カガスタ!~元社畜ドルオタの異世界アイドルプロジェクト~

中務 善菜

文字の大きさ
97 / 123
第五章:“星”の欠片

幕間28:牙を剥け

しおりを挟む
 アレンたちと別れ、一人。部屋で天井を見つめる。自然とため息が漏れた。

 あの顔ぶれで父上と出くわしたのは不運だったのではないか、と思う。なにか感づいているかもしれない。問い詰められたらどうする? 正直に伝えるべきか? はぐらかしたとしても、いずれはわかることだ。だが――本当にそれでいいのか、迷いもある。

 この期に及んでまだ迷うのか。自分の臆病さに辟易する。こんな小心者はアレンの隣に立つ資格なんてない。わかっているのに、あと一歩が踏み出せない。

「……僕、弱いのか」

 一人ではなにもできない。己の弱さと向き合うことなんてしてこなかった。ずっと、伯爵子息という肩書に隠れて自分から目を背けていたのだ。

 強くなりたい、そう思う。だが、疑念もある。本気で頑張りたいとアレンには言った。その場の流れ……ではない。そう信じたい。僕は本気で、あいつの隣に立ちたい。だからこそ、いまの僕に出来ることは――

 そのとき、部屋の扉が叩かれる。どうせ父上だろう。呼び込もうとしたが、思い止まる。

 ――この機会を逃してはいけない。

 直感、なんて不確かなもの。だが、揺れる。いま言わなければ――いや、言えなければ。きっと一生言えない。不安や焦りが正しい呼吸を奪う。なにに怯えているんだ。

「……どうぞ」

 意を決し、呼び込む。動かなければなにも変わらない。いまここで僕の意志を貫けなければ、きっと夢を叶えるスタート地点にすら立てない。僕は、歩き出したい。

 アレンと共に夢を見たい。そのためには、あいつの隣に立たなければならないんだ。牙を剥け、爪を立てろ。弱者でもいい、抗え。僕を頭から押さえつける手に噛みつくんだ。

 部屋を訪れたのは、父上。いままで以上に警戒心が強い、すぐにわかった。

「御用は?」

「……なぜ、彼といた?」

 案の定だ。彼、とはイアンさんのことだろう。ごまかすことは容易い。だが、それでは意味がない。伝えなければならないんだ、僕の気持ちを。わかっているのに、心が強張る。

「言えんのか」

「……っ」

 父上の目が険しくなる。ああ、やはり駄目なのか? 僕は弱者、強者の元でしか生きられないような、力のない生き物なのか? 父上の機嫌を取るのを選ぶのか、それとも、僕自身を選ぶのか。選べないのは子供の証、リオはそう言った。

 ――その後、リオはなんて言った?

『迷いが生まれるのは、選択肢が多いから。いまのアーサー様には数えきれないほどの未来がある。無数の可能性から一つを選別することなんて、いまのアーサー様にできるはずがありません』

 僕には可能性――数えきれないほどの未来がある。一つを選ぶことなど出来はしない。

 ならば、僕が選ぶのは? 選ぶべきものは……?

 この答えは効率的ではない。僕らしくない。だが、それでいい。そうでなくては意味がないんだ。真っ直ぐに父上を見据える。気付いただろう、僕の異変に。

「……夢を叶えるため、彼に話をしに行ってきました」

「夢……?」

「僕には夢があります。友が行く道を、隣に立って歩きたい。そのためにイアン様と会う必要がありました」

 不愉快そうに表情を歪める父上。そうなるのは仕方がない。わかっているが、体が震える。怯えるな、睨み付けろ。僕は弱い、だけど――諦められない夢があるんだ。

「僕は、見世物になります。芸能活動を始めたいんです」

「……見世物になるだと? どの口が言っている!」

 ここまで激高した父上は初めて見る。呼吸が止まるが、意識的に吐き出し思考を保つ。親子喧嘩などしたことはないが、これもいい機会だ。分かり合えないなら、分かるまで噛み付けばいい。僕は絶対譲らない。もう決めた。

「他でもない、僕の口が言っています。絶対に譲りません。無論、貴族としての務めも果たします。どちらにも本気で在りたいんです」

「黙れ! 認めんぞ! お前は我が家の跡取りとしてだけ生きていればいいのだ!」

「……っ! 僕は! 人形じゃない! 僕は! 歩いていきたいんだ! あなたには用意できない、自分の道を!」

 怒鳴る僕も初めて見ただろう、父上は一瞬怯んだようだった。僕への教育に隙はなかった。そう思っていたからだ。伯爵子息としての僕は、父上に理想に近かったのだと思う。

 だからこそ、目の届かないところでの出会いは考慮できなかったのだ。リオと会い、アレンと話し――多くの人との出会いが“僕”を形作った。勢いを損なうな、続けろ。

「僕はアレンの夢が叶うのを一番近くで見ていたい! なにも捨てることなく! 全部を選ぶ! 絶対に手は抜かない! だから……!」

「もういい」

 父上の声は低く、冷めていた。心が急速に温度を下げる。感情的になり過ぎたか? なにを考えているだろう、なにを言われるだろう。熱で溶けた恐怖が徐々に形を定めていく。

 深く、長いため息が聞こえた。諦めた――のなら、認めてくれるのか? そんな淡い期待、抱く方が間違いだったんだ。

「責任者のところへ連れて行け」

「は……?」

「私が直々に話をつける」

「父上!」

「すぐに支度をしろ。お前に拒否する権利はない」

 それだけ残して、父上は部屋を出て行った。責任者――リオ、か。商談になると言っていたが、準備は出来ているのか? いいや、整っているわけがない。あまりにも急過ぎる。

 だが、こうなった以上抵抗するのは悪手だ。素直にリオのところへ行くべきだろう。事前に連絡が出来ればいいが――そんな都合のいい代物はない。

 ――僕は、このまま、我を通せるのか……?

 不安が胸を掻きむしる。なんにせよ、身支度を整えなければ。僕の命運は彼女に託された。厚かましいとは思うが――僕を、アイドルにしてほしい。そう願ってしまう。

 =====

 今日は嬉しいことがあった。アーサーが頑張りたいって言ってくれた。なんであんなに捻くれた言い方するんだろう。バカな奴。

 あいつの気持ちを再認識したせいか、浮足立ってるのがわかる。居ても立ってもいられず街へ出ていた。ミカエリア市内は夕飯時でも人が絶えない。繁華街へ繰り出す人もいれば、帰宅の途中でくつろぐ人もいる。

 この人たちを笑顔にできるようなアイドルになれたらな。アーサーと一緒に、それを叶えていきたいと思う。なんとなく、鼻歌を歌ってみる。いままでは即興の歌詞だったけど、これからは決められた歌詞を歌うことになるんだ。ちょっと、わくわくする。

「……うん?」

 視界の端、荒々しく走る馬車が見えた。城の方へ向かっているみたいだけど……っていうか、あの馬、見たことある。見間違えるもんか。あれはランドルフ家の馬車だ。アーサー、伯爵に話したのかな?

 ――でも、あんな急いで走るか? アーサーが一人で走らせているとも思えない。

 悪い方向に話が進んだんだろう。直感だけど、そう感じた。ランドルフ伯爵は市民からの信頼も厚い。そんな人が、平時であれだけ乱暴に馬車を走らせるはずがない。なにかあったと考えるのが妥当だ。

「……っ、間に合うかな?」

 自然と、馬車を追っていた。アーサーの行く手を遮ることはオレの邪魔をするのと同じ。伯爵だって、うちの店を援助していたって関係ない。

 オレたちの夢を邪魔させるもんか。相手が伯爵だとしても、牙を剥いてやる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

最も嫌われている最凶の悪役に転生ー物語の主人公に殺されるエンドを回避するため善行を積みます!ー

灰色の鼠
ファンタジー
大人気ソシャゲの物語の主要人物に転生したフリーターの瀬戸有馬。しかし、転生した人物が冷酷非道の悪役”傲慢の魔術師ロベリア・クロウリー”だった。 全キャラの好感度が最低値の世界で、有馬はゲーム主人公であり勇者ラインハルに殺されるバッドエンドを回避するために奮闘する——— その軌跡が、大勢の人を幸せにするとは知らずに。

処理中です...