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現在編2
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「最近、息子が反抗期なの」
「電話に出てくれないし。メッセージの返信もくれない」
「あの子、ママっ子だったのに、最近はパパとばっかり連絡を取り合ってるみたい」
「しかもね、好きな子の話をしているんだって。なんでそんな大切なこと、私じゃなくてパパに言うのかしら」
「寮に入ってるからただでさえあんまり会えないのに、たまに帰ってくると友達と遊びに行っちゃうし」
「私っていったい、なんなんだろう。もう寂し過ぎる。寂しくて、死にそう」
添い寝をしてほしいと、美奈ママは僕にメッセージを送ってきた。
指定されたホテルでさっそくベッドに入ったものの、美奈ママの目は僕を映さない。
さっきからずっと、虚ろな目でマシンガントークをしている。
僕は口を挟まず、ただ美奈ママを抱きしめた。
美奈ママは僕からのアドバイスなんて求めていない。ただ話を聞いてほしいだけなのだ。
「この間、一緒にお風呂に入ろうとしたら、もの凄く怒られちゃった。昔はよく一緒に入ってたのに」
「一緒のベッドで寝るのも嫌だって。高校生にもなっておかしいって」
美奈ママの息子の嫌がる気持ちもちょっとわかる。きっとそんなもんなんだろうと思う。一方で、ものすごく羨ましい。
親子の距離感って難しいんだな。
ママとの関係が破綻して修復の見込みがない僕には参考にならないけど、想像すると楽しい。
僕だったら十年後も二十年後もママとお風呂に入りたいし、一緒に寝たいのに。
「ユウちゃんに恋人ができたら、私、どうにかなっちゃうかもしれない」
「私、頑張って探ったの。ユウちゃんが好きな子が、どんな子か」
「すごく、すごく、綺麗で、恰好良かった。まるで……アンリ君、みたいに」
ようやく僕の名前を口にしてくれた。
僕は嬉しくなって、そっと美奈ママの髪を撫でた。
「変な女に取られるくらいなら、あの男の子に恋人になってもらうほうがいいかもしれない」
ユウちゃんの好きな人は、男の子なのか。
全寮制の男子校に通っているって言っていたから、そうじゃないかとは思っていたけど。
美奈ママは相手が男であることは問題にしていないみたいだ。
理解があってよかったじゃないかユウちゃん。応援してくれそうだし、恋愛相談してみればいいのに。
もしかしたら恋が成就するかもしれないし、美奈ママの精神状態も安定するはすだ。
ママが幸せだと、家族も幸せになる。
僕は改めて、美奈ママを強く抱きしめた。
それから僕は特に意見を言うことなく、終わりがなさそうな美奈ママのトークに付き合った。
『母とはどういう関係ですか?一度会って話を聞かせてほしいです』
知らない人からメッセージが届いて、思わず首を傾けた。
誰かの母という存在に覚えがあり過ぎるからね。
とりあえず相手の名前が優斗というのを確認して、美奈ママの顔を思い出した。
そして僕は、優斗と会ってみることにした。
「えっ!?あなたがアンリさんですか!?」
数日後、待ち合わせ場所に姿を現した優斗は目を見開いて僕を見ていた。
優斗は美奈ママとそっくりだった。
まん丸な目に、ちょっと低い鼻。
小柄で、リスみたいな男の子。
そんな子と僕は周りから見たらどんな感じなのだろう。
もしかしたら兄弟に見えてしまうかもしれない。
僕の弟と優斗は同い年のはずだった。
「・・・名前に違和感があったけど、イメージしていたのはもっと大人の男性でした」
「僕、何歳に見える?」
「・・・十六?」
「十九だからね。もうすぐ二十歳。大人だよ」
優斗は僕の姿を認識するまで厳しい顔をしていた。
母親の浮気相手を懲らしめてやろうとでも思っていたんだろう。
だけど思いの外若くて綺麗な僕を見て目的を忘れかけていたみたいでウケた。
僕がにやついてると、優斗は顔を引き締めてゴホンとわざとらしく咳をした。
「アンリさんは、ホストですか?」
「大学生だよ」
「母とはどこで知り合ったんですか?」
「アプリ。ママを募集してたら、美奈ママから誘いがあった」
「ママ活ってやつですか。はぁ。母さん、なんでそんな馬鹿げたことを」
優斗は現実を受け止めたくないのか頭を抱える。
美奈ママが僕との関係を求める原因は息子からの愛情不足だったから、ほとんど優斗のせいなのに、完全被害者っぽい態度はいただけない。
「美奈ママは寂しかったんだよ。君が構ってくれないから」
「だとしても、ママ活なんて。とんだ恥さらしだ」
美奈ママは羽振りがよかった。いつも質の良い物を身につけていた。
息子を全寮制の学校に通わせている。
ちょっとした仕草からも、家柄の良さが伝わった。
その家柄に対するプライドは息子のほうが高いらしい。
お金持ちが守りたい体裁がどんなものか。
僕は結構知っていた。
「美奈ママのこと、責めないであげてよ」
「あなたになにがわかるんですか。いったいいくらもらっていたんですか?同額以上の手切れ金を払いますから、もう二度と母に会わないでもらいたい。拒否するなら、父に相談してあなたを訴えます。我が家の恥を晒し出してでも、あなたとの関係はここで絶つべきなんです」
それが、家の、自分の将来のためになる。
意志の強い眼差しに、僕は一瞬で優斗が嫌いになった。
敵と認識したら、徹底的に排除するタイプの人間。
まぁ優斗がどんな人間であろうと勝手だ。
僕と関係のない人間であるのならばね。
「うん。わかった。会わない。面倒事に巻き込まれるのはごめんだからね」
僕があっさり頷くと、優斗は意外そうな顔をしていた。
「電話に出てくれないし。メッセージの返信もくれない」
「あの子、ママっ子だったのに、最近はパパとばっかり連絡を取り合ってるみたい」
「しかもね、好きな子の話をしているんだって。なんでそんな大切なこと、私じゃなくてパパに言うのかしら」
「寮に入ってるからただでさえあんまり会えないのに、たまに帰ってくると友達と遊びに行っちゃうし」
「私っていったい、なんなんだろう。もう寂し過ぎる。寂しくて、死にそう」
添い寝をしてほしいと、美奈ママは僕にメッセージを送ってきた。
指定されたホテルでさっそくベッドに入ったものの、美奈ママの目は僕を映さない。
さっきからずっと、虚ろな目でマシンガントークをしている。
僕は口を挟まず、ただ美奈ママを抱きしめた。
美奈ママは僕からのアドバイスなんて求めていない。ただ話を聞いてほしいだけなのだ。
「この間、一緒にお風呂に入ろうとしたら、もの凄く怒られちゃった。昔はよく一緒に入ってたのに」
「一緒のベッドで寝るのも嫌だって。高校生にもなっておかしいって」
美奈ママの息子の嫌がる気持ちもちょっとわかる。きっとそんなもんなんだろうと思う。一方で、ものすごく羨ましい。
親子の距離感って難しいんだな。
ママとの関係が破綻して修復の見込みがない僕には参考にならないけど、想像すると楽しい。
僕だったら十年後も二十年後もママとお風呂に入りたいし、一緒に寝たいのに。
「ユウちゃんに恋人ができたら、私、どうにかなっちゃうかもしれない」
「私、頑張って探ったの。ユウちゃんが好きな子が、どんな子か」
「すごく、すごく、綺麗で、恰好良かった。まるで……アンリ君、みたいに」
ようやく僕の名前を口にしてくれた。
僕は嬉しくなって、そっと美奈ママの髪を撫でた。
「変な女に取られるくらいなら、あの男の子に恋人になってもらうほうがいいかもしれない」
ユウちゃんの好きな人は、男の子なのか。
全寮制の男子校に通っているって言っていたから、そうじゃないかとは思っていたけど。
美奈ママは相手が男であることは問題にしていないみたいだ。
理解があってよかったじゃないかユウちゃん。応援してくれそうだし、恋愛相談してみればいいのに。
もしかしたら恋が成就するかもしれないし、美奈ママの精神状態も安定するはすだ。
ママが幸せだと、家族も幸せになる。
僕は改めて、美奈ママを強く抱きしめた。
それから僕は特に意見を言うことなく、終わりがなさそうな美奈ママのトークに付き合った。
『母とはどういう関係ですか?一度会って話を聞かせてほしいです』
知らない人からメッセージが届いて、思わず首を傾けた。
誰かの母という存在に覚えがあり過ぎるからね。
とりあえず相手の名前が優斗というのを確認して、美奈ママの顔を思い出した。
そして僕は、優斗と会ってみることにした。
「えっ!?あなたがアンリさんですか!?」
数日後、待ち合わせ場所に姿を現した優斗は目を見開いて僕を見ていた。
優斗は美奈ママとそっくりだった。
まん丸な目に、ちょっと低い鼻。
小柄で、リスみたいな男の子。
そんな子と僕は周りから見たらどんな感じなのだろう。
もしかしたら兄弟に見えてしまうかもしれない。
僕の弟と優斗は同い年のはずだった。
「・・・名前に違和感があったけど、イメージしていたのはもっと大人の男性でした」
「僕、何歳に見える?」
「・・・十六?」
「十九だからね。もうすぐ二十歳。大人だよ」
優斗は僕の姿を認識するまで厳しい顔をしていた。
母親の浮気相手を懲らしめてやろうとでも思っていたんだろう。
だけど思いの外若くて綺麗な僕を見て目的を忘れかけていたみたいでウケた。
僕がにやついてると、優斗は顔を引き締めてゴホンとわざとらしく咳をした。
「アンリさんは、ホストですか?」
「大学生だよ」
「母とはどこで知り合ったんですか?」
「アプリ。ママを募集してたら、美奈ママから誘いがあった」
「ママ活ってやつですか。はぁ。母さん、なんでそんな馬鹿げたことを」
優斗は現実を受け止めたくないのか頭を抱える。
美奈ママが僕との関係を求める原因は息子からの愛情不足だったから、ほとんど優斗のせいなのに、完全被害者っぽい態度はいただけない。
「美奈ママは寂しかったんだよ。君が構ってくれないから」
「だとしても、ママ活なんて。とんだ恥さらしだ」
美奈ママは羽振りがよかった。いつも質の良い物を身につけていた。
息子を全寮制の学校に通わせている。
ちょっとした仕草からも、家柄の良さが伝わった。
その家柄に対するプライドは息子のほうが高いらしい。
お金持ちが守りたい体裁がどんなものか。
僕は結構知っていた。
「美奈ママのこと、責めないであげてよ」
「あなたになにがわかるんですか。いったいいくらもらっていたんですか?同額以上の手切れ金を払いますから、もう二度と母に会わないでもらいたい。拒否するなら、父に相談してあなたを訴えます。我が家の恥を晒し出してでも、あなたとの関係はここで絶つべきなんです」
それが、家の、自分の将来のためになる。
意志の強い眼差しに、僕は一瞬で優斗が嫌いになった。
敵と認識したら、徹底的に排除するタイプの人間。
まぁ優斗がどんな人間であろうと勝手だ。
僕と関係のない人間であるのならばね。
「うん。わかった。会わない。面倒事に巻き込まれるのはごめんだからね」
僕があっさり頷くと、優斗は意外そうな顔をしていた。
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