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第二章
第5話 ブティック
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「今日はなんでも選んで良いからな」
翌日、俺はリヴィエラを伴ってエルドリアのブティックを訪れていた。
貴族の私兵の騎士服も卸している由緒ある店であり、ゲームでも恐ろしい程に高額だが高性能な防具を販売している防具屋だ。
ゲーム終盤のやりこみ要素で手に入るものを除いた、市販品最強の防具を販売している店でもあるため、冒険者としてやっていくのであれば、是非ともここで装備を揃えたいところだ。
「ゲームで見た時と寸分違わぬ豪華な内装に、上質でセンスの塊みたいな衣服の数々、なんだかワクワクするな」
ここしばらく慌ただしい日々が続いてすっかり失念していたが、俺は憧れのゲームの世界に飛び込んだのだ。
こうして街を歩いてみると、いかにこの世界がゲーム世界を忠実に再現しているのかがよく分かる。
「失礼。当店は選ばれた紳士淑女方の為の選ばれたブティックでございます。その……どなたかのご紹介がなければ、入店はご遠慮させていただいておりますので」
慇懃無礼な態度で、店員がやってきた。
俺らの格好と言えば、ヨトゥン教団のアジトで着せられたぼろ布一枚だ。
そんなみすぼらしい格好をした子どもが、格式ある店に入ってきたのだからその様な対応をされるのも無理はない。
「ジ、ジーク様……」
その険しい眼光にリヴィエラが気圧される。
俺はそんな彼女の不安を和らげようとその手を強く握る。
「では、あちらよりお引き取りを」
「ああ、待ってください。すみません、この様な格好で……その、少々事情がありまして、出来れば衣服を見繕って頂きたいのですが」
引き下がると店員がため息をついた。
「既に王国は落日の時を迎えました。お引き取りを」
「いいえ。エルドリアの白鷺は、約束の丘に舞い戻りました」
その時、店員が驚いたように目を見開いた。
「これは、大変失礼いたしました。ようこそアーベントへ。なんなりとお申し付けください」
「え、えっと……ジーク様??」
突然の店員の変わり様に、リヴィエラは困惑を隠せない。
「今のは入店の合言葉だよ。常連しか知らないんだ」
帝国がまだ王国であった時代、首都はこの旧都エルドリアにあった。
ある時、王国は隣国の侵攻を許し、敵軍に王城を占拠されてしまい、民衆達も奴隷のような扱いを受けることとなってしまった。
その時に立ち上がったのが、《エルドリアの白鷺》と呼ばれたとある貴族家の姫君であった。
彼女は郊外にあるエルメスの丘で挙兵すると、旧都を奪還する。
この合言葉はその伝説を下敷きにしたものだ。
「さて。見ての通り、着る物に困っておりまして。よろしければ衣服を見繕ってはもらえないでしょうか?」
「お任せを。当店では式典用の礼服にカジュアルな装いはもちろん、実戦に向いた騎士服も取り扱っておりますので」
ちゃんと合言葉を覚えていて良かった。
ゲームでは、合言葉を手に入れるまでに、いくつもの面倒なクエストをこなす必要があった。
そのため、クエスト全てスルーして見なかったことにするプレイヤーも多かったほどだ。
幸い、俺が手に入れた合言葉はこの世界でもそのまま使えたので、いきなり高級ブティックを利用することが出来るというわけだ。
「それじゃ早速、服を見てみるか」
まずはリヴィエラの衣服を見繕うことにした。
昨日稼いだ200万の内、10万は昨晩の宿泊料に消えた。
ひとまずとりあえず残り四泊分は押さえたので、残りは150万シエルだ。
この店の衣服は、数十万から百万前後はするので、まずはリヴィエラに良い物を着てもらい、俺の分は残った額でどうにかするとしよう。
「あの……私は、安いもので大丈夫ですから」
相変わらずリヴィエラは遠慮する様子を見せた。
当然、その反応は予想済みだ。
「だけど、リヴィエラも冒険者として活動するつもりなんだろう?」
「は、はい。この加護の力でジーク様を支えたいです。もしかして、ダメなのでしょうか?」
加護を取り戻したリヴィエラは、昨日そう申し出た。
俺としては、危険なことをして欲しくはないのだが、彼女の加護の強さなら、自分の身も十分に守れる。
なので、彼女の意志を尊重することにしたのだ。
「ダメなはずないさ。リヴィエラが決めたことなんだから。ただ……リヴィエラはヒーラーだろ? つまり、パーティの要になるわけだ。それなら誰よりも防具に気を遣わなきゃいけないんじゃないか?」
「それは……そうかもしれません」
「ということで決まりだ。お金のことは気にせず、良い奴を選ぼう」
そんなこんなで、装備が揃った。
リヴィエラは白を基調とした、上品なヒーラー用の装備。
俺は動きやすい騎士服をそれぞれ見繕った。
この世界でも鉄の鎧は流通しているが、上質な装備になると、魔獣の落とす強固な羽毛で作られた軽装の防具が主流となる。
俺もリヴィエラも金に糸目を付けずに高額な防具を選んだので、重すぎず防御力もそれなりにあるものを身に纏うことが出来た。
「お二人とも大変お似合いでございます」
俺たちの金払いが良かったからか、慇懃無礼な態度のだった店員もすっかりへりくだっていた。
随分と現金なことだ。
「その内オートクチュールも試したいので、またお伺いいたします」
さて、この店では高位の魔獣素材を持ち込むと、防具に加工してくれるというサービスを行っている。
気難しい店主に実力を認められる必要があるため、なかなかハードルは高いサービスだ。
しかし、いずれは父やオルトと対峙する機会もあるだろう。入念な準備をするべきだ。
俺は今後のことを思案しながら、店の外へと出る。
翌日、俺はリヴィエラを伴ってエルドリアのブティックを訪れていた。
貴族の私兵の騎士服も卸している由緒ある店であり、ゲームでも恐ろしい程に高額だが高性能な防具を販売している防具屋だ。
ゲーム終盤のやりこみ要素で手に入るものを除いた、市販品最強の防具を販売している店でもあるため、冒険者としてやっていくのであれば、是非ともここで装備を揃えたいところだ。
「ゲームで見た時と寸分違わぬ豪華な内装に、上質でセンスの塊みたいな衣服の数々、なんだかワクワクするな」
ここしばらく慌ただしい日々が続いてすっかり失念していたが、俺は憧れのゲームの世界に飛び込んだのだ。
こうして街を歩いてみると、いかにこの世界がゲーム世界を忠実に再現しているのかがよく分かる。
「失礼。当店は選ばれた紳士淑女方の為の選ばれたブティックでございます。その……どなたかのご紹介がなければ、入店はご遠慮させていただいておりますので」
慇懃無礼な態度で、店員がやってきた。
俺らの格好と言えば、ヨトゥン教団のアジトで着せられたぼろ布一枚だ。
そんなみすぼらしい格好をした子どもが、格式ある店に入ってきたのだからその様な対応をされるのも無理はない。
「ジ、ジーク様……」
その険しい眼光にリヴィエラが気圧される。
俺はそんな彼女の不安を和らげようとその手を強く握る。
「では、あちらよりお引き取りを」
「ああ、待ってください。すみません、この様な格好で……その、少々事情がありまして、出来れば衣服を見繕って頂きたいのですが」
引き下がると店員がため息をついた。
「既に王国は落日の時を迎えました。お引き取りを」
「いいえ。エルドリアの白鷺は、約束の丘に舞い戻りました」
その時、店員が驚いたように目を見開いた。
「これは、大変失礼いたしました。ようこそアーベントへ。なんなりとお申し付けください」
「え、えっと……ジーク様??」
突然の店員の変わり様に、リヴィエラは困惑を隠せない。
「今のは入店の合言葉だよ。常連しか知らないんだ」
帝国がまだ王国であった時代、首都はこの旧都エルドリアにあった。
ある時、王国は隣国の侵攻を許し、敵軍に王城を占拠されてしまい、民衆達も奴隷のような扱いを受けることとなってしまった。
その時に立ち上がったのが、《エルドリアの白鷺》と呼ばれたとある貴族家の姫君であった。
彼女は郊外にあるエルメスの丘で挙兵すると、旧都を奪還する。
この合言葉はその伝説を下敷きにしたものだ。
「さて。見ての通り、着る物に困っておりまして。よろしければ衣服を見繕ってはもらえないでしょうか?」
「お任せを。当店では式典用の礼服にカジュアルな装いはもちろん、実戦に向いた騎士服も取り扱っておりますので」
ちゃんと合言葉を覚えていて良かった。
ゲームでは、合言葉を手に入れるまでに、いくつもの面倒なクエストをこなす必要があった。
そのため、クエスト全てスルーして見なかったことにするプレイヤーも多かったほどだ。
幸い、俺が手に入れた合言葉はこの世界でもそのまま使えたので、いきなり高級ブティックを利用することが出来るというわけだ。
「それじゃ早速、服を見てみるか」
まずはリヴィエラの衣服を見繕うことにした。
昨日稼いだ200万の内、10万は昨晩の宿泊料に消えた。
ひとまずとりあえず残り四泊分は押さえたので、残りは150万シエルだ。
この店の衣服は、数十万から百万前後はするので、まずはリヴィエラに良い物を着てもらい、俺の分は残った額でどうにかするとしよう。
「あの……私は、安いもので大丈夫ですから」
相変わらずリヴィエラは遠慮する様子を見せた。
当然、その反応は予想済みだ。
「だけど、リヴィエラも冒険者として活動するつもりなんだろう?」
「は、はい。この加護の力でジーク様を支えたいです。もしかして、ダメなのでしょうか?」
加護を取り戻したリヴィエラは、昨日そう申し出た。
俺としては、危険なことをして欲しくはないのだが、彼女の加護の強さなら、自分の身も十分に守れる。
なので、彼女の意志を尊重することにしたのだ。
「ダメなはずないさ。リヴィエラが決めたことなんだから。ただ……リヴィエラはヒーラーだろ? つまり、パーティの要になるわけだ。それなら誰よりも防具に気を遣わなきゃいけないんじゃないか?」
「それは……そうかもしれません」
「ということで決まりだ。お金のことは気にせず、良い奴を選ぼう」
そんなこんなで、装備が揃った。
リヴィエラは白を基調とした、上品なヒーラー用の装備。
俺は動きやすい騎士服をそれぞれ見繕った。
この世界でも鉄の鎧は流通しているが、上質な装備になると、魔獣の落とす強固な羽毛で作られた軽装の防具が主流となる。
俺もリヴィエラも金に糸目を付けずに高額な防具を選んだので、重すぎず防御力もそれなりにあるものを身に纏うことが出来た。
「お二人とも大変お似合いでございます」
俺たちの金払いが良かったからか、慇懃無礼な態度のだった店員もすっかりへりくだっていた。
随分と現金なことだ。
「その内オートクチュールも試したいので、またお伺いいたします」
さて、この店では高位の魔獣素材を持ち込むと、防具に加工してくれるというサービスを行っている。
気難しい店主に実力を認められる必要があるため、なかなかハードルは高いサービスだ。
しかし、いずれは父やオルトと対峙する機会もあるだろう。入念な準備をするべきだ。
俺は今後のことを思案しながら、店の外へと出る。
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