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第一章
第4話 少女の正体
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「実際に歩いてみると、入り組んでるな」
その後、俺たちは地上へ向かって歩き始めた。
地上では教徒達が激しい抵抗をしているのか、爆音が地下まで響き渡っていた。
「さて、なんとか気付かれずに逃げ出せれば良いんだが」
できれば、父と顔を合わせるのは避けたい。
俺が生きていると知れば、彼は全力で俺の存在を消しに掛かるからだ。
そうなれば、俺も生きづらくなるというものだ。
「あまりもたもたしていると、《エクスプロージョン》でアジトを丸ごと吹き飛ばすんだよなあ。でも、今後のためにも中を物色しておきたいところだが……」
最優先は少女を連れて逃げることだ。
しかし、このアジトには、今後の鬱展開を潰すための重要な資料も眠っている。
そもそもあの父がわざわざ先頭に立って、このアジトを攻めるのには理由がある。
それは父オーガスタスと教団が秘密裏に繋がっているからだ。
「我が父ながら本当に腐った人間だなあ」
呆れてため息をついてしまう。
さて、魔法の発達した世界で科学が発達するのかという疑問があると思う。
この世界ではどうなのかと言うと、ヨトゥン教団のような〝加護なし〟が科学技術を追究するのだ。
魔力がなくても魔法が発動できるヨトゥンの書、移植した者の憎悪と潜在能力を増幅する《魔王の核》、扱いの難しい悪魔(デーモン)種の素材を利用した道具の数々など、彼らは異質な魔導具を扱う。
そんな教団の技術力に目を付け、密かに支援していたのが我が父なのだ。
当然、そんな事実が露呈すれば一巻の終わりだ。
そのため、外部に存在を知られたアジトは《炎帝》自ら始末にかかるという密約が両者の間で結ばれている。
「さて、その腐った事実を知る俺が、父と教団の繋がりを示す証拠を見付ければ、弱みを握れるというわけだ。しかし、前世でも今世でも父には恵まれなかったものだなあ」
記憶を取り戻す前は、その本性を知らずに尊敬できる父として憧れていた。
しかし今となっては、そのような感情は一欠片もない。母や屋敷の人達への情はあるのだから、これは記憶を取り戻したからと言うよりも、単にその本性を思い知ったからだろう。
前世の俺も、ジークの俺も心底、彼に呆れているのだ。
「あ、あの……さっきから外で何が起こってるんですか?」
ずっと押し黙っていた少女が口を開いた。
彼女は先ほどからずっと俺にぴたりとくっついて付いてきていた。
「《炎帝》オーガスタス率いる騎士団が、アジトに攻めてきたんだ。今頃は、抵抗するヨトゥン教徒と熾烈な争いを繰り広げているみたいだ」
「オーガスタス様が!? だから、こんなに慌ただしく……」
さて、その父のおかげで、教徒達は続々と地上に集結しているようだ。
おかげで、道中で遭遇することはほとんどない。むしろ、連中が人体実験に用いた子ども達の死体の方が目にするぐらいだ。
「本当に胸糞の悪い光景だな……」
少女こそ救えはしたものの、それ以外の実験体の子は全滅だった。
どの子も、最初に見た彼女と同じように、その身体には酷い拷問が加えられており、正視に耐えないほどだ。
そんな狂気の集団の支援をしているのだから、我が父の救いようのなさがよく分かる。
「ヨトゥン教団、いずれは何とかしないとな」
俺の目標は、前世の俺とジークが掴めなかった幸せをこの手にすることだ。
当然、そんな世界において彼らのような存在は不要だ。〝加護なし〟への迫害が根底にあることは事実だが、だからといって子どもを人体実験に使うような非道、許すわけにはいかない。
もちろん俺はまだ十二で、家を追われた身でもある。
ここも数あるアジトの一つでしかないし、今すぐどうこうできるわけではない。
ただ、ここで父と教団の繋がりを示す証拠を手に入れられれば、後々のためにはなるのだが。
「あ、あの……どうされましたか?」
「え……?」
「なんだか、怖い顔をしていらしたので……」
これからのことを思案していただけなのだが、どうやら怖がらせてしまったようだ。
ジークは顔は良いが、黙っていると堅い雰囲気が漂うので、人によっては怖いと感じる。俺も気を付けないと。
「なんでもないさ。これからどうしようか悩んでいただけで……えっと……」
そういえば、少女の名前を聞いていなかった。
彼女が暴行されるシーンでは一貫して、銀髪の少女としか表記されておらず、そのまま彼女の素性も掘り下げられなかった。
ここらで、軽く自己紹介をしておきたいのだが、そういえば俺の名前はどうしようか。
一応、世間的には弟のオルトがジークになっているわけで……
「私の名前は……リヴィエラ。リヴィエラ・フローレンスです」
「え……?」
どう名乗ろうか思案していると、少女が先に名を名乗った。
そして、その名を聞いて、俺は驚きを隠せなかった。
「リヴィエラ……まさかそんな偶然あるのか? いや、ここがゲームの世界をベースにしているのなら、偶然ではないだろうけど……でも、そんな設定どこにもなかったぞ」
俺は困惑していた。
何故ならその名前は、ゲームの主人公クライド・フローレンスの妹の名前だったからだ。
「えっと……どうかされました?」
「君はもしかして……クライドの生き別れた双子の妹なのか」
「……ど、どうしてそれを?」
この反応、どうやらあたりのようだ。
「良かった……生きてたんだな、リヴィエラ」
彼女は五歳の時、崖から落ちそうになった主人公の手を引っ張って救おうとした結果、自分が崖に落ちてしまったのだ。
その後、懸命な捜索が行われたが、ついぞ彼女が見つかることはなく、死亡したものと誰もが思っていた。
「俺はジーク。ジークハルト・レイノールだ」
ともかく、本名を名乗ってみる。
彼女を助けられなかった俺のことを彼女は許さないかもしれないが、それでも彼女を前に偽名を名乗る気にはなれなかった。
何故なら俺たちは幼馴染の関係だからだ。
レイノールは公爵家で、フローレンス家は男爵家という身分差はあったが、俺たちの間にそんな事情は関係なかった。
俺たちは仲の良い友人として幼少期を共に過ごしてきたのだ。
「ジ、ジーク様……? 嘘。こんな偶然って……」
リヴィエラの頬を涙が伝った。そして、彼女は俺の胸に飛び込むと、大声を上げて泣き始めるのであった。
「すまない……すまない……あの時、助けられなくて」
彼女が崖から落ちた瞬間の光景は、今でも脳裏に焼き付いている。
あの時ほど、己の無力を呪ったことはない。
「ううん。こうして、ジーク様は私を救い出してくれました。こうしてまた会えて嬉しいです……」
「っ……良かった……君が生きていてくれて……」
目から止めどなく涙が溢れる。
前世の記憶があろうと、ジークとして過ごしたこの十二年間は紛れもなく本物だ。
だから、本当に心の底から嬉しいのだ。きっと、クライドも喜んでくれるだろう。
*
「そうか。あの瞬間に加護に目覚めたのか」
この世界には、俺のように生まれつき加護を授かる者もいれば、《神授の儀》を介さずに突発的に加護に目覚める者もいる。
そういった覚醒を経た場合、強力なものを授かることが多いが、リヴィエラもその例に漏れず《聖女の癒やし》という強力な加護に目覚めたようだ。
崖から落ちても生きていたのはそのおかげなのだろう。
「そうだ。あれ、覚えているか? リヴィエラが子どもの時に贈った」
「あ……すみません。あの腕飾りは……う、腕を切り落とされた時に……っ……」
リヴィエラが身を震わせた。
どうやら、教団にされた凄絶な拷問を思い出させてしまったみたいだ。
「す、すまん。どうやら嫌なことを思い出させたみたいだな。無神経だった」
「い、いえ……すみません。取り乱して」
「さっきも言ったけど、君が生きていてくれて良かった。いずれはクライドにも会わせたい。必ずここから抜け出そう」
これは自分への誓いでもある。
期せずして、クライドの妹を救うことが出来た。
そうなった以上、二度と彼女を悲しい目に遭わせるわけにはいかない。
「しかし、あのシーンで拷問されていた少女がリヴィエラだったなんてな……」
リヴィエラに聞こえないようにぼそりと呟く。
あの少女がリヴィエラだったという設定は聞いたことがない。
開発者のインタビューの全てに目を通したわけではないが、リヴィエラが生存していたというのは大きな情報だ。
流石に見落としているとは思えない。
「まあ良い。とにかく今は脱出が優先だ」
その後、俺たちは地上へ向かって歩き始めた。
地上では教徒達が激しい抵抗をしているのか、爆音が地下まで響き渡っていた。
「さて、なんとか気付かれずに逃げ出せれば良いんだが」
できれば、父と顔を合わせるのは避けたい。
俺が生きていると知れば、彼は全力で俺の存在を消しに掛かるからだ。
そうなれば、俺も生きづらくなるというものだ。
「あまりもたもたしていると、《エクスプロージョン》でアジトを丸ごと吹き飛ばすんだよなあ。でも、今後のためにも中を物色しておきたいところだが……」
最優先は少女を連れて逃げることだ。
しかし、このアジトには、今後の鬱展開を潰すための重要な資料も眠っている。
そもそもあの父がわざわざ先頭に立って、このアジトを攻めるのには理由がある。
それは父オーガスタスと教団が秘密裏に繋がっているからだ。
「我が父ながら本当に腐った人間だなあ」
呆れてため息をついてしまう。
さて、魔法の発達した世界で科学が発達するのかという疑問があると思う。
この世界ではどうなのかと言うと、ヨトゥン教団のような〝加護なし〟が科学技術を追究するのだ。
魔力がなくても魔法が発動できるヨトゥンの書、移植した者の憎悪と潜在能力を増幅する《魔王の核》、扱いの難しい悪魔(デーモン)種の素材を利用した道具の数々など、彼らは異質な魔導具を扱う。
そんな教団の技術力に目を付け、密かに支援していたのが我が父なのだ。
当然、そんな事実が露呈すれば一巻の終わりだ。
そのため、外部に存在を知られたアジトは《炎帝》自ら始末にかかるという密約が両者の間で結ばれている。
「さて、その腐った事実を知る俺が、父と教団の繋がりを示す証拠を見付ければ、弱みを握れるというわけだ。しかし、前世でも今世でも父には恵まれなかったものだなあ」
記憶を取り戻す前は、その本性を知らずに尊敬できる父として憧れていた。
しかし今となっては、そのような感情は一欠片もない。母や屋敷の人達への情はあるのだから、これは記憶を取り戻したからと言うよりも、単にその本性を思い知ったからだろう。
前世の俺も、ジークの俺も心底、彼に呆れているのだ。
「あ、あの……さっきから外で何が起こってるんですか?」
ずっと押し黙っていた少女が口を開いた。
彼女は先ほどからずっと俺にぴたりとくっついて付いてきていた。
「《炎帝》オーガスタス率いる騎士団が、アジトに攻めてきたんだ。今頃は、抵抗するヨトゥン教徒と熾烈な争いを繰り広げているみたいだ」
「オーガスタス様が!? だから、こんなに慌ただしく……」
さて、その父のおかげで、教徒達は続々と地上に集結しているようだ。
おかげで、道中で遭遇することはほとんどない。むしろ、連中が人体実験に用いた子ども達の死体の方が目にするぐらいだ。
「本当に胸糞の悪い光景だな……」
少女こそ救えはしたものの、それ以外の実験体の子は全滅だった。
どの子も、最初に見た彼女と同じように、その身体には酷い拷問が加えられており、正視に耐えないほどだ。
そんな狂気の集団の支援をしているのだから、我が父の救いようのなさがよく分かる。
「ヨトゥン教団、いずれは何とかしないとな」
俺の目標は、前世の俺とジークが掴めなかった幸せをこの手にすることだ。
当然、そんな世界において彼らのような存在は不要だ。〝加護なし〟への迫害が根底にあることは事実だが、だからといって子どもを人体実験に使うような非道、許すわけにはいかない。
もちろん俺はまだ十二で、家を追われた身でもある。
ここも数あるアジトの一つでしかないし、今すぐどうこうできるわけではない。
ただ、ここで父と教団の繋がりを示す証拠を手に入れられれば、後々のためにはなるのだが。
「あ、あの……どうされましたか?」
「え……?」
「なんだか、怖い顔をしていらしたので……」
これからのことを思案していただけなのだが、どうやら怖がらせてしまったようだ。
ジークは顔は良いが、黙っていると堅い雰囲気が漂うので、人によっては怖いと感じる。俺も気を付けないと。
「なんでもないさ。これからどうしようか悩んでいただけで……えっと……」
そういえば、少女の名前を聞いていなかった。
彼女が暴行されるシーンでは一貫して、銀髪の少女としか表記されておらず、そのまま彼女の素性も掘り下げられなかった。
ここらで、軽く自己紹介をしておきたいのだが、そういえば俺の名前はどうしようか。
一応、世間的には弟のオルトがジークになっているわけで……
「私の名前は……リヴィエラ。リヴィエラ・フローレンスです」
「え……?」
どう名乗ろうか思案していると、少女が先に名を名乗った。
そして、その名を聞いて、俺は驚きを隠せなかった。
「リヴィエラ……まさかそんな偶然あるのか? いや、ここがゲームの世界をベースにしているのなら、偶然ではないだろうけど……でも、そんな設定どこにもなかったぞ」
俺は困惑していた。
何故ならその名前は、ゲームの主人公クライド・フローレンスの妹の名前だったからだ。
「えっと……どうかされました?」
「君はもしかして……クライドの生き別れた双子の妹なのか」
「……ど、どうしてそれを?」
この反応、どうやらあたりのようだ。
「良かった……生きてたんだな、リヴィエラ」
彼女は五歳の時、崖から落ちそうになった主人公の手を引っ張って救おうとした結果、自分が崖に落ちてしまったのだ。
その後、懸命な捜索が行われたが、ついぞ彼女が見つかることはなく、死亡したものと誰もが思っていた。
「俺はジーク。ジークハルト・レイノールだ」
ともかく、本名を名乗ってみる。
彼女を助けられなかった俺のことを彼女は許さないかもしれないが、それでも彼女を前に偽名を名乗る気にはなれなかった。
何故なら俺たちは幼馴染の関係だからだ。
レイノールは公爵家で、フローレンス家は男爵家という身分差はあったが、俺たちの間にそんな事情は関係なかった。
俺たちは仲の良い友人として幼少期を共に過ごしてきたのだ。
「ジ、ジーク様……? 嘘。こんな偶然って……」
リヴィエラの頬を涙が伝った。そして、彼女は俺の胸に飛び込むと、大声を上げて泣き始めるのであった。
「すまない……すまない……あの時、助けられなくて」
彼女が崖から落ちた瞬間の光景は、今でも脳裏に焼き付いている。
あの時ほど、己の無力を呪ったことはない。
「ううん。こうして、ジーク様は私を救い出してくれました。こうしてまた会えて嬉しいです……」
「っ……良かった……君が生きていてくれて……」
目から止めどなく涙が溢れる。
前世の記憶があろうと、ジークとして過ごしたこの十二年間は紛れもなく本物だ。
だから、本当に心の底から嬉しいのだ。きっと、クライドも喜んでくれるだろう。
*
「そうか。あの瞬間に加護に目覚めたのか」
この世界には、俺のように生まれつき加護を授かる者もいれば、《神授の儀》を介さずに突発的に加護に目覚める者もいる。
そういった覚醒を経た場合、強力なものを授かることが多いが、リヴィエラもその例に漏れず《聖女の癒やし》という強力な加護に目覚めたようだ。
崖から落ちても生きていたのはそのおかげなのだろう。
「そうだ。あれ、覚えているか? リヴィエラが子どもの時に贈った」
「あ……すみません。あの腕飾りは……う、腕を切り落とされた時に……っ……」
リヴィエラが身を震わせた。
どうやら、教団にされた凄絶な拷問を思い出させてしまったみたいだ。
「す、すまん。どうやら嫌なことを思い出させたみたいだな。無神経だった」
「い、いえ……すみません。取り乱して」
「さっきも言ったけど、君が生きていてくれて良かった。いずれはクライドにも会わせたい。必ずここから抜け出そう」
これは自分への誓いでもある。
期せずして、クライドの妹を救うことが出来た。
そうなった以上、二度と彼女を悲しい目に遭わせるわけにはいかない。
「しかし、あのシーンで拷問されていた少女がリヴィエラだったなんてな……」
リヴィエラに聞こえないようにぼそりと呟く。
あの少女がリヴィエラだったという設定は聞いたことがない。
開発者のインタビューの全てに目を通したわけではないが、リヴィエラが生存していたというのは大きな情報だ。
流石に見落としているとは思えない。
「まあ良い。とにかく今は脱出が優先だ」
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