大嫌いだった同期

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最終話 悔しいけど

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自覚したせいなのか、別の生き物のように心臓は高鳴り、今まで気にしたこともなかった瀧田の匂いにさえ敏感になっていた。

ほんのり甘いような、それでいてキリッとした香り。

瀧田って、こんな香り、つけてたっけ……??



無駄に煩い心臓は、距離を縮めてくる瀧田の顔に、益々おかしくなっていった。このままでは、私の心臓は散々騒いだ挙句に、ピタリと止まってしまうんじゃないだろうか。



それほどまでに、今の私は瀧田に対してみごとに心臓を撃ち抜かれていた。


軽い鈴の音のような短い音を立てて、エレベーターがやっと一階にたどり着いた。

私の目をのぞき込んでいた瀧田の目が離れていく。

ほっとしたような……

名残惜しいような……




壁にもたれたまま、そんな余韻に浸っていると、瀧田が再び私の手を取った。

軽く手を引かれ、エントランスへ足を踏み出した瞬間聞こえてきた言葉に、私はいつもの悔しさが滲み出した。


あの白い歯を見せた瀧田が、後ろの私を
振り返り言った。


「青木…その顔可愛すぎだろ…」


瀧田はそう言うと、すぐ前を向いてエレベーターから降りた。


私はテキーラのような高アルコールでも一気飲みしたように、カァッと血液が一瞬で顔に集まってた。


悔しい……悔しすぎる……!!


瀧田に、心まで持っていかれていたのだ。そんな赤面していた私に瀧田はいつも見たいに笑うのだ。





繋がる手を解くこともせず、私は従順なペットのまま瀧田のあとをチョコチョコとついて行く。



だけど私は悔しくて悔しくて、言った。


「瀧田は私の好きって想いにも笑顔でスルーしてやっぱり完璧で嫌な男だね」


すごく乾いた声だった。

バカな事を言っているのだと今なら分かる。だってさっき真っ赤になっている私をみて笑ったのはきっと彼なりの優しだ。スルーしたのも優しさなのに。


問えば、私が瀧田を好きだって言っちゃうのが分かったから。きっと彼は私に気持ちを言わせないために言葉を変えたのだ。可愛いもお世辞。


全部優しさなのに、悔しいと思っている自分がバカなのだ。

悔しいなんて思うのは彼も私を好きであればいいのにというわがままからだ。

涙が出てきた。

自分の自己中さにも、瀧田に恋をしていたと気がついた瞬間に失恋をしたという事実にも。


だけど立ち止まった彼が私に言った言葉は全く想像していないものだった。


「青木、俺のこと好きなの?」

まさかのそこ!?

え、てことは私のさっきの変態的思考にも気がつかず、ただ赤面していた私の顔を可愛いと言っただけだったの!?


可愛いと言われた事に素直に嬉しいと感じつつも、なんて思わせぶりな男なのだろうとまた悔しさが溢れてきた。


そしてつい口走った「好き」という言葉の恥ずかしさも。



「そうよ!!瀧田の事が好きだって言ったの聞こえなかった??聞き返すとか趣味悪いわよ!」


え?え?私何言ってるのぉぉぉ泣

もうフラれる覚悟をして彼の目を強く見た。


「ご、ごめん。ただまさか青木が俺のこと好きだったなんて思わなくて……」

何やらへにゃへにゃとしている瀧田にまた苛立つ。


「あんたなんなの?そんなに私が瀧田を好きだと面白い?ムカつくやつ……」

そう捲し立てて言う私にまた自分で自分を呪う。私ぃぃぃ!!口が悪すぎるよ!


こんな文句しか言わない可愛げのない女なんてそりゃあモテるわけもないのだ。それまた自分で自分に思い知らせるという自虐行為をしているのだ。あほらしすぎる。


「いや!!そうじゃなくて!!!嬉しくて……」

「は?……」


「俺も青木が好きです。先に言えなくて本当にごめん。俺と付き合ってください」

そう言って私に手を伸ばしてきた瀧田に私は口が閉じられなかった。


「瀧田、私みたいな可愛げのないやつがいいの?嘘でしょ?」


「うん。俺は捻くれてて負けず嫌いの青木が好きだ!」


あのいつも余裕をかましている瀧田が馬鹿みたいに顔を赤くして私にしか見せないといった笑顔をむけている。





それは私が初めて瀧田に勝てた瞬間だった気がした。








終わり
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