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第七話 空飛ぶ帽子(三)
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ふぅと息を吐いたわたしに司樹さんが労りの言葉を掛ける。
「留花さんお疲れ様」
「わたしは何もしていないですよ?」
「集客と接客してくれたでしょ。今回の分の給料もちゃんと出すから安心して」
「えーっと……ありがとうございます?」
別に何もしていない気がするけど……給料が貰えるのは素直にありがたいかな。
腑に落ちなくて思わず言葉尻に疑問符がついてしまったが、貰えるものは貰っておこうとわたしは自己完結をした。お金があって困ることなんてないだろうから。
それにしても、と司樹さんがゆっくりと言葉を紡ぐ。
「留花さんが集客までしてくれるとはねぇ……。最初の頃よりも成長したねぇ」
しみじみとそう言われあたたかな眼差しを向けられて、わたしは何だかむずむずと気恥ずかしくなった。
「成長、していますかね?」
「しているしている。あ、でも、今回はそこまで厄介じゃなかったけど、厄介事にだけは巻き込まれないように注意はするんだよ」
「……好きで巻き込まれている訳じゃないですよ?」
そもそも巻き込まれた訳ではない。踊り猫の時は巻き込まれかけただけだし、八さんの時は司樹さんもいたし、河童さんの時は……あれは巻き込まれに行ったうちに入るのだろうか。
うーんと唸っていると司樹さんが苦笑した。
「わかっているよ。注意していても巻き込まれる時は巻き込まれるものだからねぇ……」
顔から感情が抜け落ちたかのような司樹さんを見てわたしは思う。
きっと、あやかし絡みでたくさんの苦労をしてきたんだろうなぁ……。
少し前から視えるようになったわたしでさえ、苦労しているのだ。生まれつきあやかしが視えると言っていた司樹さんはわたし以上に苦労しているのだろう。
その苦労をそう簡単には理解できないだろうし、まだまだあやかしとの交流が浅いわたしが司樹さんに何かをしてあげることなんて少ないだろう。
……でも、それでも――。
わたしは顔を上げて司樹さんに言うのだ。
「司樹さん」
「ん?どうかした?」
「もし司樹さんが厄介事に巻き込まれたら、あの、その……大それた事はできませんけど、話を聞くぐらいのことならわたしにもできますから。だから、話せる範囲で話したくなったら話してくださいね」
話を聞いてもらえるだけで、司樹さんに救われている部分があるからこその言葉である。
一瞬の間を置いて司樹さんが問うてきた。
「それは、巻き込んでも良いってこと?」
「……えっと、正直に言えばできれば巻き込まれたくはないんですけど、いざとなったら巻き込まれる覚悟はします」
眉尻を下げつつもはっきりと言い切ったわたしに司樹さんはぽかんと口を開いた。
次いで、司樹さんがくるりと身を翻した。
一体どうしたのだろうか、と後ろ姿を窺っていれば、その肩が震えている。どうやら笑っているようだ。
「……司樹さん、もしかして笑っています?」
「わ、笑って、いない、……くくっ、よ?」
「笑っていますよね?もう笑うならいっそのこと笑ってくださいよ!」
全くもう、と悪態を吐けば、それじゃあ遠慮なくと言わんばかりに司樹が笑い出した。
……そんなに笑う要素あったかな?
何をそんなにツボったのかはわたしにはさっぱりわからなかった。
わたしよりも年上で男の人であやかしが視えてあやかしのことに詳しくて……悪戯っぽいところがあったり、笑うと子どもっぽいところがあったり……。
司樹さんのことはまだまだわからないことだらけだ。
一頻り笑ったところで、司樹さんがこちらを見た。
「留花さん」
「何です?」
「ありがとう。あと、ごめんね」
どうして今謝られたのかわたしにはさっぱりわからない。
「……その謝罪は何に対してですか?」
「うーん、いろいろ?」
へらりと笑う司樹さんに、「あ、これは誤魔化すつもりだな」とまだ付き合いの短いわたしでも察せた。
「しーきーさーんー?」
「さてと、仕事に戻るとするかなぁ」
仕事に戻っていく司樹さんに「待ってください!」と手を伸ばす。
そういえば、買い物の帰りだったっけとわたしが思い出したのは、手に持った買い物袋の存在を思い出した時だった。
「留花さんお疲れ様」
「わたしは何もしていないですよ?」
「集客と接客してくれたでしょ。今回の分の給料もちゃんと出すから安心して」
「えーっと……ありがとうございます?」
別に何もしていない気がするけど……給料が貰えるのは素直にありがたいかな。
腑に落ちなくて思わず言葉尻に疑問符がついてしまったが、貰えるものは貰っておこうとわたしは自己完結をした。お金があって困ることなんてないだろうから。
それにしても、と司樹さんがゆっくりと言葉を紡ぐ。
「留花さんが集客までしてくれるとはねぇ……。最初の頃よりも成長したねぇ」
しみじみとそう言われあたたかな眼差しを向けられて、わたしは何だかむずむずと気恥ずかしくなった。
「成長、していますかね?」
「しているしている。あ、でも、今回はそこまで厄介じゃなかったけど、厄介事にだけは巻き込まれないように注意はするんだよ」
「……好きで巻き込まれている訳じゃないですよ?」
そもそも巻き込まれた訳ではない。踊り猫の時は巻き込まれかけただけだし、八さんの時は司樹さんもいたし、河童さんの時は……あれは巻き込まれに行ったうちに入るのだろうか。
うーんと唸っていると司樹さんが苦笑した。
「わかっているよ。注意していても巻き込まれる時は巻き込まれるものだからねぇ……」
顔から感情が抜け落ちたかのような司樹さんを見てわたしは思う。
きっと、あやかし絡みでたくさんの苦労をしてきたんだろうなぁ……。
少し前から視えるようになったわたしでさえ、苦労しているのだ。生まれつきあやかしが視えると言っていた司樹さんはわたし以上に苦労しているのだろう。
その苦労をそう簡単には理解できないだろうし、まだまだあやかしとの交流が浅いわたしが司樹さんに何かをしてあげることなんて少ないだろう。
……でも、それでも――。
わたしは顔を上げて司樹さんに言うのだ。
「司樹さん」
「ん?どうかした?」
「もし司樹さんが厄介事に巻き込まれたら、あの、その……大それた事はできませんけど、話を聞くぐらいのことならわたしにもできますから。だから、話せる範囲で話したくなったら話してくださいね」
話を聞いてもらえるだけで、司樹さんに救われている部分があるからこその言葉である。
一瞬の間を置いて司樹さんが問うてきた。
「それは、巻き込んでも良いってこと?」
「……えっと、正直に言えばできれば巻き込まれたくはないんですけど、いざとなったら巻き込まれる覚悟はします」
眉尻を下げつつもはっきりと言い切ったわたしに司樹さんはぽかんと口を開いた。
次いで、司樹さんがくるりと身を翻した。
一体どうしたのだろうか、と後ろ姿を窺っていれば、その肩が震えている。どうやら笑っているようだ。
「……司樹さん、もしかして笑っています?」
「わ、笑って、いない、……くくっ、よ?」
「笑っていますよね?もう笑うならいっそのこと笑ってくださいよ!」
全くもう、と悪態を吐けば、それじゃあ遠慮なくと言わんばかりに司樹が笑い出した。
……そんなに笑う要素あったかな?
何をそんなにツボったのかはわたしにはさっぱりわからなかった。
わたしよりも年上で男の人であやかしが視えてあやかしのことに詳しくて……悪戯っぽいところがあったり、笑うと子どもっぽいところがあったり……。
司樹さんのことはまだまだわからないことだらけだ。
一頻り笑ったところで、司樹さんがこちらを見た。
「留花さん」
「何です?」
「ありがとう。あと、ごめんね」
どうして今謝られたのかわたしにはさっぱりわからない。
「……その謝罪は何に対してですか?」
「うーん、いろいろ?」
へらりと笑う司樹さんに、「あ、これは誤魔化すつもりだな」とまだ付き合いの短いわたしでも察せた。
「しーきーさーんー?」
「さてと、仕事に戻るとするかなぁ」
仕事に戻っていく司樹さんに「待ってください!」と手を伸ばす。
そういえば、買い物の帰りだったっけとわたしが思い出したのは、手に持った買い物袋の存在を思い出した時だった。
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