6 / 31
第一章
外伝 英雄の堕落 ~side オルト~
しおりを挟む※※※※※
翌朝。
私宛に手紙が届いた。大きな封筒に厚みのある書類。何かと思えば婚約者からだ。
上体を起こせるようになった私は机を出してもらって中身を広げる。
「……え?」
婚約解消のお知らせだ。穢れた私は要らないという内容がしたためられた冊子が届いたらしかった。
私が頭痛を覚えて額に手をやる。
アメシストが心配して私の顔を覗き込む。
「どうしたの?」
「来月に控えていた結婚がなくなったのよ」
これ、うちの両親はなんて言っているんだろう。聞いたところでは実家経由でこちらに届けられたとの話だったが。
「じゃあ、僕たちと一緒にいられる?」
「可能性は高くなったけれど、それよりも面倒なことを処理しないといけなくて……」
婚約者――いや、もう元婚約者、か。あの人は本当にそんなことで婚約解消を選んだのだろうか。
この結婚は私の家と彼の家の都合による政略結婚だった。この結婚は必要な仕事であるとお互いに割り切っていたのではなかったのか。それなのに、私が精霊管理協会の世話になってしまったという点で結婚はなかったことに、とは。
「別にあの人と結婚がしたかったわけじゃないけど……」
そう。結婚がしたかったわけではない。
だが、このために私は外界から隔離された生活を強いられていたのだ。結婚後も自由はないからと、最後の自由な時間になるだろうからと、苦労して苦労してやっと外出許可がおりたと思ったらこれである。
「どうしよう」
魔物と遭遇したのは不運だ。そもそも都会で魔物が観測されることは極めて稀であり、ここ数年は報告がなかったはずなのだ。そうじゃなければ、単独でのお出かけの許可がおりるわけがない。
だったら、泣いて縋って、私が清いことを証明すべきだろうか。
いや、無駄だ。
瘴気を取り除くために隔離された上で入院させられているのだ。弁解がしようがない。詰みだ。
私は長く長く息を吐き出した。
「深刻そうだな」
「縁を切られそうなんで」
「どうして?」
シトリンとアメシストが私の左右から様子をうかがってくる。
どう説明したらいいのだろう。
私の家がだいぶ特殊であることは察しているつもりだが、彼らにどの程度の常識があるのかもわからない。どこが一般的な家庭と違うのか、自分の感覚があてにならないので悩ましいのだった。
「……家庭の事情が複雑なもので。結婚が白紙になると、私は実家に居られないんですよ。というか、そもそも穢れなき身である必要があったんですよね。それがまあ、この度、魔物に襲われて失われてしまったわけで」
伝わりやすく説明するならこんなところだろうか。
翌朝。
私宛に手紙が届いた。大きな封筒に厚みのある書類。何かと思えば婚約者からだ。
上体を起こせるようになった私は机を出してもらって中身を広げる。
「……え?」
婚約解消のお知らせだ。穢れた私は要らないという内容がしたためられた冊子が届いたらしかった。
私が頭痛を覚えて額に手をやる。
アメシストが心配して私の顔を覗き込む。
「どうしたの?」
「来月に控えていた結婚がなくなったのよ」
これ、うちの両親はなんて言っているんだろう。聞いたところでは実家経由でこちらに届けられたとの話だったが。
「じゃあ、僕たちと一緒にいられる?」
「可能性は高くなったけれど、それよりも面倒なことを処理しないといけなくて……」
婚約者――いや、もう元婚約者、か。あの人は本当にそんなことで婚約解消を選んだのだろうか。
この結婚は私の家と彼の家の都合による政略結婚だった。この結婚は必要な仕事であるとお互いに割り切っていたのではなかったのか。それなのに、私が精霊管理協会の世話になってしまったという点で結婚はなかったことに、とは。
「別にあの人と結婚がしたかったわけじゃないけど……」
そう。結婚がしたかったわけではない。
だが、このために私は外界から隔離された生活を強いられていたのだ。結婚後も自由はないからと、最後の自由な時間になるだろうからと、苦労して苦労してやっと外出許可がおりたと思ったらこれである。
「どうしよう」
魔物と遭遇したのは不運だ。そもそも都会で魔物が観測されることは極めて稀であり、ここ数年は報告がなかったはずなのだ。そうじゃなければ、単独でのお出かけの許可がおりるわけがない。
だったら、泣いて縋って、私が清いことを証明すべきだろうか。
いや、無駄だ。
瘴気を取り除くために隔離された上で入院させられているのだ。弁解がしようがない。詰みだ。
私は長く長く息を吐き出した。
「深刻そうだな」
「縁を切られそうなんで」
「どうして?」
シトリンとアメシストが私の左右から様子をうかがってくる。
どう説明したらいいのだろう。
私の家がだいぶ特殊であることは察しているつもりだが、彼らにどの程度の常識があるのかもわからない。どこが一般的な家庭と違うのか、自分の感覚があてにならないので悩ましいのだった。
「……家庭の事情が複雑なもので。結婚が白紙になると、私は実家に居られないんですよ。というか、そもそも穢れなき身である必要があったんですよね。それがまあ、この度、魔物に襲われて失われてしまったわけで」
伝わりやすく説明するならこんなところだろうか。
140
お気に入りに追加
318
あなたにおすすめの小説

同級生の女の子を交通事故から庇って異世界転生したけどその子と会えるようです
砂糖流
ファンタジー
俺は楽しみにしていることがあった。
それはある人と話すことだ。
「おはよう、優翔くん」
「おはよう、涼香さん」
「もしかして昨日も夜更かししてたの? 目の下クマができてるよ?」
「昨日ちょっと寝れなくてさ」
「何かあったら私に相談してね?」
「うん、絶対する」
この時間がずっと続けばいいと思った。
だけどそれが続くことはなかった。
ある日、学校の行き道で彼女を見つける。
見ていると横からトラックが走ってくる。
俺はそれを見た瞬間に走り出した。
大切な人を守れるなら後悔などない。
神から貰った『コピー』のスキルでたくさんの人を救う物語。


巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

ゲーム世界の1000年後に転生した俺は、最強ギフト【無の紋章】と原作知識で無双する
八又ナガト
ファンタジー
大人気VRMMORPG『クレスト・オンライン』。
通称『クレオン』は、キャラクリエイト時に選択した紋章を武器とし、様々な強敵と戦っていくアクションゲームだ。
そんなクレオンで世界ランク1位だった俺は、ある日突然、ゲーム世界の1000年後に転生してしまう。
シルフィード侯爵家の次男ゼロスとして生まれ変わった俺に与えられたのは、誰もが「無能」と蔑む外れギフト【無の紋章】だった。
家族からの失望、兄からの嘲笑。
そんな中、前世の記憶と知識を持つ俺だけが知っていた。
この【無の紋章】こそ、全てのスキルを習得できる“最強の才能”だということを。
「決まりだな。俺はこの世界でもう一度、世界最強を目指す!」
ゲーム知識と【無の紋章】を駆使し、俺は驚く程の速度で力を身に着けていく。
やがて前世の自分すら超える最強の力を手にした俺は、この世界でひたすらに無双するのだった――
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる