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4巻
4-1
しおりを挟む第一章
女神から聖獣の卵を授かり、生涯の相棒として【契約】できる特別な職業――《聖獣使い》。
それこそが俺――レヴィン・エクエスに与えられた【S級天職】だ。
聖獣と心を通わせることができるこの力があれば、将来は安泰。国の要職にだって就けるし、貧乏な故郷、エクエス領の経営の立て直しも可能なはず!
そう思って、同じくS級天職の《神聖騎士》を授かった幼馴染のアリアと共に故郷を旅立ち、宮仕えを始めたのだが……現実はそう甘くなかった。
俺は【聖獣降臨の儀】で小さなトカゲを喚び出してしまい、国王によって祖国、エルウィン王国を追放されてしまったのである。
途方に暮れる俺を救ったのは、召喚したトカゲ――エルフィだった。彼女はなんと、伝説の聖獣である神竜族のお姫様だったのだ。
俺は彼女の紹介で巨大な大陸を背負う神竜、【大陸竜】ことリントヴルムと知り合った。そして彼とも契約し、その背中に拠点を構えることになる。
神竜の二人には、「寂れてしまった竜大陸を再興し、各地に散らばっているであろう同族を見つけたい」という願いがあった。
俺はその望みを叶えるべく、神竜文明の古代技術が眠るこの地を開拓していくことに。
竜大陸に移住してから早数ヶ月……開拓ライフは順調だ。
幼馴染であるアリアはもちろん、隣国クローニアで過酷な戦いを強いられていた《暗黒騎士》の少女――エリスや、俺の家族をはじめとするルミール村の人々を住民に迎え、竜の背はどんどん発展している。
ここで暮らす人々の中には、かつて俺と敵対した者もいる。
猩々と呼ばれる幻獣との出会いによって改心した、《猩獣使い》のアーガスに、悪政を敷き、失脚したエルウィンの元国王のドルカス。母親と共に魔族の実験台にされ、やむを得ず竜大陸を襲撃してきた第三の神竜、スピカ……竜の背では、いろいろな事情を抱えた人間に加えて、魔獣や幻獣、聖獣たちが生きている。
ちなみに、俺が仕えていた頃は悪評が絶えなかったドルカスだが、最近では労働の喜びに目覚め、毎日のように畑を耕しているそうだ。過去の自分の行いを後悔していると聞くから、人とは変わるものである。
さて、近頃の俺はというと、セキレイ皇国を苦しめていた【覇王】の残滓との戦いの後始末に奔走している。
今から三ヶ月ほど前のこと。俺は地上にあるセキレイ皇国を訪れた。魔族の毒に倒れたスピカの母、アイシャさんとクローニアのカール国王を救う手掛かりが、セキレイにあると聞いたからだ。
俺はエルフィ、アリア、エリス、スピカと共に嵐の壁を越え、彼の地へ乗り込んだ。
セキレイは人と鬼人、そして不思議な幻獣――妖怪が暮らす、神秘の国だった。
毒の手掛かりを探す過程で鬼人族の王であるカエデさんと知り合った俺は、この地に住む人々が謎の呪いに悩まされていることを知る。そして、その解決を手伝うことになったのだ。
俺はカエデさんやセキレイの指導者である星王の星蘭さん、謎めいた双子の白星と黒星といったセキレイの人々と共に、呪いの元凶――覇王の残滓に立ち向かった。
覇王の残滓との戦いは厳しく、一時は生死の境を彷徨った俺とアリアだが……エルフィと同じ名を持つ彼女の母――エルフィさんの助力もあり、なんとか回復。
仲間と一緒に覇王の残滓を倒すのであった。
こうして呪いから解放されたセキレイ。実は地上ではなく、俺たちが暮らす竜大陸と同じく、神竜の背の上に興されたこの国のため、俺は《聖獣使い》として、復興に力を貸しているのである。
覇王の残滓を倒したことで、セキレイの民を蝕んでいた呪いは消え去った。
しかし、この地にはまだ課題があった。
長きにわたる呪いの影響で、大地が汚染されてしまっていたのである。
特に、セキレイの北に位置する赤煉ヶ原は酷いものだった。美しい自然を取り戻せたのは極一部で、瘴気が噴き出したり、血のように赤いマグマが流れていたりと、覇王の残滓の影響が色濃く残る。呪いは少しずつ祓われているものの、その速度は非常に遅い。
セキレイが誇る研究機関によると、このペースでは大地が完全に浄化されるまでに、少なくともあと百年はかかるだろうとの見立てだ。
この問題をどうにかすべく、俺は竜大陸……リントヴルムの背中にある【神樹】を活用することにした。
◆ ◆ ◆
都市の中央にある神樹の根元。
ここに星王の星蘭さんをはじめ、祖国エルウィンの王位を継いだゼクスや、療養中の父の名代としてクローニアを率いる王女のエリーゼといった、俺が今まで交流を持った各国のトップが勢揃いしていた。
ゼクスが天高くそびえる神樹を見上げて言う。
「なんとも不思議な話だな。セキレイに存在する大木も、ここの神樹と同種のものなんだろう?」
神樹には竜大陸の気温や天候を調整する力に加え、都市の開拓を進めるための特殊な機能がある。
セキレイは太陰黎帝と呼ばれる神竜……大陸竜の背中にできた国だ。だから彼の国にも【竜樹】という名の神樹が存在した。
「ええ。レヴィンさんから話を聞いて、こちらも調べてみたんですが……神樹は大陸竜の背での暮らしを円滑にするために作られた、神竜文明最大の発明のようです。様々な特殊技術が盛り込まれているみたいなんですが――」
星蘭さん曰く、赤煉ヶ原付近の遺跡から、神竜文明に関する資料がいくつか見つかったそうだ。
それらの資料によると、この木は自然に生み出されたものではなく、神竜の叡智を詰め込んだ人工物であるらしい。
今日まで、俺は神樹由来の都市管理機能を駆使して開拓を進めてきた。
建物や家具、【魔力】によって動く魔導具を自在に設計したり、開発したりできる【仮想工房】や、地上にあったルミール村をまるっと竜の背に運んだ【移住】……神竜文明の技術力が、とんでもなく高いことは分かっている。こうした力が神竜の知恵の結晶だと言われれば、まあ、納得できる話だ。
「――ということで、レヴィンさん。早速、実験を始めましょう」
星蘭さんが本題を切り出した。
実は神樹同士をリンクさせると、その能力や貯蔵している魔力を共有できるそうなのだ。
竜樹の管理権限はカエデさんと星蘭さんに全て譲っているので、俺の独断で実験を行うわけにはいかない。
今回は、実際に神樹と竜樹の同期を試すため、星蘭さんに竜大陸へ来てもらった……という次第だ。
事情を説明すると、エリーゼが首を傾げる。
「えっと……どうしてそんな重要な場面に、わたくしとゼクス陛下が呼ばれたのでしょうか?」
セキレイの王である星蘭さんが同席しているからか、エリーゼは畏まった口調だ。
エルウィンとクローニア、そして竜大陸では、神竜文明の古代技術を解析し、地上でも平和的にその力を利用すべく共同研究を行っている。今日のゼクスとエリーゼは、この取り組みを視察するため、リントヴルムの背を訪れていた。
視察が終わったところを捕まえてここまで連れてきたので、まだ最大の目的を伝えられていなかった。
星蘭さんが補足を入れる。
「長らく覇王の残滓を封じていたことで、我がセキレイの神樹……竜樹は機能不全に陥っています。今回のリンクを通じ、竜樹にかつての性能を取り戻させたいのです。この実験にはもう一つ目的がありまして……実は、竜樹には竜大陸の神樹にはない機能が備わっているみたいなのです。それも、動植物の解析や調薬を得意とするものが」
その言葉で、エリーゼは自分が呼ばれた理由を察したようだ。
「もしかして……」
「エリーゼの父上、カール国王と、スピカの母上――アイシャさんの治療に役立つかもしれないんだ。二人とも目は覚ましたけど、後遺症が酷いだろ? まだろくに起き上がれないようだし……だから、竜樹の力で何かできないかなって」
カール国王たちの身体を蝕んでいた毒は、覇王の残滓の影響で変異したと思しき赤く発光する花に由来する。
その花を採取し、猩々の中でも治療術に長けたカトリーヌさんに依頼して、解毒剤を作ってもらったのだが……二人の体調を完全に回復させるには至っていない。
カトリーヌさんによると、もともとその赤い花には神竜族を昏睡させるほどの毒性はなく、それよりも残滓がもたらす呪いの影響が深刻だという。
引き続き彼女が毒について研究してくれているものの、進捗は芳しくない。せめて成分が特定できれば、二人の身体を癒やすためのアプローチが分かるはずだ。
竜樹にあるという機能が、役に立てばいいのだけど。
「お恥ずかしながら、セキレイの大地は覇王の呪いで汚染されています。それが邪魔をしているのか、竜樹は魔力をうまく貯蔵できずにいるのです。そこで、レヴィンさんの力を借りて二つの神樹を結びつけ、より性能を高めたいと思いまして」
リンクが成功すれば、こちらとしては神樹にはない新機能が使えるようになる。
貯蔵魔力が乏しいセキレイにこっちの魔力を融通できるだろうし、お互いにメリットがある話だ。
「それではレヴィンさん、手を」
俺と星蘭さんは片方の手のひらを神樹に向かって突き出した。
神樹の管理者である俺と、竜樹を任された星蘭さん。双方の同意があれば、リンクできるそうなのだが……
しばらくすると、魔獣を【契約】した時に生じるような青い光が、俺と星蘭さんの腕を結んだ。
――リントヴルムと太陰黎帝のリンクが完了いたしました。新たなコマンド【竜医局】の使用が可能になりました。
懐にしまっていた都市管理用の魔導具からアナウンスが流れ、それと同時に光が消え去る。
「これでいいのでしょうか?」
「多分……?」
星蘭さんに聞かれたが、何せ初めての試みなのでよく分からない。
「試しに、件の変異した花を調べてみましょう」
星蘭さんが袋に入った花びらを取り出した。そして、解析を試みる。
花びらが袋ごと青い光に包まれ、ふわりと宙に浮いた。
――【竜医局】を起動。毒素の解析を開始いたします。
神樹にはなかったコマンドが動き出す。リンク自体はひとまず成功したのか。
しばらく待っていると、突然、光が赤色に切り替わった。
――エラー。データベースが破損しています。ただちに復旧してください。
「どうやら失敗のようですね……『でーたべーす』というのはなんのことでしょうか」
星蘭さんが首を傾げているが、俺も同じ気持ちだ。
これまでも未知の技術を用いたコマンドを使ってきたが、それらは直感的に操作できていた。そのため、詳しい原理を知らなくてもどうにかなっていた。それができないとなると……俺たちにはどうしようもない。
「さすがに古代の魔導具となると手に負えんな。ここは、魔導具技術に詳しい者に任せるしかあるまい」
ゼクスがエリーゼの肩をぽんと叩く。
彼女は大の魔導具好きで、その手の技術を研究している。
神竜文明の産物である以上、簡単には解析できないだろうが……少なくとも素人の俺たちが頭を悩ませるより、ずっと頼れるはずだ。
「うーん、わたくしにできるでしょうか……とりあえず調べてみますね」
かくして、【竜医局】がエラーを起こした原因の調査はエリーゼに託されたのだった。
◆ ◆ ◆
神樹と竜樹をリンクしてから数日が経った頃、エラーの原因はあっさりと解決した。
神樹の前に呼び出された俺を待っていたのは、エリーゼとカトリーヌさんだ。
「答えは実に簡単だったよ、レヴィンくん。新機能には情報が足りなかったみたい」
「情報が足りない……? どういうことだ?」
数日前と違って素の口調で語るエリーゼに、俺は尋ねた。
するとカトリーヌさんが口を開く。
「掻い摘まんで説明しますね。古くから研究者の間では、物質は極めて微小な粒――粒子で構成されているのではないかと考えられてきました。水一つとっても、そこには肉眼では捉えられないほどの小さな小さな粒が集まっています。毒についても同様です」
ふむ。さっぱり分からない。
カトリーヌさんが言っていることが本当なら、俺も粒子とやらでできているのか?
エルフィもアリアもエリスも、みんなブツブツ? 想像するとちょっと怖い。
「古代の神竜たちは粒子の性質や形状などを解き明かし、神樹に情報を記録――データベース化していたようなのです。ただ今は記憶領域の一部が破損しているらしく……結果として分析に失敗し、エラーを起こしたみたいです」
「つまり、神竜たちの研究成果がなくなったから【竜医局】がうまく使えないってことか?」
「その通りです! さすがはレヴィンさん、理解が早いですね」
正直ほとんど話についていけてないが、そう褒められると悪い気はしない。
そういえば、【仮想工房】で豪邸が作れるようになったのは、猩々一の建築家――アントニオが設計図を作ってくれてからだ。それまでは極めてシンプルな作りの建物しか建てられなかった。
【竜医局】もそれと同じで、万全の力を発揮するためには専門知識がいるんだろう。
「という訳で、私は夫と共に、データベースに欠けた情報を入力してみようと思います。私が収集した資料だけでは不十分なので、何か策を考えないと……」
カトリーヌさんは早くもやる気で、何やらブツブツと呟きながら考え込んでいる。
「俺も情報の入力を手伝う……いや、難しいか……」
俺とカトリーヌさんとでは、治療術や植物の生育に関する知識に差がありすぎる。
一応は神樹を管理している立場にありながら助けになれないのが心苦しいが、データベースの復旧に関しては役に立てなさそうだ。引き続き、その道のエキスパートに任せるのが一番だろう。
美味しいご飯を作って差し入れたり、カトリーヌさんとその夫であるアーガスが集中できる環境を整えたり……サポート役に徹しよう。
俺はエリーゼとカトリーヌさんに礼を言い、データベースの復旧を待つことにした。
◆ ◆ ◆
そして、あっという間に一ヶ月が経った。俺はカトリーヌさんとアーガスに頼まれるがままに資料を調達したり、食事を差し入れたりとサポートを続けていた。
どうやら欠けてしまった情報はかなり多いらしく、一ヶ月が経った今でも入力作業は終わっていない。
そんなある日のこと。
「レヴィン殿、少しよろしいでしょうか?」
自宅でカトリーヌさんへの差し入れを用意していると、不意に背後から声を掛けられた。
渋い声と神出鬼没な現れ方。さては……
俺が振り向くと、案の定、人間の姿をしたリントヴルムが立っていた。
「どうしたの? ……あ。もしかして、竜大陸が広がったとか?」
前に竜大陸に海ができた時、確かリントヴルムは人間の姿で報告に来てくれたんだった。
「ご明察です。市場を訪れる観光客が増えたおかげで、私の魔力がさらに回復しました。北部に、新しく寒冷地エリアが解放されたのです」
「寒冷地……ってことは、雪が降っているんじゃないか!?」
俺の質問に、リントヴルムは頷いた。
雪なんてほとんど見たことがないぞ。少し胸が躍る。
「金属資源が豊富で、珍しい魔獣も多いエリアです。ただ、一つ問題が……」
「問題?」
「どうも妙なことになっていまして。レヴィン殿のお力添えで、解決していただきたいのです」
◆ ◆ ◆
数日後。俺とエルフィ、アリア、エリスはリントヴルムの頼みで、新たに拡張された北の寒冷地エリアに来ていた。
リントヴルムに聞いた話では、そこはしんしんと雪が降り積もる秘境……のはずだった。
「ママ‼ 見て‼ 雪だよ、雪‼」
エルフィが勢いよく雪にダイブする。
確かに、噂通りの銀世界ではある。あるのだが……そこは、吹雪が吹きすさぶ極寒の地と化していた。
今まで雪を見る機会がなかったので、感動的な光景だ。しかし、その感動が消し飛ぶほどに寒かった。リントヴルムが言った「妙なこと」とは、この異常気象のことだった。
「ど、どうして、エルフィはあんなに元気なのかな?」
アリアが不思議そうに首を傾げた。
ここを訪れるにあたって、俺たちはしっかり防寒具を身に着けてきた。それでもわずかな服の隙間から容赦なく寒風が襲ってきて、全身が冷えていく。
俺たちが震えているというのに……エルフィだけは積もった雪に飛び込んだり、ごろごろと転がったりして、この寒さをものともせずに遊んでいた。
「昨日、スピカさんが寒冷地エリアの下調べをしてくれましたが……都市に帰ってきた時、かなり凍えてましたよね。神竜族でも個体差があるのでしょうか?」
エリスの言う通り、俺たちより一足早くスピカが寒冷地エリアを訪れ、下見していた。
だが防寒着を纏っていても、スピカはこの寒さに耐えられなかったようなのだ。今日からの探索に同行させるのも可哀想なくらいの震えようだったので、彼女には都市で留守番をしてもらっている。
一方、同じ神竜であるエルフィはご覧の通りのはしゃぎっぷりだ。寒さへの耐性が真逆のようだけど、どうしてだろう。
「理由が分かったかも‼ ヒントは、エルフィとスピカが竜になった時の姿だよ」
アリアが興奮したように手を叩いた。
竜になった時の姿……?
「エルフィちゃんはモフモフした羽毛がある可愛らしい白竜ですよね。スピカさんはエルフィちゃんよりも身体が大きくて、赤い鱗だらけのワイバーンのような見た目でしたが……」
「もしかして、そういうことか?」
エルフィはトカゲのような姿で生まれた。
一般的にトカゲは変温動物……外の気温に合わせて体内温度が変化する生き物だ。しっかりした体温調節機能がないため、外気の影響を受けやすい。
そのため、冬は寒さで動けなくなるものもいる。
てっきり、神竜の生態はトカゲに近いものだと思っていたが……
「確かに、竜になったエルフィはモフッとしてて、羽毛も持ってるんだよなあ。もしかしたら爬虫類というより、恒温動物である鳥類に近いのかもしれない」
神竜の生態には謎が多いから、確かなことは言えないが。
「それにしても、ここを探索するなんて本当に大丈夫かな……遭難しないかな?」
アリアは不安げだ。
吹雪の勢いは凄まじく、一寸先も見えない。
俺たちがここを訪れた理由は、まさにこの猛吹雪にある。
リントヴルムによると、かつての寒冷地エリアはたまに吹雪く日があったものの、今のような暴風雪が何日も続くことはなかったという。
それもそのはず、竜大陸の気候は中央にある神樹によって制御されている。
このエリアも、本来なら積雪量が適度に調整されているはずなのだ。
「神樹の制御を外れた異常気象の原因探しですか。確かに、雪も風もかなり強いですね。雪道に慣れていない私たちがここを進んだら、一瞬で迷ってしまいそうです」
「ああ。だけど、俺たちには神樹の加護があるからな」
幸い、ここは神樹由来の都市管理機能が利用できる竜大陸だ。
雪の中の旅は素人だが、迷った時はいつでも【仮想工房】の力で家を建て、そこに避難できる。いざとなれば、【トランスポートゲート】――転移門を設置して都市まで戻れるし。
リントヴルムの背中だからこそできる探索方法だ。
「とはいえ油断は禁物だ。リントヴルムも言っていたが、この天気は異常だ。はぐれないように気を付けつつ、調査していこう」
こうして、寒冷地エリアの探索が始まった。
「おっと。ここの地面は氷が張ってるみたいだ。もしかしたら湖かも……」
雪をかいては遠くへ放り捨てる。進んでいくと、凍りついた湖面に出た。
湖の結氷は珍しい。少なくとも俺は初めて見る。
「あまり上を通らないように気を付けよう。氷が薄いところだと、急に割れて湖に落ちるかもしれない」
「あれ? 待って、レヴィン。あそこは雪が積もってない」
確かに湖岸の一部だけ、きれいに雪が払われている。どうやら湖の中央に向かって続いているみたいだ。
「なんだか不自然な感じだ。誰かが俺たちみたいに雪かきをしてたのかな」
「でも、誰が……ここは立ち入り禁止のはずですよね?」
エリスが首を傾げるのも無理はない。
寒冷地エリアができたのは、数日前のことだ。こうして気候が乱れていることが判明したので、都市の住民を含む部外者の立ち入りを禁じている。
たくさんの観光客が市場や海エリアのリゾート地に出入りしている竜大陸だから、全員に周知できているかは怪しいが……そもそも、市街地からここまでかなり距離がある。俺たちはエルフィに運んでもらったが、一般人が来るのは難しいだろう。
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