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第三章 クローバーの国

レイディアスの絵本【中編】

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悲しき氷人レイディアス・ジステリア。
その血に流れるは、人か神か。


雪が降りしきる辺境の村で、俺達は生まれた。

俺の名前はレイディアス・アイガスト。

氷人と人間の混血であり、人間の血が多く流れている。

そして彼は弟のエシール・アイガスト。

氷人の血が多く、寒い地域でないと生きていけない。


氷人とは、言葉の通り氷から生まれた種族で、
分類すると、妖精に近い生物である。

俺達は、人間と氷人が交わって生まれたハーフということだ。

人間は俺達をとても良くしてくれた。

そう、待遇は良かったものの、
俺達に自由というものは無かったんだ。

このの村人達は、俺達氷人を御神体として扱っており、
この神殿の中に、閉じ込められていたんだ。











「寒い、雪国は専門外だ」

レギルは体を震わせながら足を進める。

そんなレギルを励ますように、
ラミリは明るい声で話しかけた。

「寒いならカイロとか貼っとく?
前に人間の世界で買ってたんだよね」

「まあ、いつもなら無駄遣いを咎めるのだろうが、
今回は助かるな、感謝する」

「邪神も寒さとか感じるんだね」

「ベースとしたものによって、弱点も変わってくるな
俺は最初の契約者の家で見つけたドラゴンの絵を
ベースとして作られているのでな
灼熱の大地なら平気なのだが、
極寒の地に耐えられるようには形成されていない」

「やっぱ最初のベースって大事なんだね」

「そうだな、最初の契約者から得たベースによって、
状況次第では異形になることも、
俺のようなはっきりとした生物になることもある
まあ、ベースが何であれ、強さには何の影響も無いがな」

「はっきりしてた方が強くなるんじゃないの?」

「いや、そんなことはないな
最初のベースは謂わば肉体……
魂だけの状態に肉付けをする作業なんだ
肉眼で見えれば、どんな姿でも構わんというわけだ」

「それでレギルは爬虫類になったわけだね」

「爬虫類とか言うな
ベースにしただけで、そのものでは無いのだからな」

時間が経つうちに、次第にレギルの歩みが早くなる。

恐らく貼っていたカイロが温まってきたのだろう。

ラミリもレギルに追いつこうと足を早めると、
何かにつまずいて盛大に転んだ。

ラミリの顔は雪まみれで、寒そうに震えている。


「うわー、やっちゃった……」

「大丈夫か、ラミリ」

「大丈夫じゃないよ……うう、寒い」

「……………」


レギルはしばらく考え込んだ素振りを見せると、
突然ドラゴンの姿へと変化した。

本来の姿にしてはやけに小さい。

ラミリが簡単に背中に乗れるくらいの大きさだった。


「ちょ、急にドラゴンの姿になってどうしたの?
本来の姿にしては小さすぎるような……」

「本来の大きさだと周りの木々すら倒しかねんし、それに目立つ
熊くらいの大きさならばさほど目立たんだろう」

「だからって……寒くない?」

「カイロがあるから大丈夫だ
それにラミリが気にすることではない
さっさと乗れ、早く乗らないと置いていくぞ」

「どうせ乗るまで待っててくれるんでしょ?
もう、素直じゃないんだから」

ラミリはレギルの背中に乗り込むと、
掴む所が無かった為、角を掴んだ。

ラミリは少し不機嫌そうな顔をしている。

「どうした」

「どうせ乗せてくれるなら、
手綱とか用意してくれたら良かったのに……」

「邪神にそんなものがあるわけないだろう
それに、今回は突発的な行動だからな
そんなもの事前には用意していない」

「確かにそれもそうだけどさ……」

「飛ぶぞ、しっかり掴まってろよ」

レギルは翼を羽ばたかせると、
そのまま上空へと飛び上がる。

空は雪が降っており、
ラミリの体を極寒の寒さが襲った。


「うわ寒っ! ちょ、レギルこれ大丈夫なの?」

「ラミリ、あそこに村があるぞ」

「え、本当に? どこにあるのそんなの」

「あそこにあるじゃないか
ほら、あの大きな山に囲まれている場所だ」

「え、あの豆粒みたいなのが!?
レギル良く見えたねあんなの!」

「こんな世界に村があるということは、
何か情報を得られるかもしれん
あの村の近くに着陸するぞ」

「え、まさか急降……いやあああ!」

レギルは目にも止まらぬ早さで急降下をすると、
地面に積もった雪を削りながら着陸した。

周りに人がいないことを確認すると、
レギルはいつもの人の姿に戻った。

レギルから降りたラミリはげっそりとしている。

「どうしたラミリ、顔色が悪いぞ」

「れ、レギル……」

「何だ」

「私だから良かったものの、
他の住人であんな降り方したら命に関わるからね」

「ふむ、ならどうしたら良いんだ?」

「出来るならこう、飛行機みたいに着陸したら安全かも」

「分かった、次からはそうしよう」

「そうして……」

この日程、自分が人間じゃなくて良かったと、
実感したことはないラミリであった。







「エシール! 走って!」

その直後、レギル達の横を二人の陰が横切る。

その二人の内の一人は間違いなく……

「あれは、レイディアスだな」

「そうだね、何であんなに急いでるんだろう」

「追いかけてみるか?」

「勿論」

「なら行こう、ラミリ」

「御神体が逃げたぞーー!」

背後から大きな声が聞こえると、
武装した村人達が次々と二人の後を追いかけていった。

レギル達もその後へ続く。


「よっぽど大事なようだな。その御神体とやらが」

「御神体って何のこと?」

「それを判断するには情報が足りなすぎる
もっと詳しく調べてからの方が良いだろう」











やっと村人達に追い付くと、そこには連れていかれる
エシール・アイガストの姿があった。

ただ、一緒に逃げていたはずのレイディアスの姿はない。

「レイディアスが見当たらないな」

「運良く逃げ延びたのかもね」

「あいつ、本当はジステリアじゃなかったのか?
どうしてあいつはジステリア家の息子
ということになっている」

「この村で調べる必要があるね」

「そうと決まれば判断材料を揃えるか」




この村を調べてみて、分かったことがある。

どうやらこの村は、氷人の加護に恵まれているらしく、
この村では植物や獣は氷人の恵みであり、
この村で初めて生まれた氷人のハーフが、あの兄弟というわけだ。

村人達はそんな兄弟を御神体と呼び、
今まで神殿の中に幽閉していたというわけだ。

「なるほど、とんだクソ村だな」

「何とかしてエシールも出してあげられないかな?」

「それは無理だな、エシールは氷人の血が多い
つまりは雪国以外では暮らせないということだ
無事に解放出来たとして、溶けて死んでしまうだろう」

「そっか、せっかく助けても、
死んじゃったら意味ないよね……」

「この世界は、ただの映像、そして変えがたい過去だ
俺達にはどうしようも出来ん」

「………………」

段々と周りの雪景色が消えていく。

いよいよ別の世界へと移動するのだ。

「次はどこに飛ばされるんだろうね」

「また寒い所で無ければ良いのだがな」

場面は変わり、今度はレギル達が見知った街が現れる。

「これは……」

「ああ、ここはよく知っている
この街は、キルトが……」

「私も良く覚えているよ
ううん、忘れるわけがないもの」

「キルトが昔住んでいた街だ」
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