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第三章 クローバーの国
マッドハッターの絵本【前編】
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マッドハッターの絵本を前に、
レイス達は次の住人を解放しようとしていた。
「今度はマッドハッターか」
「ハッター……と言うと、確か無口な番兵だったな」
「ズワルト、彼に会ったことがあるのか?」
「ああ、声を聞いたことはないけどな」
「そうか、僕も聞いたことがないな
彼の声を聞いてるのは極一部なんじゃないかな?」
「まあ、向こうが喋る気ないんだから、
聞いたことなくても仕方ないかもな」
「おいお前ら、さっさと行くぞ」
「お前いつからリーダーになったんだよ」
「最初からだ」
「俺お前みたいなリーダー嫌なんだけど」
「我が儘言うな
文句言う暇あるならさっさと行くぞ」
「やたらと強引なリーダーだな」
レイス達はマッドハッターの絵本に触れた。
黒き獣リキルス・ギルバー。
姿を変えられ一人でさ迷う。
レイスが周りを見渡してみると、一人だけ足りない気がした。
「あれ? ズワルトは?」
「恐らく別の場所に飛ばされたのでしょう
一緒に絵本の世界に入ったので、
どこかにいるのは確かなのですが……」
「君、そんな口調だったっけ?」
「頭に、記憶が流れ込んできたのです
まだ仕えていた方は思い出せませんが、
アリス様と何か関係があるみたいですね」
「私と?」
「はい、あなたを見ていると、
何か大事なことを思い出せそうなんです」
「とにかく、昔と比べると君の記憶は大分戻ってきている
このまま住人を解放していけば、
やがて全てを思い出すだろうね」
「…………そう、なのでしょうか?」
「僕はそうとしか思えないけどね
この不思議な絵本の世界が、
君の記憶を呼び覚ましているのだろう」
「記憶、戻ると良いわね」
「…………そうですね、アリス様」
白い霧に包まれた街の中で一人、
ズワルトはぽつんと取り残されていた。
「おいおい、あいつら早速迷子か?
たくっ、探す方の身にもなれよな」
軽く舌打ちをしながら歩を早めると、
視線の先に黒い獣が一匹。
人に異常に怯えているように見えた。
「お前、ここに住んでる奴か?」
ズワルトが話しかけると、黒い獣が声に反応して近づいてきた。
子供サイズの小さな黒い獣は、
グルグルと鳴きながらズワルトに顔を寄せる。
「……………パパ」
「パパ?」
獣の鳴き声に混ざって、人の言葉でそう聞こえた。
この獣は確かに、ズワルトに向かってパパと言ったのだ。
「パパ、パパ」
嬉しそうにグルグルと獣はすり寄る。
この獣の父親に声が似ていたのか、
はたまたこの獣の飼い主をそう呼んでるのか、
真相はまだ分からないままだが、
置いていくことはとても出来そうになかった。
「お前、名前は」
「リキルス」
「…………行くぞリキルス、一緒にここから出よう」
リキルスは嬉しそうに鳴くと、
ズワルトの後ろに向かって歩き始めた。
レイス達は次の住人を解放しようとしていた。
「今度はマッドハッターか」
「ハッター……と言うと、確か無口な番兵だったな」
「ズワルト、彼に会ったことがあるのか?」
「ああ、声を聞いたことはないけどな」
「そうか、僕も聞いたことがないな
彼の声を聞いてるのは極一部なんじゃないかな?」
「まあ、向こうが喋る気ないんだから、
聞いたことなくても仕方ないかもな」
「おいお前ら、さっさと行くぞ」
「お前いつからリーダーになったんだよ」
「最初からだ」
「俺お前みたいなリーダー嫌なんだけど」
「我が儘言うな
文句言う暇あるならさっさと行くぞ」
「やたらと強引なリーダーだな」
レイス達はマッドハッターの絵本に触れた。
黒き獣リキルス・ギルバー。
姿を変えられ一人でさ迷う。
レイスが周りを見渡してみると、一人だけ足りない気がした。
「あれ? ズワルトは?」
「恐らく別の場所に飛ばされたのでしょう
一緒に絵本の世界に入ったので、
どこかにいるのは確かなのですが……」
「君、そんな口調だったっけ?」
「頭に、記憶が流れ込んできたのです
まだ仕えていた方は思い出せませんが、
アリス様と何か関係があるみたいですね」
「私と?」
「はい、あなたを見ていると、
何か大事なことを思い出せそうなんです」
「とにかく、昔と比べると君の記憶は大分戻ってきている
このまま住人を解放していけば、
やがて全てを思い出すだろうね」
「…………そう、なのでしょうか?」
「僕はそうとしか思えないけどね
この不思議な絵本の世界が、
君の記憶を呼び覚ましているのだろう」
「記憶、戻ると良いわね」
「…………そうですね、アリス様」
白い霧に包まれた街の中で一人、
ズワルトはぽつんと取り残されていた。
「おいおい、あいつら早速迷子か?
たくっ、探す方の身にもなれよな」
軽く舌打ちをしながら歩を早めると、
視線の先に黒い獣が一匹。
人に異常に怯えているように見えた。
「お前、ここに住んでる奴か?」
ズワルトが話しかけると、黒い獣が声に反応して近づいてきた。
子供サイズの小さな黒い獣は、
グルグルと鳴きながらズワルトに顔を寄せる。
「……………パパ」
「パパ?」
獣の鳴き声に混ざって、人の言葉でそう聞こえた。
この獣は確かに、ズワルトに向かってパパと言ったのだ。
「パパ、パパ」
嬉しそうにグルグルと獣はすり寄る。
この獣の父親に声が似ていたのか、
はたまたこの獣の飼い主をそう呼んでるのか、
真相はまだ分からないままだが、
置いていくことはとても出来そうになかった。
「お前、名前は」
「リキルス」
「…………行くぞリキルス、一緒にここから出よう」
リキルスは嬉しそうに鳴くと、
ズワルトの後ろに向かって歩き始めた。
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