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第二章
第8話 簒奪
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その晩、俺は前世の記憶については伏せながら、今の状況をリヴィエラに伝えることにした。
「アイリス様がこの街に……」
「ああ。どうやら、オルトと一緒にいるみたいだ」
急に、不安になってきた。
まさか、アイリスまでこの街にいたなんて。
アイリスは簡単にオルトに騙されるような人じゃない。
しかし、オルトもまた、アイリスが自分の正体に気付き始めていることを悟り、強引な手段で彼女を屈服させようとする。
原作でそのイベントが起きるのは、当分先のことだが、クライドのことを始め、俺の知らないところで徐々に歴史が変わり始めている。
それなら、アイリスがオルトの手に落ちるイベントが前倒しになる可能性もあるのでは……?
そう思うと、無性に不安になってきた。
「オルトという方は、一体どういう方なのですか?」
「そうだな……」
彼の境遇と、俺なりに考察した性格を説明する。
オルトは極度のマザーコンプレックスを拗らせており、その母を失った経験から、自分の欲する物に極度の執着を抱く。
そして、それを手に入れるためにはどんな手段も用いるというのがオルトという男だ。
「それと。あいつは、幸福な人間や善人を堕落させ、破滅させることに強くこだわる」
「それもお母様を亡くされた影響ですか?」
「いや……それは多分、あいつの元からの性な気がする」
その境遇には同情するところもあるが、一方で根本的に性根が破綻しているようにも見られる。
原作でもジークが地位を取り戻した後も、オルトは生き延びて、様々な暗躍を続けた。
特に人間の後ろ暗い部分を刺激して、悪事に手を染めさせるという手段を好んでいた。
「もしかして、クライド兄様は……」
「ああ。オルトに何か吹き込まれた可能性があるな」
原作とは違う、クライドの変化に一枚噛んでいる可能性は十分に考えられる。
「それに、アイリス様に酷いことをする可能性も……」
「ああ」
帝都に戻ってオルトと対峙することを想定していたが、もしかしたらここで奴との決着を付ける必要があるかもしれない。
「オルトは一体何を考えているんだ?」
この街でのオルトの動きについては情報はないが、ミレイユの叔父についてはよく分かっている。
彼には、〝加護なし〟の奴隷売買の合法化によって利益を得る目的と、自らラフィリア伯爵の位を継ぐという野望を抱えている。
また、ミレイユ自身に特別な執着を抱いており、叔父と姪の関係ながらミレイユと婚姻を結ぼうとも画策している。
そんな彼にオルトが接触を図っているのは極めて不穏だ。
加えて、本来それらの事件はミレイユとクライドが協力して解決するはずだったのだが、今のクライドがどう動くのかよく分からないという点もある。
「あの……兄様」
「どうしたんだ?」
「なんだか、物音のような物が聞こえませんか?」
リヴィエラに言われて耳を澄ませる。
すると、ガタッガタッという音が聞こえてきた。
「本当だ。これは風呂場の方か……?」
俺は音の方へと向かう。すると……
「……あなたは?」
そこにいたのは、先ほど広場で暴れてた金髪の冒険者だった。
「マジで何やってるんだ……」
「いえ、何も」
よく見るとその手に、リヴィエラが穿いていた下着が握られていた。
「よし、処そう。生かしてはおけない」
リヴィエラに手を出すなと言っておいたのに、随分と嘗めた真似をしてくれたものだ。
「ま、待て、待ってください。ほんの出来心だったんだ。その娘があまりにも美しいものだから」
正真正銘のロリコンじゃないか。〝加護なし〟にも暴行を働いていたし、本当に救いようがない……
「お願いします。許してください!!!!」
許す理由が欠片もないのだが。
というか、こいつはどうやってここに忍び込んだんだ?
「……待ってください。もしかして、あなた隠遁の加護を持ってたりしますか?」
「え? は、はい。姿を消すのは得意です」
物音は立てるが姿は消せると。
加護のレベルは低いみたいだが、なるほどこれは渡りに船かもしれない。
「命までは取りません。ただし……」
俺はナイフを取り出して、冒険者に傷を付ける。
「ひっ、何を……」
「じっとしててください」
そして傷口に触れる。
これだけで、加護を奪うことが出来る。
さて、俺の加護は別に加護を奪わずとも複製することも出来る。
つまり、この男から隠遁の加護を奪わなくてもするのだが……
「いや、待てよ。こいつの顔、どこかで見覚えが……」
しばらく思案する。すると、徐々に記憶が鮮明になってきた。
「容姿が微妙に変わってるから気付かなかったが、よくよく考えたらこの小者っぷり、間違いないな」
作中で登場するのはジークが大人になってからなので、容姿が微妙に違っていて、最初気付かなかったが、彼は原作でも登場した人物だ。
といっても、その時の彼は心強い味方でも何でもなかった。ただ、敵陣営の権力に媚びへつらい、その権力を活かして集めた〝加護なし〟の少女達を欲望のままに犯すという、最低の敵役としての登場であった。つまり、根っからのロリコンで犯罪者だ。
ここ数日、この男はリヴィエラに執着を見せてきたが、恐らく彼女がよほど気に入ったからなのだろう。
つまり、この男に情けを掛ける必要など最初からなかったということだ。
「警告は既にしました。しかし、あなたはそれを破った」
ならばもう、躊躇する理由はない。
「そ、それは……ほ、ほんの出来心だったんですよ!!」
こいつの出来心は一体いくつあるんだ。
「問答は無用です。あなたには、残りの人生を一生〝加護なし〟として過ごしてもらいます」
「そ、それはどういう……ぶへっ」
俺は返事も待たずに冒険者を気絶させる。
この世界において加護は絶対的なものだ。
それを奪われることは社会的に死ぬことと同じだ。
しかし、あのヨトゥン教徒やこの男のように、救いようのない人物も存在する。
そう言った手合いが相手なら容赦はしない。俺は容赦なくその加護を奪ってやる。
さて、既に彼の加護は奪い去った。これで姿や気配を隠すといった、隠遁のスキルが使えるようになった。
「リヴィエラ、もう大丈夫だ。中にいたのは悪い虫だったみたいだ」
事を終えた俺はリヴィエラに安全を知らせて、安心させる。
「ほ、本当ですか? 私、虫が苦手なんです。外に放してもらっていいですか?」
「ああ……」
俺は冒険者を担ぎ上げる。まあ、このまま窓から放り投げても良いのだが、それは流石に勘弁してやろう。
風呂場から出てきた俺の様子に目を丸くさせるリヴィエラをよそに、俺は冒険者をホテルの警備に引き渡した。
この後は、騎士団に連れて行かれて、なんらかの処罰を受けるだろう。
折角、ミレイユに見逃してもらったのに、あーあ。
「アイリス様がこの街に……」
「ああ。どうやら、オルトと一緒にいるみたいだ」
急に、不安になってきた。
まさか、アイリスまでこの街にいたなんて。
アイリスは簡単にオルトに騙されるような人じゃない。
しかし、オルトもまた、アイリスが自分の正体に気付き始めていることを悟り、強引な手段で彼女を屈服させようとする。
原作でそのイベントが起きるのは、当分先のことだが、クライドのことを始め、俺の知らないところで徐々に歴史が変わり始めている。
それなら、アイリスがオルトの手に落ちるイベントが前倒しになる可能性もあるのでは……?
そう思うと、無性に不安になってきた。
「オルトという方は、一体どういう方なのですか?」
「そうだな……」
彼の境遇と、俺なりに考察した性格を説明する。
オルトは極度のマザーコンプレックスを拗らせており、その母を失った経験から、自分の欲する物に極度の執着を抱く。
そして、それを手に入れるためにはどんな手段も用いるというのがオルトという男だ。
「それと。あいつは、幸福な人間や善人を堕落させ、破滅させることに強くこだわる」
「それもお母様を亡くされた影響ですか?」
「いや……それは多分、あいつの元からの性な気がする」
その境遇には同情するところもあるが、一方で根本的に性根が破綻しているようにも見られる。
原作でもジークが地位を取り戻した後も、オルトは生き延びて、様々な暗躍を続けた。
特に人間の後ろ暗い部分を刺激して、悪事に手を染めさせるという手段を好んでいた。
「もしかして、クライド兄様は……」
「ああ。オルトに何か吹き込まれた可能性があるな」
原作とは違う、クライドの変化に一枚噛んでいる可能性は十分に考えられる。
「それに、アイリス様に酷いことをする可能性も……」
「ああ」
帝都に戻ってオルトと対峙することを想定していたが、もしかしたらここで奴との決着を付ける必要があるかもしれない。
「オルトは一体何を考えているんだ?」
この街でのオルトの動きについては情報はないが、ミレイユの叔父についてはよく分かっている。
彼には、〝加護なし〟の奴隷売買の合法化によって利益を得る目的と、自らラフィリア伯爵の位を継ぐという野望を抱えている。
また、ミレイユ自身に特別な執着を抱いており、叔父と姪の関係ながらミレイユと婚姻を結ぼうとも画策している。
そんな彼にオルトが接触を図っているのは極めて不穏だ。
加えて、本来それらの事件はミレイユとクライドが協力して解決するはずだったのだが、今のクライドがどう動くのかよく分からないという点もある。
「あの……兄様」
「どうしたんだ?」
「なんだか、物音のような物が聞こえませんか?」
リヴィエラに言われて耳を澄ませる。
すると、ガタッガタッという音が聞こえてきた。
「本当だ。これは風呂場の方か……?」
俺は音の方へと向かう。すると……
「……あなたは?」
そこにいたのは、先ほど広場で暴れてた金髪の冒険者だった。
「マジで何やってるんだ……」
「いえ、何も」
よく見るとその手に、リヴィエラが穿いていた下着が握られていた。
「よし、処そう。生かしてはおけない」
リヴィエラに手を出すなと言っておいたのに、随分と嘗めた真似をしてくれたものだ。
「ま、待て、待ってください。ほんの出来心だったんだ。その娘があまりにも美しいものだから」
正真正銘のロリコンじゃないか。〝加護なし〟にも暴行を働いていたし、本当に救いようがない……
「お願いします。許してください!!!!」
許す理由が欠片もないのだが。
というか、こいつはどうやってここに忍び込んだんだ?
「……待ってください。もしかして、あなた隠遁の加護を持ってたりしますか?」
「え? は、はい。姿を消すのは得意です」
物音は立てるが姿は消せると。
加護のレベルは低いみたいだが、なるほどこれは渡りに船かもしれない。
「命までは取りません。ただし……」
俺はナイフを取り出して、冒険者に傷を付ける。
「ひっ、何を……」
「じっとしててください」
そして傷口に触れる。
これだけで、加護を奪うことが出来る。
さて、俺の加護は別に加護を奪わずとも複製することも出来る。
つまり、この男から隠遁の加護を奪わなくてもするのだが……
「いや、待てよ。こいつの顔、どこかで見覚えが……」
しばらく思案する。すると、徐々に記憶が鮮明になってきた。
「容姿が微妙に変わってるから気付かなかったが、よくよく考えたらこの小者っぷり、間違いないな」
作中で登場するのはジークが大人になってからなので、容姿が微妙に違っていて、最初気付かなかったが、彼は原作でも登場した人物だ。
といっても、その時の彼は心強い味方でも何でもなかった。ただ、敵陣営の権力に媚びへつらい、その権力を活かして集めた〝加護なし〟の少女達を欲望のままに犯すという、最低の敵役としての登場であった。つまり、根っからのロリコンで犯罪者だ。
ここ数日、この男はリヴィエラに執着を見せてきたが、恐らく彼女がよほど気に入ったからなのだろう。
つまり、この男に情けを掛ける必要など最初からなかったということだ。
「警告は既にしました。しかし、あなたはそれを破った」
ならばもう、躊躇する理由はない。
「そ、それは……ほ、ほんの出来心だったんですよ!!」
こいつの出来心は一体いくつあるんだ。
「問答は無用です。あなたには、残りの人生を一生〝加護なし〟として過ごしてもらいます」
「そ、それはどういう……ぶへっ」
俺は返事も待たずに冒険者を気絶させる。
この世界において加護は絶対的なものだ。
それを奪われることは社会的に死ぬことと同じだ。
しかし、あのヨトゥン教徒やこの男のように、救いようのない人物も存在する。
そう言った手合いが相手なら容赦はしない。俺は容赦なくその加護を奪ってやる。
さて、既に彼の加護は奪い去った。これで姿や気配を隠すといった、隠遁のスキルが使えるようになった。
「リヴィエラ、もう大丈夫だ。中にいたのは悪い虫だったみたいだ」
事を終えた俺はリヴィエラに安全を知らせて、安心させる。
「ほ、本当ですか? 私、虫が苦手なんです。外に放してもらっていいですか?」
「ああ……」
俺は冒険者を担ぎ上げる。まあ、このまま窓から放り投げても良いのだが、それは流石に勘弁してやろう。
風呂場から出てきた俺の様子に目を丸くさせるリヴィエラをよそに、俺は冒険者をホテルの警備に引き渡した。
この後は、騎士団に連れて行かれて、なんらかの処罰を受けるだろう。
折角、ミレイユに見逃してもらったのに、あーあ。
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