縁を結んで切り裂いて

札神 八鬼

文字の大きさ
上 下
24 / 51
本編

第十九話 ズッ友のマドレーヌ(アタエ編)

しおりを挟む
望が命を落とす前日。

私は望に明日死ぬかもしれないことを伝える為、
望が住んでいる所へ向かった。

村から離れた都会の家に着いた時、異変を感じる。
望が、声を押し殺して静かに泣いていたのだ。

向こうの部屋には、暦がすやすやと眠っている。

「泣いてるの?望」

私が背後から肩に手を置くと、望は私の方に顔を向ける。
目は赤く腫れており、泣き張らした顔で私を見上げていた。

「アタエ様……」

「悲しいの?望
誰かに嫌なことをされたの?
それなら私に教えなさい
こらしめてあげるから」

「アタエ様に教えたら、その人ボコボコにされるじゃないですか……」

「当たり前です
遠縁とはいえ私の加護を持つ者を傷つけたのですから、
それくらいの報いは受けさせねばなりません」

「ふふっ、アタエ様は変わりませんね……」

望は涙を流しながら、ふふっと笑う。
やはりこの子は泣き顔よりも笑顔が似合う。

「それで、アタエ様がどうしてここに?」

「あなたに伝えたいことがあって来ました」

「伝えたいこと?」

「はい、あの畜生……じゃなくて、
あなたの友人からは聞いていたでしょうが、
明日が望の命日になるでしょう」

「命日……」

望は一瞬絶望したような顔をした後、考え込む。

「明日、私はどのように死ぬんですか?」

「明日、暦の祝いで外に出れば、
望はマガイモノに襲われて喰われるでしょう」

「…………もし、出掛けずに家にいれば?」

「その時は家にマガイモノが入り込んできて、
今度は暦が喰われるだけです」

「…………」

「どうしますか?」

「私、明日出掛けることにします」

「それはどうしてです?
出掛ければ望が死んでしまうのですよ?」

「暦ちゃんを犠牲にしてまで助かりたくない」

「あの子はずっと悪い人に酷いことをされた子なの
やっと、やっと安心できる場所が出来たのに……
それを私が壊したくないの
それに……」

「それに?」

望は涙を乱暴に拭い、覚悟を決めた顔で向き直る。

「私、暦ちゃんのお姉ちゃんだもん」

「お姉ちゃんだから……命を投げ出しても構わないと?」

「うん、私暦ちゃんを守れるのなら、死んでも怖くない」

「だから、アタエ様……お願いがあるの」

「お願い?何でしょうか」

「いなくなっちゃう私の代わりに、
どうかあの子を……暦ちゃんをお願いね」

その時私は了承したのか、言葉を濁したのか、
今となってはもう覚えていない。
けれど、もしまだ間に合うのであれば、
私はあの子の……望の願いを叶えてやりたかった。

◇◇◇

「やあ、おはよう僕の可愛い妹!
今日もおはようのハグをしても良いかな?」

「そもそも妹じゃないですし、ハグも迷惑です」

カミの安定の気持ち悪い挨拶に対して、
こよみんは冷たくぴしゃりと言いのける。
少し見ない間に、逞しくなったものだ。

「いやぁ、相変わらず妹の反抗期は可愛いなぁ
照れなくても良いのだよ?
遠慮せず僕の胸に飛び込んでおいで」

しかしカミには効かなかったようで、
それどころかタコ足の尻尾を出して、
こよみんと無理矢理ハグをしようとしていた。
これは本格的に通報が必要かもしれない。

「希美さん助けて下さい!」

あまりの気持ち悪さにこよみんが突然私に駆け寄ると、
私に抱きついて、涙目で頼んできた。
私の友人に頼まれたからには、助ける以外の選択肢はない。
私は右手にいつぞやの長ネギを召喚し、カミに向かって構える。

「どうやら分からせが必要なようですねぇ……」

「え、長ネギ?何でそんな物持って……え?」

カミはタコ足尻尾をうねうねさせながら、
私の持ってる長ネギに戸惑っていた。
こよみんはスペースキャット状態になっていたし、
クワイは『やっぱこいつ頭おかしいな』みたいな目で、
私を見つめていた。

「人の嫌がることはしてはいけませんと、
お父さんお母さんに習いませんでした?」

長ネギを片手にパン、パンと叩くと、
カミは戸惑いながらも反論する。

「両親なんか全員殺されてるわばーか!」

「今そのようなことは聞いていません」

何回か問答を繰り返したのですが、
生意気にも何度も反論してくるので、
いい加減面倒になってきた私は、
強行手段を取ることにしました。

「もう良いです、あなたには言葉での説得は、
通用しないようですね」

「分かってくれたか!ではレキをすぐに僕の元へ……」

「どうやら痛みで分からせた方が早そうです」

スパァン!

「いたぁ!」

カミは突然顔面を長ネギで殴られたせいか、
赤く腫れた頬を抑えながら、少し涙目になっている。

「どうです?少しは懲りましたか?」

「なん……何で長ネギ!?」

「分からせるとなると、痛め付ける必要があるのですが……
ほら、木の棒とかだと流石に痛すぎるでしょう?
ですので、棒状の物で地味に痛いものを考えたわけです
長きにわたる長考の末辿り着いたのが……
長ネギと言うわけですよ」

「いや何でだよ!
聞いといて何だけど、アタエの思考回路が
さっぱり理解出来ないんだけど!?」

「キャンキャンうるさいですね
仕方ないじゃないですか
たまたまちょうど良いのが長ネギだったんですから」

それに、畜生にネギは毒らしいですし、
毒で叩けば精神攻撃には最適ですし、
交渉も上手く行きやすくなりますからね。

「いや訳が分からないんだけど???」

「これ以上うるさく言うならもう一回やりますが……」

「くっ!今回は諦めるとするよ
レキ!兄ちゃん頑張るからな!」

「頑張らなくて良いです」

カミ変態野郎を退けた後、こよみんに向き直る。
私はカバンから可愛くラッピングした包装を手に取ると、
こよみんに渡した。

「こよみん、これホワイトデーのお返しです」

「わあ、マドレーヌ?美味しそうだね!」

「はい、カミが持ってた書物をぶんど……じゃなくて、
借りたのですが、マドレーヌには、
『あなたとより特別な関係を築きたい』と書かれていたんです
こよみんとは親友……つまりズッ友になりたいので、
ピッタリだと思い、これにしました」

「嬉しい!私も希美さんともっと仲良くなりたかったんだ!」

「そうでしたか!こよみんも同じ気持ちで安心しました
それと……これも貰ってはくれませんか?」

私はこよみんにおそろいの色の御守りを渡す。
私の力が込められているから、
多少の効果はあるはずだ。

「これ、御守り?
希美さんの紋章が入ってる……」

「はい、アンクレットも考えていたのですが、
やはり肌見放さず持ち歩くならこれかなと……
私達のズッ友の証……どうか、受け取っては貰えないでしょうか」

「良いよ!」

「嬉しいです……これで私達は正真正銘ズッ友ですね!」

望、私はあなたの最後の願いを叶えられたでしょうか。
こよみんは今、とても幸せそうに笑っていますよ。
あなたが大好きだった、あの顔で……


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

イケメンにフラれた部下の女の子を堪能する上司の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...