カガスタ!~元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト~

中務 善菜

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第六章:役割

74:アップデート

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 朝の気配を感じた。意識が薄っすらと覚醒してくる。……のはいいんだけど、体が重い。なんだろう、この感じ。お腹になにかがのしかかっている。猫? ここ、結構な上階だけど?

「ん、んんん……? ……え? ど、どちらさま……?」

 瞬きをして、ようやくその実態が掴めた。なんていうか……マスコット。ちょっと大きめのぬいぐるみだ。それがなぜか私のお腹に乗っている。っていうか、動いてる。生き物らしい。

 でもこんなビジュアルの生き物いる? 白くてぷにぷに、小さな肢体、お目目はくりくりで、背中には頼りない羽根が生えている。天使かなにか?

 マスコットは私と目が合ったのを確認して、硬直。きみが驚くんだ、なんで?

「えーっと、きみは誰? どこから来たのかな?」

『ご無沙汰しております。霊魂案内所、不慮の事故課のミチクサです』

「……はぇ? ミチクサさん!? なにこの愛くるしい姿!?」

 思わず掴みかかってしまう。引っ張ってみたりしたが、感覚は繋がっていないらしい。特に嫌がられたりはしなかった。彼はどこか訝し気なため息を吐いて話を続ける。

『この度は二度目の人生を謳歌していただき誠にありがとうございます。牧野様がお選びになった能力、“データベース”をアップデートさせていただきたく思い参りました』

「いや謳歌っていうか波乱万丈だったんですけど……でも、アップデート?」

『今回のアップデート内容は“情報収集の上限解放”です。これまでは記述として残っているもののみが対象でしたが、最新のバージョンでは世間の声や特定の単語の会話をリアルタイムで取得できます』

 あ、これもしかして一方的に発信してるな? 通話ならいろいろと叩きつけたい苦情があるが、これなら飲み込むしかない。本当に、利用者の声をフィードバックしなさいよ。どうなってるの霊魂案内所。顧客満足度、絶対低いでしょ。

 でも、アップデートかぁ……“データベース”の仕様って、パソコンとか携帯電話に似てるからね。オペレーションシステムとかあるんでしょう、きっと。内容としては、前よりも情報収集の幅が広がったって話だね。私としてはとてもありがたい。

『また、現在利用しているこちらの端末はプレゼントさせていただきます。ご活用くださいませ』

「活用……? いや、活用って言われても……」

『それでは、引き続き第二の人生をお楽しみください』

 その言葉を最後に、ミチクサさんの声が途絶えた。うーん、本当に一方的だったとは。いつか霊魂案内所宛てに意見を提出してやる。“データベース”って発信機能はないのかなぁ、惜しい。

 それにしても、活用って言ったってこのぬいぐるみになにか機能が備わっているかな? 喋ったりする?

「……も、もしもーし……」

 お目目はくりくり。可愛い目だなぁ、喋ったりできればペットとして癒してもらうこともできただろうに。アラサーの魂じゃぬいぐるみには話しかけられないよ。生前でもそこまで病んでなかったのに。

 ――と、思ったら。ぬいぐるみが瞬きをした。え、嘘、ホラー?

「もしもーし、オハヨ!」

「ワアアアア!? 喋ったぁ!?」

 思わず手放してしまう。こてん、とベッドに転がったぬいぐるみはすぐに起き上がり、怒ったように頬を膨らませた。

「ヒドいなー、タイセツにアツカってよね!」

「え、え、えーっと、ごめんなさい……その、きみは、何者……?」

「“データベース”センヨウのデバイスだよ! シュウシュウしたデータのシュツリョクとかデキるよ! よろしくね!」

 な、なんだろう……いろいろついていけないけど、冷静に考えたらデータの出力ができるってかなり重要なんじゃないか……? 置き土産にしては上等な代物な気がする……。

 他にもできることがあるのかもしれない。でも、ひとまずはそれでいい。となれば、これをどう秘匿するかだが……姿を消したりはできるのかな?

「えっと、見えなくなったりできる……?」

「それはデキない!」

「そっかぁ~……」

 となると、どう説明しようこの子……部屋に軟禁しておこうかな……? いや軟禁って……違う違う、保管? うーん、なんて言えばいいんだろう。そういえば、名前は?

「じゃ、じゃあ名前を聞かせてもらえるかな……?」

「ナマエ? ないよ!」

「そっかぁ~……」

 どう説明すればいいんだこの子……本当に軟禁しておくしかないんじゃないか……いや、軟禁じゃなくて……保管? 保管……とも違うよね、生き物? っぽいもんね……うーん、保護……?

「――リオ、どうした?」

「ぎゃああっ!?」

 現れたるはイアンさん。ノックくらいしなさい! エリオットくんに言ってたでしょう! 自分の発言には責任を持って! 社会人の基本!

 私が突然絶叫したものだから、イアンさんは肩を跳ねさせた。驚いたのは私の方なんですけど!?

「わ、悪い、取込み中だったか?」

「ええ! まさに! 取り込み中です!」

 慌ててデバイスを隠そうとするが、私の手を逃れて挨拶を始める。あ、いい角度でお辞儀するのね。じゃなくて!

「ハジメマシテ!」

「あ? は、初めまして……リオ、こいつは?」

「あ、アッハァ……えーっと……妖精さん、的な?」

 他にどう説明しろと。

 この子が下手に喋る前になにか言わなければ、そう思っての妖精さん。果たしてこれでごまかせるのか?

 イアンさんはというと、なぜか合点がいったように息を漏らした。え、本当に妖精さんっているの? まあ異世界だしいるか。なんだこの偏見。

「へぇ、いいもの憑いてきたんだな」

「い、いいもの……?」

「旅先で連れてきたんだろ、そいつはエルフの里近辺に住んでる精神体だよ。マギ、だったか。人間がそいつに好かれることなんて滅多にないんだぜ?」

「そ、そうなんですね! 私、ラッキーガール!」

 ものすごく頭が悪い言葉が出てしまった。イアンさんがそう言うならそういうことにしておこう。私は人間、マギに好かれたラッキーガール。

 でも待って、エルフの里近辺ってことは、オルフェさんには通じなさそう。やばい。やっぱり軟禁しておこう。

 ぬいぐるみ――マギはまたぷんすこしている。嫌な予感。

「マギじゃないよ! “データベー」

「ワアアアアアァァアァァァア! そうだよね! きみの名前はアミィちゃん! うーん、可愛いお名前! 素敵だね! 名付け親はこの私! ご理解いただけますか!?」

 咄嗟に大声で遮り、マギ――アミィの口を塞ぐ。こうなるとは思った! 情報漏洩の可能性は徹底的に排除しましょう、信頼を失っちゃうからね!

 イアンさんが不審そうにアミィを見つめる。この子はなにも言っていない、いいですね。

「でーたべー……?」

「なんでもないです! ね、アミィちゃーん!?」

 アミィはぽかーんと私を見つめる。それが自分の名前だと理解したのか、元気よく跳ねながらイアンさんに駆け寄った。意外と足が速いな、短いのに。

「アミィちゃん、なんでもないですー!」

「お、おう、そっか……」

 イアンさんもぽかーんとしている。そりゃそうだね。アミィ、会話が通じない。教育すれば学習してくれるかな……? 最低限のコミュニケーションが取れないようじゃ、社会には出せません。新人教育を任された私に死角はない、たとえデバイスだろうがしっかり教え込んで見せる。

 ひとまず、ごまかすことには成功した……? みたいだし、朝食の準備でもしてもっとお茶を濁してみよう。アミィは部屋で待機させて、ね。
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