事態に蹲るわしの頭上からは暢気な笑い声を上げたルーノが紙の束を差し出してくる。

「で、これが契約書なんですけど、とりあえず契約する云々の前に国へ渡るだけでも公的な書類が沢山あるんですよねえ…」

差し出された紙の束に思わず詰まる。
けれどこれをどうにかせねば主に言われた異世界とやらには行けぬのだからやるしかない。

ヴァルガスティンへ行くためには仕事が必要で、ヴァルガスティンには寺みたく神殿と呼ばれるものがあり、わしはそこに呼ばれているらしい。
この地を管理するのはわしの仕事の一つだからと、どうやらこの山に帰って来ることは出来るらしい。
ルーノが言うには、ヴァルガスティンに行くのは移住という形ではなく、まずは見てみろという事らしい。
視察…まるでニンゲンのような制度じゃな
呆気に取られるわしをよそ目に、書き終えた書類のサインを確認すると筒状にして書類を懐に仕舞ったルーノがにっこりと笑みを浮かべる。


「…よし、これで大丈夫です。ここ一帯を維持する結界も出来ましたし、行きましょうか」

ーーーー我が国、ヴァルガスティンへ。



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