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第二章
第12話 ミレイユの危機
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「さて、状況はある程度まとまったが、これからどう動くか」
既にオルトは動き出した。
一体、どういった風に暗躍しているのか原作では語られなかったが、恐らく原作で起こった事件が立て続けに起こるだろう。
そして、同時に起こるそれらをすぐに阻止することは物理的に難しい。
「まず、愛犬の毒殺か」
この前、冒険者に暴行されていた少年に冤罪を着せられる事件だ。
犬が被害者とはいえ、妻を亡くしたボーマンにとってはかけがえのない存在だ。
その怒りようは凄まじく、自分に尽くしてきたライをあっさりと疑うほどだ。
「そして、もう一つの事件がミレイユか」
原作で〝加護なし〟が起こした事件で印象に残っているのが、ミレイユが襲われるシーンだ。
ミレイユは誰かに話があると呼び出されていた。
オルトが一連の事件に関わっていたのだとすれば、ミレイユを郊外に呼び出したのもオルトのはずだ。
幸いその事件はクライドによって未然に防がれるが、暴走した〝加護なし〟がミレイユを襲った事実は伯爵を激昂させる。
この二つの事件を通じて伯爵は〝加護なし〟への怒りを募らせる。
恐らくその流れはもう止めようがないだろう。
ならばその後で起こる第三の事件、ここで被害を最小限に食い止める形で動くべきだろう。
「既にボーマンの加護は奪った。オルトも邪魔者の存在に気付き始めるだろう」
それは俺にとってはある意味で、好都合な事であった。原作のようにただ、ボーマンを失脚させるだけでは、オルトに対して何も出来ない。
名前と地位を奪われた俺がその立場を取り戻すには、裏で暗躍するオルトを表に引きずり出す必要がある。
「ここはミレイユにどうにかしてもらうか」
彼女は、とても真っ直ぐな女性だ。不器用と言ってもいい。
良くない言い方をしてしまえば、御しやすいとも言える。
オルトを表に引きずり出す為にも彼女に協力してもらうのがいいだろう。
「って、待てよ……今のクライドがミレイユを助けてくれるのか?」
その時、一つの考えが浮かんだ。
原作で、クライドとミレイユは〝加護なし〟への考えで意気投合して、ミレイユはクライドに惹かれ始める。
しかし話を聞くに、現時点でクライドとミレイユの仲は進展していない。
原作では、ミレイユが信頼するクライドに行き先を告げ、そのためにクライドがミレイユの危機に駆けつけるという流れになるのだが、今の状態だとそうならない可能性が高い。
「どこだ……? 一体、どこであのイベントが起きた?」
オルトの計画をどうやって止めるかも大事だが、ここでミレイユを助けることも重要だ。
原作では郊外のどこかで事件が起きたという情報は覚えているが、それが具体的にどこなのかは朧気だ。
他に手掛かりはないか……?
「そもそもオルトはどうやって、ミレイユを呼び出したんだ?」
オルトはその時々に応じて、相手の興味関心を惹く話題を出すのが得意だ。
観察眼と話術に優れていると言っても良い。
恐らく、ミレイユに警戒感を抱かせながらも、来ざるを得ないような話題を提示したはずだ。
今のミレイユが気にしていることと言えば……
「多分、クライドだろうな。原作と違って、クライドとミレイユの仲はうまくいっていない。だが、爵位を継ぐにはクライドと仲を深める必要がある」
そもそもクライドがあの様な状態になった転機は、恐らくアジトでの出来事にあると思う。
《神授の儀》の直前にクライドを見た時は、いつも通りの彼であった。
「確証はない。だが、オルトはクライドが変貌した理由を話したいと言って呼び出したのかもしれない……」
分からない。ほとんど手掛かりはないが、俺は賭けに出るような思いで教団のアジトへと向かう。
*
実際、俺の勘は当たっていた。
そこには、男に組み伏せられたミレイユがいた。
「やっぱり、クライドは来ないのかよ……」
本当に何をやっているんだと呆れる気分だ。
「ジーク様……!?」
「無事かミレイユ?」
まったく、おかしな気分だ。
原作で散々酷い目に遭わせたのに、今は必死に彼女を助けようとしているのだから。
しかも、顔も見られてしまった。オルトがいる以上、顔を合わせる機会は最小限の方が良いのだ。
「あの、これはどういう……? それに話って……?」
「ごめん。時間がないんだ」
いつの間にか、騎士団がこちらに向かっていた。恐らくはオルトが手配したのだろう。
この事件の目的は、ミレイユを酷い目に遭わせると言うよりも、〝加護なし〟に事件を起こさせるというところにあるだろう。
未遂であれなんであれ、騎士団が事件の被疑者が〝加護なし〟だと認知さえすればいい。
「一つだけ言っておく。君をここに呼び出した〝ジーク〟は贋者だ。あいつのことは信用するな」
「え……?」
「これから、エルドリアは転機を迎える。君のこの状況も利用されるはずだ。そして、その裏で糸を引いているのは〝ジーク〟だ」
「その……。そうなると、あなたは一体……?」
「説明する時間が惜しい」
ミレイユはともかく、他の騎士達にまでジークがここにいたと思われるのはまずい。
彼らは、俺が誰か認識できるほどの距離に迫ってきている。
「誰が君をここに呼び出したのか。何故、屋敷で犬が殺されたのかよく考えて欲しい。そして、クライドと協力して事態を解決するんだ」
説明不足なのは自覚している。
しかし、ここでは〝ジーク〟への疑念を植え付けられればそれで十分だ。
クライドの動向が分からない以上、ボーマンを失脚させるという原作での役目は彼女に任せるしかない。
彼女が原作通りの性格であれば、これまで起きた事件、そしてこれから起きる事件を見過ごすはずがないだろう。
それにもう一つの目論見が俺にはあった。
ミレイユは直情的な性格で、駆け引きの類いや隠し事が苦手だ。
まず間違いなく、俺の存在がバレるだろう。だが、今回はそれで良い。
彼女は駆け引きが苦手な分、慎重な面がある。
きっと、あらゆる状況に備えて、俺にとって必要な行動に出てくれるはずだ。
俺は祈るような想いで、ミレイユに託すと、隠遁のスキルで姿を消した。
ややこしい状況になったが、騎士団に顔を見られればより面倒なことになるだろう。
既にオルトは動き出した。
一体、どういった風に暗躍しているのか原作では語られなかったが、恐らく原作で起こった事件が立て続けに起こるだろう。
そして、同時に起こるそれらをすぐに阻止することは物理的に難しい。
「まず、愛犬の毒殺か」
この前、冒険者に暴行されていた少年に冤罪を着せられる事件だ。
犬が被害者とはいえ、妻を亡くしたボーマンにとってはかけがえのない存在だ。
その怒りようは凄まじく、自分に尽くしてきたライをあっさりと疑うほどだ。
「そして、もう一つの事件がミレイユか」
原作で〝加護なし〟が起こした事件で印象に残っているのが、ミレイユが襲われるシーンだ。
ミレイユは誰かに話があると呼び出されていた。
オルトが一連の事件に関わっていたのだとすれば、ミレイユを郊外に呼び出したのもオルトのはずだ。
幸いその事件はクライドによって未然に防がれるが、暴走した〝加護なし〟がミレイユを襲った事実は伯爵を激昂させる。
この二つの事件を通じて伯爵は〝加護なし〟への怒りを募らせる。
恐らくその流れはもう止めようがないだろう。
ならばその後で起こる第三の事件、ここで被害を最小限に食い止める形で動くべきだろう。
「既にボーマンの加護は奪った。オルトも邪魔者の存在に気付き始めるだろう」
それは俺にとってはある意味で、好都合な事であった。原作のようにただ、ボーマンを失脚させるだけでは、オルトに対して何も出来ない。
名前と地位を奪われた俺がその立場を取り戻すには、裏で暗躍するオルトを表に引きずり出す必要がある。
「ここはミレイユにどうにかしてもらうか」
彼女は、とても真っ直ぐな女性だ。不器用と言ってもいい。
良くない言い方をしてしまえば、御しやすいとも言える。
オルトを表に引きずり出す為にも彼女に協力してもらうのがいいだろう。
「って、待てよ……今のクライドがミレイユを助けてくれるのか?」
その時、一つの考えが浮かんだ。
原作で、クライドとミレイユは〝加護なし〟への考えで意気投合して、ミレイユはクライドに惹かれ始める。
しかし話を聞くに、現時点でクライドとミレイユの仲は進展していない。
原作では、ミレイユが信頼するクライドに行き先を告げ、そのためにクライドがミレイユの危機に駆けつけるという流れになるのだが、今の状態だとそうならない可能性が高い。
「どこだ……? 一体、どこであのイベントが起きた?」
オルトの計画をどうやって止めるかも大事だが、ここでミレイユを助けることも重要だ。
原作では郊外のどこかで事件が起きたという情報は覚えているが、それが具体的にどこなのかは朧気だ。
他に手掛かりはないか……?
「そもそもオルトはどうやって、ミレイユを呼び出したんだ?」
オルトはその時々に応じて、相手の興味関心を惹く話題を出すのが得意だ。
観察眼と話術に優れていると言っても良い。
恐らく、ミレイユに警戒感を抱かせながらも、来ざるを得ないような話題を提示したはずだ。
今のミレイユが気にしていることと言えば……
「多分、クライドだろうな。原作と違って、クライドとミレイユの仲はうまくいっていない。だが、爵位を継ぐにはクライドと仲を深める必要がある」
そもそもクライドがあの様な状態になった転機は、恐らくアジトでの出来事にあると思う。
《神授の儀》の直前にクライドを見た時は、いつも通りの彼であった。
「確証はない。だが、オルトはクライドが変貌した理由を話したいと言って呼び出したのかもしれない……」
分からない。ほとんど手掛かりはないが、俺は賭けに出るような思いで教団のアジトへと向かう。
*
実際、俺の勘は当たっていた。
そこには、男に組み伏せられたミレイユがいた。
「やっぱり、クライドは来ないのかよ……」
本当に何をやっているんだと呆れる気分だ。
「ジーク様……!?」
「無事かミレイユ?」
まったく、おかしな気分だ。
原作で散々酷い目に遭わせたのに、今は必死に彼女を助けようとしているのだから。
しかも、顔も見られてしまった。オルトがいる以上、顔を合わせる機会は最小限の方が良いのだ。
「あの、これはどういう……? それに話って……?」
「ごめん。時間がないんだ」
いつの間にか、騎士団がこちらに向かっていた。恐らくはオルトが手配したのだろう。
この事件の目的は、ミレイユを酷い目に遭わせると言うよりも、〝加護なし〟に事件を起こさせるというところにあるだろう。
未遂であれなんであれ、騎士団が事件の被疑者が〝加護なし〟だと認知さえすればいい。
「一つだけ言っておく。君をここに呼び出した〝ジーク〟は贋者だ。あいつのことは信用するな」
「え……?」
「これから、エルドリアは転機を迎える。君のこの状況も利用されるはずだ。そして、その裏で糸を引いているのは〝ジーク〟だ」
「その……。そうなると、あなたは一体……?」
「説明する時間が惜しい」
ミレイユはともかく、他の騎士達にまでジークがここにいたと思われるのはまずい。
彼らは、俺が誰か認識できるほどの距離に迫ってきている。
「誰が君をここに呼び出したのか。何故、屋敷で犬が殺されたのかよく考えて欲しい。そして、クライドと協力して事態を解決するんだ」
説明不足なのは自覚している。
しかし、ここでは〝ジーク〟への疑念を植え付けられればそれで十分だ。
クライドの動向が分からない以上、ボーマンを失脚させるという原作での役目は彼女に任せるしかない。
彼女が原作通りの性格であれば、これまで起きた事件、そしてこれから起きる事件を見過ごすはずがないだろう。
それにもう一つの目論見が俺にはあった。
ミレイユは直情的な性格で、駆け引きの類いや隠し事が苦手だ。
まず間違いなく、俺の存在がバレるだろう。だが、今回はそれで良い。
彼女は駆け引きが苦手な分、慎重な面がある。
きっと、あらゆる状況に備えて、俺にとって必要な行動に出てくれるはずだ。
俺は祈るような想いで、ミレイユに託すと、隠遁のスキルで姿を消した。
ややこしい状況になったが、騎士団に顔を見られればより面倒なことになるだろう。
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