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第十二話 目覚め(一)
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――ここ、何処だ?
覚醒しきっていない頭でそう考えたのは一瞬のことだった。
今では見慣れた木目の天井を見て、ここが祖母の家の離れ――自分の部屋だと理解した。
「……あ、あー」
寝起きだからか、水分を取っていないからか、喉から出た声はか細い。
……今何時だろう。
時間を確認しようとスマホを取るために手を動かす。だが、いつも置いてある場所にそれはなかった。
あれ、と思いゆっくりと身体を起こしたら、何かがお腹の上からコロコロと転がり落ちた。
「うわー!?」
「うわー!?」
「……ん?小鬼たち?」
転がったモノの正体は小鬼たちだった。どうやら、寝ているぼくの上で彼らも寝ていたらしい。
こんな事は度々あることなので、今更怒る気にもならなかった。
二体はぱちぱちと目を瞬かせたかと思えば、次の瞬間思い切り叫んだ。
「にきが起きたー!」
「起きたー!」
「ばあに知らせなきゃー!」
「知らせなきゃー!」
どたばたと騒がしく出て行った二体に「何だあいつら?」と首を傾げる。
暫くして、これまたどたばたと騒がしい足音が聞こえてきた。けれどそれは小鬼たちのものよりも大きかった。
どたばたと慌ただしく部屋に飛び込んできたのは――
「にきっ!」
「と、父さん!?」
――何でここに?
ぼくの疑問は父さんの声で掻き消された。正確に言えば父さんの泣き声で、だ。
父さんは思い切り泣いていた。男泣きだ。「よかった……よかった……」と呻くように泣いているその姿を見て、ぼくは思わず「うわぁ……」と零した。正直に言ってドン引きである。
ぼくが顔を引きつらせていると、今度はばあちゃんが部屋に入ってきた。手にコップを持っており、未だ泣いている父さんを見て酷く呆れた表情を浮かべた。
「全く、情けない倅だねぇ……ほらほら、いつまでも泣いているんじゃないよ。私はにきちゃんと大事な話があるから、あんたはちょいと外に出といておくれ」
ばあちゃんが有無を言わさず父さんを部屋から追い出した。母は強しだなと思った瞬間だった。
「にきちゃん、体の調子はどうだい?」
「ああ、うん。大丈夫だよ」
「そう、それならよかったわ。はい、お水」
「ありがとう。ところで、何で父さんがいるの?」
「あら、聞いてなかったのかい?ちょっと前に、仕事が早く片付いたからお盆前にはこっちにくるって連絡があったんよ」
「え、聞いてない……」
何が『一ヶ月ぐらいの出張』だよ……。
心中で悪態をついていると、「全く、あの倅は……」とばあちゃんも溜息をついた。
いやいや、ばあちゃんも前につゆりさんたちが家に来ることを言ってなかった時があったぞ。そういうところも似ているとは流石は親子だ……こうはなりたくはないな。
受け取った水を飲んだものの、暑い。ぼくは徐に掛け布団を取り去った。すると、取ってびっくり目に入って来たのは包帯でぐるぐる巻きにされた右足だった。
な、何だこれ!?うわ、え、もしかして骨折してる!?
目をまん丸にさせたぼくの視線で察したらしい。ばあちゃんが説明してくれた
「骨折はしていないから安心して。ただの捻挫よ」
「そう……」
見た目は酷いが折れてはいないらしい。取り敢えずは良かったとほっと胸を撫で下ろす。
「お祭りに行って意識を失ったにきちゃんを皆が……というより河童ちゃんが運んできてくれたんよ」
たぶん、この前の時みたいに持ち上げられたのだろう。男として情けないことこの上ないがそんなことよりも――
「また迷惑かけちゃったなぁ……」
ぱたり、と布団に倒れ込む。顔に手を当ててはあ、と深く息を吐く。
自己嫌悪に陥りかけたその時、コツンと小さな衝撃を感じた。手をどかすと、ばあちゃんがぼくに携帯端末を差し出していた。
「取りあえず、つゆりちゃんに連絡しなさいな。凄く心配しとったから」
「うん、そうする。……それにしても、あれは一体何だったんだ?」
携帯端末を受け取りながら思案する。「あれって?」と首を傾げたばあちゃんに事のあらましを説明した。
神社の竹林の中の石碑のこと。
突然暗闇の中へと落ちたこと。
そして、そこにいた不思議な恰好をした人々とそこであった出来事のこと。
一通り話し終えると、「なるほどなるほど」とばあちゃんが首肯した。何か心当たりがあるみたいだ。
「あそこにはね、小さいけど古墳があってね。石碑はそれをしるしたものなんよ」
「こ、古墳?」
古墳といえば、古代の有権者の墓のことだ。そんなものがあの神社にあるなんて全然知らなかった。
じゃあ、もしかしてあの人たちは亡くなった古代の人たちだったとか?ということは、もしかしてあそこは死後の世界だったとか?
奇怪なモノには少しずつ慣れてきたと思ってはいたものの、死後の世界ときたら話は別だ。普段あやかしたちと普通に過ごしているくせに、恐ろしさのあまり半袖から覗く腕には鳥肌が立っている。きっと顔も青ざめていることだろう。
「いつもなら特に害がある場所じゃないんやけどね……お祭りだったから、その場の空気に当てられちゃって、あっちの世界と繋がったのかもしれんね」
「え、そんな理由で!?」
「結構ひょんなことであの世とこの世は繋がるものなんよ」
「何それ怖っ!」
その場の空気に当てられてサイダーで酔っ払っていた河童が可愛く思えるレベルだ。
「あと、出された食べ物を食べなかったのは良い判断やったね」
「どういうこと?」
「その人たちは善意で勧めてくれたんやろうけど、死者の国の食べ物を食べると、現世に戻って来られなくなるって言うからね」
「……マジで?」
あれを食べたらアウトだったのかと思うと背筋がぞっとした。怖さを通り越して、「うわー、マジかー」と渇いた笑みを零すことしかできなかった。
いつの間にか喉がからからに渇いていたため、怖さを払拭するためにもコップに残っていた水を一気に飲み干した。
空になったコップを枕元に置くと、「にきちゃん」とばあちゃんに呼ばれた。その表情は何処か陰っているように見えた。
「にきちゃんはここが嫌になったかい?」
「え?」
「いやなに、怖い思いをした上にこんな怪我までしたんだ。前とは別の理由だけど、もうここにはいたくないってまた思ったんじゃないかと思ってね」
「……もうここにはいたくないって、どういうこと?またって、どういうこと?」
「……やっぱり覚えていないんだね。ちっちゃい時だったからねぇ。無理もないわ」
一人で頷くばあちゃんに対し、ぼくの頭の中は疑問符で埋め尽くされていた。
ばあちゃんの言葉からして、昔ぼくは「ここにはいたくない」と言ったのだろう。
でも、何でだ?何で、そんなことを言ったのだろう。
……ダメだ、頭に靄がかかったようで、思い出せそうで思い出せない。
「ばあちゃん、教えて。何で、ぼくはそんなこと言ったの?もしかして、前にも怪我したとか?」
「いんや。怪我はしていたけど、かすり傷ばかりだったよ。それに、にきちゃんはそんなことに臆するような子じゃなかったしね。あやかし相手に喧嘩したり、逆にあやかしをからかったりしとったわ。怪我をしても全然気にしない子でね、寧ろあんたの父親の方が騒いどったわ」
「あ、そう……」
前に吐水龍にも言われたが、やはり昔のぼくは結構横着をしていたらしい。そして、怪我をしたぼくを見て父さんが慌てふためいた……たぶん、さっきみたいに。
その光景がありありと目に見えて、うわぁとぼくは声を漏らした。
と、ここであることに気がついた。
……ちょっと待て。今、ばあちゃんは何て言った?
あやかし相手に喧嘩?逆にあやかしをからかっていた?
握った掌の汗が酷い。どくん、どくん、と心臓が鳴る音がやけに大きく聞こえた。
さっき水を飲んだばかりだというのに、声が掠れる。
「……もしかして、昔のぼくってあやかしが視えていたの?」
「そうよ」
ぼくの緊張とは裏腹に、あっけからんとばあちゃんは肯定した。だが、ぼくは混乱しまくっていた。
「何で、昔もそうだったって言ってくれなかったの?」
「訊かれなかったからねぇ」
「いや確かに訊かなかったけど!言ってくれても良かったじゃないか!」
ぼくの叫び声は家中に響き渡った。
頭を抱え続けるぼくを見て、「これだけ元気なら大丈夫そうやね」とばあちゃんが笑っている。
笑い声とは裏腹に、その瞳には心配と安堵の色が滲んでいて。
……ああ、そうか。ぼくは心配をかけていたんだ。きっと、今も、昔も。
ぼくは段々と冷静になっていった。そして、ついには黙り込んでしまったぼくにばあちゃんが心配そうに訊く。
「ん?何処か痛むのかい?」
「いや、そうじゃなくて……心配かけてごめんなさい」
「いいんだよ、にきちゃんが無事ならそれで」
目を伏せて静かに紡がれた言葉にぼくは少しだけ泣きそうになった。
「つゆりさんや管狐や河童にも言わなくちゃ……心配かけてごめんって」
「そうやね。でも、その時はごめんじゃなくて心配してくれてありがとうって言わんとね」
「……そうだね。ありがとう、ばあちゃん」
「どういたしまして。あと、あんたのお父さんにも一応言っておきなさいな。まあ、言ったら言ったで五月蠅くなるやろうけど」
「あはは……」
普段は放任主義なくせに、変な時に過保護になる父さん。
今はばあちゃんに追い出されて大人しくしているけど、いざ色々と伝えるとなると……はあ、先のことが思い遣られる。
ぼくとばあちゃんは二人して苦笑した。
「さてと。それじゃあ、にきちゃんの要望に応えて昔のことを話すとするかねぇ」
真っ直ぐに見つめられ、ぼくは居住まいを正す。
そして、ばあちゃんは話してくれた。
昔、この家にいた時のぼくのことを――。
覚醒しきっていない頭でそう考えたのは一瞬のことだった。
今では見慣れた木目の天井を見て、ここが祖母の家の離れ――自分の部屋だと理解した。
「……あ、あー」
寝起きだからか、水分を取っていないからか、喉から出た声はか細い。
……今何時だろう。
時間を確認しようとスマホを取るために手を動かす。だが、いつも置いてある場所にそれはなかった。
あれ、と思いゆっくりと身体を起こしたら、何かがお腹の上からコロコロと転がり落ちた。
「うわー!?」
「うわー!?」
「……ん?小鬼たち?」
転がったモノの正体は小鬼たちだった。どうやら、寝ているぼくの上で彼らも寝ていたらしい。
こんな事は度々あることなので、今更怒る気にもならなかった。
二体はぱちぱちと目を瞬かせたかと思えば、次の瞬間思い切り叫んだ。
「にきが起きたー!」
「起きたー!」
「ばあに知らせなきゃー!」
「知らせなきゃー!」
どたばたと騒がしく出て行った二体に「何だあいつら?」と首を傾げる。
暫くして、これまたどたばたと騒がしい足音が聞こえてきた。けれどそれは小鬼たちのものよりも大きかった。
どたばたと慌ただしく部屋に飛び込んできたのは――
「にきっ!」
「と、父さん!?」
――何でここに?
ぼくの疑問は父さんの声で掻き消された。正確に言えば父さんの泣き声で、だ。
父さんは思い切り泣いていた。男泣きだ。「よかった……よかった……」と呻くように泣いているその姿を見て、ぼくは思わず「うわぁ……」と零した。正直に言ってドン引きである。
ぼくが顔を引きつらせていると、今度はばあちゃんが部屋に入ってきた。手にコップを持っており、未だ泣いている父さんを見て酷く呆れた表情を浮かべた。
「全く、情けない倅だねぇ……ほらほら、いつまでも泣いているんじゃないよ。私はにきちゃんと大事な話があるから、あんたはちょいと外に出といておくれ」
ばあちゃんが有無を言わさず父さんを部屋から追い出した。母は強しだなと思った瞬間だった。
「にきちゃん、体の調子はどうだい?」
「ああ、うん。大丈夫だよ」
「そう、それならよかったわ。はい、お水」
「ありがとう。ところで、何で父さんがいるの?」
「あら、聞いてなかったのかい?ちょっと前に、仕事が早く片付いたからお盆前にはこっちにくるって連絡があったんよ」
「え、聞いてない……」
何が『一ヶ月ぐらいの出張』だよ……。
心中で悪態をついていると、「全く、あの倅は……」とばあちゃんも溜息をついた。
いやいや、ばあちゃんも前につゆりさんたちが家に来ることを言ってなかった時があったぞ。そういうところも似ているとは流石は親子だ……こうはなりたくはないな。
受け取った水を飲んだものの、暑い。ぼくは徐に掛け布団を取り去った。すると、取ってびっくり目に入って来たのは包帯でぐるぐる巻きにされた右足だった。
な、何だこれ!?うわ、え、もしかして骨折してる!?
目をまん丸にさせたぼくの視線で察したらしい。ばあちゃんが説明してくれた
「骨折はしていないから安心して。ただの捻挫よ」
「そう……」
見た目は酷いが折れてはいないらしい。取り敢えずは良かったとほっと胸を撫で下ろす。
「お祭りに行って意識を失ったにきちゃんを皆が……というより河童ちゃんが運んできてくれたんよ」
たぶん、この前の時みたいに持ち上げられたのだろう。男として情けないことこの上ないがそんなことよりも――
「また迷惑かけちゃったなぁ……」
ぱたり、と布団に倒れ込む。顔に手を当ててはあ、と深く息を吐く。
自己嫌悪に陥りかけたその時、コツンと小さな衝撃を感じた。手をどかすと、ばあちゃんがぼくに携帯端末を差し出していた。
「取りあえず、つゆりちゃんに連絡しなさいな。凄く心配しとったから」
「うん、そうする。……それにしても、あれは一体何だったんだ?」
携帯端末を受け取りながら思案する。「あれって?」と首を傾げたばあちゃんに事のあらましを説明した。
神社の竹林の中の石碑のこと。
突然暗闇の中へと落ちたこと。
そして、そこにいた不思議な恰好をした人々とそこであった出来事のこと。
一通り話し終えると、「なるほどなるほど」とばあちゃんが首肯した。何か心当たりがあるみたいだ。
「あそこにはね、小さいけど古墳があってね。石碑はそれをしるしたものなんよ」
「こ、古墳?」
古墳といえば、古代の有権者の墓のことだ。そんなものがあの神社にあるなんて全然知らなかった。
じゃあ、もしかしてあの人たちは亡くなった古代の人たちだったとか?ということは、もしかしてあそこは死後の世界だったとか?
奇怪なモノには少しずつ慣れてきたと思ってはいたものの、死後の世界ときたら話は別だ。普段あやかしたちと普通に過ごしているくせに、恐ろしさのあまり半袖から覗く腕には鳥肌が立っている。きっと顔も青ざめていることだろう。
「いつもなら特に害がある場所じゃないんやけどね……お祭りだったから、その場の空気に当てられちゃって、あっちの世界と繋がったのかもしれんね」
「え、そんな理由で!?」
「結構ひょんなことであの世とこの世は繋がるものなんよ」
「何それ怖っ!」
その場の空気に当てられてサイダーで酔っ払っていた河童が可愛く思えるレベルだ。
「あと、出された食べ物を食べなかったのは良い判断やったね」
「どういうこと?」
「その人たちは善意で勧めてくれたんやろうけど、死者の国の食べ物を食べると、現世に戻って来られなくなるって言うからね」
「……マジで?」
あれを食べたらアウトだったのかと思うと背筋がぞっとした。怖さを通り越して、「うわー、マジかー」と渇いた笑みを零すことしかできなかった。
いつの間にか喉がからからに渇いていたため、怖さを払拭するためにもコップに残っていた水を一気に飲み干した。
空になったコップを枕元に置くと、「にきちゃん」とばあちゃんに呼ばれた。その表情は何処か陰っているように見えた。
「にきちゃんはここが嫌になったかい?」
「え?」
「いやなに、怖い思いをした上にこんな怪我までしたんだ。前とは別の理由だけど、もうここにはいたくないってまた思ったんじゃないかと思ってね」
「……もうここにはいたくないって、どういうこと?またって、どういうこと?」
「……やっぱり覚えていないんだね。ちっちゃい時だったからねぇ。無理もないわ」
一人で頷くばあちゃんに対し、ぼくの頭の中は疑問符で埋め尽くされていた。
ばあちゃんの言葉からして、昔ぼくは「ここにはいたくない」と言ったのだろう。
でも、何でだ?何で、そんなことを言ったのだろう。
……ダメだ、頭に靄がかかったようで、思い出せそうで思い出せない。
「ばあちゃん、教えて。何で、ぼくはそんなこと言ったの?もしかして、前にも怪我したとか?」
「いんや。怪我はしていたけど、かすり傷ばかりだったよ。それに、にきちゃんはそんなことに臆するような子じゃなかったしね。あやかし相手に喧嘩したり、逆にあやかしをからかったりしとったわ。怪我をしても全然気にしない子でね、寧ろあんたの父親の方が騒いどったわ」
「あ、そう……」
前に吐水龍にも言われたが、やはり昔のぼくは結構横着をしていたらしい。そして、怪我をしたぼくを見て父さんが慌てふためいた……たぶん、さっきみたいに。
その光景がありありと目に見えて、うわぁとぼくは声を漏らした。
と、ここであることに気がついた。
……ちょっと待て。今、ばあちゃんは何て言った?
あやかし相手に喧嘩?逆にあやかしをからかっていた?
握った掌の汗が酷い。どくん、どくん、と心臓が鳴る音がやけに大きく聞こえた。
さっき水を飲んだばかりだというのに、声が掠れる。
「……もしかして、昔のぼくってあやかしが視えていたの?」
「そうよ」
ぼくの緊張とは裏腹に、あっけからんとばあちゃんは肯定した。だが、ぼくは混乱しまくっていた。
「何で、昔もそうだったって言ってくれなかったの?」
「訊かれなかったからねぇ」
「いや確かに訊かなかったけど!言ってくれても良かったじゃないか!」
ぼくの叫び声は家中に響き渡った。
頭を抱え続けるぼくを見て、「これだけ元気なら大丈夫そうやね」とばあちゃんが笑っている。
笑い声とは裏腹に、その瞳には心配と安堵の色が滲んでいて。
……ああ、そうか。ぼくは心配をかけていたんだ。きっと、今も、昔も。
ぼくは段々と冷静になっていった。そして、ついには黙り込んでしまったぼくにばあちゃんが心配そうに訊く。
「ん?何処か痛むのかい?」
「いや、そうじゃなくて……心配かけてごめんなさい」
「いいんだよ、にきちゃんが無事ならそれで」
目を伏せて静かに紡がれた言葉にぼくは少しだけ泣きそうになった。
「つゆりさんや管狐や河童にも言わなくちゃ……心配かけてごめんって」
「そうやね。でも、その時はごめんじゃなくて心配してくれてありがとうって言わんとね」
「……そうだね。ありがとう、ばあちゃん」
「どういたしまして。あと、あんたのお父さんにも一応言っておきなさいな。まあ、言ったら言ったで五月蠅くなるやろうけど」
「あはは……」
普段は放任主義なくせに、変な時に過保護になる父さん。
今はばあちゃんに追い出されて大人しくしているけど、いざ色々と伝えるとなると……はあ、先のことが思い遣られる。
ぼくとばあちゃんは二人して苦笑した。
「さてと。それじゃあ、にきちゃんの要望に応えて昔のことを話すとするかねぇ」
真っ直ぐに見つめられ、ぼくは居住まいを正す。
そして、ばあちゃんは話してくれた。
昔、この家にいた時のぼくのことを――。
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