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第二章
第10話 オルトの目的
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さて、どうやら既に、オルトはボーマンの信頼を勝ち取り、暗躍を始めていたようだ。
結局、彼の目的も、何をしでかすつもりなのかもはっきりとは分からなかった。
それにしても……
俺はボーマンの方へと視線をやる。
だらしない表情で奴隷達に奉仕させるその姿は醜悪な豚そのものだ。
しかし、同時に違和感も抱く。
「必ず、旦那様に相応しい恋人になれるように努力しますから、絶対に私のことを見捨てないでくださいね」
どういう訳か、奴隷達はボーマンに対して嫌悪感を露わにしていなかった。
それどころか、進んで自らボーマンに奉仕しているように見えた。
恋人……一体、何の冗談だと思うが、ようやく合点がいった。
お世辞にもボーマンは魅力的な男性ではない。
でっぷりと太った体型に、体臭は凄まじく、まるでオークのような男だ。
そんな彼に、嫌悪感一つ表さないで彼女達が従うのは、恐らく彼の加護の力によるものだろう。
だが、他人の意志を操る加護なんてあり得るのか……?
俺の加護も大概だが、洗脳の加護があるとしたらあまりにも常軌を逸している。
それを手にした時点で、身の回りのことは何でも思い通りに出来てしまう。
気に入らない相手を屈服させ、権力者を従わせ、敵対するものに靴を嘗めさせることで、国を操ることだって出来るだろう。
恐らく、先ほどのボーマンの口ぶりから、恐らく制限があるんだろう。加護を奪うにしても、それを探る必要があるな。
俺が加護を奪うのは、救いようのない悪人だけだ。
その点、ボーマンは禁じられた奴隷売買に手を染め、己の加護を悪用して〝加護なし〟を隷属させているため、躊躇する必要はないだろう。
しかし、加護の運用方法が分からない以上は、慎重に動きたい。
拷問で、ボーマンの持つ加護について吐かせるという手段もあるが、そんな手を使えば、すぐにオルトに情報が伝わり警戒されるのは必至だ。
口惜しいが、今は情報収集に徹しよう。
何とかボロを出さないかとボーマンを観察する。
奴隷に奉仕をさせる様を、黙って見続けるのは不愉快だが、せめて加護の正体を知らなければ。
「フフ……しかし、まさかこの様な機会に恵まれるとはな」
ボーマンは興奮していた。
この様な機会というのはミレイユのことだろうか。
確か原作でもこの男はミレイユに執着していた。ミレイユの美しさに執着する男は数多くいるが、中でもボーマンの執着っぷりは凄まじかった。
クライドとミレイユがこの街で経験した事件では、徹底的にミレイユをつけ回し、彼女を何としても己の手にしようと暗躍していた。
「わしの貧弱な魔力では、〝加護なし〟以外に《魅了》の加護は効かぬ。ミレイユの事も諦めておったが、まさかジーク君という協力者を得られるとは実に幸運なことだ」
そうか。ボーマンの加護というのは《魅了》だったのか。
なるほど。そりゃ制限がキツいな。
《魅了》の効果は知っている。
発動した相手に、自分への好意を抱かせるものだ。
対象は異性相手に限られ、効果は永続するが魔力が低いと成功せず、解除方法もたくさんある。
更に言うと、加護が使えるのは月に一度一人にだけで、発動方法も相手に口付けをするというハードルの高いものだ。
汎用性はあまりないが、ボーマンはそれを自分の欲望を満たすために使っていたという訳か。
《魅了》の加護を持つ者のほとんどは魔力も低い。
ボーマンが〝加護なし〟の奴隷売買に執着するのも、魔力の少ない自分が好きに出来る数少ない相手だからか。
だがそうなるとミレイユには通じない。
しかし、オルトの口ぶりだと何か秘策があるようだが……まさか!?
その時、頭の中で点と線が繋がった。
そうかそういうことだったのか……鍵はクライドの加護だ。
クライドの加護は俺によく似ている。
《女神の慈愛》と呼ばれるもので、俺が他人の加護を奪うのに対して、クライドは仲間と加護を共有することが出来る。
同時に共有できるのは四人までで、一つの加護につきスキルも一つしか共有できないという制限がある。
例えばリヴィエラの加護《聖女の癒やし》を習得すると、癒やしの魔法が使えるようになる《神聖魔法》や一定の割合で常に体力が回復する《自動回復》、瀕死時に完全回復して戦線に復帰できる《蘇生》といったスキルを入手することができる。
これをクライドの加護で共有しても、そう言ったスキルの一つしか使えるようにはならないのだ。
だがオルトからすれば、《魅了》のスキルが使えるようになればそれでいいというわけだ。
原作でアイリスは、オルトがジークを騙る偽物であると見抜く。
しかしその後、精神を操作されて、オルトのことを本物のジークだと思い込まされてしまう。
その方法は具体的に語られず、何らかの催眠であるとしか分からなかった。
しかし、今その方法が明らかになった。
《魅了》の力でアイリスを従わせる気だ。
オルトはクライドに頼んでボーマンのスキルを借り受ける。
そして、それを利用してアイリスを洗脳したのだ。
《炎帝》の力を受け継ぐオルトの魔力があれば、如何なアイリス相手でも発動は容易い。
そしてオルトは、この世界でもボーマンの力を借りるために暗躍している。
なにせ《魅了》持ちはこの世界でも希少なのだ。そう簡単に見つかるはずがない。
だからこそ、オルトもボーマンのために手を尽くすのだ。
「そんなことさせるものか」
これでオルトの目的がようやく分かった。
なら俺は、この街でオルトの目論見を破り、決着を付ける必要がある。
そうでなくては、アイリスは奴の好きにされてしまう。
俺は前世の記憶を思い起こす。
――ごめんなさい、ジーク。あなたという人が居ながら、私は贋者に身体を許してしまった……もう、あなたとは居られないわ。
アイリスは自責の念から、自死を選んだ。
ジークがこの世界を呪った最大の出来事だ。
「……待っていてくれ、アイリス。俺の人生では絶対にあんな目に遭わせない」
だが、今の俺はオルトの目論見を知った。
ならば、ここでも運命を変えさせてもらう。
リヴィエラの時のように、また何か大きな変化が起こるかもしれない。
しかし、それでもやる。アイリスの命に替えられるものなど何も無いのだから。
改めて決意をすると、俺はナイフをボーマンに突き立てた。
「あがっ……ぐっ……な、何が……!?」
姿の見えない俺の攻撃に、ボーマンの顔が恐怖に染まる。
「その加護は俺がもらう。貴様のような下衆が好き勝手に使って良い物じゃない」
ゆっくりとボーマンの傷口に触れると、俺はボーマンの加護を奪い去るのであった。
これでオルトは、今すぐアイリスに手を出すことは出来なくなる。
さあ、これが手始めだ。
これからオルトの野望を、徹底的に台無しにしてやろう。
結局、彼の目的も、何をしでかすつもりなのかもはっきりとは分からなかった。
それにしても……
俺はボーマンの方へと視線をやる。
だらしない表情で奴隷達に奉仕させるその姿は醜悪な豚そのものだ。
しかし、同時に違和感も抱く。
「必ず、旦那様に相応しい恋人になれるように努力しますから、絶対に私のことを見捨てないでくださいね」
どういう訳か、奴隷達はボーマンに対して嫌悪感を露わにしていなかった。
それどころか、進んで自らボーマンに奉仕しているように見えた。
恋人……一体、何の冗談だと思うが、ようやく合点がいった。
お世辞にもボーマンは魅力的な男性ではない。
でっぷりと太った体型に、体臭は凄まじく、まるでオークのような男だ。
そんな彼に、嫌悪感一つ表さないで彼女達が従うのは、恐らく彼の加護の力によるものだろう。
だが、他人の意志を操る加護なんてあり得るのか……?
俺の加護も大概だが、洗脳の加護があるとしたらあまりにも常軌を逸している。
それを手にした時点で、身の回りのことは何でも思い通りに出来てしまう。
気に入らない相手を屈服させ、権力者を従わせ、敵対するものに靴を嘗めさせることで、国を操ることだって出来るだろう。
恐らく、先ほどのボーマンの口ぶりから、恐らく制限があるんだろう。加護を奪うにしても、それを探る必要があるな。
俺が加護を奪うのは、救いようのない悪人だけだ。
その点、ボーマンは禁じられた奴隷売買に手を染め、己の加護を悪用して〝加護なし〟を隷属させているため、躊躇する必要はないだろう。
しかし、加護の運用方法が分からない以上は、慎重に動きたい。
拷問で、ボーマンの持つ加護について吐かせるという手段もあるが、そんな手を使えば、すぐにオルトに情報が伝わり警戒されるのは必至だ。
口惜しいが、今は情報収集に徹しよう。
何とかボロを出さないかとボーマンを観察する。
奴隷に奉仕をさせる様を、黙って見続けるのは不愉快だが、せめて加護の正体を知らなければ。
「フフ……しかし、まさかこの様な機会に恵まれるとはな」
ボーマンは興奮していた。
この様な機会というのはミレイユのことだろうか。
確か原作でもこの男はミレイユに執着していた。ミレイユの美しさに執着する男は数多くいるが、中でもボーマンの執着っぷりは凄まじかった。
クライドとミレイユがこの街で経験した事件では、徹底的にミレイユをつけ回し、彼女を何としても己の手にしようと暗躍していた。
「わしの貧弱な魔力では、〝加護なし〟以外に《魅了》の加護は効かぬ。ミレイユの事も諦めておったが、まさかジーク君という協力者を得られるとは実に幸運なことだ」
そうか。ボーマンの加護というのは《魅了》だったのか。
なるほど。そりゃ制限がキツいな。
《魅了》の効果は知っている。
発動した相手に、自分への好意を抱かせるものだ。
対象は異性相手に限られ、効果は永続するが魔力が低いと成功せず、解除方法もたくさんある。
更に言うと、加護が使えるのは月に一度一人にだけで、発動方法も相手に口付けをするというハードルの高いものだ。
汎用性はあまりないが、ボーマンはそれを自分の欲望を満たすために使っていたという訳か。
《魅了》の加護を持つ者のほとんどは魔力も低い。
ボーマンが〝加護なし〟の奴隷売買に執着するのも、魔力の少ない自分が好きに出来る数少ない相手だからか。
だがそうなるとミレイユには通じない。
しかし、オルトの口ぶりだと何か秘策があるようだが……まさか!?
その時、頭の中で点と線が繋がった。
そうかそういうことだったのか……鍵はクライドの加護だ。
クライドの加護は俺によく似ている。
《女神の慈愛》と呼ばれるもので、俺が他人の加護を奪うのに対して、クライドは仲間と加護を共有することが出来る。
同時に共有できるのは四人までで、一つの加護につきスキルも一つしか共有できないという制限がある。
例えばリヴィエラの加護《聖女の癒やし》を習得すると、癒やしの魔法が使えるようになる《神聖魔法》や一定の割合で常に体力が回復する《自動回復》、瀕死時に完全回復して戦線に復帰できる《蘇生》といったスキルを入手することができる。
これをクライドの加護で共有しても、そう言ったスキルの一つしか使えるようにはならないのだ。
だがオルトからすれば、《魅了》のスキルが使えるようになればそれでいいというわけだ。
原作でアイリスは、オルトがジークを騙る偽物であると見抜く。
しかしその後、精神を操作されて、オルトのことを本物のジークだと思い込まされてしまう。
その方法は具体的に語られず、何らかの催眠であるとしか分からなかった。
しかし、今その方法が明らかになった。
《魅了》の力でアイリスを従わせる気だ。
オルトはクライドに頼んでボーマンのスキルを借り受ける。
そして、それを利用してアイリスを洗脳したのだ。
《炎帝》の力を受け継ぐオルトの魔力があれば、如何なアイリス相手でも発動は容易い。
そしてオルトは、この世界でもボーマンの力を借りるために暗躍している。
なにせ《魅了》持ちはこの世界でも希少なのだ。そう簡単に見つかるはずがない。
だからこそ、オルトもボーマンのために手を尽くすのだ。
「そんなことさせるものか」
これでオルトの目的がようやく分かった。
なら俺は、この街でオルトの目論見を破り、決着を付ける必要がある。
そうでなくては、アイリスは奴の好きにされてしまう。
俺は前世の記憶を思い起こす。
――ごめんなさい、ジーク。あなたという人が居ながら、私は贋者に身体を許してしまった……もう、あなたとは居られないわ。
アイリスは自責の念から、自死を選んだ。
ジークがこの世界を呪った最大の出来事だ。
「……待っていてくれ、アイリス。俺の人生では絶対にあんな目に遭わせない」
だが、今の俺はオルトの目論見を知った。
ならば、ここでも運命を変えさせてもらう。
リヴィエラの時のように、また何か大きな変化が起こるかもしれない。
しかし、それでもやる。アイリスの命に替えられるものなど何も無いのだから。
改めて決意をすると、俺はナイフをボーマンに突き立てた。
「あがっ……ぐっ……な、何が……!?」
姿の見えない俺の攻撃に、ボーマンの顔が恐怖に染まる。
「その加護は俺がもらう。貴様のような下衆が好き勝手に使って良い物じゃない」
ゆっくりとボーマンの傷口に触れると、俺はボーマンの加護を奪い去るのであった。
これでオルトは、今すぐアイリスに手を出すことは出来なくなる。
さあ、これが手始めだ。
これからオルトの野望を、徹底的に台無しにしてやろう。
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