にきの奇怪な間話

葉野亜依

文字の大きさ
上 下
9 / 37

第四話 少女(四)

しおりを挟む
 何とか顔の熱もおさまり、ぼくたちは二人で談笑していた。
 つゆりさんが今まで会ったあやかしの話とか、ぼくがこの家に来てからあった出来事とか。
 そうこうしている間に、ゆったりとした足音が廊下から聞こえてきた。そして、昼食をおぼんに載せて持ってきたばあちゃんが部屋の中に入ってきた。
「あらあら、もう仲良くなったのかい?」
「はい!にきくんが友だちになってくれました!」

 まるで幼子のように、嬉しそうにつゆりさんが報告する。それを「そうかいそうかい」と目を細めてばあちゃんが聞いている。
 ぼくは先程の自分の言動を思い出して、照れ臭くて明後日の方向を向くことしかできなかった。

「それじゃあ、後は若いもんに任せるとするかねぇ」
「……ばあちゃんは食べないの?」
「私は向こうでこの子たちと食べるから」
「ばあと食べるー」
「食べるー」

 いつの間にか部屋に入って来ていた小鬼たちが飛び跳ねた。

「そういうこと。では、ごゆっくり」

 小鬼たちと連れ立って、ばあちゃんが部屋を出て行く。
 その際、ばあちゃんが意味深げに口元を上げたのをぼくはばっちり見た。
 ……あれは絶対にバレている、な。うわー、後で何かいろいろと言われそう……。
 思考を振り払うために、キンキンに冷えた飲み物を口に含む。
 この後のことを考えると気が重くなるが、今は目の前の彼女との会話を楽しむことにしよう。


 そして、楽しい時間というものはあっと言う間に過ぎてしまうもので。
 昼食を終え、気づいた時には日が傾きかけていた。
 つゆりさんの家には門限があるらしい。「そろそろ帰らないと」と彼女が席を立つ。
 門限があるなんて今時珍しいな……いや、女の子がいる家庭ならそれが普通なのかな?
 つゆりさんが帰るのを残念に思いながら、門の前で見送りをする。
 家までとはいかずとも、近くまで送って行った方がいいんじゃないかと思ったが、彼女の家はここから五分もかからないらしい。見送りはここで良いよと言われた。
 そのことに対しても、少しだけ残念に思ってしまったなんて、相当重傷だな。

「それじゃあ、にきくん。またね」
「またね」

 最後に手を振って、つゆりさんは歩き出した。
 その後ろ姿が見えなくなるまでぼくは彼女を見ていた。

 家の中に入っていくと、何か言いたげににこにこと……いや、にやにやとばあちゃんが笑っていた。

「……何、ばあちゃん」
「いやなに、にきちゃんって意外に純情なんやねぇ」

 はっはっはっ。
 ばあちゃんが豪快に笑う。
 ぼくはかあっと顔に熱が集まった。
 頑張って無心でいようと心掛けたが、ばあちゃんの追撃はその後もずっと続いたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

処理中です...