26 / 31
第二章
第14話 演説
しおりを挟む
「皆さんに、お伝えしなくてはいけない事があります」
翌日、旧王城前の広場でラフィリア伯が演説を行っていた。
「先日、私の大切な存在が〝加護なし〟の手によって害されました。私はずっと〝加護なし〟に同情を寄せていました。彼らは自分の力ではどうにもならない運命によって、力なき者として過ごすことを余儀なくされます。そんな彼らが差別されず、健やかに暮らせる社会を作ろうと私は努力しました。ですが、それは間違いだった」
ラフィリア伯がドンと演説台を叩いた。
「彼らは女神から見放された罪深き存在。それは真実だったのです!! 彼らはその心の奥に邪悪な本心を隠し、弱者の振りをし、常に我ら女神の眷属を害することしか考えていない!!」
「そうだそうだ!!」
「〝加護なし〟なんかに生きる権利はねえ!!」
ラフィリア伯をはやし立てるように、男達が大声を張り上げた。
恐らく、オルトが手引きした者達だろう。
〝加護なし〟への差別感情があるからといって、積極的に加害しようという過激な人間はほんの一握りだ。
しかし、この場にはそう言った人間が大勢集まっていた。
「現に〝加護なし〟の集団であるヨトゥン教団は、多くの子ども達を人体実験に用いています。私は真実を見抜く瞳を曇らせたことによって、彼らの本質を見誤り、誤った政策を実行してしまいました。まずは、その事についてエルドリアの市民に謝罪したい」
深々とラフィリア伯が頭を下げた。
強引に〝加護なし〟の保護政策を進めた事を非難する声、ラフィリア伯の謝罪を認める声など、様々な声が聞こえる。
しかし、それらは概ね〝加護なし〟への敵意を露わにしたものであった。
「ここで私は、新たな決意を固めました」
ラフィリア伯が手を挙げると、騎士達が磔にしたライとミレイユを襲った男を広場に連行してきた。
「彼らは私に反抗の意思を表し、私の家族を傷付けた。よって、ここで彼らの処刑を執行することとします。そして、これまでの〝加護なし〟の保護政策を撤回することを宣言いた――」
「ふざけるな!!」
その時、ラフィリア伯に向かって怒号が上がった。
同時に、広場に集まっていた市民達がざわつき出す。
「き、貴様らは……」
ラフィリア伯の視線の先にいたのは、武装した〝加護なし〟の集団であった。
「ラフィリア伯が俺たちを排除しようとしているってのは、本当だったんだな」
「今まで俺たちのことを騙してたんだ。俺たちにだって自由を求める権利があるのに!!」
「所詮、貴族には〝加護なし〟の気持ちなんて分からねえんだ!!」
広場は一触即発という状況であった。
「場もだいぶ煮詰まってきたな」
オルトの用意した煽動者によって、エルドリア市民も〝加護なし〟への怒りを露わにし始めた。
「何が自由だ、劣等人種ども!!」
「そうよ。私の息子を帰して!! 教団に攫われたのよ!!」
このままでは流血の騒ぎへと発展するだろう。
事実、両者は戦闘態勢に入り、徐々に距離を詰め始めた。
「よし、今が頃合いだろう」
両者の武力衝突が今にも起こりそうになった瞬間、俺は拳に炎を込めて空高く舞い上がると、両者が衝突せんとする間に割って入った。
「全員そこまでだ」
炎を纏った拳で地面を殴りつけた余波で、全員が立ち止まる。
「な、なんだこいつは……」
その場にいた者達が、ざわつき始める。
「ついに姿を現したな〝オルト〟」
そんな俺を目にしたオルトが、演説台に現れた。
「ジーク君、もしや彼が?」
「ええ。弟です。今ではすっかり堕ち、僕の名を騙っているようですが」
飽くまでもオルトは設定を忠実に守り通すつもりらしい。
しかし、俺としてもそれは好都合だ。
「皆、聞いて欲しい。僕の名はジークハルト・レイノール。《炎帝》を継ぐ者だ」
オルトがそう宣告すると、市民達が驚きの声をあげた。
《炎帝》の名はこの国で広く知られている。その子息であるジークの存在も、市民にとっても大きいようだ。
「そして、その男は僕の実の弟だ。しかし、女神より加護が与えられなかったために家を追われ、ヨトゥン教団に身をやつした愚か者だ」
「なるほど、俺はヨトゥン教徒って設定か」
「事実その男は、〝加護なし〟でありながら教団の邪法を用いて、他人から加護を奪った。卑劣な人体実験を進めたのだ」
オルトの演説に、エルドリア市民達が怒りを露わにする。
なんとも演説上手なことだ。おかげで完全にヘイトが俺に向き始めている。
「そして、ラフィリア伯爵の娘であるミレイユ殿を、〝加護なし〟に襲わせたのがそこの男だ」
「事実です。オルトという人物に手引きされたと実行犯が自白しました。私はその方が許せません」
オルトの隣に立つのはミレイユだ。
どうやらすっかり、オルトの言葉を信じているようだ。
まあ、仕方ないか。人を丸め込むのがオルトの特技だからな。
「来いよ、オルト。貴様の様な救いようのない愚弟は、兄である僕が責任を持って処分する」
「ああ、それが良いだろうな」
俺はオルトの挑発に乗って壇上に上がる。
これで、オルトの存在は公になった。
今後の俺の幸せな生活のために、理想の展開となった。
「俺たちはどこまで行っても瓜二つだ。その性根を除いてな」
「黙れ。《炎帝》を継げなかった愚か者が」
「なら試してみるか?」
俺は腰から剣を引き抜くと、全身から白炎を放出して剣にまとわせた。
オルトとの対峙に備えて購入した品だ。それなりに金は掛けたので、こうして魔法を纏わせることも出来る。
「チッ……」
俺が炎を扱えるのが気に入らないのか、オルトは舌打ちした。
「見た目で俺たちを見分けることは不可能だ。なら、俺とお前どっちの炎が上回るのか、それが全てだと思わないか?」
「良いだろう。僕こそが真の《炎帝》の後継者であることを、骨の髄にまで分からせてやろう」
こうして、俺たち兄弟は再び、対峙することとなるのであった。
翌日、旧王城前の広場でラフィリア伯が演説を行っていた。
「先日、私の大切な存在が〝加護なし〟の手によって害されました。私はずっと〝加護なし〟に同情を寄せていました。彼らは自分の力ではどうにもならない運命によって、力なき者として過ごすことを余儀なくされます。そんな彼らが差別されず、健やかに暮らせる社会を作ろうと私は努力しました。ですが、それは間違いだった」
ラフィリア伯がドンと演説台を叩いた。
「彼らは女神から見放された罪深き存在。それは真実だったのです!! 彼らはその心の奥に邪悪な本心を隠し、弱者の振りをし、常に我ら女神の眷属を害することしか考えていない!!」
「そうだそうだ!!」
「〝加護なし〟なんかに生きる権利はねえ!!」
ラフィリア伯をはやし立てるように、男達が大声を張り上げた。
恐らく、オルトが手引きした者達だろう。
〝加護なし〟への差別感情があるからといって、積極的に加害しようという過激な人間はほんの一握りだ。
しかし、この場にはそう言った人間が大勢集まっていた。
「現に〝加護なし〟の集団であるヨトゥン教団は、多くの子ども達を人体実験に用いています。私は真実を見抜く瞳を曇らせたことによって、彼らの本質を見誤り、誤った政策を実行してしまいました。まずは、その事についてエルドリアの市民に謝罪したい」
深々とラフィリア伯が頭を下げた。
強引に〝加護なし〟の保護政策を進めた事を非難する声、ラフィリア伯の謝罪を認める声など、様々な声が聞こえる。
しかし、それらは概ね〝加護なし〟への敵意を露わにしたものであった。
「ここで私は、新たな決意を固めました」
ラフィリア伯が手を挙げると、騎士達が磔にしたライとミレイユを襲った男を広場に連行してきた。
「彼らは私に反抗の意思を表し、私の家族を傷付けた。よって、ここで彼らの処刑を執行することとします。そして、これまでの〝加護なし〟の保護政策を撤回することを宣言いた――」
「ふざけるな!!」
その時、ラフィリア伯に向かって怒号が上がった。
同時に、広場に集まっていた市民達がざわつき出す。
「き、貴様らは……」
ラフィリア伯の視線の先にいたのは、武装した〝加護なし〟の集団であった。
「ラフィリア伯が俺たちを排除しようとしているってのは、本当だったんだな」
「今まで俺たちのことを騙してたんだ。俺たちにだって自由を求める権利があるのに!!」
「所詮、貴族には〝加護なし〟の気持ちなんて分からねえんだ!!」
広場は一触即発という状況であった。
「場もだいぶ煮詰まってきたな」
オルトの用意した煽動者によって、エルドリア市民も〝加護なし〟への怒りを露わにし始めた。
「何が自由だ、劣等人種ども!!」
「そうよ。私の息子を帰して!! 教団に攫われたのよ!!」
このままでは流血の騒ぎへと発展するだろう。
事実、両者は戦闘態勢に入り、徐々に距離を詰め始めた。
「よし、今が頃合いだろう」
両者の武力衝突が今にも起こりそうになった瞬間、俺は拳に炎を込めて空高く舞い上がると、両者が衝突せんとする間に割って入った。
「全員そこまでだ」
炎を纏った拳で地面を殴りつけた余波で、全員が立ち止まる。
「な、なんだこいつは……」
その場にいた者達が、ざわつき始める。
「ついに姿を現したな〝オルト〟」
そんな俺を目にしたオルトが、演説台に現れた。
「ジーク君、もしや彼が?」
「ええ。弟です。今ではすっかり堕ち、僕の名を騙っているようですが」
飽くまでもオルトは設定を忠実に守り通すつもりらしい。
しかし、俺としてもそれは好都合だ。
「皆、聞いて欲しい。僕の名はジークハルト・レイノール。《炎帝》を継ぐ者だ」
オルトがそう宣告すると、市民達が驚きの声をあげた。
《炎帝》の名はこの国で広く知られている。その子息であるジークの存在も、市民にとっても大きいようだ。
「そして、その男は僕の実の弟だ。しかし、女神より加護が与えられなかったために家を追われ、ヨトゥン教団に身をやつした愚か者だ」
「なるほど、俺はヨトゥン教徒って設定か」
「事実その男は、〝加護なし〟でありながら教団の邪法を用いて、他人から加護を奪った。卑劣な人体実験を進めたのだ」
オルトの演説に、エルドリア市民達が怒りを露わにする。
なんとも演説上手なことだ。おかげで完全にヘイトが俺に向き始めている。
「そして、ラフィリア伯爵の娘であるミレイユ殿を、〝加護なし〟に襲わせたのがそこの男だ」
「事実です。オルトという人物に手引きされたと実行犯が自白しました。私はその方が許せません」
オルトの隣に立つのはミレイユだ。
どうやらすっかり、オルトの言葉を信じているようだ。
まあ、仕方ないか。人を丸め込むのがオルトの特技だからな。
「来いよ、オルト。貴様の様な救いようのない愚弟は、兄である僕が責任を持って処分する」
「ああ、それが良いだろうな」
俺はオルトの挑発に乗って壇上に上がる。
これで、オルトの存在は公になった。
今後の俺の幸せな生活のために、理想の展開となった。
「俺たちはどこまで行っても瓜二つだ。その性根を除いてな」
「黙れ。《炎帝》を継げなかった愚か者が」
「なら試してみるか?」
俺は腰から剣を引き抜くと、全身から白炎を放出して剣にまとわせた。
オルトとの対峙に備えて購入した品だ。それなりに金は掛けたので、こうして魔法を纏わせることも出来る。
「チッ……」
俺が炎を扱えるのが気に入らないのか、オルトは舌打ちした。
「見た目で俺たちを見分けることは不可能だ。なら、俺とお前どっちの炎が上回るのか、それが全てだと思わないか?」
「良いだろう。僕こそが真の《炎帝》の後継者であることを、骨の髄にまで分からせてやろう」
こうして、俺たち兄弟は再び、対峙することとなるのであった。
92
お気に入りに追加
318
あなたにおすすめの小説

同級生の女の子を交通事故から庇って異世界転生したけどその子と会えるようです
砂糖流
ファンタジー
俺は楽しみにしていることがあった。
それはある人と話すことだ。
「おはよう、優翔くん」
「おはよう、涼香さん」
「もしかして昨日も夜更かししてたの? 目の下クマができてるよ?」
「昨日ちょっと寝れなくてさ」
「何かあったら私に相談してね?」
「うん、絶対する」
この時間がずっと続けばいいと思った。
だけどそれが続くことはなかった。
ある日、学校の行き道で彼女を見つける。
見ていると横からトラックが走ってくる。
俺はそれを見た瞬間に走り出した。
大切な人を守れるなら後悔などない。
神から貰った『コピー』のスキルでたくさんの人を救う物語。


巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

ゲーム世界の1000年後に転生した俺は、最強ギフト【無の紋章】と原作知識で無双する
八又ナガト
ファンタジー
大人気VRMMORPG『クレスト・オンライン』。
通称『クレオン』は、キャラクリエイト時に選択した紋章を武器とし、様々な強敵と戦っていくアクションゲームだ。
そんなクレオンで世界ランク1位だった俺は、ある日突然、ゲーム世界の1000年後に転生してしまう。
シルフィード侯爵家の次男ゼロスとして生まれ変わった俺に与えられたのは、誰もが「無能」と蔑む外れギフト【無の紋章】だった。
家族からの失望、兄からの嘲笑。
そんな中、前世の記憶と知識を持つ俺だけが知っていた。
この【無の紋章】こそ、全てのスキルを習得できる“最強の才能”だということを。
「決まりだな。俺はこの世界でもう一度、世界最強を目指す!」
ゲーム知識と【無の紋章】を駆使し、俺は驚く程の速度で力を身に着けていく。
やがて前世の自分すら超える最強の力を手にした俺は、この世界でひたすらに無双するのだった――
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる