【本編完結】アリスとレイスの不思議な絵本

札神 八鬼

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第三章 クローバーの国

カシルゼーテの絵本【後編】

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俺は豊かな生活なんて要らなかったんだ。

ただ、家族との時間さえあれば、
たったそれだけで幸せだったんだ。

それなのに、そんな僅かな願いを壊したのは、
生活を支えるはずの、人を幸せにするはずの金だった。

そうか、人は……沢山の金を持つと不幸になるのか。

家族もただのお飾りに変わってしまうのか。

さあ、やり直そう。俺の望む家族の形に。


俺の家族は、ウィット兄さん、弟のズワルト、
妹のアリス、ペットのシャレーゼ、執事のレイス。

そうだこれだ、俺が求めていたことは……
 

「言霊魔法使用、ここにいる者皆、俺の家族になれ」

言霊魔法とは、カシルゼーテが使える魔法で、
言霊に魔力を流して力を発動する為、
大抵のことが可能となってしまう。

例えそれが住人の意識を操ることになろうと……

だがその魔法は、ゴーストには効かない。

「これは、まずいことになったな……」

俺以外の奴らは、全員カシルの家族になっていた。

勿論そんなことはあり得ないし、
過去にも一切関わっていない連中ばかりだ。

それでも彼らは言霊魔法にかかったのだ。

俺は精神に異常はないが、服装が変わっていた。

これは、この、執事服は……


「……………行くか、お嬢様を助けないと」


あの方は、家族の温もりを求めていた。

だからこそ、この世界は抜け出しにくい。

例え形ばかりは幸せでも、所詮はハリボテ。

この残酷で悲しい夢から、覚めなければならない。


「あら、レイスじゃない」


食堂を出ると、そこにはお嬢様がいた。

まるで、あの頃に戻ったかのように思えるほどに……

「お嬢様……」

戻さないといけない。

この魔法を無効にしないといけない。

でも、でも、本当に良いのか?

こんなに幸せそうなのに、俺が壊してしまって……

幸せを壊す資格は、俺には無いんじゃないか?


「確かレイスは、まだここに来て日が浅かったわね」

「そうですね、まだ半月程度でしょうか」

やめろ、思い出させるな。

何でこんなものを俺に見せる。


「レイス、これからもずっと一緒にいてね、約束よ」


それは俺の一生の中で、果たせずに終わった約束だ。

その約束を、どうして今言うんだ。

俺は、それを破ってしまったのに……


「はい、約束します」


破った約束を再度直して、また嘘を重ねた。

ああ、申し訳ございませんお嬢様。

俺はまた、約束を破ることになりそうです。

お許し下さい、これも全てお嬢様の為。

お嬢様の未来の為なら、
俺はどんな酷いこともこなしてみせましょう。


「無効魔法」


だからこれは、俺の自己満足。

もう一度人に戻った暁には、
俺はあなたに温かい家族を御用意致しましょう。

俺がいなくても、生きていけるように……

住人達も、俺も、すぐに忘れられるように……




「どうして邪魔をするんだ、レイス」

やっと姿を現したカシルゼーテは俺を睨み付ける。

他の住人達は先に絵本の外へと出した。

この世界には俺とカシルしかいない。


「お前が何をしようが、所詮偽物だよ
ここの住人達は、お前の本当の家族にはなれない」

「俺は温かな家族が欲しかっただけだ
あんな静かな食卓はうんざりなんだよ」

「無理矢理作らなくても、お前にはいるじゃねえか
一緒に食卓を囲んでくれる奴が」

『ソウダヨ』

声がした方を見ると、そこには真っ黒な人影が立っている。
でもどこか、知っているような気もする。

「リキルス」

『王さま、ボク、いる、寂しくない』

「そうか、俺にはお前がいたよな
ごめんな……本当に……ごめん……」

「そいつは……」

「俺がセキルライトの所からスカウトしたんだ
前の家では虐待受けてたみたいだから、
俺以外には口を開いてくれないけどな」

「そうか、そうだったのか……」

ここで、カシルゼーテとドードー鳥は、
過去に繋がりがあることが分かった。

どうやらこの国の住人は、
過去に誰かしらと関わってる者が多いようだ。


「もう出よう、この世界から」

孤独に溺れた王は、
この仮初めかりそめの世界から脱出した。






「迷惑かけたなお前ら」

「君の魔法は相変わらず強力だね
この不思議の国と同じように、
元から兄弟だった気がしていたよ」

「結局今回はレイスに任せっきりだったし、
こういう時にゴーストって便利だよな」

「今回は仕方なかったとはいえ、お前らも少しは警戒しとけよ」

「そんなの言われても困るんだけど
目に見えない魔法なんて防ぎようがないでしょ」

「最後は管理人だけね」

「ここにはセバルトがいたはずだから、
絵本の場所まで案内するよ」

「おお、たまには役に立つなチビ」

「誰がチビだゴルァ! てめぇ低身長なめんなよ?
その気になればしゃがむ攻撃出来るんだからな?
おらしゃがんだぞ視界に入れてみろや!
出来ねえだろ? 出来ねえよな!
お前俺より馬鹿みてえに身長高いもんなぁ!
普段何食ってんだよちょっと身長よこせや」

カシルゼーテはズワルトの前で、

何度も立ってしゃがんでを繰り返し、

低身長アピールをしているが、

ズワルトはそんなカシルゼーテを

可哀想なものを見る目で眺めていた。


「お前、言ってて悲しくならねえの?」

「スクワットなら他所でやってくれ」

「何この理不尽!!! 納得いかないんだけど!」

また一つ記憶を取り戻したレイスは、
浮かない表情で先を見据えていた。


この旅が終わる時、それは物語の終着点。

いずれアリスは記憶を取り戻すだろう。

その前に、そうなってしまう前に、
彼は、一つの決断をしなければならない。



レイス達は管理人の絵本の元へと向かった。
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