にきの奇怪な間話

葉野亜依

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第十一話 夏祭り(三)

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 小さな神社の小さな小さなお祭り。実際に神社に辿り着いて、その光景を見て改めて思った。
 小さい故に屋台の数も限られている。食べ物はかき氷やラムネやわたがし、ポップコーンにみたらしだんご……りんご飴とかやきそばとかはないようだ。
 勿論食べ物以外の屋台もちゃんとある。射的といった大掛かりなものはないが、金魚すくいやヨーヨーすくい、輪投げなどがあるようだ。
 広場の中央には踊り台があって、太鼓を叩いている人、その周りで踊っている人、幼い子からお年寄りまで幅広い年代の人々で賑わっていた。
 あと、人だけでなくあやかしも。お面をつけて人間に紛れて踊っていたり、おいそれどうしたんだよって突っ込んでやりたいほどの食べ物を持っていたりする奴もいた。
 途絶えそうで途絶えない。地元の人しか来ないお祭りだとしても、これだけの人やあやかしに愛されているんだ。
 いつまでも続いてほしい、と強く思った。

「にきくん、どうかしました?」
「ああ、何でもないよ。うーん、何か食べる?」
「私、かき氷が食べたいです」
「いいね。えっと、かき氷の屋台は……」
「その前に整理券を購入しないと」
「そうなんだ。それじゃあ、まずは整理券を買いに行こう」

 と、ここですんなり手を繋いでつゆりさんをエスコートできればよかったのだが、残念ながらぼくにそんな度胸はなかった。
 整理券を購入し、かき氷屋台を目指す。涼を求めてか少し混雑しているようだったが、着いた頃にはお客ははけていた。
 屋台の張り紙に書かれたシロップの種類は、いちご、レモン、メロンにブルーハワイ。定番中の定番だ。

「つゆりさんは何にする?」
「いちごがいいです。にきくんは?」
「ぼくは……うん、レモンしようかな。すみません、いちごとレモンを一つずつください」

 整理券を渡しつつ屋台の人に注文すれば「はいよー!」と威勢のいい声が辺りに響いた。
 ふと、屋台にいたうちの一人の男性が振り返ってぼくたちを――正確に言えば、ぼくの隣にいるつゆりさんを認めた。

「おお、来たな!」
「はい、来ました」

 男性が声を弾ませ、つゆりさんがそれに応えた。「え、え?」と状況について行けていないぼくに、つゆりさんが男性を手で示して紹介する。

「父です」
「父だ」
「……え!?」

 ――こ、この人が例の親バカの父親か!
 つい指を差してしまった。
 勿論、あくまで頭の中で、である。実際には行動に起こしていないし、人を指で差すということが失礼な行為だということは重々理解しているのでどうか許してほしい。
 仁王立ちで腕を組んだ目の前の男性ことつゆりさんのお父さんは屈強そうで、華奢なつゆりさんとは正反対である。でも、整った顔立ちはなるほど、彼女に似ている部分もある。……いや、彼女に似ているんじゃなくて、彼女が父親に似ているのか。
 思わずまじまじと見つめてしまっていたらしい。その整った顔の眉間に皺が寄せられた。

「おい、友だちと来るとは聞いたが男と来るなんて聞いてないぞ」
「何言っているんですか。にきくんは私の大切なお友だちです」

 不機嫌そうな父親につゆりさんがはっきりと告げる。
 大切なお友だち……嬉しいような悲しいような……。
 やれやれと言った様子でつゆりさんのお父さんががしがしと頭を掻いた。

「まあ、来ちまったもんはしょうがねぇ。存分に楽しんでこい」
「はい」

 父親の言葉につゆりさんが満面の笑顔を返す。その笑顔にぼうっと見惚れていると、目の前にずいと何かが差し出された。

「ほらよ」
「あ、ありがとうございます」

 お礼を述べつつかき氷を受け取ると、つゆりさんのお父さんにちょいちょいと手招きされた。その目はギラギラと光っていて……うわぁ、嫌な予感しかしない。

「わかってんだろうな?手ぇ出したら赦さねぇからな」

 ドスの効いた低い声で言われ、ぼくはこくこくとただただ頷くことしかできなかった。
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