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本編
第二十一話 狂愛のネックレス(カミ編)
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「守、今日も来てくれたのか」
秋月家の当主兼、縁守の雅晴は、
僕を視認した途端、嬉しそうに目を輝かせる。
机に書類が散乱しているのを見ると、
また徹夜で作業をしていたらしい。
「雅晴……君はもう若くないんだ
睡眠を忘れて熱中する癖……そろそろ直したらどうだい?」
「あははっ、時の流れで直るものであるならば、
僕は今頃こんなことになっちゃいないよ」
雅晴は見た目はまあ良い方なのだ。
そのボサボサの黒髪と野暮ったいメガネをどうにかすれば、
少しは見違えるだろうに……
どうやら全く身綺麗にするつもりはないらしい。
「全く、いつまでもその調子だと、
お嫁さんが来てくれるかどうかも怪しいね」
「どうだろうねぇ
僕みたいな変人を見初めてくれる人なんているかなぁ」
「君は素材は悪くないんだ
せめてそのボサボサの髪をどうにかしなよ」
「それでどうにかなれば良いんだけど……」
雅晴は立ち上がり、窓から村を見下ろす。
山の中に立っている家からだと、村の全てが見下ろせる。
「そういえば、どうして洋館にしたんだい?」
「よくぞ聞いてくれた!」
少し前から気になっていたことを聞いてみると、
雅晴はキラキラした顔で説明を始めた。
「やっぱり時代は西洋だからね!
自分の家を洋館にするの、夢だったんだよ!」
何かのスイッチが入ったのか、
雅晴は興奮した面持ちで内装の説明を始める。
ぶっちゃけそういうのはどうでも良いので、
説明は全部聞き流した。
「そしてこれはでんわと言うものらしくてね!
遠くの人間とも会話できる画期的な……」
「雅晴」
「?どうしたんだい?守」
僕の異常に気が付いたのか、雅晴は不安そうに尋ねる。
「僕のことを、恨んでないの?」
雅晴は一瞬、僕の言ったことにきょとんとしていたが、
やがて何かを納得したのか、僕に笑顔で答える。
「恨んでないよ、全然
むしろ感謝しているくらいだ」
「どうしてだよ
僕がお前を縁守にしたから、家族が殺されたんだぞ?」
「あれは最初から、僕の家族ではなかったからね」
「…………どういうこと?」
「あの人達は、僕を家族だと思ってなかったんだよ
むしろ、僕のことをマガイモノの研究をする変なやつ……
気味が悪い奴と思ってただろうね」
「だから……良いんだよ
むしろ、縁が切れて良かったくらいだ」
「………………」
「僕を縁守にしてくれてありがとう、守」
「お礼なんてするなよ
僕は……お前のことを……」
「それでも、僕にとって守は、
名ばかりの家族から救い出してくれた、恩人なんだよ」
「…………変なやつ」
「ははっ、良く言われるよ」
おかしいじゃないか、そんなの。
僕はわざと雅晴を縁守に指名したのに、
縁守にしてくれてありがとうだなんて……
やっぱりおかしいよ、こいつ。
でもこんな変なやつだからこそ、
僕は何度もここに通ってしまうんだろうな。
「守、良かったら明日も来てくれない?
知り合いから『ちよこれいと』を譲って貰ってね
いつもの僕じゃ口にできない高級品だから、
一人で食べるのは心苦しいんだ
美味しいお茶も用意しておくからさ」
「分かったよ、明日何時に行けば良いのかな?」
「そうだな……昼頃が好ましいね
その時間ならちょうど休憩してるだろうから」
「そう、じゃあ明日昼に来ることにしようか」
「ありがとう、守は優しいね」
これが、変わった西洋かぶれの当主の話。
すぐ死にそうな面しといて、
大家族に囲まれて老衰して死んだ、
幸せ者で逞しい男の話だ。
◇◇◇
「レキ、僕の愛の証……受け取って欲しい」
僕はレキにネックレスを手渡す。
何故かレキはひきつったような顔をしていた。
真斗は何故か引いていたし、
アタエは何かを思案していたし、
クワイは『こいつやばっ』って顔をしていた。
「返却しても良いですか?」
「あははっ、ダメに決まってるじゃないか
神からの贈り物を断ってはいけないって、
あの畜生からも聞いただろう?」
「うわっ、聞いてたんですかあれ……」
「あの畜生からの忠告を利用するとか、
悪どいし気持ち悪いですね」
「本当に通報した方が良いんじゃねえか?」
「もしもし虚さん?」
「真斗はクワイの愛し子にチクるのやめてくれない!?」
「流石に俺の手には負えそうになかったので……」
「いけませんよ縁守くん
チクるならクワイの愛し子ではなく……志摩です」
「あっ!それもそうですね」
「やめろよ!志摩の野郎のゲンコツ痛いんだぞ!」
「ゲンコツするようなことするからだろ」
「暦、嫌なら無理に受け取らなくて良いからね」
「何で僕が悪役サイドなの!?」
「こよみん、あれが神だからと言って、
無理に受け取る必要はありません
強要するようなら、志摩を呼んで叱らせますから」
「だから呼ぶなって言ってるじゃないか!」
「あの守くんから恐れられる志摩さんって……
一体何者なの?」
「志摩の奴は俺らが神だろうが容赦しねえからなぁ
悪いことしたらめっちゃ痛いゲンコツかましてくるんだよ
だからアタエとカミは志摩のこと、苦手なんだよな」
希美さんと守くん、過去に何したんだろ……
「まあとにかく、受け取ってよレキ
これは可愛い妹に向けてのプレゼントだからね」
「……………」
「レキ?」
「仕方無いですね……」
「ありがとう!レキなら喜んでくれると思ってたんだ!」
「あれが喜んでるように見えるとか、
目玉腐ってるんですかね?」
「腐った目ってどこで治せるんだろうな」
「普通に眼科とかじゃないですか?」
「いや、眼科じゃ荷が重いだろ」
こうしていつものカミの気持ち悪さに引きながらも、
日常を過ごしていくのであった。
ホワイトデーはまだまだ終わらないぞ☆
秋月家の当主兼、縁守の雅晴は、
僕を視認した途端、嬉しそうに目を輝かせる。
机に書類が散乱しているのを見ると、
また徹夜で作業をしていたらしい。
「雅晴……君はもう若くないんだ
睡眠を忘れて熱中する癖……そろそろ直したらどうだい?」
「あははっ、時の流れで直るものであるならば、
僕は今頃こんなことになっちゃいないよ」
雅晴は見た目はまあ良い方なのだ。
そのボサボサの黒髪と野暮ったいメガネをどうにかすれば、
少しは見違えるだろうに……
どうやら全く身綺麗にするつもりはないらしい。
「全く、いつまでもその調子だと、
お嫁さんが来てくれるかどうかも怪しいね」
「どうだろうねぇ
僕みたいな変人を見初めてくれる人なんているかなぁ」
「君は素材は悪くないんだ
せめてそのボサボサの髪をどうにかしなよ」
「それでどうにかなれば良いんだけど……」
雅晴は立ち上がり、窓から村を見下ろす。
山の中に立っている家からだと、村の全てが見下ろせる。
「そういえば、どうして洋館にしたんだい?」
「よくぞ聞いてくれた!」
少し前から気になっていたことを聞いてみると、
雅晴はキラキラした顔で説明を始めた。
「やっぱり時代は西洋だからね!
自分の家を洋館にするの、夢だったんだよ!」
何かのスイッチが入ったのか、
雅晴は興奮した面持ちで内装の説明を始める。
ぶっちゃけそういうのはどうでも良いので、
説明は全部聞き流した。
「そしてこれはでんわと言うものらしくてね!
遠くの人間とも会話できる画期的な……」
「雅晴」
「?どうしたんだい?守」
僕の異常に気が付いたのか、雅晴は不安そうに尋ねる。
「僕のことを、恨んでないの?」
雅晴は一瞬、僕の言ったことにきょとんとしていたが、
やがて何かを納得したのか、僕に笑顔で答える。
「恨んでないよ、全然
むしろ感謝しているくらいだ」
「どうしてだよ
僕がお前を縁守にしたから、家族が殺されたんだぞ?」
「あれは最初から、僕の家族ではなかったからね」
「…………どういうこと?」
「あの人達は、僕を家族だと思ってなかったんだよ
むしろ、僕のことをマガイモノの研究をする変なやつ……
気味が悪い奴と思ってただろうね」
「だから……良いんだよ
むしろ、縁が切れて良かったくらいだ」
「………………」
「僕を縁守にしてくれてありがとう、守」
「お礼なんてするなよ
僕は……お前のことを……」
「それでも、僕にとって守は、
名ばかりの家族から救い出してくれた、恩人なんだよ」
「…………変なやつ」
「ははっ、良く言われるよ」
おかしいじゃないか、そんなの。
僕はわざと雅晴を縁守に指名したのに、
縁守にしてくれてありがとうだなんて……
やっぱりおかしいよ、こいつ。
でもこんな変なやつだからこそ、
僕は何度もここに通ってしまうんだろうな。
「守、良かったら明日も来てくれない?
知り合いから『ちよこれいと』を譲って貰ってね
いつもの僕じゃ口にできない高級品だから、
一人で食べるのは心苦しいんだ
美味しいお茶も用意しておくからさ」
「分かったよ、明日何時に行けば良いのかな?」
「そうだな……昼頃が好ましいね
その時間ならちょうど休憩してるだろうから」
「そう、じゃあ明日昼に来ることにしようか」
「ありがとう、守は優しいね」
これが、変わった西洋かぶれの当主の話。
すぐ死にそうな面しといて、
大家族に囲まれて老衰して死んだ、
幸せ者で逞しい男の話だ。
◇◇◇
「レキ、僕の愛の証……受け取って欲しい」
僕はレキにネックレスを手渡す。
何故かレキはひきつったような顔をしていた。
真斗は何故か引いていたし、
アタエは何かを思案していたし、
クワイは『こいつやばっ』って顔をしていた。
「返却しても良いですか?」
「あははっ、ダメに決まってるじゃないか
神からの贈り物を断ってはいけないって、
あの畜生からも聞いただろう?」
「うわっ、聞いてたんですかあれ……」
「あの畜生からの忠告を利用するとか、
悪どいし気持ち悪いですね」
「本当に通報した方が良いんじゃねえか?」
「もしもし虚さん?」
「真斗はクワイの愛し子にチクるのやめてくれない!?」
「流石に俺の手には負えそうになかったので……」
「いけませんよ縁守くん
チクるならクワイの愛し子ではなく……志摩です」
「あっ!それもそうですね」
「やめろよ!志摩の野郎のゲンコツ痛いんだぞ!」
「ゲンコツするようなことするからだろ」
「暦、嫌なら無理に受け取らなくて良いからね」
「何で僕が悪役サイドなの!?」
「こよみん、あれが神だからと言って、
無理に受け取る必要はありません
強要するようなら、志摩を呼んで叱らせますから」
「だから呼ぶなって言ってるじゃないか!」
「あの守くんから恐れられる志摩さんって……
一体何者なの?」
「志摩の奴は俺らが神だろうが容赦しねえからなぁ
悪いことしたらめっちゃ痛いゲンコツかましてくるんだよ
だからアタエとカミは志摩のこと、苦手なんだよな」
希美さんと守くん、過去に何したんだろ……
「まあとにかく、受け取ってよレキ
これは可愛い妹に向けてのプレゼントだからね」
「……………」
「レキ?」
「仕方無いですね……」
「ありがとう!レキなら喜んでくれると思ってたんだ!」
「あれが喜んでるように見えるとか、
目玉腐ってるんですかね?」
「腐った目ってどこで治せるんだろうな」
「普通に眼科とかじゃないですか?」
「いや、眼科じゃ荷が重いだろ」
こうしていつものカミの気持ち悪さに引きながらも、
日常を過ごしていくのであった。
ホワイトデーはまだまだ終わらないぞ☆
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