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第五話 管狐(一)
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扇風機の風を浴びながら、濡れた髪をがしがしとタオルで拭く。ドライヤーで乾かした方がいいらしいがそんなことするなんて面倒くさい。ぼくは専らの自然乾燥派だ。
「よし、乾いたかな」
髪が乾いたのを確かめた後、ぐぐっと一つ背伸びをしてごろりとそのまま寝転がった。
頭の後ろで手を組んで今日あったことを回想する。
「それにしても、こんなに近くにあやかしが視える子がいたとはなぁ……」
思い浮かべたのはつゆりさんのことだ。
この世界には他にも視える人間がいるのだと、ばあちゃんから聞いてはいた。
でも、まさかこんな近くに、しかも同い年でいるなんて思いもしなかった。
最初、彼女はぼくよりも年上かと思った。何処か浮世離れした雰囲気がそう思わせたのかもしれない。
大人しい子というイメージだったが、話してみると少し違った。
――わ、私と、友だちになってください!
そう言われた時は本当にびっくりしたけど嫌な気はしなかった。それどころか、そう言われて嬉しかったし、つゆりさんと話しているととても落ち着いた。尤も、心臓の方は五月蠅かったけど。
「もっと話したかったなぁ」
ぽつりと呟いた言葉は虚空へと消えた。
沈黙することたっぷり数十秒。
はっとして起き上がったぼくはぶんぶんと頭を振った。
いやいやいや、何を言ってるんだぼくは!いやまあ、確かにもっと話したいけども!純粋にあやかしのことを話したいだけであって!
「……って、何で言い訳なんかしているんだよ」
誰かが見ていた訳でも聞いていた訳でもないのに馬鹿馬鹿しい。
手で顔を隠しながら力なく項垂れる。「あー、もう」と脱力して再び寝転がる。
「……ん?何だあれ」
ふと、反転する視界に何かが映った。
部屋の片隅にあるそれが何か気になって、ぼくは起き上がって近付いた。
「……筒?」
ひょいと手に取って見ると、それは竹筒だった。
竹筒と言っても緑色ではなく、深みのある茶色。表面には細かな花の彫刻が施されている。つやつやと光沢があり、滑らかな触り心地だ。
首から掛けるためだろうか、赤い紐がついている。だが、その結び目は切れてしまっていた。
その反対側には小さな蓋が付いていて、ぱっと見印鑑のようにも見える。
重さは軽く、振ってみたが何も音はしなかった。
「部屋のどっかに置いてあったのが転がったのかな?」
見覚えがない訳ではないのだけど……ダメだ、何処で見たのか全然思い出せない。
「まあ、ばあちゃんに訊けばわかるか」
この筒が何なのかはさっぱりわからない。だが、勝手にそこら辺の棚に入れておいて、もしばあちゃんがこれを使おうと思った時に「あれ?何処にやったかねぇ……」となっては困るだろう。
ここは普通にばあちゃんに訊いた方がいいよな。
そう結論付けたその時だった。
持っていた筒が突然がたがたと震え始めた。
「うわっ!?」
びっくりして思わず筒から手を離してしまった。
重力に従って筒は床に落下する。その拍子にぽろりと蓋が外れてしまった。
……ああ、これはマズいかも。
直感的にそう思った。ここに来てからというもの、変にそういう勘が鋭くなった気がする。
そんなぼくの考えなど関係なしに、まるで昔話に出てくる玉手箱のように蓋がとれた筒からはもくもくと煙が立った。
そして、その煙を浴びてしまったぼくは白髪白髭のお爺さんに――
「……あれ?」
なんて、そんなことは全くなく。
煙が立つこともなく、勿論お爺さんになるなんてこともなく、蓋がとれただけで筒は静かに床に転がっていた。
「勘が、外れた?」
何も起きなくて拍子抜けしたが、それならそれでいい。変な勘など当たらない方がいいし、何も起きない方がいいに決まっている。
ほっと胸を撫で下ろしたその瞬間、シュッと筒から何かが出てきた。
「ひぃっ!」
咄嗟のことに驚いてしまい、思わず尻餅をついた。
……うわぁ、情けない。
と、自己嫌悪を感じている間にも、筒から出てきた何かは部屋の片隅に……もとい、部屋の中央に堂々と佇んだ。
「よし、乾いたかな」
髪が乾いたのを確かめた後、ぐぐっと一つ背伸びをしてごろりとそのまま寝転がった。
頭の後ろで手を組んで今日あったことを回想する。
「それにしても、こんなに近くにあやかしが視える子がいたとはなぁ……」
思い浮かべたのはつゆりさんのことだ。
この世界には他にも視える人間がいるのだと、ばあちゃんから聞いてはいた。
でも、まさかこんな近くに、しかも同い年でいるなんて思いもしなかった。
最初、彼女はぼくよりも年上かと思った。何処か浮世離れした雰囲気がそう思わせたのかもしれない。
大人しい子というイメージだったが、話してみると少し違った。
――わ、私と、友だちになってください!
そう言われた時は本当にびっくりしたけど嫌な気はしなかった。それどころか、そう言われて嬉しかったし、つゆりさんと話しているととても落ち着いた。尤も、心臓の方は五月蠅かったけど。
「もっと話したかったなぁ」
ぽつりと呟いた言葉は虚空へと消えた。
沈黙することたっぷり数十秒。
はっとして起き上がったぼくはぶんぶんと頭を振った。
いやいやいや、何を言ってるんだぼくは!いやまあ、確かにもっと話したいけども!純粋にあやかしのことを話したいだけであって!
「……って、何で言い訳なんかしているんだよ」
誰かが見ていた訳でも聞いていた訳でもないのに馬鹿馬鹿しい。
手で顔を隠しながら力なく項垂れる。「あー、もう」と脱力して再び寝転がる。
「……ん?何だあれ」
ふと、反転する視界に何かが映った。
部屋の片隅にあるそれが何か気になって、ぼくは起き上がって近付いた。
「……筒?」
ひょいと手に取って見ると、それは竹筒だった。
竹筒と言っても緑色ではなく、深みのある茶色。表面には細かな花の彫刻が施されている。つやつやと光沢があり、滑らかな触り心地だ。
首から掛けるためだろうか、赤い紐がついている。だが、その結び目は切れてしまっていた。
その反対側には小さな蓋が付いていて、ぱっと見印鑑のようにも見える。
重さは軽く、振ってみたが何も音はしなかった。
「部屋のどっかに置いてあったのが転がったのかな?」
見覚えがない訳ではないのだけど……ダメだ、何処で見たのか全然思い出せない。
「まあ、ばあちゃんに訊けばわかるか」
この筒が何なのかはさっぱりわからない。だが、勝手にそこら辺の棚に入れておいて、もしばあちゃんがこれを使おうと思った時に「あれ?何処にやったかねぇ……」となっては困るだろう。
ここは普通にばあちゃんに訊いた方がいいよな。
そう結論付けたその時だった。
持っていた筒が突然がたがたと震え始めた。
「うわっ!?」
びっくりして思わず筒から手を離してしまった。
重力に従って筒は床に落下する。その拍子にぽろりと蓋が外れてしまった。
……ああ、これはマズいかも。
直感的にそう思った。ここに来てからというもの、変にそういう勘が鋭くなった気がする。
そんなぼくの考えなど関係なしに、まるで昔話に出てくる玉手箱のように蓋がとれた筒からはもくもくと煙が立った。
そして、その煙を浴びてしまったぼくは白髪白髭のお爺さんに――
「……あれ?」
なんて、そんなことは全くなく。
煙が立つこともなく、勿論お爺さんになるなんてこともなく、蓋がとれただけで筒は静かに床に転がっていた。
「勘が、外れた?」
何も起きなくて拍子抜けしたが、それならそれでいい。変な勘など当たらない方がいいし、何も起きない方がいいに決まっている。
ほっと胸を撫で下ろしたその瞬間、シュッと筒から何かが出てきた。
「ひぃっ!」
咄嗟のことに驚いてしまい、思わず尻餅をついた。
……うわぁ、情けない。
と、自己嫌悪を感じている間にも、筒から出てきた何かは部屋の片隅に……もとい、部屋の中央に堂々と佇んだ。
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